暴走レゾンデートル   作:宿木ミル

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7話「彼女の日記」

『不思議な青年に会った。その青年は王としての存在を誇示する私に対して、「一緒に世界を創っていこう」などと抜かしては、笑っていた。大胆不敵、覚悟を帯びたその表情は王としての佇まいを持っていて、私の同胞に相応しい存在であると感じた。共に生きるきっかけとなったこの日を忘れることはないだろう。……なんだか大真面目な日記になってしまったが、まぁ、こういう日があってもいいだろう。多分』

 

 

 

 

『青年に名前を聞いたら、「名前なんていらない。俺がいたという印が残ればそれでいい」と言葉を返してきた。……それではわからん! わかりずらすぎる! ややこしい名前を勝手に付けるのはやぶさかではなかったので、私は青年のことを敬意を込めて「マスター」と呼ぶことにした! 以後、この日記帳でもマスター名義とする!』

 

 

 

 

『マスターが創りたい世界は村だったらしい。てっきり、王として世界を征服してやろうみたいな野望だとばっかり思ってしまったので、私はひとりでにショックを受けてしまっていた。不覚である。だが、マスターのあの瞳は嫌いではない。付き合ってやろうじゃないの! 村作り!』

 

 

 

 

『村作り、想像以上にしんどい。地道な作業が多すぎる。良質な木材を集めては毛皮を集め、そして安全な空間を探しては異族の発生を観測する……あぁもう、思い出しただけで性にあわーん!』

 

 

 

 

 

『昨日の私は投げやりだった。だが今日の私は違う! 千里の道も一歩より! 国が一日でどがって立つなんてありえんからな! それさえわかれば恐れるものなどない! 同法の為に力を尽くそう!』

 

 

 

 

 

 

『つかれた、なんか面白い話しろー』

 

『木材を切るのは楽しいぞ』

 

『気持ちもなんだか楽しくなるぞー』

 

 

 

 

 

 

 

 

『……反省だ! 私たちに足りないのは反省だ! マスターも猪突猛進に村作りをしてたから気が付いてなかったが、圧倒的に技術力が足りん! よくわかんない文章で日記帳に落書きとか書いたのも、全部反省が足りなかったからだ! そもそも、職人でもないのに、家を作ったりすること自体が無謀だったのだ! もっと人を使おう! そうするべきだ! 同胞であるマスターにも提案しておこう!』

 

 

 

 

 

『マスターの人を使う能力の高さには驚愕した。気難しそうな職人の心を動かすなんて、私にはできそうにもないことをさらりとやってのけたのだ。才能がある! 天才だ! マスターの力があれば、きっといい村が完成する! 私は未熟なままでいないように、マスターと切磋琢磨してきたいぞ!』

 

 

 

 

 

 

 

『……忙しくて長らく、日記に触れられていなかったが、ついに村が完成した! マスターが村長として立ち、街の住人を守り、生活を安定させる。小さな地位かもしれない。だが、マスターは王として成ったのだ! これは凄いことだ! 私は、マスターの同胞! だから、同じ立場として民を守るべきだ! 一番槍として頑張っていくぞ!』

 

 

 

 

 

『マスターが結婚した。私ではないが。……えーい、泣いてなどおらん! マスターと私の関係は同胞! それ以上でもそれ以下でもない! ただ、あのウェディングドレスは一度は袖を通してみたかった……なんて気持ちもあったりする。そんなことはこの日記帳でしか書けんが。とにかくマスターの幸せそうな顔が見れて、よかった! 幸せになれよ!』

 

 

 

 

 

 

『マスターに子供が出来た! 王の子だ! めでたいぞ! お祝いになにか用意したい! 私にできることならなんでもしよう、楽しみが増えたぞ!』

 

 

 

 

 

 

 

『マスターがギルドに誘われても、断っているのは村の為。適度なバランス感覚と人を動かす力はまだ健在だ。……しかし、しわの数が増えているのが気になる。無理だけはしてほしくはないが……』

 

 

 

 

 

 

 

『……マスターの子供が消息を絶った。孫は健在だが、街の奏官の仕事に憧れているらしい。止めるつもりはない。ただ、マスターの子供のように私の前から、この村からずっと離れてしまわないか心配だった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスターが老いた。咳が多くなった』

 

 

 

 

 

 

 

 

『マスターが……いや、もう、なにも書きたくない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『村を見ると、あの時の感情が蘇ってしまいそうで、不安になる。もし、あの時の衝動に身を委ねていたら、村の住人を襲っていたかもしれない。……マスターが築いてきた栄光を、私の手で破壊することなどしたくはない。私は、ボタンの村の遠くにあった洞窟に滞在することにした』

 

 

 

 

 

 

 

 

『風の噂で、マスターの孫が帰ってきたというのを耳にした。もう一度会ってみたい。だが、今の私が姿を見せたところで、どういう返事が返ってくるかわかったものではない。もしかしたら、感情が爆発して暴走してしまうかもしれない。だから、ここから動きたくはなかった』

 

 

 

 

 

 

『村は繁栄していたと、私を訪ねてきたキル姫が話してきた。名前はカラドボルグ。偶然にも、マスターの孫のキル姫も同じカラドボルグだったのだが、淘汰しあう気が起きなくて、私のところにやってきたらしい。珍しいやつだ』

 

 

 

 

 

 

『カラドボルグが私に提案した。「共犯者にならない?」と。彼女が言うには、客観的に見て、私は極めて暴走するキル姫と近い感情状態になっているらしく、いつかは勝手に暴走してしまうらしい。その前に、やりたいことをやっていくのはどうか、という提案だった。私はその提案に頷いた』

 

 

 

 

 

 

『カラドボルグが提案したこと、それはボタンの村の周辺にいる異族を定期的に討伐することだった。村の奏官雇用のシステムは、まだ成熟しきったとは言い切れず、攻め切られたら潰されてしまう可能性が高い。だから、裏からこっそり守っていこうという話だった。……裏から守る。それは、王としてはふさわしく無い姿かもしれない。だが、それでもマスターが守って、繋いできたものを私は守りたいと思った。協力者であるカラドボルグも、私の大切な同胞だ。彼女に心から感謝したい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カラドボルグが、先に失礼するなどといって、この洞穴からいなくなってしまった。……私より、完璧な部分が多い彼女のことだ。自分がこれからどうなるかがわかっていて、迷惑が掛かることがわかっていたから、いなくなったのだろう。私はいつも取り残される。……王の道は孤独なのだろうか』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ひとり、繰り返し異族を討伐する。村には行商人も行き来するようになった。無事に発展してきている。私の役割はもうないのかもしれないな』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『身体が重い。意識も朦朧としている。だが、これだけは書いておきたかった。私のマスターは王として正しく道を創った。私も、その道を阻む存在ではありたくない。もし、私が暴走して、人に刃を向けるようになったら、躊躇わず、討ってほしい。そして、そして……我儘な願いだが……』

 

 

 

 

 

『私の亡骸が遺るなら、マスターと一緒の場所に……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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