もしクローン武蔵がマジ恋の世界で誕生したなら   作:チョコレート・マウンテン

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二話 無双、降臨

 

 

 

 

「……なあ李」

 

「……なんでしょうか。ステイシー」

 

「……今さらだがよ、アタシらが働いてる九鬼ってヤバいところだったんだな」

 

 

 

 九鬼従者部隊序列第十五位、ステイシー・コナーと十六位、李静初(リー・ジンチュー)は今日という日を永遠に忘れないだろう。

 

 何せ、序列部隊の中でも一部の人間にしか知らせていない武士道プランという九鬼の一大計画。自分の知らないところでこんな計画が進められていたことに驚愕するしかなかった。

 

 

 

「源義経に武蔵坊弁慶、それに那須与一……。皆、大物ばかりですね」

 

「それによ……このおっさんがあの宮本武蔵だぁ? ファック!  アタシのタイプじゃねぇな」

 

「失礼ですよステイシー。それに話を聞くにまだ未完成のようです。最後の仕上げはあのおばあさんのようですね」

 

 

 

 何より今日一番驚いたのは己が主である九鬼帝とハグし合う自称霊媒師の存在。

 子供のように無邪気な振る舞いを見せる二人を邪魔しようとするものはいなかった。

 

 

 

「久しぶりだなあ寒子さん。元気にしてたか? 相変わらず細々と霊媒師やってんのかよ」

 

「あんたも立派になったもんだよ。昔は失敗続きの甘ちゃんだったのにねぇ」

 

「ハハハっ! 懐かしいなあ。あん時はあんたにえらい世話になったもんだ」

 

「昔は話はどうだっていいんだよ。それより、詳細はそっちの執事に聞いたよ。武蔵のクローンとは随分大層なことやってんじゃないかい。え?」

 

「そうだろ? とは言ったものの、肝心の武蔵が目覚めなくて困ってたところなんだよ。そこで思い出したのが寒子さん、あんたなんだよ。寒子さんの降霊術なら奴さんを目覚めさせることが出来るんじゃねぇかと思ってな」

 

「これが件の武蔵か、ふむ……」

 

 

 

 今、この場にいるのは帝、マープル、クラウディオ、李、ステイシー、マープル専属護衛の桐山鯉に研究員数名のみ。

 これから起こる武蔵復活という奇跡を目撃することの出来る幸運な者達だ。

 

 そしてその全員の視線を一点にもらう寒子は横たわる武蔵の顔をじっくりと見つめていた。

 

 

「なんと穏やかな顔つき……。甘い──、余りにも甘い風貌(かお)じゃ。幼名を新免武蔵(たけぞう)と言ったか。武蔵が一人も人を斬ることなく暮らしていたらさぞかしこんな顔をしているのかもしれんなぁ……」

 

 

 

 その発言に一同は疑問を感じた。まるで本当の武蔵の顔を知っているような口振りに──。

 

 

「本当の宮本武蔵は違う顔だと?」

 

「うむ。人気者じゃからのう、幾度か降ろしてるよ。

 

 ──凄いものじゃぞ……武蔵の面魂(かお)

 

 

──ごくりッ

 

 

 シンとした空間に誰かの固唾を飲み込んだ音だけがした。

 

 その静寂を破ったのはクラウディオだ。

 

 

 

「寒子様。今回のことはどうか内密にお願いいたします。武士道プランは九鬼財閥が掲げる新しい時代のための布石となる重要な案件なのです」

 

「うむ。そういうわけで寒子さんには武蔵を降ろしてもらいてえんだ。もちろんは報酬は出すぜ」

 

「おやおや。そんなに期待されてちゃやらないわけにはいかないね。さて、っと──」

 

 

 

 靴を脱いでその場に正座した寒子を皆が奇妙な物を見るような眼差しで見つめていたが、ただ一人、帝だけがこの現状を把握出来てた。

 

 

 

(──入った(・・・)な)

 

 

 

 大きな柏手を鳴り響かせ、呪文か経文かも分からない言葉をぶつぶつと呟くその姿を見て一同は彼女が仕事に入ったことをようやく理解する。

 

 

 

「────」

 

 

 

 時間の流れが一分にも十分にも感じる。思わず腕時計を見て時刻を確認する者さえもいた。

 

 

 

「────」

 

 

 

 まだ終わらない。まだ武蔵は目覚めていない。

 

 

 

「───………」

 

 

 

 詠唱が終わり、一瞬の静寂。そして──。

 

 

 

 その時(・・・)は突然来た──。

 

 

 

 ──タンッ──トッ……

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

 正座した状態でのジャンプからの直立。

 トップアスリートですら、不可能と言わせる芸当を彼女はさも当然のように繰り出した。

 筋肉を無駄なく使いこなすそのジャンプはもはや芸術といっても過言ではなく、一種の感動さえも覚える代物だ。

 

 それ以上に驚いたのは……。

 

 

 

「あの背格好(ポーズ)はッ……!」

 

 

 

 額の肉を眉間に集中させたあの鋭利(するど)い眼光ッ。

 

 全身の力を抜き、何時いかなる事態にも対応させるその立ち方ッ。

 

 一キロある大刀の切れ味を最大限に発揮させ、最速で振り回すことの出来るこの握り方ッ。

 

 

 全てがあの肖像画の通り! 全てが被ってるのだ!

 

 

 

「驚きましたね……。にわかには信じがたいですが、彼女の中にはすでに降りてるのでしょう」

 

「でも、これからどうするんでしょうか……。肝心の被験体は微動だにしてません」

 

「お前達、データに反応はあるかい?」

 

「い、いいえ! 各反応、依然変わらず!」

 

 

 

 武蔵がまだ目覚めない以上、これまでの行動は単なる巧妙な物真似で済まされてしまうだろう。

 

 だが、まだ終わっていない。詠唱が再び始まった。まだ先があるというのかッ。

 

 

 

「目ぇ離すなよ。こっからが見物だ」

 

 

 

 帝の言う通り、寒子はまだ止まらない。ゆったりとした足取りで武蔵の頭の方へと歩いていく。ちょうど目線を下げたところに武蔵の顔が来るところで止まった。

 

 そこからどうするのだろう。皆の疑問が一致したその直後。

 

 

 

ズキュゥゥゥンッ!!

 

 

 

「なんとッ!?」

 

「マジかよ!? ロックな婆さんだぜッ!」

 

 

 

 口紅で染まった真っ赤なリップによる熱く深淵な(ディープ)な口づけッ! 

 

 いや、口づけという甘い表現では事足りない……。これは口移しッ! 経口摂取による憑依なのだッ!!

 

 

 とはいえ、何も知らない人間からすれば突発的な奇行にしか見えないのは致し方無いこと。

 突然の暴挙に見かねた研究員らが止めに入ろうとするが、帝によって阻止される。

 

 

 

「手ぇ出すな! 事が終わるまで止めることは俺が許さんッ!」

 

 

 

 主君にそう言われ、見たくもないキスシーンを否応なしに見せられてうんざりした研究員達が逃げるようにモニターを見た。するとどうだろう、今まで反応を示さなかった脳波が大きく振れだしたではないかッ。

 

 

 

「マープル様! 脳波に反応がッ!!」

 

「……理解が追いつかないよ。まさかあれで目覚めさせようなんて……!」

 

「傷が……?」

 

 

 

 吹き出物やシミ一つない無垢な皮膚に走る一筋の傷痕。完全に塞がりきらなかった古傷、それが両腕、両足、さらには胴体にまで走った。

 さらには出産されてから一切手入れされていなかった眉毛や髭が誰の手も借りずに独りで勝手に抜け、整えられていく。

 

 

 体毛がッ、皮膚がッ、筋肉がッ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ッッ!!

 

 

 

「ジーザス……!」

 

 

 

 ステイシーが驚くのも無理はない。

 

 今まさに我々は人体の神秘を目撃していた。

 

 

 

「ふふっ……。上出来ね♡」

 

 

 

 注入し終えた寒子の自信に答えるように──武蔵の、目が開いた。

 

 

 

「むぐぅッ!?」

 

 

 

 それと同時に寒子は顎を鷲掴みにされる。これを見た従者部隊四名が臨戦態勢をとった。

 

 だが武蔵は止まらない。そのまま起き上がり、周囲を確認中に──こちらと目があったその刹那、寒子が投げ飛ばしてきた。

 

 

 

「寒子様!?」

 

「にゃろうッ! っ!? いな──!」

 

 

 

「──その(ほう)ら」

 

 

 

 四人は動くことが出来なかった。

 

 今の自分達はまさに首元には鋭利な刃物を突きつけられている状態だった。それは即ち、あの一瞬の出来事で自分達の敗北を悟ってしまったのだ。

 

 

 

「──尋ねたいことがある」

 

 

 

 振り向いた先にあったのはまぎれもなくあの姿(肖像画)だった──。

 

 

 

「安心めされい。命までは()らん」

 

 

 

 魂と肉体、ここに重なる──。

 

 

 

「……ただ、正直に答えられよ」

 

 

 

 ──宮本武蔵、目覚めるッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

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