締め付けられる胸。
いつものレッスン場にWindとMoomの8人を集合させた。
「今回、ここに集まるメンバーがあの有名アニメのオーディションを受けることになった。みんなもニュースでやっているから知ってると思う。」
ざわざわとなるレッスン場。
「そして、みんなをレッスンさせるのは、俺が担当することになった。みんな頑張ろう。」
一斉に全員が頷き、レッスンを開始した。順調に進んでいき、時間通りにいけば良い路線にいきそうな雰囲気だった。
休憩中にポケットに入れていた携帯が鳴った。
「豊川さんから電話…なんだ?」
耳に携帯を当て、電話に出る。
『もしもし、聞こえているかな?』
「はい、聞こえてます。それでなんですか?」
『おやおや、宮路みたいだね。』
「そうですか…?」
そう言われ、チラッとまほろの方を見ると目があってしまい、こちらへと寄ってくる。
「なに?マネージャー。こっちみてきたけど、なにかまほろに言いたいことでも?」
『宮路が来たみたいだね。一体どこで素直になるんだか。』
豊川さんの声が微かに聞こえたらしく、目を細めて軽く睨んでくる。
「あいつと電話してるのね…ちょっと携帯貸して。」
まほろに携帯を強引に取られ、そっぽを向かれてしまった。
「ま、まほろ…ちょっと一旦外でない?スピーカーにして聞きたいから。」
頷きながら、扉へと向かう。
「はい、それであんたはなんの用で?」
『私は宮路に聞きに来た訳では無いが、いいだろう。1つ質問をしたい。Flowerの鹿野志穂という子をどうにかしてくれないか?私では手がつけられない。』
まさかの志穂か……。意外だな。なにかしちゃってるのかな?
頭に手を付き、ついため息をついてしまった。
「まほろ、今日は一旦終わりだ。みんなに伝えといてくれ。俺は豊川さんの方に行く。」
まほろにそう伝え、FlowerとBirdのみんながいるもう1つのレッスン場に向かう。
「お、来たね。私でも少し厳しくてね…」
扉を開けると、豊川さんとその後ろにいる志穂が出てきた。
「志穂?豊川さんに迷惑かけないの。」
「だが…私はこれよりマネージャーの方がいいんだが…」
「これって言われた…初めてだ…。」
さすがに豊川さんでもこんな経験はないか。まぁさすがに指示語で言われることなんて普通ないもんな。
2人と話していると、陽菜と千紗が駆け寄ってきた。
「マネージャーさん、お疲れ様です。豊川さんもありがとうございます。」
「まったく、志穂?ワガママ言うのもやめなさい。」
「私をこれじゃなく、マネージャーの方のレッスンに移すんだったらなにも言わん。」
手を組んで、頬をぷくっと膨らめて言う。
「あはは、宮路と違うタイプだな…別に私はこの子を移動するのは構わない。だが、君はそうとう辛いのではないか?」
「あまり舐めないでください豊川さん。元々コーチが居ましたけど、その人は外国に行ってから、りおさんと俺で仕事を見つけつつレッスンもしたことありますから。」
「ほう…それは面白そうだ。どちらがより多くの子をオーディションに進められるかだな。」
「俺は必ず成功させます。見ててくださいね、豊川さん。それと志穂、ちょっと着いてきて。」
志穂の手を掴み、外に出た。そしてちょっと怒った。だが、一応こっちのWind、Moom組の方に持ってくることにした。一応。
その後も何日も何日もレッスンを続けた。
ーオーディション当日ー
「緊張してきたな…」
ポンポンと肩を叩かれ、そちらを見ると缶コーヒーが頬に当たる。
「熱っ……って莉子?」
「どうしたの?マネージャー、緊張してる?」
「うん、そんな感じ。」
「アタシじゃなくてマネージャーが緊張してどうするの?」
「莉子は緊張してないの?」
「緊張するの決まってるじゃん。でも、ちょっと楽しみでもあるかな。」
後ろから走ってくる音が聞こえる。振り返ると志穂が走ってきていた。
「ジャーマネ、ここにいたか。」
軽く莉子の方を見てから、俺の方にすぐ目線を移す志穂。
「志穂、なに?あと…なんでちょっと睨んだの?」
「別になんでもない。ちょっと羨ましかっただけだ。」
「へぇ〜志穂ってそういう感じなんだ。マネージャーとね〜へぇ〜。」
な、なんかバチバチしてねぇか?まぁ気のせいだろう。
莉子からもらったコーヒーをずずずと音を鳴らして飲む。
「お?それアタシのおすすめのコーヒーなんだけど、どう?」
「うん、すごく美味しいよ。結構好き。」
「そ、そう…ならよかった。」
髪を耳に掛けあげる莉子につい魅入ってしまった。
オーディション会場から足音が聞こえ、そちらに目を向ける。その音の主は豊川さんだ。
「おや、宮路のマネージャーじゃないか。」
豊川さんが手を振りながらこちらに来る。なんか後ろから圧を感じる…。確か後ろにいたのって志穂だよな。うん、あんま志穂は豊川さんのこと良いとは思ってないのかな。
「ん…君は志穂だね。また前のように睨んでくるね。宮路とはどこか似てるような似てないところがある。ふふ…とても難しくはないかい?マネージャー。」
「いや、別に…そこまで大変とかはないですけど。志穂は普段そんなふうにしないんですけどね…。なんで?」
後ろにいる志穂に視線を向けると、俺の背中に手を当てて、まるで遊園地のお化け屋敷で怖がる子供のように隠れていた。
「おや、もうそろそろ時間だ。君が育成した子達の成果、ぜひ期待しているよ。」
腕時計を見てみると、時間が近くなっていた。志穂と莉子の背中をポンと叩き、喝を入れた。
「それびゃあ、頑張ってね。2人とも。」
「ジャーマネ、噛んだぞ。」
「う、うるさい…努力した分頑張ってきて。」
「アタシたちをちゃんと信じてね!」
みんなを信じる。
俺は、みんなを疑ったこともない。みんなが必ず成功することを願う。豊川さんのレッスンを受けたみんなも、成功してほしい。