というわけですみません!さっき消えてた部分を思い出しながら書いて再投稿です!
・・・・・・疲れてんのかな
辺り一面に桜が咲き、幕に囲まれた広場に紺色のブレザーを身にまとった男女が綺麗に整列して並んでいる。
ここに集まる男女は中等部から進級試験で合格し内部進学を果たした遠月学園高等部の新入生だ。全員がこれから始まる高校生活への期待と過酷な競走への不安に険しい顔をしている。
そんな新入生たちの前には始業式のステージがあり、そのステージ上にいる司会が女生徒の名前を呼ぶ。
「続いて学年章の授与にうつります。新1年生総代、薙切えりな」
「はい」
薙切えりな、長く綺麗な金色の髪をなびかせ、誰もが美しいと認める美貌を兼ね備えた美少女だ。その上先程司会が言った通り内部進学試験で全科目ぶっちぎりの1位を取り首席の座を手にした才女。しかもそれだけではなく人類最高の神の味覚を持ち、『
その味覚を存分に発揮出来る程に料理の腕も超一流で、十傑評議会第十席に任命されている。
そのためか彼女は多くの同級生から尊敬をされており、学年章を受け取っている現在も多くの生徒が尊敬の眼差しを彼女に向けている。
授与が終わり彼女がステージから降りると次に移る。
「続いて式辞を頂戴致します。遠月学園総帥、薙切仙左衛門様」
ステージに上がってきたのは長い髭を伸ばし、右目に大きな傷跡のある威圧的な外見をしている老人である。
薙切仙左衛門、栄翔が帰国初日に会った人物であり、遠月学園総帥、そして先程ステージに上がっていた薙切えりなの祖父である。彼こそ日本料理界を牛耳る存在で、学園内では『食の魔王』と呼ばれ恐れられている。
演台の前に立つ彼の迫力に生徒達が息を呑む中、彼はマイクを近づけ話し始める。
「諸君、高等部進学おめでとう」
生徒達が予想していたよりも普通の祝福の言葉に生徒たちは強張らせていた身体から少し力が抜ける。
「諸君は中等部での3年間で料理の基礎技術と食材への理解を深めた。実際に調理を行う調理教練の授業と各種の座学、調理理論、栄養学、公衆衛生学、栽培概論経営学……そして今高等部の入口に立ったわけだがこれから試されるのは技巧や知識ではない。料理人としての気概そのもの」
ここまで話すと仙左衛門は新入生たちの方を指差す。
「諸君の99%は1%の玉を磨くための捨て石である」
瞬間新入生たちの雰囲気が、そして式会場全体の雰囲気が変わる。
「昨年の新1年生812名のうち、2年生に進級できたのは76名!」
「!!?」
「無能と凡夫は容赦なく切り捨てられる。千人の1年生が進級する頃には100人になり、卒業まで辿り着く者を数えるには片手を使えば足りるだろう」
これが遠月茶寮学園。徹底した競争による少数精鋭教育。卒業到達率10%以下という過酷な環境だが、卒業まで漕ぎ着ければ一生料理界のスターダムを歩むことができる。たとえ退学になったとしても『在籍したことがある』というだけでも料理人としての箔が付く。それほどの英才教育を行っている。
「その一握りの料理人に君が、君が成るのだ!!」
研鑽せよ
最後に一言告げると仙左衛門はステージを降りていった。
えりなはそれを見ながら舞台袖でニヤリと妖しく笑う。
(ふふっ、一握りの料理人に君がなるのだ、ね……私と同じ世代の君たちは気の毒だわ。もしその一握りに入ることが出来たとしても、頂点に立つことは絶対に不可能なのだから)
そう考えている彼女の表情は自信で満ち溢れている。薙切家という料理に関して最高とも言える環境、己の才能、遠月十傑への史上最年少でのメンバー入り等の実績。これらが彼女の自信となり表情に表れているのだろう。
(せいぜい生まれた時からの2……いえ、3位争いに執念を燃やすことね……)
「次に高等部から編入する生徒を1人紹介します」
(! なるほど……私とは別の審査で合格者が出たのね)
えりなが思い出すのは編入試験の日。彼女は十傑入りを果たしたことで学園の事務や運営などを任されるようになっていた。その一環として編入試験の試験官を任されたのだが、集団面接や二次審査、三次審査と何回も実技の審査をする事を面倒に感じた。そこで、お題の食材を卵とし、自分の舌を唸らせた者を合格にすると言ったのだ。さらに、受験の取り止めを認めるとも宣言した。彼女は神の舌を持ち、絶対の味覚を持っている。そんな彼女にもし才能無しの烙印を押されてしまったらその料理人は一生料理業界では生きて行けなくなってしまう。それを恐れた受験者たちは全員逃げ出してしまったのだ。
──1人を除いて
(幸平創真……ふん、思い出すだけで腹立たしい)
幸平創真、その編入試験で唯一逃げ出さなかった男子だ。
彼は卵そぼろと手羽先の煮こごりを使った『化けるふりかけ』を作り彼女の舌を唸らせたのだ。
だが、今まで食の超上流階級にいた彼女は高いプライドとエリート意識から創真の品を認めることが……否、認めたくなかった。えりなから見れば大衆食堂出身の創真は庶民であり二流料理人。そんな男を超エリート校である遠月学園に編入させることが、何よりその男の料理をえりな自身が認めるということが許せなかったのだ。
そのため、創真に不合格を言い渡し試験を終了させたのだ。
(まぁいいわ……もう二度と会うことは──)
「やー、高いとこからすんませんねー、へへ……所信表明でしたっけ? まいったなー、やんなきゃダメすかー? 壇上でとかこそばゆいっすわー」
「いいからさっさとしてくださいっ」
(!?)
だが──
「えっと……幸平創真っていいます」
壇上には不合格を言い渡した男、幸平創真が立っていた。
「この学園のことは正直踏み台としか思ってないです」
創真の言葉に生徒たちは唖然とする。
「思いがけず編入することになったんすけど、客の前に立ったこともない連中に負けるつもりは無いっす。まあ入ったからには──
てっぺん獲るんで」
会場から創真以外の声は聞こえない。だが、会場は異様な空気になっていた。そんな中創真は演台の横に立つ。
「3年間よろしくお願いしまーす」
ペコリと頭を下げるが明らかに気の抜けた挨拶。その舐めたような態度と先程の発言も合わさり会場にいる生徒たちの怒りが爆発した。
「テメエェェこらあ!!」
「ぶっ殺すぞ編入生ェ!!」
会場中の生徒から本やペットボトル等を投げられながらも、創真は気にした様子もなく舞台袖に降りる。
「ふー、噛まずに言えたー。ん? おー、試験の時の! 薙切……だったよな?」
「! ……」
「いやー緊張したわー。ガキの頃から表彰状とか無縁だったし。俺、どーだった? 変じゃなかった?」
「そんなことはどうでもいい!! 幸平くん! なぜ君がここに……!」
「イヤなぜってお前……合格通知が届いたからそりゃ来るだろ……」
そう言いながら創真が差し出したのは遠月茶寮料理學園編入試験合格通知。紛れもない本物だ。
「あの時はビビったぜー、『不味い』とか言うんだもんよ。美味いなら美味いって素直に言えよなー」
「ちがっ……」
(ちがうのに! ちがうのに! 私はコイツを……蹴ったのに!)
いまだにステージの方からは本やペットボトルが飛んできたり『出てこい!』や『死ね!』等の罵倒が飛んで来ているが、創真はそれが聞こえていないかのように気にした様子がなく、ケロッとしている。
それを見ているえりなは、合格者は0人と間違いなく総帥に伝えたはずなのによりによって幸平創真が合格しているというありえない事態に軽くパニック状態だ。……まあ実際は片目に傷があるどこかの怖いおじいさんが独断で合格にしたというだけの話だが。
そんなことは知らないえりなは髪をかき上げながら創真に言い放つ。
「……言っておきます。私は認めてはいないわ。君も、君の料理もね!」
「……あ?」
「手違いよ手違い! 君は手違いで遠月に来たのよっ!! てっぺんを獲るですって!? 笑わせないで!! 中等部からの内部進学者たちは皆最先端ガストロノミーの英才教育を受けてきたの! 外様の編入生なんて──」
キィィィィィィィィィィン
突如鳴り響くハウリング音。いきなり鳴った大きな音にブーイングの嵐だった広場も、そして舞台袖も静まり返る。生徒全員が何があったんだと壇上に目を向けるとそこには一人の男子生徒が立っていた。彼は司会をしていた女子生徒の前に立っており、その女子生徒はおそらく彼のものであろう制服のブレザーを頭にかぶっている。
「「え!?」」
えりなと創真はその男子生徒の姿を見ると驚きの声を上げる。
その男子生徒とは
「……やっと静かになった」
平神栄翔だった。
ちなみにですけどハウリングのシーンはかぐや様を参考にしました
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