舞台袖にはけてきた栄翔は肩の力を抜く。
「ふぅ、ちょっと熱くなっちゃった。緊張した〜」
そう呟く栄翔に先程までのような迫力はない。さっきは生徒達の料理人らしからぬ行動を見て熱くなってしまい言葉が強くなってしまったようだ。
そんな栄翔を見ていた創真とえりなは我慢しきれず声をかける。
「え、えいs「ショウじゃねーか! 久しぶりだな!!」……」
──訂正
ちゃんと声をかけることが出来たのは創真だけだった。
「あ、創真、久しぶりだね。急いで会場にきたら壇上でスピーチしてるんだからびっくりしたよ」
「それはこっちのセリフだわ! お前ここに通ってたんだな!」
「うん……あれ、ということは知らないでここに編入してきたの?」
「……を……ださる……?」
「いや、それがさ〜。親父が急に店閉めるとか言い出してよ。それでいきなりここの編入試験を受けろとか言い出すもんだから」
「なるほどね。まあ、創真はあんな事言ってたけど結構いい経験になると思うよ」
「わた…………をむ……で……さる……?」
「まあ少なくともショウがいるんだから退屈はしなさそうだな」
「俺以外にもすごい料理人や参考になる料理人は沢山いると思うよ。授業で会えると思うけど卒業生の方たちだってすごい人たちだからね」
「へぇ〜、ショウがそう言うならそうなんだろうな! それとさ! 久しぶりに会ったんだし一緒に料理しようぜ! お前の料理も食いたいし、俺の料理も食ってみて欲しいs「私を無視しないでくださる!?」うおっ、びっくりした」
最後まで言い切ることは出来なかったが声をかけたし、すぐ近くにいたのに無視され続けたえりなは我慢できずに声を荒らげる。
「すみません、えりな嬢。創真と会うのはとても久しぶりで盛り上がってしまって……」
「む……私だって久しく会ってないというのに……」
久しぶりの再会なのに栄翔が構ってくれないのが面白くないのかえりなは拗ねてしまった。
えりなだって約2年間栄翔と会っていなかったのだ。それなのに栄翔は自分ではなく、ヘラヘラした態度の編入生である創真と楽しそうに話していた。その事が気に入らなかった、つまり嫉妬してしまったのである。
「それに、私に対して敬語は不要だと言ったはずです」
「あ、そうだった……修行中は薙切家の人に対しては敬語の方が都合がいいこと多かったから……ごめんね、エリー。これでいい?」
また、無視されたことだけではなく、栄翔の話し方が敬語になっているのもえりなを不機嫌にする原因の1つだった。
「え、ええ///んんっ、改めて、久しぶりね、栄翔くん」
「うん、久しぶり、エリー。元気そうでよかった」
えりなは久しぶりにあだ名で呼ばれたことで少し顔が赤くなる。
自分で呼ばせておきながらいざ呼ばれると照れてしまうなど、もしここに彼女の秘書をしている女子生徒が居れば、微笑ましく思いながらも主であるえりなをフォローするために声をかけていただろう。だが、現在ここにいるのはえりなと栄翔を除けば創真だけであった。
「なに顔赤くしt「だ、黙りなさい!! そんなことしてなどいません!!」……あ〜、はいはい」
創真発言に対しての過剰な反応。その前のあだ名で呼ばせたりするなどの栄翔に対する態度、発言。いろいろと察しがついてきた創真は確認のため、そして単純に気になっていたため2人に問いかける。
「にしても、ショウと薙切がそんなくだけて話すほど仲が良かったとはな〜。正直意外だわ〜」
「そうかな?」
「ああ、薙切は試験の時から思ってたけどエリート意識がめっちゃ強くて無駄にプライド高いじゃん」
「んな!?」
「あはは……」
「だけどショウはそういうの感じねぇし高飛車な感じしないんだよ。だからそんな2人が仲が良いのが意外なんだわ。2人はどうやって仲良くなったんだ?」
創真が気になっていたこと。それは、なぜこの2人は仲が良いのかということだ。えりなだけでなくこの学園の生徒ほとんどに当てはまることだが、彼女らはエリート家系の出身では無い者に対して当たりが強い。だが、栄翔はそんなことはなく、創真ともとても仲良くしている。そんな価値観が違う2人がどうして親しいのか、それが気になったのだ。
「ああ、なるほどね。エリーと仲良くなったきっかけはね──」
栄翔は昔えりなと出会った時を思い出しながら話し始める。
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