ゴジラVSガメラ   作:マイケル社長

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ーChapter 12ー

 

 

・3月16日 8:08 茨城県牛久市ひたち野下根町 民間軍事企業「NEVER」訓練施設

 

 

 

 

 

「空き部屋がない」

 

「訓練施設整備までの措置」

 

石倉にそう告げられて一昨日から再び懲罰房に収容された真琴だったが、今回の懲罰房生活はいささか面食らうものだった。

 

固く冷たい床に寝そべるだけの生活ではなく、それなりの寝具も用意され、身体を拭くボディシートも提供された。食事も、訓練時と同じような内容のメニューが3食きちんと出され、凍てつくような地下空間の寒さも、毛布に包まればどうにか凌いでいけるものだった。

 

だが、それでも回復しないものがある。真琴の、心だった。

 

腹はそれなりに減るので食事は人並みに食べるが、それ以外は・・・毛布にうずくまり、何も、深く考えない刻を過ごす。もはや、成り行きでやってきたこの訓練施設も、あるいは訓練も、何ら真琴の興味を掻き立てる・・・もとい、生きる意義になり得ないものだった。

 

訓練に引きずり出されたところで、男でも、女でもない自分は、教官の目を盗んで他者をいたぶる連中の餌食となるばかりだろう。あんな生き地獄をこれからも味わうくらいなら・・・真琴は、そればかり考えた。

 

もしも訓練が再開したら、射撃訓練の際渡される自動小銃で・・・だが、教官の目が思いの外厳しい。実際、訓練中に自殺者が出たこともあり、自動小銃を台座から固定されてしまう、あるいは、ゴーグルによるVRでの戦闘訓練へと内容が変更され、訓練以外の用途で扱うことはできないのだ。

 

他の手段・・・といっても、もしこの房内で自殺など図ろうものなら、どこに仕掛けられているのかわからない監視カメラに察知され、すぐに警備の連中が駆けつけてくる。それに天井がかなり高く、何かを吊り下げようにも叶わない。

 

少なくともここを出られない限り、死ぬことすらできない。逆にここを出れば、鬼畜どもに痛めつけられ、なぶられ、やがて命を失うことになるかもしれない。それなら、それで良い、そのときをただ待てば良い・・・そう考えるに至り、真琴は考えるのをやめた。

 

最初は苦痛でしかなかった時間の経過(何もすることがなく時が過ぎるのを待つ、というのは通常この上ない苦痛なのだ)も、何も感じなくなった。しっかり時間通り出される食事のみが、陽の光も入らぬ、無機質な地下空間において時間を把握する手段であった。

 

「三崎真琴、出房だ」

 

おそらく朝食を食べた後、おもむろに現れた石倉にそう告げられ、房の錠が外された。銃を携えた警衛が2名つき、真琴は促されて外へ出た。今、この銃を奪って自身の頭に撃ち込めば・・・そんな考えが頭をよぎったが、背後にいる警衛の体格に抗えそうにない。自死の機会を逸したまま、真琴は促されるがままに房を出た。

 

すっかり自分のニオイが染み込んだ訓練服を脱ぎ、また同じような、しかし新品の服を支給される。手短に着替えろと指示され、真琴は反応もせず黙って済ませた。

 

先日切られた髪の毛はうざったく耳にかぶさっているが、前髪も含め前に比べればだいぶスッキリしている。傍目から見れば、真琴を女性と認識することはないだろう。思えば、1ヶ月にわたる懲罰房生活でだいぶ髪が伸びた上、ロクに洗髪もできずごわついた髪の毛を伸ばし放題に任せるのみだった。

 

房内に照明はあったが、それでも直射日光には到底及ばない。数日ぶりの朝日に、真琴は目を強く細めた。

 

「お前に与える訓練の用意まで時間がかかる」

 

こちらに背を向けたまま、先を歩く石倉が口を開いた。

 

「身体を慣らす意味合いもあるが、今日は朝から格闘戦闘術訓練だ。そのまま合流しろ」

 

一気に胃が萎むような感覚になった。真琴は平静の表情を浮かべながら、顔にイヤな汗が浮かぶのを感じた。

 

NEVERの訓練は一般的な軍隊とやや異なり、親会社が超大手IT企業なこともあって、戦車などの車両操縦や白兵戦を想定した模擬訓練はVRを使用する場合が多い。あるいは模擬銃、模擬弾を用いた実戦訓練だが、ルールの厳しいサバイバルゲームをやっているようなもので、各隊員ごとにスコアリングされるものの半ば遊び感覚で取り組む隊員も少なくない。

 

そんな中、どうしてもVRではなく実際に訓練しなければならないものがある。体術、軍隊式格闘技の訓練である。

 

米陸軍の近接格闘術をベースに、各国軍出身者のNEVER社員たちが独自に編み出したものである。これを体術に優れた教官数名が真琴たち新入隊員に文字通り叩き込むのだ。この訓練時には骨折、捻挫をしてしまう隊員が珍しくなく、当該日には多くの隊員が杞憂の表情で朝の食事を喉に流し込んでいる。

 

訓練復帰の端からこの格闘技とは・・・訓練の際に殴られ、蹴られることが怖いのではない。実はこの訓練において、弱い者は「訓練をしている風に」なぶられ、虐げられるのである。

 

おかしい、死んでしまっても良いと考えていたのに・・・この身を他者に甚振られることへの恐怖、抵抗が真琴の精神を大きく震わせていた。

 

訓練所の中庭は学校の校庭ほどの大きさがあり、すでに数十名の隊員が中央に集まっていた。だがいつもなら、二人一組のペアで教官指導の下行われるものなのだが、今日はやや趣が異なった。

 

まるでギャラリーのように隊員が中央を囲み、その中央では時折歓声が上がっている。普段との相違に足を止めている真琴に気づいたものがいた。足立優吾だった。

 

端正な顔にまるで似つかわしくない下卑た表情を浮かべた足立は、真琴に近寄るとやや強引に腕をつかんだ。反射的に腕を振りほどいて侮蔑を込めた睨みの視線を送る真琴をかまわず、その腕を再度つかみ、円陣の中央へと誘おうとする。

 

「おい!三崎が出てきたぞ」

 

すると足立の取り巻きである男子たちからは気持ちの悪い濁った目を向けられ、事情を知る女子たちはまるでゴミを見るように真琴へ険しい視線を向ける。

 

足立に連れられるがまま円陣中央へ来ると、幾人かの隊員が地面に突っ伏し、のたうち回っていた。

 

「鳴海さん!こいつのことも仕上げてやってくださいよ!」

 

足立が嬉々としてそう話しかける男。累々と倒れている隊員たちを尻目に立っている、白髪を短く刈り込み、捲っている腕はスリムながらも鍛え上げられた筋肉が浮かび上がっているのがわかる。

 

様子からして、この鳴海という壮年の男性が隊員数名を打ちのめしてしまったようだ。それも男子ばかりではない、女子にも容赦はないようで、腹部や腕を痛めたのか苦悶の表情で真琴を見上げている。

 

しかし鳴海と呼ばれた男、何者なのだろうか。当初教官かと思ったが、着用しているのは真琴たちとおなじ隊員の服装だ。本来教導する立場である教官らは、やや後ろに下がってこちらの様子を伺うのみ。

 

奇異を感じる真琴に、鳴海は視線を合わせた。真琴がこれまでの訓練で相手をしてきたどの教官とも異なる雰囲気をまとっていた。上手く言い表せぬが、ギロり、と真琴を見やる目は、それこそ肉食動物のようであった。だがライオンやハイエナのように荒々しく粗野なものではない。冷静に狩るべき対象を見定め狙う、あたかも猛禽類、もしくは狼のそれだった。

 

「・・・おい兄ちゃん。お前、ここへきてどのくらいだ?」

 

拳を握り、格闘の構えをとって鳴海と呼ばれた男が訊いてきた。

 

「・・・4ヶ月、くらい」

 

その迫力に押されつつも、真琴は答えた。「兄ちゃん」と呼ばれたことが、やけに真琴の心を引っ掛けた。

 

「その前は?富士かどこかで訓練は積んだんだろ?」

 

その通りだ。真琴は言葉に出さず、首を縦に振った。

 

「オラ早く構えろよ」

 

足立が低く、小さくもドスの利いた声で真琴の尻を蹴る。苦痛と憎悪に顔を歪めつつも、真琴は訓練通り、徒手格闘の構えをとった。

 

「先にかかってこい、かまわないから」

 

鳴海という男が言う。だが男の威容に気圧され、まるで足が前に出ない。

 

「オラっ!」

 

また、足立が真琴の尻を蹴り上げる。後がなくなった真琴は「うおおおお!」と怒声を上げ、左手拳で殴りかかった。徒手格闘術の突き、お手本通りの技だった。

 

「!!うぐぁっ・・・!」

 

これまで味わったことのない衝撃が股を揺らした。直後に襲いくる、脳が痺れるほどの鋭い痛み。

 

「グェあああああ・・・・!」

 

声を絞り出すのも精一杯、真琴は股を押さえて地面に崩れ落ちた。完全に突っ伏し、顎が地面についても痛みがまるで収まらない。顔中に脂汗が浮かび、呼吸をする度に蹴られた股がひどく疼く。

 

「あああああああ!!!」

 

耐えきれず、のたうち回って叫ぶ。声を出しても、押さえても痛みが引かない。そんな真琴を怪訝な目で見遣る男は構えの姿勢を崩した。

 

「鳴海さん、さすがっすね!」

 

足立がまるで権力者の太鼓持ちかの如く、鳴海に寄った。

 

「いやあ、もっと実戦の恐ろしさを知ってもらいたいヤツがいるんですよ!今度懲罰房から出たら、つれてきますから!」

 

ヘラヘラと喋りかける足立。だが、その足立の足が宙に浮いた。

 

「お前は実戦の怖さ、知ってるのか?」

 

鳴海が右手で足立の胸ぐらをつかみ、そのまま持ち上げたのだ。

 

「い、いや・・・」

 

その迫力に、ヘラついた表情が固まったまま足立は答えた。

 

「そういえば、お前はまだ手合わせしていなかったな?」

 

まるでカエルを睨む蛇のように、冷たく険しい目で鳴海は足立を覗き込んだ。

 

「そ、そんな、オレは、別に・・・」

 

恐怖からヘラヘラ笑いをまた浮かべる足立。そのまま放り投げると、鳴海は鼻を鳴らした。ギャラリーの向こうから石倉がやってきたのだ。

 

「鳴海。実戦経験ある貴様に指導は依頼した。だが、隊員を負傷させろとは言っていないはずだ」

 

必要があれば、いつでも高圧電流を帯びた警棒を叩きつけるべく握りながら、石倉が言った。

 

「大丈夫だ。痛みはあるだろうが、怪我はさせてない。じきにこいつらも立てるようになる」

 

数名は一撃で鳩尾を突かれ、また数名は人中(鼻と口の間)に強烈な指突きを受けてもんどり打っている。男も女もなく悶絶、あるいは恥も外聞もなく吐瀉物を撒き散らしている。そして真琴は、股間の痛みに喘ぎ、必死に呼吸していた。

 

「たしかに、相手を無力化させる攻撃だ。彼らにとり良い教訓となっただろう。だがそれもほどほどにしておくことだ」

 

そう言うと、石倉は集まっている訓練生たちを仰いだ。

 

「格闘訓練はここまでだ。いつも通り休憩した後、メーサー戦車のVR訓練を行う」

 

その言葉で取り巻きの指導官たちが訓練生たちを移動させる。足立は石倉の見えないところでひどく悪態をつき、子分のように取り巻いている男子の腰に蹴りを入れた。

 

「鳴海、貴様は別だ」

 

同じく移動しようとした鳴海を、石倉は呼び止めた。

 

「貴様は引き続いて、メーサー攻撃機のVR訓練だ。いつも通り。いや、今日からは違うな」

 

すると石倉は膝を折り、真琴の髪の毛をつかみ上げた。

 

「おい、動けるようになったらこの鳴海と行動を共にしろ。鳴海、今日からこいつにVRでメーサー攻撃機の訓練を教えてやれ」

 

乱暴に髪をつかまれても、真琴は痛みに悶えることしかできない。いくらか痛みは引いてきたものの。

 

「わかったら行け」

 

それだけ告げると、そこを去っていった。

 

「なあ、おい」

 

鳴海はむんずと真琴の頭をつかんだ。

 

「そういうわけだ。いまからオレとこい」

 

そのまま頭を持ち上げ、半強制的に真琴を立たせる。股間の痛みは相変わらずひどいが、どうにか我慢できるくらいにはなってきた。

 

「まだ痛むか?」

 

真琴は痛み故に声を出せず、だが怒りを込めた目を湛えて頷いた。するとおもむろに鳴海は真琴の頬を平手で叩いた。

 

「ンなにしやがっ・・・」

 

「今のとどっちが痛い?」

 

抗議する前に訊かれた。

 

「・・・今、の」

 

ジンジンと痛む頬を押さえ、真琴は答えた。

 

「なら大丈夫だ。少なくとも骨折はしてないだろ」

 

ついてこい、と鳴海は真琴を促した。

 

「女は男と違って股についてるものがないからな。下手をすればそこの骨が折れてた。知らずにすまなかったが・・・お前、女じゃないのか?」

 

あまりにも無神経な問いかけだった。真琴は歯を食いしばり、鳴海を睨みつけた。

 

「・・・怒るこたぁないだろ。まあ、いい。おい男おんな、オレは鳴海だ。いまからメーサー攻撃機ってヤツの操縦を教える。気は乗らんが、クソッタレの石倉教官の命令だ。せいぜい足をひっぱらずつきあってもらおう」

 

男おんな・・・その単語が頭の大部分を支配された真琴は、他の言葉が耳に入らなかった。

 

 

 

 

 

支社長室へ向かった石倉だったが、村岡は英語で誰かと電話していた。無論石倉は英語を解するため、どういう内容か窺い知れた。

 

「参った。成果主義もここまで極端だと、組織も腐るよ」

 

入ってきた石倉にそう愚痴をこぼす村岡。

 

「なんとなく、聞こえてたでしょ」

 

「はい。しかし訓練とはいえ実際にメーサーの放射というのは、訓練箇所の選定などで早くても来月にはなります」

 

困ったように苦笑いする村岡に、石倉はそう答えた。

 

「そう。まあ、買い手が早いところ実戦データを欲してるっていう事情があるのは理解できるんだけれどね」

 

勤務中にも関わらず、村岡はバーボンの瓶を開けてコップになみなみ注ぐと、氷を入れず口に入れた。

 

「クライアントが騒いでるんだろうなあ。切羽詰まった日本政府か、米国や日本の二の舞三の舞はごめんだと震えるNATO諸国か、はたまた・・・」

 

そこでふと、村岡の表情が変わったのを石倉は見逃すことはなかった。

 

「メーサー砲放射訓練の場所は簡単に決まらないって言ったよね?」

 

「はい」

 

「・・・急ぐんなら、手立てはあるかな」

 

村岡はどこかへ電話をかけようとしていた。

 

「支社長・・・」

 

「仕方ないでしょ。ああ言ってくるってことは、暗にこうしろと言ってるようなものだもの。それにねえ、考えてみれば貴重な実戦訓練のデータを戦車のAIに学習させられる絶好の機会だもの。無理難題どころか一石二鳥の状況だよ」

 

石倉は何も言わなかった。やがて話をまとめた村岡が電話を切ると、いつものように下卑た笑みを浮かべた。

 

「話はまとまったよ。ちょうど良い在庫処分になるのと、良い実験機会ってことで先方も乗り気だ。これで思ったより早くAI学習進められて自動操縦のメーサー戦車開発につなげられそうだ」

 

喜び顔でまたどこかへ電話をかけようとする村岡。

 

「それにね、まだ表には出ていない様子だけれど、どうも中国南部でキナ臭い事案が発生してるらしいよ。いやああいう国だから情報は遮断されてしまってるけれどね。まあ、本当に現れたら我々の兵器実演会とでもシャレ込んでいこうじゃないの」

 

「・・・支社長、計画より早く戦車の無人化が達成された場合、いまの訓練生たちは如何に処遇をつけましょうか?」

 

「そんなのね、決まってるでしょ?企業というものは組織や仕組みを改編させるときに不要な資源をカットさせるの。まあ、リストラされても日本政府が人手不足顕著な自衛隊にでも組み込んでくれるでしょう。それか、我々の手で日本版民間軍事企業作って会社ごとさっさと売り払うか。ビジネス展開考えるだけで背筋がゾクゾクしてくるよ」

 

大いにバーボンをあおいで、村岡はさらに通話を始めた。石倉は鉄面皮のまま、部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

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