ゴジラVSガメラ   作:マイケル社長

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ーChapter 13ー

 

 

 

・3月17日 8:12 茨城県稲敷郡美浦村馬掛 

 

 

 

 

 

その日は毎日朝7時の朝食まではいつも通りだった。

 

通常、NEVER訓練隊員は6時に起床した後、スポーツウェアに着替えてランニングなどの基礎トレーニングをしてから、短い時間で洗顔や洗濯を済ませ、訓練服に着替えて7時に朝食を摂ることになっている。

 

そこから軍式格闘や戦車操縦などの訓練が始まるのだが、朝食が始まると同時だった。これまで聴いたことがない物々しいサイレンが鳴り響いた。

 

「これは訓練ではない。総員ただちに車両庫前へ集合せよ。繰り返す、これは訓練ではない」

 

最初のひとくちを嗜んだばかりの若き隊員たちは、名残惜しそうに食事をそのままにして駆け出す者、少しでも空腹を癒そうと、とにかく口いっぱいに詰め込んで頬張る者、自分が最後に走り出せば良いとばかりに、かまわず食事を続ける者とさまざまだった(最後尾あたりに駆け込んできた数名の隊員は集合時、教官に鉄拳制裁を受けたのは必然だった)。

 

車両庫前に集まった隊員を前に、相変わらず青白い顔をした石倉が休めの姿勢で待機している。点呼によって全隊がそろったのを確認すると、ひとつ咳払いをして話し始めた。

 

「おはよう諸君。早速本題に入る。10分ほど前、霞ヶ浦上空を偵察飛行していた国連軍監視部隊より、霞ヶ浦東岸付近に複数の怪獣が出現したとの報告がもたらされた。そして5分前、米国にあるNEVER本社より、私たちメーサー部隊への出動命令が下された。したがって本隊においては、配備されている3台のメーサー戦車を用いた駆逐作戦を実施する。搭乗要員については、これまでの訓練スコアによって算出された者を充てている。当該要員は、速やかにメーサー戦車へ搭乗するように」

 

メーサー戦車は操縦担当と照準・放射担当の計2名が乗車する仕組みになっている。かねてよりVR訓練のスコアが高い者から実際に戦車へ搭乗し、操縦から放射寸前までを訓練してきている。そのため戦車担当はほぼ固定化されていた。

 

特にスコアが高いのは足立だった。元々慶應義塾大学に通っていたこともあり、文武両道、何事もソツなくこなせてしまう秀才であった。そして足立の取り巻きたちも(性分はともかくとして)優秀な者が多く、訓練を経て一緒に過ごす時間が多いこともあり、戦車要員に指名された彼らは勇んで搭乗し、訓練通りの手順で発車させた。

 

他の隊員は照準補助、観測などの名目で大型の軍用トラックに分散乗車し、作戦現場へと向かうことになった。それぞれが米軍制式採用と同様の、M16A4自動小銃を手にし、狭苦しいトラックの後部座席に並んで座る。現れた怪獣とやらがどんなものなのかわからないが、花形であるメーサー戦車による攻撃が主たるものとなるであろうことは、実戦を経験していない隊員たちも容易に想像ができた。

 

歩兵訓練のスコアが高い者たちは別の車両に分隊支援火器、すなわちM249軽機関銃や迫撃砲、対戦車バスーカ砲といった装備を携行しているが、あくまで実戦を想定した訓練の教科書通りに用意したに過ぎない。誰もが誰も、まさか実戦を迎えるとは考えておらず、メーサー戦車に搭乗した足立たちを除けば霞ヶ浦までの車中は緊張した面持ちで俯くのみであった。

 

4台連なるトラックのうち、真琴は真ん中の3両目に乗車していた。最後尾に比較的重装備の分隊支援部隊、そして先頭と2両目は一般の歩兵装備をそろえた隊員が乗車する中、真琴の車両は比較的スコアの低い者、最近まで懲罰房に入れられていた者、ハナから数字が得意で身体を動かすのが苦手なオタク気質の者など、どちらかといえば陰キャ、落ちこぼれが乗車していたのだ。

 

幸いにも、真琴に牙を剥いてくるような者がいないのは良かった。ただ一人を除いて・・・。

 

「おい男おんな、そんなシケたツラなんかするモンじゃねえ」

 

昨日からずっと行動を同じくしている鳴海だった。

 

鳴海の金的攻撃の痛みが引かぬ中、夜遅くまでメーサー攻撃機なる、回転翼のないヘリコプターのような機体操作をVRで行ったのだ。

 

「まずは操縦の基本からだ。本当はこんなファミコンみてーなものじゃなくて実物操縦するのが良いんだが、ま、ひとまずオレのいう通りやってみろ」

 

ヘルメット式のゴーグルをかぶると、鳴海と同じ画面を視覚で認識できるようになっている。そして部屋に置かれた、ゲームセンターで見かけるような模擬操縦席へ座ることで、メーサー攻撃機の起動から離陸、そして着陸までを本物さながらに行うことができる。

 

真琴が富士の訓練施設にいたころ、何度かVR訓練はしていたのだが、それこそゲームセンターの戦闘機ごっこのようなものだった。ここのVRは往時のものとは比べ物にならない精度であり、富士ではどうにか動かせていた真琴も、幾度か着陸に失敗して機体を大きく損傷させるばかりだった。

 

その度に、隣で同じ訓練に当たっていた鳴海から指導が入った。だが格闘訓練の際に受けた印象とはいささか異なる印象を、真琴は受けていた。

 

もちろん粗野で直情な彼の振る舞いは変わらないのだが、富士とここ筑波において、これまで受けてきたどのVR訓練よりもわかりやすく、地に足が着いたものだった。

 

特に、着陸の寸前でむしろ少しエンジン回転を強くした方が、機体が安定すること。飛行速度を上げる場合には、機体をやや下降気味に保ち前傾姿勢に寄せていけば上昇させることができること、といった部分は、VRゴーグル前に見た定型的なマニュアルや、どの飛行訓練担当教官たちよりもかゆいところに手が届くアドバイスであった。

 

訓練はそのまま白熱し、本来就寝時間である午後10時を回っても続いた。睡魔も襲ってはきたが、充てがわれた集団の寝室に戻りたくなかったことと、懲罰入りしていたため訓練日程の遅延解消という事情をタテに、鳴海が教官を説得(というが、実際はピシャリと断じたのだ)して、ゴーグルをかけたまま睡眠を取った。VRゴーグルは仮眠モードに設定すると、ヒーリングミュージックが流れる上に座席もリクライニングできる良環境だった。

 

無論、これまでの経験から、傍らの鳴海が自分に襲いかかってこないか、という不安と恐怖がなかったわけではない。だが、鳴海は「そういったこと」を仕掛けてこない、という、確信にも似た安心感があった。

 

久方ぶりに安心した睡眠を短いながらも取れて、スッキリとした朝を迎えられた矢先であった。

 

「その男おんなっていうの・・・」

 

環境の変化もあるが、何より鳴海の呼び方に戸惑いを隠せず、俯き加減から見上げるように鳴海を仰いだ。

 

「ホラ見てみろ。牛久の大仏さん、今日も穏やかに微笑みかけてくれてるじゃねえか」

 

鳴海が指さす先には、春先の曇天の下、優しげな微笑を口下に湛えた高さ120メートルの牛久大仏が鎮座している。いまではすっかり周辺から住民が退避してしまっているのだが、混乱の世にあっても変わらず偉大なる導きを表情で示してくれているようだ。

 

「こういうときは、神仏に祈ってみるのも良いモンだ。気休めにゃなる」

 

「気休めって・・・」

 

どうにも真琴は、鳴海のこういうノリがしっくりこないのだ。

 

「大丈夫だ。誰にだって初めてはある。それにな、軍ではこう言われるんだ。『100回の訓練より1回の実戦』てな。みんなも、貴重な実戦経験積めると思っていこうな」

 

周りで同じく俯き加減の隊員たちにも、鳴海は呼びかけるように言った。

 

「でもオレたち銃撃つわけでもないし・・・」

 

真琴に負けず劣らず陰キャな男子が、ボソリと声を上げた。

 

「戦車乗ったヤツら以外は居てもしょうがないってか?だがな、たとえ観測だろうと情報収集だろうと、同じ戦場の空気を吸うってだけでも、お前たちは立派な実戦経験した兵士だ。まあ、終わってみればわかる」

 

(その前に死んでしまったら・・・)

 

真琴含めて数人が同じように心の中でつぶやいた。口にしたら、鳴海の性格上ややめんどくさいことになりそうだったからだ。

 

車両一行は霞ヶ浦そばにある、やや高台の元ゴルフ場だったところに進入した。今では手入れがなされていないとはいえ、元々は大勢の紳士が己の腕と人脈を磨き上げるために整備されたコースに、大型トラックは躊躇なくタイヤ痕を大きく残してヤードのもっとも高いところに駐車した。車両から降りて銃器や観測機器を手間取りながらも準備する。

 

真琴たちは重火器の設置補助へ回った。以前真琴に風呂桶を投げつけた女子一行が凄まじい睨みをきかせてきたが、真琴と共に鳴海が動いているため、それ以上ちょっかいは出してこない様子だった。

 

ここから先、より霞ヶ浦に近い丘陵の頂部には、3台のメーサー戦車が停車している。ガス灯の先端を模したような砲身の先は、曇り空の下どんよりとした湖面を湛えている霞ヶ関をまっすぐ向いている。

 

そして砲身が目指す先には・・・湖畔に隣接する田んぼ一帯に溢れている、赤い身体の生物だった。

 

メーサー戦車にも観測補助員が搭乗しているが、真琴たちのそばにもタブレットとテレビ大のモニターを設置して観測する班がいる。両腕がハサミになっており、胴体が異様に大きく膨れ上がったような姿の甲殻類が、もはや作られなくなった田んぼ地帯に蠢いていた。

 

電柱より背が低い個体が多く、ゴジラやギドラのような大きさはないものの、ざっと数十匹はいるであろうその数は脅威と言えた。

 

「何年か前、台湾に上陸した蟹のバケモノだな、ありゃあ」

 

どこから用意したのか、鳴海が簡素な双眼鏡で様子を見ている。私物を現場に持ち込むのは規則で禁じられているはずなのだが・・・。

 

「たしか、後から名前つけられたんだったな。ガニメだか、なんだったか・・・安直でセンスのねえ名前だったな」

 

「台湾に出た怪獣が、どうして日本に?」

 

真琴が素朴な疑問を発した。

 

「お前はどう思う、男おんな」

 

相変わらずの呼び方にムッとした真琴だったが、それでも少し頭を働かせてみた。

 

「たしか、ゴジラが茨城に出たときも別な怪獣が出たからだったような・・・」

 

それは間違っていなかった。2019年、茨城県ひたちなか市にイカのような怪獣ゲゾラが出現した際、まるでそれを追ってきたかのようにゴジラが続いて上陸し、口から放射する白熱光で周辺の家屋ごと焼き払ってしまったことがあった。その際はカマキラス・ガイガンショックによって東京一円が機能を麻痺させていたことと、その後のギドラ襲来のインパクトがあまりにも大きく、ゴジラ茨城上陸は都内在住者でも知らない者が多かった。

 

「前も出たから今回もココっていうのか。お前の理屈じゃあ、そのうち霞ヶ浦からゴジラが出てくるぞ」

 

ゴジラ、という単語が鳴海の口から出たとき、周囲の隊員たちは身をすくめた。やはりゴジラという単語は、他とは異なる言霊を帯びているようだ。

 

「まあ、あれだけの騒動が起きてんだ。生態系がいっぺんに狂っちまったと考える向きもよくわかるがな」

 

なんだか含みを持たせるような鳴海の言動が気になったが、メーサー戦車がけたたましい稼働音を響かせながら砲身を展開させ始めた。

 

「おいよく見てろ。期待の新兵器お披露目だ」

 

鳴海がどこか皮肉っぽく言った。直後、高く鋭い音が周囲に響き渡った。真琴をふくめ、NEVER隊員たちは多かれ少なかれ、VR訓練でメーサー戦車の操縦をこなしてはいる。だがいくら映像と音響を最新鋭技術で整えたとて、所詮はVRだ。せいぜい凝った映像体験でしかない側面もある。

 

現実は異なった。メーサーの砲身先端より、青白い光の筋が実際に空気をつんざき、まばゆい光を周囲に放つ。メーサー戦車周辺の観測隊はゴーグルを着用してその強烈な光を防いでいたが、それでも思わず目を覆うほどのまぶしさだった。

 

やや間を置いて、眼下の霞ヶ浦沿岸からいくつもの炸裂音が響き渡った。メーサーの光波をまともに浴びた甲殻類の化け物・・・ガニメたちは、次々とその硬い甲殻を派手に破裂させていった。

 

極めて高出力のマイクロ波を、光に纏わせて対象を攻撃する・・・真琴たちはメーサーというものの原理をそう習っていた。分子運動が急速に活発化することで、生物なら体内の水分が瞬時に蒸散する。いわば、超強力な電子レンジにかけられたような形だ。その作用により、生物の身体は瞬く間に爆散、破裂する。昨今、日本を始め世界中の大きな脅威となっている怪獣たちに、極めて有効な兵器・・・そのように学習していた。

 

やはり、聞くのと見るのではまるで違っていた。

 

照準を修正したメーサー砲は、2射目を放射した。霞ヶ浦の湖面に当たった瞬間、水面が水蒸気爆発を起こし、高温の金属に大量の水をかけたかの如く、猛烈な水煙が上がった。その中でもがくガニメたちに、容赦なく命中するメーサーの光波。内部から破裂するように爆散し、やがて飛び散った破片や肉片が燃え上がっていく。

 

3両のメーサー戦車による2度の掃射で、もはや大勢は決していた。何の反撃もできず、ガニメの大群はほぼすべてが沈黙してしまった。そして3度目の掃射は、撃ち漏らした個体の追い討ちでしかなく、5分もしないうちに湖畔で蠢く個体はさっぱりといなくなってしまった。

 

「こちらメーサー部隊付観測班。群体出現付近の生体反応を認めず」

 

メーサー戦車に付いている観測班からインカム越に報告が上がった。聞いた話でしかないが、報告してきたのは元自衛隊員だったようで、報告する内容に無駄はなくキビキビとした口調だった。

 

「こ、こちらゴルフ場観測班。あ、あの・・・っと、こちらも生体反応は、ない、もよう」

 

対して、真琴たちと共にいる観測隊の返答は聞いているのも恥ずかしくなるほどお粗末なものだった。帰ってから、教官による肉弾指導を受ける様子を、誰もが想像してしまった。

 

やがて報告を受けた観測班のドローンが一帯上空を偵察に向かったが、それ以上ガニメの姿は確認されなかった。

 

「状況、終了」

 

インカム越しに、石倉の無機質な声が聞こえてきた。直後、歓声が上がった。足立ら戦車要員が、歓喜の雄叫びをあげたのだ。それに触発されたのか、はたまた媚を売らんとしたのか、幾人かも同じように歓声を上げたのだが、真琴を始めとした大半の隊員たちは初陣の勝利を喜ぶことはなかった。ただ茫然としているか、役目は果たしたとばかりに撤収の用意をさっさと始めるか、あるいはあまりにも強大なメーサーの威力を目の当たりにしたことで、すっかり萎縮してしまっている者も少なくなかった。

 

今までVRとはいえ、これほどまでに強力な兵器を扱っていたのか・・・改めて痛感した真琴は、彼らと同じように慄然としていた。そんな若い隊員たちに混じっている鳴海は、皮肉っぽく笑みを浮かべたのち、大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

観測とはいえ初の実戦ということもあり、撤収と帰還にはけっこうな時間を費やした。教官たちにどやされながら観測用機器や銃器類を片付け、またトラックに乗り込んで元の牛久市にある訓練施設へ戻る頃には、正午近くになっていた。

 

「諸君、ご苦労だった。初の実戦を受けたことで、得られたことも多かったと察する」

 

訓練施設に戻るなり、石倉が全員を前にして相変わらず無機質な声で話し出した。彼の声色からは、勝利の興奮も戦闘を経た緊張も何もかもが、まるで感じられなかった。

 

「本日これより、長めの昼食休憩とする。その後14時を以て、今回の出動と武力行使を改めて検討、検証する時間を設ける。なお、怪獣が現れたエリアの警戒及び調査は国連軍に引き継いでいる。今後我々の訓練や行動に関わることがあれば、追って連絡する。以上、解散」

 

足立たち戦車要員は、意気揚々と敬礼し、石倉が去ったあと騒ぎ始めた。陽キャの学生が酒を飲んで街に繰り出したときのような、不快なイキリ具合を全開にさせたようなノリだった。

 

「やったな、オレたち!」

 

「やっぱしっかり訓練してきて良かったな!」

 

「これもうゴジラもギドラにも勝てんじゃね??」

 

「いつでもかかってこい、だよなあ!」

 

そんな彼らに、取り巻きの男女がヘラヘラしながら乗っかって騒ぐ。他の隊員たちは関わらないように、無関心を装っているか、妬みや蔑みの視線を遠くから向けるしかしなかった。

 

なるべく足立たちに接触しないよう、真琴は食堂へ向かう一行のしんがりをトボトボ歩いていた。足立たちのノリ、真琴はとにかく苦手だった。そうでなくとも、普段が普段である。何をされるのか・・・・。

 

目の前に気配を感じ取り、真琴は歩みを止めた。俯き加減だった顔を上げると、数名の女子が真琴を待ち構えていたかのように廊下を塞いでいた。

 

真琴にはわかった。コイツら、言いようのない苛立ち、妬みを自分へ向け、消化しようとしているのだ。

 

ここで手を出されたら、反撃するか・・・だが、そんなことをすれば懲罰房へ放り込まれるだろう。かといってなすがままにされるのは・・・。

 

(ばか、オレは男だろ、男だろ・・・)

 

そう自分に言い聞かせ、せめて意識だけは強く保ち、どうすれば良いかを考えようとした。だが、どんなに思考人格が男性だろうと、真琴の身体は正真正銘の女性だった。そしてその事実は、真琴の思考を大きく揺らがせていた。

 

「おい」

 

ふと、後ろから声がかかった。

 

「男おんな、忘れたのか。オレたちは本隊とは離れ、引き続き攻撃機のVR訓練だろうが」

 

鳴海だった。そういえば、と口を開けた真琴の髪をグシャっと掴むと、そのままVR訓練室へ歩き出した。呆気に取られた女子たちだったが、短く舌打ちをすると真琴を睨みつけながら食堂へ向かい始めた。

 

「いい加減離してくれる?」

 

男性に髪をつかまれるのは、やはり良い気がしない。真琴が不機嫌そうに言うと、鳴海は手を離した。

 

「ご機嫌斜めか?心配すんな、きちんと昼飯が出る。それもしっかり弁当になってだな」

 

「的外れなこと言ってんじゃねーよ・・・」

 

鳴海へ聞こえないように、真琴はボソリと言った。

 

「おお、そうだ。今日からこの訓練受けるの、3人になったようだぞ」

 

真琴は顔を上げた。3人?このおっさんと2人きりじゃなくて?

 

嬉しいような気もするが、かといってこのおっさんと同じくらい濃い性格のヤツだったら・・・そう思って訓練室に入ると、すでに用意されていた3席目の操縦席に座り、しきりにタブレットをスクロールしてマニュアルを頭に叩き込もうとしている隊員の姿が目に入った。

 

「あ、あなたが?」

 

そう言って立ち上がるその訓練生は、肩くらいまでの明るい髪の毛が印象的な女性だった。それも、真琴たちのように20歳前後の訓練生よりも、やや大人びた雰囲気がある。

 

「泉谷瑞穂。よろしくね」

 

屈託のない笑顔で、真琴に握手を求めてきた。手を握りながら、真琴は女性で嬉しいような、恥ずかしくて照れ臭いような複雑な気持ちになった。

 

「元空自の救難隊だそうだ。ま、オレのように自分でヘリを飛ばしてたわけじゃないが、いろいろ頼りになる部分もあるだろ」

 

傍らの鳴海が捕捉した。

 

「おっさん、言っとくけどVR訓練ではおっさんよりもスコア高かったんだからね」

 

「そりゃまぐれだろ」

 

そんなやりとりに、なんだかついていけていない真琴。というか、このおっさん、元はヘリを飛ばしていたのか・・・。

 

道理で、マニュアルにない細かい部分までアドバイスしてくれるわけだ、と得心いってる真琴に、泉谷は声をかけた。

 

「真琴くんだよね。さ、早くご飯食べて訓練やろ。戦闘経験ないけど、あたしだって元自衛隊だもの。ちょっとは教えてあげられるからさ」

 

なんだか、奇妙な訓練生活が始まりそうだ・・・。

 

そう思う真琴であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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