ゴジラVSガメラ   作:マイケル社長

4 / 17
ーChapter 2ー

・10月26日 13:38 大阪府大阪市中央区大手前4丁目 大阪府合同庁舎内

 

 

「国民行動党、鳩中幸成君」

 

桜井衆議院議長に促されると、野党第一党である国民行動党党首・鳩中は大きなギョロッとした目をさらに大きくし、気合いを入れてマイクの前に立った。

 

「え、実に1年と3ヶ月ぶりの衆議院予算委員会ということで、まずは政権与党要職、並びに瀬戸総理以下国務大臣のみなさまには、前代未聞の危機的状況の中、そのお役目を果たされていることに感謝を申し上げます」

 

映されているテレビカメラの向こうにいる国民の目を気にしつつ、鳩中はそこから声色を変えた。

 

「そのような状況下だからこそ、私は国民の声を代弁し、敢えて瀬戸総理を始めとする政権幹部のみなさまに申し上げます。まず、昨年7月の怪獣多数襲撃、そこから2週間後のゴジラ・ギドラ襲来によって、関東・東海・南紀に至る我が国の重要な産業・人口密集地帯が壊滅状態となり、被害の大きさ故に自国での再建を断念。さらには、それら被災地域を国連による暫定統治に委ねるという、我が国建国以来類を無い事態となっております。ここで私はうかがいたい!これら地域をどのように復興させ、希望が潰えた我が国をどうやって立て直していくのか!総理、具体的な政策をお話願いたい」

 

鳩中がまくし立てたことは、1億もの日本国民が直接総理大臣に問い質したいことだった。私の背中には、大勢の国民がいる!そう言わんばかりに、鳩中は勢いをつけた。

 

「内閣総理大臣、瀬戸周一郎君」

 

挙手した瀬戸を、桜井は名指しした。

 

「まず、関東・東海地域の国連による暫定統治は、国内基幹産業の復興、ならびにゴジラが発した残留放射能の半減期を考慮した結果、5年後を目処に終了。その後は、国内外からの産業技術集約と積極的な財政投融資、また国の内外を問わず民間からの融資による資金調達を行い、被災地域の復興に尽力する所存でございます」

 

与野党議員の発する熱気と殺気に動じることなく、冷静に瀬戸は話す。

 

「国民行動党、鳩中君」

 

がまんならん、とばかりに挙手した鳩中を、桜井は指名した。

 

「そのための具体的な方法はどうするのか、そこをお訊ねしているんです!良いですか総理、日本円は昨年以来暴落して最新の大阪外国為替市場では1ドル195円!安全資産とされていた日本国債も海外市場を中心に売価が額面の8割で取引されている始末です。世界有数の資産国家だった我が国も、GDPがポルトガルにすら抜かれ、アジアに於いてもマレーシアを下回るかどうかの局面まで来ております!良いですか、世界に見捨てられ、我が国は復興どころか貧乏国家への道を突き進んでいるんですよ!このような状態で、どこからどうやって投融資をひっぱるというのですか!」

 

「そうだそうだ!」

 

「国民が苦しんでるんだぞ!」

 

国民行動党を始め、野党議員からはすさまじい野次が飛ばされる。これまでは烏合の衆であった野党各党も、この局面で連携を取り、瀬戸内閣に対して集中攻撃を仕掛ける動きがある。それでもたじろぐことなく、瀬戸は軽く咳払いをして挙手した。

 

「え、来年度より、復興特別予算を計上し、主に自国内にて投融資を進めてまいります。財源ですが、IMFからの拠出金、G7(先進7ヶ国首脳会議)中央銀行からの、日本国債を担保とする融資、政府が保有する米国債の一部取り崩し、新規国債発行により、合わせて75兆円の予算を見込んでおります」

 

「だから!肝心の日本国債の価値が下落してるでしょうが!」

 

「米国から国債売却の承認を得てんのか!?」

 

怒声の野次に、桜井議長の「静粛に!質問は順を追い、挙手にてお願いします」という執り成しが入った。そこで鳩中が再び挙手をした。

 

「総理、聞こえましたでしょう?予算の担保はいかがなさるのですか?」

 

「きちんと質問しなさいよ!」

 

今度は与党側から怒鳴り声が響いた。総務大臣の北島香澄が鋭く響く声を張り上げたのだ。

 

「まず日本国債ですが、おっしゃるように他国市場にあっては、額面価値より低く売買がなされているのが現状です。しかしながら、G7の中央銀行同士では、経済危機に対応すべく実際の市場価格に関わらず額面通りの資金を融通し合う取り決めがなされております。また米国債ですが、米国連邦制度理事会のファーガソン議長と、我が国の財務省及び日本銀行とでのコンセンサスは既に得られております。最終的にはオヘア米大統領の承認を必要としますが、オヘア大統領より実行に前向きとの言葉を、先日の日米首脳電話会談で頂戴しております。これらの額を限りなく積み増すことで新規国債発行を低減させ、我が国の財政負担を少しでも減らして参る所存です」

 

瀬戸の答弁の最中、野党議員たちは小声で言葉を交わした。

 

「日本共産党、畠中文也議員」

 

今度は矛先を変えるようだ。

 

「うかがいます。かつてない被害により、国民生活は困窮を極めております。円安によるガソリン価格や小麦原料、木材資源の高騰に、15%を上回る失業率。このような事態を救済・打開するにはどうするのか、みなさんのご意見を拝聴したい」

 

「都合悪くなったからって矛先変えないで!」

 

北島の怒鳴り声を背に、瀬戸は答弁台に立った。

 

「現在、経済産業省主導による外資誘致を積極的に行っております。これにより、少しずつでも経済回復と失業率改善を図って参ります」

 

「うかがいます!たしかに米大手企業のガルファー社には、官民共に助けられております。しかしですよ!被災地の若者はガルファー社傘下の民間軍事会社NEVER社員として徴用され、被災地域の警備と新兵器開発・試験に当てられているではありませんか!そしてさらにですよ、狙ったかどうか知りませんがねえ!円安により主に中国企業による関西地域の不動産買い漁りによって西日本の不動産は暴騰し、国民は物価上昇と通貨価値下落のダブルパンチに見舞われている!これでは外国人ばかりが利益を得て国民が貧しくなる上、仕事がないなら他国の企業で戦争に加担しろ。こんなことを進める現政権は何ですか!こういうのを売国奴っていうんですよ!」

 

「あなたたちに言われたくないです!」

 

「よく言うよ!」

 

「テメーらこそ売国奴じゃねえか!」

 

北島を筆頭に、与党から壮絶なツッコミが入れられた。

 

「そうだ!与党が日本を売り捌いてんだろ!」

 

「未来ある若者を戦争に従事させるな!」

 

「テメーらとはなんだ!謝罪しろコラぁ!」

 

野党も応酬し、一段と騒がしくなる。

 

「静粛に、静粛に!」

 

そう呼びかける桜井議長も、咳混じりになり声がかすれてきた。瀬戸は神妙に一礼し、マイクを握る。

 

「心苦しい限りですが、現状では外国に頼ることで我が国を支えていかざるを得ないことは認めざるを得ません。先ほどお答えしたように、今後数年かけて我が国が自立していくために、必要なことだと考えております。国民のみなさまにおきましては、多大な痛みと苦しみに遭われていることは痛切に感じております。しばらくは、耐え忍ぶことをお願いすることになりますが・・・」

 

「我慢ばかりするのは国民だけですか!うかがいますがね、あなた方与党はそうやって我慢ガマンて、国民は限界なんですよ!」

 

議長の促しなくマイクを手にした畠中には、さすがに桜井も「質問は議長の承認あってからなさってください!」と声を荒げた。

 

「国民が怒ってるんだよ!」

 

「いつまで我慢させるんだ!」

 

「円安政策進めれば経済回復するなんて嘘だったのかぁ!」

 

だが野党席からの加勢は熱くなるばかりだった。

 

「あなたたちが与党のときも円安基調だったでしょう!」

 

「なら対案持ってるのか!」

 

「おたくの党首は円安で株価だけ上がって儲けてんだろがよぉ!」

 

与党も勢いづき、もはや収拾がつかなくなっている。

 

「ご静粛に!国民が見てますよ!!」

 

限界を超えた怒声を桜井がマイクに浴びせかけたことで、場内はようやく静まりかえりつつあった。

 

「収拾が取れないので次の質問に移ります。民主第一党、狩野議員」

 

すかさず挙手した狩野を、桜井は指名した。これまでと違い、声を荒げず与党を追求することで定評のある男が席を立ったことで、瀬戸以下の閣僚は姿勢を正した。

 

「質疑の前に、与党も野党も何たる体たらくですか。恥ずかしい」

 

ピシャリと告げ、それまで野次を飛ばしていた与野党の議員たちは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「私の質問ですが、復興への道筋は把握できました。ですがそれ以前の話をします。まず、今後また現れるやもしれぬ怪獣への対策はどのようになっていますか?」

 

静かに、しかし威圧感ある口調で閣僚に訊く狩野。ややあって、防衛大臣の奈須野がおずおずと手を挙げた。

 

「奈須野公之防衛大臣」

 

答弁台に促された奈須野は、多量の汗をぬぐいながらマイクに顔を向けた。

 

「現在、関東中部地域の陸海空、すべての自衛隊を再編。主に西日本への注力をするべく展開を検討しています。それと、米軍・国連軍とも連携を強化し、怪獣を含めた有事対応にも当たれるよう、方策を進めておるところです」

 

「すなわち、事実上首都となった大阪を守護する布陣を整えている、ということですか?」

 

「さようです」

 

奈須野は眼鏡を外し、まぶたに溜まった汗をしきりに拭いている。

 

「兵力を集中させることで、怪獣たちへの対抗は充分にできるとお考えですか?」

 

「さ、さようです」

 

「昨年来、鳴りを潜めているゴジラとギドラへも、その対応が有効とお考えですか?」

 

次々と放たれる矢に辟易したように、奈須野は髪の毛がない頭を掻いた。

 

「げ、現在の自衛隊の兵力を考慮した場合、それが最善と考えて、おります」

 

「防衛省では、中国が発表したように、ゴジラとギドラは昨年の中国による空爆で死亡したとの見解ですか?」

 

すかさず防衛省の官僚が数人、奈須野に駆け寄った。

 

「奈須野さんに訊いてるんだよ」

 

「お前らひっこんでろ」

 

辛辣な野次に聞こえないフリをする防衛官僚。奈須野は立ち上がり、汗を拭った。

 

「防衛省としては、再出現を想定した行動を取るべく準備が済んで・・・おります」

 

奈須野の様子がおかしいことに、怪訝な顔をしつつも狩野は挙手した。

 

「では、実際に出現した場合、どのような方法で迎撃に当たるのか、教えてください」

 

防衛官僚がいくつか耳打ちすると、奈須野はよろめきながら立ち上がった。

 

「そー、それは、まずは、海里上に出現した場合・・・場合から・・・カッ」

 

そこで奈須野は顔を天に向き、そのまま仰向けに倒れてしまった。閣僚と秘書が慌てて駆け寄るが、奈須野は焦点の合わない目をしたまま、顔を土気色にしてうなっている。

 

騒然とする中、救護を要請すべく警護のSPが議会場から駆け出した。

 

 

 

 

 

 

衆議院予算委員会は、奈須野公之防衛大臣が倒れたことで急遽休止となった。奈須野はそのまま救急車で搬送されていった。

 

かねてより高血圧の持病を抱えていたところに、時勢的にもっとも激務となる防衛大臣の職を任命されて以来、まともに睡眠を取れぬ日が続いたことが堪えたのだろう。2年前のゴジラ再出現と怪獣たちの跋扈により、体調不良で倒れる防衛大臣は奈須野で2人目だった。

 

大阪府合同庁舎内にある小会議室へ場を移し、もともと予定されていた閣僚会議が開催されることとなった。大臣職に就いている議員たちと付随の官僚、そして暫定的に首都機能が置かれたことで行政機能の統一を図るべく、内閣参与として原田大阪府知事が入室した。

 

官房長官秘書が望月に耳打ちすると、短く頷いた望月は咳払いをして一同に向き直った。

 

「それでは閣議の前に。いまほど病院から連絡があり、奈須野さんは中度の脳梗塞を発症、回復後も運動・言語機能に麻痺が残る可能性が低くないという診断結果が出されました。今後党の要職とも相談しますが、職務続行は難しいようです」

 

一同は深くため息をついた。この時節に防衛大臣が交替することで生じる影響は大きい。ただでさえ、勢いづく中国による南西諸島近海での領海・領空侵犯対応がのしかかる上、根本から見直すこととなった国防体制と再来が懸念される怪獣対策に大幅な影響が出ることは必至だ。

 

「だいたい、野党の追及に品がないからですよ」

 

不満気に口を尖らせる北島。

 

「平時から防衛予算や軍備削減を声高に叫んでたクセに、いざゴジラやギドラが出たら国防の不備を政府になすりつけてくるんだから。奈須野さんじゃなくたってストレスたまりますって」

 

「まあ、もひとつお手柔らかに願いたかったのはたしかだねえ」

 

岡本文科大臣も同調した。

 

「そもそも日本始まって以来の国難なんだから、野党も文句言わずに挙国一致で打開していかなきゃいけないのに。総理、やっぱり廃案になった言論統制の時限立法、考え直すべきではありませんか?」

 

「北島君」

 

身を乗り出す北島を、瀬戸は制した。

 

「たしかに与野党、力を合わせていかなくてはならない局面だが、かといって政権を批判して罰せられる法律を作り、強制的に言論を統一させるなど民主主義への冒涜だよ。批判はあってしかるべきだし、こんなときだからこそ、民主主義の根幹を守るべきだ。どうか滅多なことは口にしないでもらいたいね」

 

瀬戸に窘められ、北島は顔を赤くして俯いた。

 

「・・・もうしわけありません、言葉が過ぎました」

 

まあ良いさ、と瀬戸が頷いたのを合図に、望月は咳払いをして顔を上げた。

 

「それでは、本日の閣議を開きます。え、配布してある通り、本日は怪獣対策を念頭に置いた、新たな兵器導入に関して、防衛省と経産省より説明を願います」

 

望月がしゃべり終えると、病に伏した大臣に代わり参加した平田防衛政務官が佐間野経済産業大臣を見遣った。佐間野は右手を挙げ、メガネの位置を正した。

 

「資料2ページに写真がある通り、ガルファー社は今月22日、メーサー攻撃車両・・・通称メーサータンクを完成させました」

 

メーサー。高出力のマイクロ波を増幅・凝縮させ、対象へ照射・命中させることで対象を焼滅させることを目的とした兵器。21世紀初頭に万が一再び怪獣が出現した場合、理論上生物に対し極めて有効とされ、開発実験が行われた。

 

ところが実際に大出力のメーサーを発射する場合、膨大な電力を必要とし、それほどの電力を備えたまま移動する特殊車両を製造することは不可能だった。主に沿岸部へ設置型のメーサーアンテナを建造する案もあったが、必要な電力量と予算がつかず、開発は凍結に追い込まれていた。

 

そんな状況を、一昨年夏に出現したギドラが覆した。ギドラの体表が傷ついたことで散らばった青い鉱石(ギドラの細胞を構成する物質と思われる)を研究したところ、人間の拳ほどの大きさでも東京都23区の電力消費量3日分に相当するエネルギーが安定的に得られ、メーサー照射機を搭載した特殊車両の建造が技術的に可能となった。

 

三菱重工、日立、IHIといった日本の長重工業による技術開発協力もあったが、主に日本の難波重工と米国のガルファー社による共同開発によって昨年秋までには試験車両が仕上がる見込みであった。

 

ところが、昨年ギドラが千葉県の京葉工業地帯を破壊。本社工場を擁していた難波重工の生産拠点は完膚なきまでに焼失してしまった。これによりガルファー社が青色吐息となった難波重工を傘下に収め、かつてゴジラとギドラの戦いで崩壊した旧浜松経済特区にて米国主導による開発が進められていた。

 

その直後に東京一円を滅ぼしたゴジラとギドラの潜航波により、遠州から東南海にかけて高さ30メートルを超える大津波が押し寄せたことで開発の中断はあったものの、今年に入り生産拠点が整備されたことで開発が再開、ようやく完成にこぎつけられた。

 

「有効射程距離が最大で10〜15キロメートル。怪獣ばかりでなく、外国勢力の航空爆撃機や中長距離弾道ミサイルも撃破可能。こりゃあ我が国にとって、喉から手が出るほどほしい戦車だわなあ」

 

党の重鎮であり、保守本流である井岡財務大臣が口を開いた。

 

「井岡さんのおっしゃる通りです。目下我が国における脅威は、ゴジラやギドラを始めとする怪獣。敢えて名指ししますが、中国・北朝鮮が我が国に照準を合わせている、核兵器を搭載した延べ70基の長距離弾道ミサイル。そして中国人民解放軍が、極秘裏に開発していた新型高性能爆弾“神雷”であります」

 

佐間野が答えた。いつから防衛大臣になったんだ、という冷やかしの声もあったが、列席の閣僚と官僚、内閣関係者は一様に納得した。

 

昨年7月、南関東を業火に包んだゴジラとギドラは大津波を巻き起こしながら太平洋を南西へ侵攻。日本の排他的経済水域を越え台湾沖南東80キロの洋上にて、中国人民解放空軍・東部戦区空軍所属のHー6K爆撃機が投下した新型爆弾“神雷”の攻撃を受けた。

 

約3平方キロを完全破壊するほどの大爆発でゴジラとギドラはその姿を消した。これを以てゴジラ・ギドラという恐るべき脅威は死亡したとの見方も強く、殊に中国政府は『人類による偉大なる勝利』と盛んに喧伝した。

 

ゴジラとギドラの生死判別はついていないが、この攻撃で中国は日米を始めとする世界各国に熾烈な軍事力を誇示することに成功した。

 

今後新たな怪獣が現れたとしても、神雷による撃退作戦は極めて有効であることが明確となり、怪獣出現の際は中国に相当なイニシアチブが生じることがはっきりした。

 

そして台湾沖で空爆を実施したという事実も、日米台への大きな牽制となった。

 

神雷は核兵器と異なり、放射性物質を発せず後々への深刻な影響もない状態で、戦術核兵器に匹敵する威力を持つことがわかった。今回は爆撃機からの無誘導爆弾だったが、ここまで兵器として仕上がっていれば、既存の長距離弾道ミサイルに搭載することなど造作もないはずだ。

 

それはすなわち、台湾はおろか日本、そして米軍が駐留する東アジア一円を新たな兵器でもって威嚇できることである。核兵器はその威力もさることながら、爆発と同時に発せられる猛烈な放射性物質による影響が最大の脅威であり、だからこそ最終兵器として在り得た。今回は中国が最終兵器の一歩前に使い勝手の良いオプションを保持していることをまざまざと見せつけられた。

 

それでなくとも、米軍、そして米国はダガーラとギドラによって深刻な損傷を受けており、早晩GDPを中国に抜かれる日も遠くない状況になりつつある。米軍も大規模な世界展開の見直しを余儀なくされており、日本においても横田・厚木の基地を閉鎖。横須賀の米海軍司令部も佐世保に移された挙げ句、往時の6割にまで戦力を減退させていた。

 

この状況下において、神雷に比類する兵器開発は日米はもちろん、親中国以外のアジア諸国全体の悲願であり絶対の達成目標であった。今回開発に成功したメーサーなら、既存兵器とは比べものにならない範囲への攻撃も可能となるため、東アジアの軍事バランス修復に大きく期待が持てる。

 

「検証・実践はガルファー社傘下の民間軍事企業、NEVER社が行います。11月1日より、社内訓練で選抜されたメンバーを中心に旧茨城県霞ヶ浦で半年間にわたり実施される予定です」

 

佐間野は淡々と説明した。

 

「これほどの新兵器を、正規軍ではなく民間企業が試験するとは」

 

氷堂外務大臣が額に手を当てた。

 

「氷堂さんもご存知のはずです。米軍も米国も、そこまでの余裕がありません。ま、NEVERは米国籍ですし、基幹社員のほとんどが米軍出身者です。事実上米軍による検証が行われると考えて差し支えありません」

 

佐間野が答えた。今回に限らず、ガルファー社と深い関係を持つ佐間野が、閣議において主導権を持ち話す機会はここ数ヶ月で増えつつあった。

 

「して、陸上自衛隊への導入は?」

 

今度は瀬戸が尋ねた。

 

「現在のところ、はっきりした時期は未定です。ガルファー社では来年5月までの試験期間を経て、翌月に米陸軍に24台のメーサー戦闘車を納入する方針です。そこからかんがえますと、我が国への販売は早くて来年末になるかと」

 

佐間野が説明すると、瀬戸は静かに目を閉じ、氷堂は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「佐間野大臣、いま少し早く・・・いやもっといえば、メーサー戦闘車とやらを真っ先に導入されるべきは我が国ではありませんか。中国は海を隔ててるとはいってもお隣だし、怪獣の脅威にもっとも晒されているのは日本なのですぞ。だいたい、ゴジラとギドラが本当に倒せたという確証もないのに・・・」

 

岡本が苦言を呈すると、佐間野は少し軽蔑したように視線を向けた。それに気づき岡本が怪訝な顔をすると、何もわかってないな、といった風に氷堂がため息をついた後、言った。

 

「日本が保有する米国債のうち20兆円を取り崩し、復興予算に計上するのは岡本さんもご存知でしょうな?」

 

「それがどうしたというんです?」

 

「あんたねえ、ちぃっと考えればわかるじゃないか」

 

井岡が我慢ならんとばかりに声を荒げた。

 

「通常なら米国債を20兆円も売り飛ばすなんて宣言したら、米国が怒髪天突いて喰ってかかってくるだろうが。ところがこっちはそんな無茶を頼むしかないんだ、そこは大人の話し合いをする他ないだろうが」

 

「総理はメーサー戦闘車の配備を米国優先とし、また日本導入においてはガルファー社から購入するという条件を呑んだことで、米国債取り崩しの承認をオヘア大統領から得られたんだ」

 

氷堂が説明すると、岡本は得心したように顔を上げたが、それを意味することがわかると消沈した。

 

「佐間野くん、引き続きガルファー社からはメーサー戦闘車の情報を集めてもらいたい。

また少しでも早く日本導入に向けて交渉を進めることとしよう」

 

瀬戸が言うと、佐間野は黙って一礼した。

 

「では本日の閣議はこれまで。明日の閣議では、大阪へのさらなる外資誘致と経済効果の具体的な数値を、財務省と経産省から報告願いましょう」

 

望月が言うと、閣僚は立ち上がって一礼した。慌ただしく官邸職員が瀬戸と望月に駆け寄り、小声の早口でまくし立てた。

 

「いまから高嶋幹事長と緊急の会合を行う。経団連との会食はそれからだ。佐間野くん、そちらの準備を頼む」

 

瀬戸は言いながら歩き始めた。突然の幹事長会談となると、奈須野防衛大臣の公務復帰は不可能、後任人事をどうするか、といった内容だろう。

 

「ねえ、総理ってここんとこ毎日、経団連と食事してない?」

 

隣で書類の整理を始めた佐間野に、北島は訊いた。

 

「それはそうだろう。東京も名古屋も炎と瓦礫の山になって日本の経済はズタボロだ。事実上の首都になった大阪に国の内外から産業と資金を集中させるいまの政策は間違っちゃいないだろ。ところがこんなときでも保守的で臆病な国内の大企業には、そこんとこの細かいすり合わせが必要なのさ。その実働部隊になってるうちも、それで忙しい」

 

佐間野があっけらかんと答える奥で、大阪府知事の原田が神妙な顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。