・10月27日 14:36 大阪府大阪市中央区城見2丁目ツイン21 KGホールディングス本社会議室
12月のKGグループ連結決算を見据え、グループの中核である海洋漁業株式会社と海洋地所にKG食品、そして稼ぎ頭である日本海洋銀行とKGI損害保険を筆頭に、業績報告と経営方針を決める会議が開催されるに当たり、合わせて14ものグループ企業、関連企業、連結子会社の重役が顔を揃えていた。
慣例に則ってグループ企業の社長が持ち回りで議長を務めるこの会議、今回は海洋漁業商事の相原社長が議長席に座り、資料から目線を上げることなく会議を進行させていた。
目線を上げられないのは緊張ばかりが理由ではなかった。ゴジラとギドラによって日本の広範囲が被害を受けたことで景気が悪化、物販を生業としている海洋漁業商事の業績悪化は目を覆わんばかりであり、数百年に一度クラスの災害が原因とはいえ相原は針の筵状態で議長を務めることとなってしまった。
「それでは、続きまして・・・。日本海洋銀行・竹中平介頭取より今季業績と、それから・・・今後の事業方針に関して、話していただければ・・・」
弱々しい相原と異なり、指名を受けた頭取の竹中は意気揚々と立ち上がり、部下に目配せをした。正面のスクリーン、またパソコンやタブレットを使いこなせる列席の役職者たちの画面に棒グラフが反映される。
「え、本日はお忙しい中ご参集くださいまして、誠にありがとうございます」
別に竹中が音頭をとってグループ企業を招集したわけではないのだが、グループ企業のうち数少ない好業績かつ稼ぎ頭である日本海洋銀行のトップであり、また創業家であるKGホールディングスの社長が不在とあり、実質的にこの場でもっとも権力を持っている。しかしながらその余裕綽々で傲岸な雰囲気に顔をしかめる列席者も少なくなかった。
「ご覧の通り、昨年の度重なる怪獣災害に対する政府からの積極的財政出動、またアジア全域に波及した経済危機において、超長期資金を融資できる銀行が国内外共に事実上当行のみとなったことで、おかげさまで単体黒字を達成。自己資本比率も4割を上回っております」
どうせお上が資金融通した結果の棚ボタ式黒字だろうが・・・そう陰口を叩く者もいたが、竹中はかまわず続ける。
「さてみなさんご存知のように、ここ大阪は事実上日本の首都となっただけでなく、もはや国内唯一の巨大都市として国内外から膨大な資金が流入しております。復興を見越した投機筋はもちろんのこと、主にアジア圏の富裕層や機関投資家がこぞって大阪の都市機能促進と不動産投機により我が国で唯一土地の価格が高騰中です。当行ではこうした資金融通のお手伝いをすることで国難にあっても業績を保ち続けて参りましたが、復興元年を標榜する来季にあっては、さらに攻めの方針を掲げることとしました」
竹中の全体を見回した説明に合わせるように、部下の行員がパソコンを手繰る。関西地方のグーグルマップが表示され、そこから兵庫県・淡路島がクローズアップされた。
「現在、大阪の地価は全体が高騰したことで、新たに投資・開発に携わる余地はありません。周辺の京都・神戸もそれに引っ張られる形で地価が上昇中です。そこで当行とKG地所が着目したのがこちら、淡路島です」
マップはさらに拡大され、緑豊かな淡路島の様子が流れる。
「ご覧のように、近畿大都市圏に近い立地でありながら、まだまだ開発の余地を充分残している上に、地価の上昇には至っていない。そこで、グループ企業であるKG地所さんを筆頭に関西の不動産デベロッパー総力を挙げて開発用地を取得。当行は用地取得に関わる資金を融資させていただくと共に、開発後の土地価格上昇を狙った投資商品を造成。国内外・・・特に現況にあっても資金力豊富な中国企業から広く資金を集中させ、投資のリターンと販売手数料でさらにグループ、引いては日本経済に貢献していくことを目指します」
開発後の予想図として、最新工法によって建てられたリゾートホテルやコンドミニアムが明石海峡から瀬戸内海に拡がる様子が反映されている。
「そしたら、ますます関西は外国人が増えてまいますわなぁ」
つまらなそうにKGI損害保険の進藤がぼやいた。
「地元の方からすれば複雑な心境でしょうけれど、日本の復興には外国の資金に頼ることが近道であり不可欠です。そのような感傷的なお考えは果たしていかがなものでしょうか」
竹中はチラリと進藤を見遣って、それから具体的な用地買収の方法や手続きの説明に移った。
「以上が、当行が提案する来季事業計画です。ご質問のある方は?」
進行の相原を差し置いて質問を募る竹中にしかめ面をする列席の面子だったが、かといって竹中の案に反対、あるいは疑義をはさみ込める者はおらず、仏頂面で腕組みをして下を向くかブツブツと文句を垂れるのが関の山だった。
「ほんじゃ、ハイ」
進藤が挙手した。
「趣旨は理解したんですが、買収する予定の土地は農地も多いです。まあ淡路いうたらね、玉ねぎの一大産地ですさかいに。まあほんで農地取得となれば、通常よりも行政手続きがかなり面倒なことになるんちゃいますか?」
進藤は意味のない会議、やる気のない会議では気怠そうな方言を隠さない悪癖がある。普段なら上役から注意を受けて然るべきなのだが、本人が役員に出世したこと、何より竹中への反発心はありながら情けない自社業績を理由に、声をあげられない不甲斐なき他の列席者ばかりなこともあり、誰もそれを咎めなかった。
「その点はご心配なく。来月に予定されている臨時国会で、現行の農地法を一時的に凍結する時限立法を与党が提出することになってます。もちろん国会審議を経て決められることですが、既に野党へも根回しをして国会通過を確定的にさせております」
「はあ〜、辣腕ぶりに磨きかかっとりますなぁ」
棒読みにぼやく進藤。
「では、私からもよろしいですか」
進藤の傍らに座る緑川杏奈が声を張り上げた。
「取得しようとしている用地の保有者が用地売却に反対した場合、当然本計画は頓挫してしまいます。確実に進められる根拠は何ですか?」
ただでさえ張りのある声をしている上、こういった場でも臆することなくハキハキとしゃべる緑川。たいていのエライさんはそれだけで声尻が下がったりうつむき加減になったりと萎縮してしまうものだが、百戦錬磨の竹中は表情を崩すことをしなかった。
「既に用地取得の対象となる不動産の価値算定は大詰めに入っています。当行では自行及び他投資者による出資額を基に、基本地価の最大1.8倍まで拠出することで用地の取得はスムーズに進むものと考えております」
「それだけで済む問題でしょうか」
すかさず突っ込んだ緑川に、竹中は口を真一文字に結んだ。
「私は群馬の兼業農家出身です。農家さんにとって、先祖代々受け継いできた自分の土地は何にも代え難い財産であることを理解しています。果たして、買い取り金額を増額するばかりで地主さんが納得してくれるものでしょうか」
「それはもちろん、用地取得後の住居などもこちらで提案をさせていただきますとも。この1年で、関西地域における再開発が顕著で土地余りも少なくなっているが、淡路島を渡った先の四国であればまだ余裕がある。淡路島の開発と並行してこちらの用地取得も行っていく方針です」
「そんなに単純な話ではありません。失礼ですが竹中頭取、あなたはいままで大地に根を下ろして生活していた土地を離れなさい、条件は良くするからと言われて、何の感慨もなく首を縦に振ることができるのですか?」
まっすぐに竹中を見据え、まくし立てる緑川。傍らの進藤はうんうんと頷いている。
「え・・・緑川取締役。あなたともあろう方が情緒論に走ってくるとは」
参ったように苦笑いをする竹中は、表情を硬くした。
「いいですか、本計画が実行されれば、新しく開発された地域の建造物保険はもちろん、他所から移住してくる方々の個人保険がけっこうな数字となることでしょう。それこそ、中国大陸には環境が整備された新天地に移住したいと希望する人たちが一族、あるいは集落単位で数多く存在する。そういった方々への団体信用保険を造成することすらできる。現在の用地保有者へ思いを馳せるのもけっこう。だが、そうした観点で捉えるとあなた方の業績にも大いに貢献するのだということも理解なさってはいかがだろう」
今度は緑川が口を真一文字に結んだ。
「当行による計画発表は以上です。次は・・・KGI損保さんですか。ぜひとも、グループそして日本経済に貢献が期待できる計画を提示していただきたいものですね」
にこやかに微笑む竹中を、緑川は首を据えて睨み一歩手前の強い眼差しで見据えた。
「なあ、なあ緑川」
会議が終了し、足早にオフィスへ戻ろうとする緑川を進藤が呼び止めた。
「ごめん進ちゃん、いま機嫌悪いの」
「そら見てわかる」
顔を合わせようともせず、ツカツカと歩く緑川に進藤は追いすがった。
「にしても、あの竹中っちゅうおっさん、ホンマけったいなやっちゃなあ。昨日お前が指摘受けたトコをズバっと突いてきよったで」
進藤の言う通りだった。現在緑川は従来かけていた各種保険の見直し等を行う部門の取締役を勤めているのだが、見直しとは大変な語弊がある。実際は保険加入者に御用聞きを行い、保障も利率もよりバージョンアップさせることを目的とする。怪獣災害が頻発した昨年以降、被災地域を除けば見直しに応じる加入者が多くそれによる業績向上を想定していた期首の目論見は見事に外れ、担当役員として十村専務取締役から叱責を受けたところだったのだ。
「まあなあ、お前昨日言うたように、保険見直そうにも金がない、それどころか明日失業するかもわからん。日本中そんなヤツばっかりや。そもそもの計画が見積もり甘すぎたんやって」
「その見積もり出してきたのってさあ、十村のアホだよ」
「おう、それも知っとる」
まったく歩みを緩めない緑川に、進藤は歩調を合わせる。怒りのオーラを纏い歩く緑川に、廊下をすれ違うKGI損保社員たちは道を空けるようにわきへどけていく。
「あれ絶対いやがらせだよね。それで今日はあのワン公。どこから聞き及んできたんだか」
プリプリと頬を膨らませる緑川。ワン公とは、犬顔である竹中のあだ名である。
「ワン公なあ、あんの守銭奴、ホンマええ加減にせいよって話やわ。しかし、外様のアイツが入行して日本海洋銀行を改革・改善した結果収益がうなぎ上りになったのもたしかや。プロパー出身の行員役員では、ああはいかんかったでぇ」
「社長もだいぶ目にかけてるみたいだしね」
突き放したように言う緑川だった。
「それは、どうかな。先に社長との懇談済ませた役員にいわせりゃ、会社の風土とメッチャ違うとるワン公をどこか警戒してたって話やで」
「懇談っていえば、あたしたちが懇談するのっていつだっけ?来月?」
ようやく緑川は脚を止めた。
「そやったかな?まあ、社長もお忙しいからなあ」
「経団連でしょ。最近会合多いよね」
「日本再生会議、やったかな。そんなん、再生した挙句またゴジラやギドラ襲ってきたら元の朽網やでぇ。怪獣やっつけること考える方が先決や」
「でも・・・ゴジラとギドラ、中国の新型爆弾で死んだってもっぱらのウワサじゃない」
ちょうどそのとき、緑川のスマホが鳴った。
「なんや、彼氏か?」
進藤が身を乗り出して訊いてきた。
「ううん。でも、アフター5のお誘い」
そう答える緑川は、穏やかな笑みを浮かべていた。心の奥底から湧き上がる不快な感情を表に出さぬよう、進藤は真顔を維持するのに苦心した。
・同日 18:58 大阪市北区梅田1丁目 ヒルトン大阪32階 レストラン「Pearl」
少し遅くなる、というLINEをもらうと、近藤悟はかまわず白髪頭のウエイターを呼び、ブルゴーニュ産の赤ワインをボトルで注文した。
ゴマ塩頭を短く刈り込んだソムリエに供されたワイングラスに口をつけ、外に広がる梅田から御堂筋、そしてさらに南に見える見慣れぬ高層ビル群に注目した。
「やはり、気になりますか?」
ワイングラスをアイスボトルに仕舞いながら、ソムリエが訊いてきた。
「あの辺、いわゆるミナミだっけ?あんなビルあったかなあって」
「あの辺りは今宮から西成です。お客様、大阪はご無沙汰でしたか?」
「うん。日本も、かれこれ1年と半くらいになるかな」
感慨深くつぶやくと、赤ワインをひと口含んだ。苦みを纏った芳醇な液体が口から喉を通り抜け、長旅の疲れを消し去ってくれる。
「左様でしたか。あの辺りは数年前から再開発計画があり、3年前くらいに外資系ホテルがオープンしたのを皮切りにオフィスビルと高層マンションが立ち並んだのです。昨年の東京崩壊以来、その流れは加速してますね」
言われた通りだった。陽が落ちてだいぶ経つというのに、赤い警戒灯をつけたクレーンが動いているのがここからでもわかる。
「西成っていえば、大阪でも治安の悪いドヤ街だって聞いてたけどね」
「いまではすっかり再開発で浄化され、日本でもっとも先鋭化された地区になりつつあります。来年春には国内最大規模の大型ショッピングモールが開業予定です」
そう語るソムリエの顔は、言動とは裏腹に忌々しげだった。
「しかし、あそこは身寄りのない人たちも多かったはずだ。その人たちはいったいどこに?」
「まあ大阪は世界的に発展が見込める都市として注目されてますが、その周辺に追い出された人も多いです。ただでさえ昨年から住まいを失った関東の人たちが激増してたというのに、半ば強制的に・・・」
大きく息を吐くと、ソムリエは近藤のグラスにお代わりを注ぐと、ごゆっくりと頭を下げて席を離れた。新たに入店した老夫婦の接遇に回ったのだ。
Yahooニュースを開くと、ソムリエの言っていたことが理解できた。
【西宮・尼崎で少年犯罪激増。少年ギャング団による抗争相次ぐ】
【宇治市、来年度には財政破綻か。生活保護申請急増で市の福祉財源底をつく】
【奈良市で交番襲撃。拳銃奪われ警官2名が重体】
いずれの記事にも目を通していたところ、ふいに気配を感じた。バッグを携えた緑川が、照れくさそうにはにかんで立っていた。
「おつかれ」
相対した近藤も、ひさしぶりの再会にどう声をかけて良いか決められず、何とも無難な声かけとなった。
少し俯き加減に席に着くと、白髪頭のウエイターが料理を出して良いか訊いてきた。近藤が手を挙げて答えると、代わるようにソムリエがワインを注ぎにきた。
「ごめんね、遅くなっちゃって」
やや気まずそうに頭を下げる緑川に、近藤は少し含んでから頷いた。
「この時節に忙しいのは何よりだろ」
ちょうど2つのワイングラスがブルゴーニュで満たされた。
「じゃあ、再会を祝して」
「久々の日本帰国に」
「「乾杯」」
グラスを重ねてから、互いに赤ワインを口に含む。ちょうどアペタイザーのアンチョビ料理が供され、空腹に我慢ならぬといったように早速近藤はつまんだ。
「なんだか、いろいろ変わったな」
頬張りながら近藤が言った。
「びっくりするよね、ミナミの街がずいぶん変わったもの」
矢継ぎ早にワインを口にしつつ、緑川が言う。
「街並みもだけど、君もな」
近藤に言われ、緑川はグラスを傾ける手を止めた。
「そうかな。相変わらず仕事とお酒第一で足が臭いけど」
そうは答えたが、内心自身でも感じる容貌や雰囲気の違和感を指摘されるのは憚られる緑川だった。
「昇進したそうじゃないか。上に立つ人間の顔をしてるよ」
おめでとう、そう言って近藤は緑川のグラスにボトルを傾けた。
「ありがとう。変わんないんだね、悟ちゃんは」
少しワインを口にすると、緑川は自嘲気味に笑みを浮かべた。
「そうか?だいぶ陽に灼けたと思うんだが」
フランスパンでアンチョビソースをすくいつつ、ワインの追加を注文しながら近藤は言った。
「ちょっと南国チックになったけど、全体的な雰囲気は最初に会ったときのまんまだよ。いいなあ、変わらないって」
フランスパンをちぎりながら、緑川はフフっと笑う。
「そういうこと言うと自分が老けちまうぞ」
「いいの、認めてるから」
年齢は同じだが、責任を大きく背負い込まなくてはならない立ち位置と、自分自身の力で人生を切り開いていく立ち位置は対照的だった。それは増えた皺を少し厚くした化粧でごまかす自分と、活力に溢れる顔つきの近藤を比べるとわかってしまうものだ。
レストランの入り口がにぎやかになった。中国人の団体が入ってきたのだ。老若男女一族郎党、多様な年齢層で構成される団体は声こそ大きいが、巷で謂われるようなマナーの悪さを感じさせず予約席となっている窓側の一角に進んだ。ガラス越しに映える大阪の夜景にはしゃぎながら、ワインを嗜み始める。
「ねえ、悟ちゃん」
上目遣いに緑川が尋ねてきた。
「日本にはずっと居られるの?」
「そうだなあ・・・やっぱり祖国で家持ちたいしな。しばらくは日本とシンガポールを往復することにはなるが、いずれこっちに腰を落ち着けるつもりだ」
ちょうどカブのポタージュスープが出され、スプーンでひと口すくってから近藤は答えた。
「まあ、月島の自宅へはもう戻れなさそうだから、大阪で家探しだ。でもだいぶ家賃も物価も上がってるようだな」
「うん・・・大阪越すと安いところもまだ多いんだけどね」
「でも治安良くないらしいじゃないか。だったら、シンガポールよりも地価が高くなったとはいえ、大阪に住んだ方が良い。何かと便利だしな」
「そうだね・・・」
そうしてもらえたら嬉しい・・・そこまで言いたかったが、緑川はその言葉を呑み込んだ。
「でもまあ、家建てるよりも賃貸だな。高くはなってるんだろうが」
「えー?家建てるっていうんならウチに良い住宅保険あるのに?」
イタズラっぽく話す緑川に近藤は笑みを浮かべたが、穏やかながらも笑顔に影を射した。
「家建てたり買うのも良いが・・・用地取得やら大変そうだしな。何より・・・また怪獣に壊されでもしたら目も当てられん」
運ばれてきた鱈のムニエルにレモンを絞りながら、近藤は言った。
「でも、ゴジラもギドラもあれ以来出現してないじゃない。やっぱり、大方の話通り死んだんじゃ・・・」
そこでふと、詳細は不明ながらも目の前に座る近藤が政府、はたまた日本の中枢につながる人物と関連があることに気がつき、緑川は言い淀んだ。
「そんな話もあるが、誰ひとり奴らの死体をたしかめたわけじゃない。それに・・・ゴジラやギドラとはまた別の脅威が存在しているとすれば、どうする?」
「・・・何、それ・・・?」
「いや、ま、たとえばの話だ。何にせよ、いつ怪獣に踏みつぶされて多額の住宅ローンを抱えたまま途方に暮れるなんてのはゴメンだからな」
ちょうどウエイターが、メインである牛ヒレステーキの焼き加減を訊きにきた。改めて声をかけられるまで、緑川は近藤が話したことの真意を考えあぐねていた。