ゴジラVSガメラ   作:マイケル社長

8 / 17
ーChapter 6ー

・11月1日 14:24 旧埼玉県秩父市荒川付近 国道140号線

 

 

 

 

 

「お母さん、看護師って、どうやってなれるのかな?」

 

2019年初秋、カマキラス、ガイガン、そしてゴジラとギドラの襲来による混乱から少し落ち着いた頃だった。夕飯のカレーを食べながら、真琴は由加に訊いた。

 

「な、なに?どうしたの、急に」

 

口に運ぼうとしていた手を止め、眼を丸くして由加が訊き返してきた。

 

「いや・・・訊いただけ」

 

顔を俯けてカレーをかきこむと、真琴は自分の食器を流しに入れて洗い流し、部屋に戻った。

 

看護師になれる方法など、スマホを手繰ればいくらでも情報は得られる。だが真琴は敢えて由加に訊いた。なれる方法を尋ねるというより、看護師になりたいという真琴なりの意思表示だった。

 

でも、自分が看護師だなんて・・・そんな葛藤も去来していた。

 

由加は折からの怪獣災害に伴う保険請求や調査手続きで多忙を極めていた。そんなときに声をかけるのも気が引けたが、どうしても言いたかった。だがすぐに後悔していた。オレは何を言っているんだろう・・・。ベッドに潜り、枕に顔をうずめ、自己嫌悪に堅く目を瞑り夜が明けた。

 

翌朝、真琴はフリースクールを休んだ。気分が優れないのは寝不足だけではない。こうして落ち込むたび、身体がずしりと重くなり、身を起こす気分になれないのだ。元より通学の義務はないフリースクールである上、ゴジラとガイガンが都内で暴れ回った余波なのだろうか、学校都合による休校ということも少なくなかった。

 

課題は後日、郵送で送られてくる。そうしたら、回答欄を埋めて送り返すだけだ。

 

「三崎さんも、自分のメールアドレス持てばもっと便利だよ」

 

スクールの教師にそう言われたが、気が進まなかった。由加のパソコンに送ってもらっても良かったのかもしれない。クラスによっては、グループLINEでやり取りするところもあるらしい。だが真琴はグループLINEに参加こそすれ、これまで一度も書き込みをしたことはなかった。

 

当たり障りのないやり取りだったら、特別自分がどうこう口を出すことはない。第一、カマキラスが現れたときは都内中のあらゆる通信網が途絶してしまった。またあんなのが現れた場合、すっかり生活必需品となったネットも役に立たない。そんな儚い存在に依存するなんて、バカじゃないか・・・。

 

陽が落ちてきて、ようやくエアコンを止めても大丈夫な時間になった。部屋のドアをノックし、由加が入ってきた。

 

「ねえ真琴、急だけど明後日病院行こ」

 

「なんで?通院日は再来週じゃん」

 

「いいから。ちょうどお母さんも東雲に用事あるし、あそこのオムライス食べたいって言ってたでしょ?」

 

真琴が小さいころからの常套手段だ。だがふわふわたまごとデミグラスソース、ホワイトクリームをふんだんに使ったオムライスの誘惑に、真琴は下った。

 

翌日も学校を休み、真琴は炊事、洗濯、掃除を1日かけて過ごした。由加はひっきりなしの電話対応と来客の応接に追われ、日付が変わる頃まで書類作成などの残務整理に費やした。そんな中寝るのもなんだかもうしわけなく、真琴は夜食を用意しながら看護師に関する情報をネットで集めた。

 

通院日当日、由加と一緒にすっかり馴染になった錦糸町駅前から東雲へ向かうバスに乗り、聖都大学附属病院を訪れた。フリースクールに通うようになってからは、2カ月に一度の通院で「変わりはないか」「困ったことはないか」くらいのことを白髪の先生・・・宝生先生に尋ねられる程度だった。

 

診察室に入ると、いつものように満面の笑みで宝生先生が迎えてくれた。いつも元気に挨拶してくれる、看護師さんたちも一緒だ。

 

戸惑いながら勧められるままに椅子に腰かけると、宝生先生は軽く咳払いして真琴に向き直った。

 

「あのね真琴くん。お母さんからうかがったんだが、看護師さんになりたいんだって?」

 

そう訊かれ、真琴は部屋を出て行った由加を見遣った。ちょうどお客から電話がきていたらしく、診察室から遠ざかりながら何やら話をしていた。

 

「いや、でも・・・」

 

「でも?」

 

「・・・・・」

 

真琴は下を向いた。

 

「ねえ真琴くん、看護師になりたいと思ったのには理由があるはずだ。それを教えてもらいたいんだがね」

 

宝生先生の眼鏡の奥の眼差しは優しく、真琴を許容してくれそうな気がする。しばらく唇を結んでいた真琴は意を決した。

 

「あの・・・ここの先生も、看護師さんたちも、オレに優しくしてくれて・・・それで・・・」

 

顔が紅潮し、声が詰まる。宝生先生は黙って微笑み、辛抱強く真琴が二の句を告ぐのを待ってくれた。

 

「・・・それで、オレ学校行ってないから先生になんてなれないし、だったら看護師さんになって、オレがしてもらったみたいに、患者さんに優しくしたいって・・・」

 

俯く視線の向こうで、宝生先生が大きく何度も頷くのがわかった。

 

「でもオレ、変ですよね。こんなんで、看護師だなんて・・・」

 

すると今度は真剣な目で真琴の肩を支えた。

 

「真琴くん、君はきみだ。そして君がやりたいと思ったことなら、まっすぐやってみるんだ」

 

そう言うと、後ろの看護師に頷き合図する宝生先生。すかさず看護師が封筒を差し出してきた。

 

「うちの大学病院には、併設して看護学院がある。看護師を養成する2年過程の学校だよ。この中に願書がある。真琴くん、来年度ぜひ、来てみないか」

 

真琴は目を丸くした。

 

「あたしたち嬉しいなあ、真琴くんそんな風に思っててくれたなんて」

 

「看護師になったらウチにおいで。ビシビシ鍛えてあげるから」

 

看護師さんたちは笑いながら、涙を浮かべていた。真琴も目頭が熱くなった。電話を終えて診察室に戻ってきた由加は少し怪訝な顔をしたが、状況を察知したのだろう、真琴の肩に手を置いた。

 

そうして診察を終えてとびきり美味しいオムライスを食べた翌日、真琴は早起きして学校の課題に取り掛かった。高卒認定を取るためだ。これまでの無気力がウソのように、積極的に登校もした。登校日でなくとも、課題でわからないところがあれば直に尋ねるべく学校へ出向いた。これまで必要ないから、と敬遠していた定期券も購入した。

 

「あんた、ずいぶん目が輝いてるね」

 

秋も深まり、東京都内も冷房から暖房を使い始めた頃のある晩、由加はスープカレーを口に運びながらまじまじと真琴の目を見た。

 

「えっ??」

 

「なんていうんだろう・・・すごいキラキラしてるの。お父さんによく似てるなあ、その瞳」

 

真琴は素揚げしたたまねぎを運ぶ手を止めた。会ったことのないお父さん、いまの自分みたいな目をしていたのか・・・。

 

「ねえ、知り合いが錦糸町で総菜屋開いてるんだけどさ、夫婦2人でやってるもんだから、夕方の買い物タイムが忙しくてしょうがないんだって。あんたさ、バイトしてみない?」

 

「バイト・・・オレ、が?」

 

いままで、人が集まる場所を避けてきた。人と深くかかわると、自分が傷つく一方だったからだ。真琴はすぐに返事はできなかった。だが、いまの自分だったら、大丈夫かもしれない・・・新しい世界に、飛び込んでみたい・・・そんな意識が芽吹いてきたことも、感じた。

 

数日後、由加と一緒に錦糸町の『おそうざいの柊木』という総菜屋を訪ねた。お饅頭みたいにふっくらした顔の旦那さんと、チャキチャキとしてにこやかな奥さんが迎えてくれた。きけば由加が保険会社に勤めてた頃からの顧客で、家族の生命保険から家屋・店舗の家財保険、1人息子である拓磨の学資保険まで、一家総出で由加の勧める保険に加入しているそうだ。

 

旦那の潤三と、女将さんの里子には、真琴が抱える事情を正直に話した。

 

「なぁーんだ、娘さんにしちゃずいぶんとイケメンだと思ったら、そういうことか!」

 

潤三さんは豪快に笑い、

 

「真琴ちゃん、うちで良ければ、力貸してちょうだい」

 

里子さんは真琴の手を握り、しっかり目を見て言ってくれた。暖かく力強い手だった。

 

「うちの拓磨もひとりっ子だからな、ちょうど良かった。まこっちゃん、お前コイツの兄貴になってくれや」

 

傍らで恥ずかしそうに座っていた拓磨の頭を、潤三はポンポン叩く。

 

その次の日から、真琴は午前中家事と課題をこなし、昼を済ませ午後2時から錦糸町へ通い、潤三と里子に教わりながら総菜の下ごしらえや接客をすることになった。登校日には融通を利かせてくれたが、それでも真琴は学校が終わると、そのまま錦糸町へ向かった。

 

『柊木さんとこにかわいい子がきた』

 

『まちの総菜屋にイケメンがいる』

 

そんなウワサはすぐに町内へ広まり、真琴はすっかり『おそうざいの柊木』の看板娘(?)になった。元々家事をこなしていた真琴は料理もそれなりにしていたため、お惣菜の作り方もすぐに頭に入った。主なお客である近隣の人たちともすぐに顔見知りになり、買い物がてら雑談していくことにも慣れていった。近隣の人々はみんな明るく陽気で、そんな雰囲気になじんだ自分は、こんなにも笑えるんだ・・・。

 

最初は人見知りしていた拓磨も、すぐ真琴に懐いてくれた。

 

「オレおっきくなったら真琴ねえちゃんと結婚する!」

 

と言われたときにはなんとも複雑だったが、少なくとも悪い気はしなかった。

 

おそうざいの柊木はボリュームの濃さが売りであり、両国国技館が近いという土地柄もあって、夕方になると近所の相撲部屋で稽古を終えた力士たちが道いっぱいに並んだ。とりわけ立海部屋という部屋は親方が潤三の競馬仲間ということもあって、特に懇意にしてくれた。

 

アルバイト代が支払われると、真琴はいままで由加が出していた病院の診察料や生理調整薬代、胸をつぶせるシャツのお金を自分で支払うことにした。アルバイトが楽しくほぼ毎日通っていたため、3カ月もすると少しずつ貯金もできるようになった。

 

その話をすると、宝生先生はたいそう喜んでくれた。表情が明るくなった真琴に目尻を下げ、ややあって咳払いをした。

 

「真琴くん、今後なんだけど、ホルモン治療をやってみる方法もあるよ」

 

話を聴くと、男性ホルモンを定期的に接種することで身体的にも、そして精神的にも男性に寄せられる、ということだった。ただ回数を重ねるため治療費用がかさんでしまうことと、ホルモン接種により薄毛や肥満等の副作用が現れる場合もあるという。

 

「まあ、あくまで今後長い先までを見据えた話だよ。いまはまだ大丈夫かもしれないね」

 

真琴の微妙な表情を察知した宝生先生はそう言って、話題を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

真琴は初めて、淡々と家事をこなし布団に潜るだけの冬から脱した。おそうざいの柊木では翌朝の仕込みまでこなすと帰宅が夜10時近くなることもあったが、目標に向けて進む毎日はそんなキツさを忘れさせるほど充実していた。

 

年が明け、両国の梅の木が花開く2月末、晴れて真琴は高卒認定試験に合格できた。そして桜が舞い落ち、暖かい春の息吹がなびく4月、念願の聖都大学附属病院付看護学院に入学することができた。

 

クラス顔合わせの際、真琴は臆さず自身の抱える障害を話した。39名のクラス中ほとんど女子だったが、みんな腫物に触るようなことをせず、真琴を男性として、時として女性としてしっかりつきあってくれた。学校が終わると、わざわざおそうざいの柊木までおかずを買いにきてくれる友だちもできた。

 

やっと、やっと自分が自分らしく、楽しく生きられるんだ・・・。

 

 

 

 

 

・・・そう思えたのも、その年の7月までだった。

 

 

 

 

 

ウトウトしていた目が醒めた。相変わらず真琴たちを乗せたバスは冷たい霧雨が辺りをしっとりと濡らす中、埼玉県秩父の山道をひた走っていた。

 

一緒に乗っているのは、真琴とだいたい同年齢の男女40名ほど。静岡県富士山麓にある、米国籍の民間軍事企業『NEVER』の訓練施設から茨城県つくばにある演習場へ移動している最中だった。

 

7月末、ゴジラとギドラが東京を襲い、都市機能を完全に崩壊させてからのことだ。

 

奇跡的に被害を免れた聖都大学附属病院へ避難していた真琴は、そこで由加の死を知った。真琴の予感は当たってしまっていた。ゴジラの放射熱線によって弾き飛ばされたギドラによって東京スカイツリーは倒壊。その倒壊した先に、由加は居たのだ。

 

一緒に逃げようとした拓磨は、真琴の腕の中で息を引き取り、川に沈んだ。

 

潤三も、里子も、立海部屋の力士たちにもあれ以来会えていない。おそうざい屋の常連だった近所の印刷所の旦那が死亡しているのを、病院の外に寝かせられた幾多もの死体のうち確認できたくらいだ。

 

学校の同級生とも先生とも、はたまた宝生先生やいつもの看護師さんたちも所在、生死不明だ。病院の人に訊いても、わからないと言われるのみ。

 

そこから真琴は、病院に押し掛ける膨大な避難者に混じり、煤にまみれた空気とサウナのような外気の中過ごした。怪我が重度の場合は病院内へ運ばれるが、軽傷者、あるいは真琴のようにほぼ無傷の人々は病院の駐車場に昼夜問わず留まらざるを得なかった。本来、災害などが発生した場合の司令拠点となる東京が計滅的被害を受けたためか、赤十字や宗教団体関連の支援以外はなかなか届かなかった。

 

そのためせいぜい水くらいしか喉を通せない日が幾日も続き、一緒に駐車場にゴザや段ボールを敷いて過ごしていた人の中には過酷な環境下で体調を崩し、手の施しようもなく亡くなる災害関連死を迎える人も増えた。

 

いままでの真琴ならば、ふさぎこんでしまっていただろう。だがもしかしたら、知り合いがここに逃れてくるかもしれない、という一縷の望みが身体を動かした。看護学院にはまだ3ヶ月程度しか通学していないが、ボランティアとしてできることをやった。看護師になりたい、困った人を助けたい・・・その夢はいまだ自分の中で生きているのだ。

 

東京が壊滅してひと月が過ぎようとしていた頃だった。

 

真琴の働きぶりに感心し、ぜひうちで困っている人を助けないか、という男性が現れた。聞けば普段から貧困・生活困窮者をサポートするNPO法人を運営しているそうで、今回の怪獣災害にも団体のメンバーがチリヂリになりながらも、活動を続けているというのだ。

 

「海外からの支援もあって、我々のような団体から衣食住の手助けが行われている。いまの過酷な環境では君が参ってしまうだろう。どうだろう、ぜひうちに来てもらえないか」

 

やや長髪で少し煙草の匂いがするその代表の言葉に、真琴は1も2もなく乗った。病院を離れると、ゴジラとギドラの戦いで直接的に倒壊した建物被害に加え、決壊した隅田川の浸水被害、果ては道中何度も生き残った住民たち同士の暴力沙汰や略奪を目にした。

 

雰囲気の悪さに真琴は怯えたが、代表の後をついていくと、墨田区と葛飾区の境あたりにある雑居ビルに案内された。そのうちの一角に、明らかに人のいなくなった商店やスーパー等から盗んできたダンボールが山積みになっており、数人の男性が屯している部屋があった。

 

その男性たちが自身を見遣る目に真琴が身体を強張らせたとき、代表の男性が振り返り、真琴の首を絞めた。

 

 

真琴は、凌辱された。

 

 

薬でもやっているのか奇声を上げ、早く姦せと騒ぐ。そこに、ドヤドヤと鉄パイプやバットを手にした男たちが突入してきた。

 

自警団を名乗るその連中が、NPOを謳う連中と衝突する。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

どっち側の男性かわからない。そう怒鳴られ、真琴は意識を、そして心を失った。

 

そこからはどこでどうやって生き延びたのか、自分でも記憶が覚束ない。

 

路上や廃屋、時には瓦礫の中で暮らし、水や食べ物はどこかから盗み・・・はたまた奪ったりしたことも、あった気がする。

 

夏の暑さが鳴りを潜め、瓦礫のすき間で暮らすのも寒さとの戦いを覚悟する頃だった。ジープを頑丈にしたような車が通りかかり、路上に佇む真琴を見つけると中から白人男性が降りてきた。

 

「ここは国連管理区域となった。滞在は許されない」

 

やや片言の日本語で話しかけてきた。真琴は、顔を上げなかった。

 

「お前は、独りか?」

 

真琴は応えなかった。こいつも、自分に乱暴をはたらくかもしれない。増してや体格が段違いの外国人だ。

 

「我々は独りだけの日本の若者を募っている。飢え死にを選ぶか、我々と来るか、いま決めるんだ」

 

飢え死に、という単語には、さすがに反応してしまった。ここ数日、まともに食べていなかったからだ。

 

「・・・なんか、条件でもあんの?」

 

真琴が訊いた。白人男性は怪訝な顔をした。

 

「食べ物くれる代わりにってんなら、好きにしろよ、この身体」

 

真琴が言うと、あきれたような、そしておかしそうにため息をつく白人男性。

 

「そういうヤツ、我々はたくさん見てきた。安心しろ、お前の身体など要求しない。だが、しっかり働いてくれることを、条件としようか」

 

どういうこと、と訊きたくて真琴は顔を上げた。大型のジープらしき車は1台だけではなく、5、6台連なっていた。そして中には、真琴と同じくらいの子汚い姿をした男女が乗っていた。

 

「これからは、我々がこの管理区域の治安を担う。範囲が広いため、現地の若者をリクルートしているんだ。お前は、うってつけだ」

 

白人男性は言いながら、「NEVER」と書かれた紙を渡してきた。真琴は空腹が満たされるなら、と、とりあえずついていくことにした。今度は他に似たような境遇の連中がいる。もし万が一何かあったとしても、独りでないことは安心できた。

 

そこから、真琴は府中に仕付けられたNEVERという組織の拠点に連れていかれ、充分な食事と2日間の休養を与えられた。何か月ぶりかに入浴もでき、服も着替えられた。

 

「これから、半年かけて戦闘基礎訓練を行う。この車に乗るんだ」

 

真琴をスカウトした男性に促され、一緒にやってきた連中とバスに乗せられた。

 

「わが社は静岡県の富士山麓に新兵訓練拠点を設けた。そこで軍事・戦闘の訓練するんだ」

 

それだけ告げると、男性は降りようとした。

 

「あ、あの」

 

真琴の呼びかけに、首を向ける男性。

 

「訓練所も、ここと同じく、部屋は個室ですか?」

 

そう訊くと、男性はゆっくりと頷いた。

 

そこから真琴は数時間かけて、静岡県の富士山がよく見える高原地帯に運ばれた。白人男性は半年と言ったが、1年かけて戦闘の知識と訓練、そしてどうやら戦車らしきものの操縦を目的としたVR訓練を施された。

 

静岡の訓練拠点に来ておよそ1年が経った今日、真琴を含めた80名ほどが広場に集められた。

 

そこには、いままでの白人・・・NEVERは米軍を始め、西側諸国の軍を退役した社員が多かった・・・とは異なり、自分たちと同じアジア系の男性が2名、バスの前に立っていた。

 

「NEVER日本支社長、テッド・村岡だ」

 

緑色の軍服に身を包み、階級章らしきものをジャラジャラと身につけたオールバックの男が声を上げた。

 

「お前たちは、かねてから訓練していた『メ―サー戦車のVR操縦訓練』において、好成績を収めた者たちである。よってお前たちを実際にメ―サー戦車要員として特別訓練を施していくことになった。いまからこのバスに分乗し、旧茨城県つくばにある我が社の訓練施設に向かうこと」

 

それだけ告げるとクルッと回れ右をし、ヘリポートに待機していたヘリに乗り込んでいった。

 

「アイツ一緒に行くんじゃなかったのか」

 

そうつぶやいた男性を、残ったもう1人の男が黒い棒でしたたかに殴った。

 

「以後、君たちの指導教官を務めるジョニー・石倉だ。いまのように、上官をアイツ呼ばわりするようなマネは以後許さない。そのつもりで来い」

 

まるで感情がなさそうな死んだ目を薄紫のサングラスで隠し、顔色が悪そうな顔は病的な神経質さを感じさせた。

 

「30分以内に支度を済ませ、各自バスに乗り込むこと。そろい次第、出発だ」

 

 

 

 

 

 

あれから数時間が経った。東名高速は寸断されたままということで、訓練拠点があった富士山麓から一度山梨県へ抜け、ゴジラとギドラの被害が及ばなかった東京の山奥から埼玉県秩父を経由してつくばへ向かうらしかった。

 

一緒に乗っているのは、真琴と同じく怪獣災害で天涯孤独となった者、あるいはその後の大不況で仕事がなく、衣食住を確保できるこの仕事を選んだ者とさまざまだが、下は16歳から上は30歳くらいまでの男女だ。

 

訓練を通して仲良くなった連中は、指導教官のカミナリが落ちない程度にバスの中でおしゃべりに興じている。

 

 

 

 

 

 

真琴は、常に独りだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。