私は生前はただの女子学生だった
冗談を言い会える友達がいた、公務員になった姉がいた、よく懐いてくる運動のできる弟がいた
優しい母がいた、厳しくも気遣ってくれる父がいた、何ら不満のない恵まれた環境だった
だから、悪いのは私なのだろう
私の頭の中が腐っていたのだろう
誰にも言えない秘密があった、多分、誰もが持つであろう、味わうであろう虚無感
私の頭の中はそれでいっぱいだった
友人に笑いかけても、姉に飽きられても、弟に笑われても、母に気遣われても、父に叱りつけられても
私の中は常に空っぽだった
何が不満とか、将来が不安とかじゃなく、漠然と『足りない』と感じていた
だから、あんなことをしたのだろう
母は泣いているだろうか?父はどんな顔しているのだろうか?
姉は?弟は?友人は?…考えるたびにどうでもいいと結論を出す私の頭はやはり腐っているのだろう
私は人を殺した、何人という話ではなく、何万という単位で
実行は簡単だった、ちょっとした爆弾をたくさん夏と冬に開かれるお祭りの日にばら撒いただけだ
逃げられないように入口から順番に、念入りに
抵抗してきた人もいたけど、ボウガンは免許証があれば買えるものだということを私は知っていた
みんな逃げた、多分取りこぼした人もいるんだろう
これといった理由はなかった、ただ、『やってはいけないこと』をすれば何かが変わるんじゃないかな、と
そう思ったから行動に移しただけ
心残りだったのは最後は自爆するつもりだったのに、ボウガンで射ち抜いた男がその矢で私の喉を突き刺したことだ
素敵な笑顔だったから、つい私も笑ってしまった
あの人も私に似て腐っていたんだと思う
死んだ私は不思議な存在に会った
望みをひとつ叶えて別の世界に蘇らせてくれるという
それを鼻で笑い、奇妙な夢を見てると思い込み
そして、望んだことは「なんでも動かせるようにして欲しい」
そう望んだ、空も、大地も、人も、心も、なんでも自由に動かすことができればそれこそなんでもできる
なんでもできるのなら、この虚無感が消えると信じて
言った瞬間に光がぱっとして、私の意識は暗転した
次に目が覚めたときは、女の人の死体があった
やせ細っていたから多分餓死なんだろう
次に記憶が流れ込んできた
自分の名前、女の人―母親の名前
彼女がどうして死んだのか、自分を生い立ち、やってきたこと
様々の記憶が流れ込んできた
私はその日から劉備になった
目覚める前の私は争いごとが嫌いだったようだ、剣を持つことすら忌避していた
今の私は違う、剣もそこらの賊程度なら一刀で切り捨てれるし
弓や槍、特殊な武器以外ならば大抵は人並み以上に扱える
目覚める前の私はとても優しかったようだ、自らの食事を孤児に与え餓死しかけるほどに
今の私は違う、孤児が縋り付いてきても蹴飛ばすなり殺すなりする
蹴飛ばす孤児はまだ余裕があるし、殺すのはもうダメだから楽にしてあげている
目覚める前の私は世界を変えたかったようだ、皆が笑える世界を作りたいと思っていた
…今の私は…その通りに動いている
面白いと、生前から今までで初めて面白いと思った
笑顔は様々な形で生まれるものだ、その全てを与える存在になろうというのだ
面白い、面白すぎる、空虚な私の器にようやく水が入った、満たされていくこの感覚
いいよ、桃香、やってやろう、そんなの無理だという人間も、素晴らしいと付いてくる人間も
皆を笑顔にさせてあげよう、たとえ私達が笑えなくても
必ず全人類が一斉に笑う世界を作ろう
そして私は旅に出た、母が死んでから私は村でも気が狂ったと疎まれていた、ちょうどいい
賊を殺し路銀を稼いでるとき、殺すはずの賊が皆死んでいた
ただその中にぽつんと少年が佇んでいた
くるりとこちらを向き
「…逃げるなら…いや、もう遅いか」
言い終わった時には私の目の前にいた、とても早くて、不思議な動きをする少年だった
「…カッコ悪いね」
私の能力の前には無力だけど、彼の体を地面の方向に動かし続ければ当然動けなくなるのだから
この子から私と同じ存在が居ることを知った
この子には私の目的を話した、その本当の意味も
この子の心は動かしていない、だけどこの子は私についてきてくれるようだ
「あんたの作る世界、矛盾なんて言葉が霞むような世界を見てみたい」
その後、関羽である愛紗、張飛である鈴々に出会った
二人共いい子だ、私の目的だけを話したらそれだけで付いてきてくれるみたいだ
4人で旅をした、黄巾が動き始めていた時期だったので旅をしながら義勇兵を募った
その途中で諸葛亮と鳳統と出会った、二人共快く仲間になってくれた
ついでにだが天の御使いとかいう胡散臭いのもついてきた、別段これに関してはどうでもいい
神輿がいてもいなくても、どうとにでもなるから
募った義勇兵も多く、一旗揚げる為にも黄巾党討伐に参加することとなった
そんな時だった、あの人にあったのは
最初、曹操の軍幕で出会ってはっきりとわかった
前世で私を殺した人だと、もしくはそれと同類なのだと、私と同じなのだと
二度目は戦場で、笑いながら殺してた、子供が玩具で遊んで笑うように
楽しい、楽しいって笑ってた
どうにか味方にできないか、一瞬で否定し能力を使う
でも効かなかった、私の能力は個人にしか、一人にしか、一つにしか効かない
あの人に使った瞬間、別の何かに適用されてしまった
あの子を彼と接触させて得た情報の通りなら、彼の中にはひとつの世界が生まれてるはずなのだ
そして彼はその世界の神様、自らの世界の中ならばなんだってできる
人を生み出す事も、兵器を生み出すことも、自分の代わりに殺させることだって
能力が通用しなかった今、はっきりと決めたことがひとつだけ
彼は殺す、彼は私の世界にいてはならない
私の手によって生み出す世界に、彼のような存在は許されない
桃香も賛同してくれた、最初はあの人もと言ってたけど…
戦場の彼を見てそれは間違えだと気づいてくれた
彼は哂ってた、ほかの人間の脆さを、仮初の自分のことを
まるで私を見ているかのようだった、だからダメだ
私の世界には私はいてはいけない、狂気の世界に狂気の王様はいてはいけないんだ
そんなものがいれば、必ずいつか『正気』の人間が気づいてしまう
そして世界がこわれてしまうから
ほかの誰が果たしても構わないけども、もしそれがかなわないのならば…
「うん、私たちでどうにかしよう?…大丈夫!愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも藤堂君だっているんだから、ね?――ちゃん!」
私と桃香は別人、二人で一人、だから大丈夫
狂人と狂人がひとつになったのだから、そこいらの狂人に負けはしないよ
――待っててね、化物、必ず殺してあげるから
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