待っていてくれた方がいたら申し訳ない限りです…
袁術の客将である孫策、その配下の武将『伍延』により汜水関を守っていた敵将、華雄を召捕ることに成功した連合軍
しかし、それに至るまでの代償は決して安いものではなかった
当初は総勢約20万という驚異の頭数を持っていた連合軍であったが、汜水関を突破するにあたって失った兵数は4万
その内2万は華雄の籠城によるものであり、残り2万も華雄が引き連れていた手勢6千に削られていた
その理由というのも、わずか6千で連合軍を相手に耐え切れるわけがない、と華雄を下した際に連合軍の総司令でもある袁紹が全軍突撃の指令を下したためでもある
このことに対して華雄は
「間違ってはいないが、間違いだ、そこらの雑兵でどうこうできるほど柔じゃないさ」
とせせら笑った
結果として、籠城を続けた敵兵6千は華雄の評価に違わぬ活躍を発揮し見事連合軍2万を打倒したのである
「で、実際のところはどうなんだよ、咲夜ちゃんよー?」
頭の中でプロローグ的なものを語りつつ唐突に質問してみる
「えっ?あ、はい、戦闘不能が全体の4万といってもほとんどが袁家の兵士なので別段損害らしい損害はないですね」
とのこと、ちなみにダントツで練度が低いのが袁術軍、その次にかなりの差がついて各諸侯が並んでいってる感じ
「あいつら、すぐ死ぬもんな~、なんでか鎧もあっという間に砕けるし」
質の低い装備に質の低い兵隊、おまけに率いる将も一部除いて並以下と来たもんだ
ところ変わって姉貴の兵隊は練度も装備も一級品、軍隊として動くことにかけちゃ連合の中じゃ一番かね
「あー…そういや麗…袁紹の軍はどうよ?」
「ああ、不思議と損害はないようですね、不思議と」
あ、そう、で会話を切る
ぶっちゃけ、麗羽姉は慢心と名家っていうのに胡座かかなきゃ王様としちゃ優秀な方だ
乱世では暗愚と言われるのは治世では名君となる、上の人間がどっしり構えりゃ下も安心できるってもんだ
まぁ、色々と口出しもしたし、これで弱かったらなんであそこにいたかわかりゃしねーや
「あ、見えてきましたよ」
そうこうしてるうちに2つ目の難関、虎牢関が見えてくる
「あーあ…着いちまったよ…やだなー帰りたいなー」
「何を子供みたいなこと言ってるんですか…」
「薄汚い大人になるぐらいなら、無邪気な子供のままでいたい…」
「もう十分に汚れてるから大人ですね、さ、行きますよ」
ドナドナよろしく、引っ張られていく俺
しっかし、本当に嫌だね、多分俺の予感じゃここで出張ってくるはずなんだ
そうだろ?潔癖症かつ差別主義者の月さんよ?
彼と私があったのは10年ぐらい前、その時は確か故郷の端に住み着き始めた北方民族のところに赴こうとしていた時だった
馬を走らせ、酒や干し肉を積み、顔も知らぬ北方の民族に赴く私は領民からは随分気味悪がられてた
この整った容姿が余計に際立たせていたのだろう
しかし、なんのツテもなく見知らぬ土地に住み込もう等と、余程のことがない限りはありえないことだ
せめて、私だけは味方であるように、偽善と呼ばれてもいい
それでも何かと思い立っての行動だった
10人の護衛と共に赴いて、着いた時に見たのは戦火だった
火が付けられた簡素な民家、殺され食えないようにボロボロにされた家畜、家の前で泣いているのは親子か、女性が子供を抱きしめながら泣いている
「仲穎様!!」
声をかけられ気が付く、家の裏手から剣戟の音と、僅かな悲鳴が聞こえる
積荷をその場で解き、佩いていた剣を抜き家の裏手へと馬を走らせる
私を先頭に護衛も続く、私よりは弱いがそこらの雑兵よりかは強いから役に立たないことはないだろう
裏手に回り込み、見た光景は見た事もないような光景であった
15,6人の男達――騎馬民族の格好をしている――が一人の男を囲っていた
男の足元には腕から血を流している男が一人、縋り付くように男の脚にしがみついていた
男は足元の男と何か会話しているようだった、今思えばこの時に止めていれば良かった
男は頷き、しがみついていた男に手を差し伸べる
そしてその手で男の首を刎ねた
頭が無くなった首から吹き出すように、いや、吹き出しながら出る血を男は嬉しそうに浴びていた
囲んでいた男たちが口々に叫ぶ、だがあちらの言葉なのだろう私はなんと言っているかわからなかったが、あとで護衛の一人が教えてくれた
口々に、化物、と言ったあとに悪態をついていたようだった
一人が男に向かい槍を突き出す
――私にとって人生最大の不覚だろう、この時は私はアレを心配してしまったのだから――
槍は男の躰を貫いた、他のも続いて各々が持つ武器を男に振るった
唖然としていた私を含め、護衛も男が死んだと思い、自分たちが何故剣を片手に持っているかを思い出し馬を走らせようとした
その時だった、男の躰が弾けたのだ
頭だけを残し、全てが弾けた、次の瞬間には囲んでいた男達の、中でも一番遠くにいた男の背後に立っていた
――化物相手にしてるんだ、覚悟は出来ているよな?――
これでもか、と底冷えした声だった
呟くような低い声にも関わらず、馬を走らせるほどに距離が開いているにも関わらず、聞き取れた、聞き取ってしまった
そこから先は一方的な蹂躙、一方的な虐殺
力任せに体を縦に裂かれる者、抱きしめられグシャグシャに壊される者、武器を持つ手を握られ己の首をゆっくりと貫かさせられる者
一人として同じ殺し方をしていなかった、どれもゆっくりと自分の死に際が分かるような殺し方だった
そこで私は『目覚めた』
だけどあまり覚えてはいない、覚えているのは『目覚めた』事と『アレを殺す』と決心したという事
気が付けば家に帰っていた
護衛の一人にあの後どうなったかと聞けば
「…我々以外、皆殺しにされていました…家の前にいた親子も…」
と悔やむ顔で告げてくれた
よく見れば涙を流した跡がある、少し嬉しく思ってしまった
いるじゃないか、私以外にも『そういった気持ち』を持つ人が
だからこそ、この人のような人たちのためにも殺さなくてはいけない
無造作に死を振りまくアレを
――そう、それでいい――
うん、分かったよ『お兄さん』、見ててね
アレを殺して、アレに似たようなのも殺して
善人も悪人も関係ない、『人間』が住むべき世界を作ってみせるよ
――お前だけじゃない、俺も、他の人も、いる――
…うん、困ったときは助けてね
――ああ、任せておけ――
「『世に平穏を生み出そう』」
昔のことを思い出していた、私が剣を振るう決心をした時のことを
壁上から見える連合軍の兵士達は本当に戦争がしたいのだろうか
いや違う、本当は家にいたいはずなんだ、家族と、恋人と共にいたいはずなんだ
そんな人たちを、人が定めた法で、人が定めた通貨で、掻き集めて欲を満たそうとしている人間
同じ人間なのにどうして分かり合えないのか?
ずっと疑問に思っていて、『お兄さん』もそれは知らなかった
でも、答えは出ていた
欲だ、欲があるから、過ぎた欲があるからダメなんだ
連合軍を見る、あの中にこれを指示したものがいる、あの中に『アレ』みたいのがいる
「…吐き気がしてきた…」
胸中が、臓腑が、一斉に蠢くような不快感
戦場だからという理由では無い、そんなものが存在している、そんな理由から来る不快感
「すぅー…ふぅー…」
不快感を吐き出すように深呼吸をする
いくらか和らいだ
「なんや?あの月っちでも緊張するんか?」
ふと背後からかかる声
「霞…そういうものじゃないよ」
張遼、真名は霞、神速が代名詞だった将、華雄にその異名は取られてたけど
「なんやつまらん、たまには可愛らしいところ見せてくれたってもええのに」
「必要があればそうするよ、けど、今は必要ない」
そう、化け物どもが相手なんだ、余分はいらない
「ああ、そうや、呂布ちん復活したみたいやで?ついでにあのバカも」
「あら、そう、もう少しかかると思ったけど」
あの勘違い男、死ななかったんだ、残念
「なーなー、なんであの小僧にお熱なん?」
?私のことじゃないよね…ああ、恋のことか
「あれ?知らないの?」
「知らんがな、弱い上にええカッコしいのボンクラなんぞ興味もわかへん」
随分な言われようね…まぁその通りだけど
「それよ」
「はぁ?」
「カッコつけで弱いところが子犬だった頃のセキトに似てるんだそうよ」
「…そんだけ?」
「ええ、それだけ」
少しの沈黙のあとふたりして笑う
「ぶっふ…!ダメや、堪えれへん…!!」
「ふふふ、恋らしいでしょ?」
堪えられなくなってゲラゲラと笑い転げる霞
「あかん!あかんて!!腹捩れてまう!」
「まぁ、それは大変ね…恋はアイツの毛づくろいは大変だとぼやいていたよ?」
「ぶふぉ!!」
お腹を両手で押さえてひぃひぃ言ってる霞を見下ろして
「笑い飽きたら準備に移ってね?」
そう言い残し壁上から降りる、そろそろ私も準備しなくては
後ろから、無理やー!とか聞こえたけど無視した
さぁ、戦争をしましょう、化物共
一匹残らず殺し尽くしてあげる、私の、私達の理想のために
「ね、『お兄さん』」
――ああ、そうだな――
「…また頭の中のお兄さんと話してるの?月」
「うん、もう終わったよ、詠ちゃん」
見られてたことに気がつかなかったや、失敗失敗
詠ちゃんは私が『お兄さん』と話してるの見るのが嫌みたいだから
「準備の方は大丈夫?」
「うん、もう大丈夫…いつでも行けるよ」
能力も今日までにできる限り磨いてきた
自分ができることはやってきた、今日こそ、そう
「今日こそは、殺してみせるよ」
「月…」
そんな、悲しい顔をしないで詠ちゃん
これは私にしかできないことだから、だからやらなくちゃいけない
詠ちゃんに薄く笑いかけて、先へ進む
後ろからため息と同時にこちらへ駆けてくる足音
詠ちゃんは違うのに、私たちのような能力もないのに、最後まで私についてきてくれると言った、言ってくれた、言わせてしまった
私には責任がある、領主としても、アレらと同類という意味でも
――すまない、本来なら私がやることだ――
知ってるよ、『お兄さん』
――だが、君を殺したくなかった――
…知ってるよ、だから私は『お兄さん』が好きなんだ
――ああ、そうだな、私も好きだ、月――
クスリと笑い兵達の元へ歩を進める
さぁ、欲深き罪人を一人残らず処断しよう
さぁ、業深き化物を一匹残らず処刑しよう
「さぁ、戦争を始めましょう?」
連合軍が虎牢関を見渡せる位置に陣取ったあと、総司令官の鶴の一声で攻撃は明日へと延期になった
「なんでや、なんでここまで来ておあずけなんや!」
「仕方ないの~…でもちょっとだけ助かったの~!」
自慢のからくりでも見せたいのか憤慨する李典、安堵のため息を付く于禁
「…二人共、命令だ…少しは大人しくできないのか…」
「ここで野営ねぇ…奇襲されないか心配ね」
その様子に呆れる楽進、見えない敵に警戒する周倉
「来るぜ、当たり前のようにな」
そんな能天気な連中に警告だけはしておこうかね
「来るって…もう日は落ちてるで?」
「そうなの~敵さんだってご飯の時間なの~」
「馬鹿か、お前ら、陣地構築してる時を思い出せよ」
揃って首をかしげる、大丈夫かこいつら
「陣地構築の時…特に何もなかったような」
「そうね、何も…あ、え?」
気づいたかね、そうだよな、おかしいよな
「あからさまに見渡しがいいこの場所まで罠一つも仕掛けない、そんな馬鹿な話があってたまるかよ」
あっと気がつく2人に、敵が来るとわかってぎらつき始める楽進
「なるほど、奇襲を仕掛ける場所に邪魔なものはいらない、と」
「随分と豪胆というか、大胆というか…」
「籠城してたほうが楽だってのにな、笑えるじゃねぇかよ」
姉貴は多分気が付いてる、麗羽姉も今頃は準備の真っ最中だろう、他はどうかね…知ったこっちゃないが
「さて、日が落ちた、だから飯を食った、満足に動けるやつはどれほどいるかね?」
黙り込む4人、そりゃそうだ、人間、飯食ってすぐは動きたいとは思わねぇからな
「…一刻以内に支度しときな、そうすりゃ、死ななくて済むかもしれねーぜ?」
その言葉に慌てて動き出す4人
「さて、俺も行くか」
歩きながら考える、曹操の陣営は左翼側だ、右翼には袁術、中央前に劉備と公孫賛、その後ろに袁紹
ざっくり言えばこんな感じで野営をしている
さて、俺がこいつらの敵ならどこに奇襲をかけるか、戦力削りに左翼か?安牌の右翼か?どう考えても中央ってのは愚策だよな?
「だからこそここだ」
「…何しに来たのかな?」
中央を攻めれば両翼が包むように殺到して囲まれる、戦略としては下策にも劣る愚策
「奇襲を真っ先に受けるところに来ただけだ」
「…やっぱり、ここかな?」
だが、それは囲みをどうにもできない人間の、真っ当な人間が考えることだ
「ったりめーだ、お前さんでもそうするだろうに」
「だよね、うん、朱里ちゃん、戦闘準備しておいて」
「はわっ!?ほ、本当によろしいのですか!?」
「あわわ、桃華様!?お考え直しください!?」
「はぁ、じゃ、いいよ、私が動くから」
ちっこいの二人が慌ててるの眺めながら虎牢関の方角へ向き直る
月が出てない、新月のせいで真っ暗闇だ、虎牢関すらも見えはしない
「なぁ、劉備よぉ」
「愛紗ちゃんは左翼に行って!鈴々ちゃんは右翼側!!…なに?忙しいんだけど」
「来たぞ」
見えはしないが、分かることはある、闇夜に姿を隠せても音までは隠せやしない
無数に風を切る音と共に、真っ黒に塗られた矢が殺到する、完全に奇襲を仕掛ける気だったようだ
俺はそのまま受ける、劉備のやつを庇ってやろうかと思ったが忠告した時点で十分だったようだ
「…落ちろ」
その言葉だけで劉備軍に向けられた矢は地面へと吸い込まれるように落ちていった
「おい、俺のところにめちゃくちゃ来てるんだけど」
俺のところに来てたのはそのままだった、夜に出歩いたスティーブみたいになってる
「そのまま死んじゃえば?」
めっちゃいい笑顔で返された、畜生…俺の周りはこんな奴ばっかだよ
前へ向き合おれば、騎馬部隊がこちらへ向かってるのがよくわかる
今更、奇襲だー!、なんて声が聞こえてくる
劉備はいつの間にかいなくなっていた、代わりに
「やぁ、久しぶり」
「おお、黄巾以来かい、七夜モドキ」
モドキとはひどいなぁ、と笑って流すモドキ
「ここは共闘と行かないかい?流石に、さ」
「はっ!共闘ねぇ?まぁ、いいぜ、巻き込まれないように合図ぐらい出してやるよ」
「そいつはいい、楽ができそうだ」
ふざけ合っていればすぐ目前に馬の足、踏み潰す気か
「馬鹿か、てめぇは」
ボウッ!っという音と共に馬の腹ごと騎手を拳で打ち抜く
吹き飛んでいく馬にぶつかり後続がコケて落馬していく
「はっはー!いい眺めだ!!」
「全く無茶苦茶だね」
そう言いながらモドキの少し後ろには騎手ごとバラバラになった馬が2頭
「てめーも大概だろうが」
「いやはや、下手糞でお恥ずかしい限りでございます」
16分割だっけ?17だっけ?忘れたがそんぐらいにはバラされている
「いや、お見事、俺じゃそこまで綺麗にバラせねぇ」
「お褒めのお言葉、光栄の至りでございます…なんてね」
なんだろう、コイツと一緒にいるのも悪くない気がしてきた…あぁ、セリフの言い回しがネタ臭いからか、いいキャラしてるなぁーおい
「さて、こっからだな」
騎馬隊はここの突破は無理と見たのか左右に分かれていった
そして奥から出てくる騎兵が3つ、見知った顔だ
「よー、おひさー、元気してたー?…潔癖症のクソアマが」
「ええ、そちらもお変わりなさそうで…業突張りの下衆野郎」
「…びっくり」
「と、董卓?どうしたんだ?」
「おや、エミヤモドキに呂布もか…少しは退屈凌ぎになりそうだ」
各々が勝手なことを言いつつも、既に間合いだった
七夜モドキがエミヤモドキと呂布へ向かっていく、俺と月はその場に残り対峙している
「こっちは七夜、そっちはエミヤ…最強っていうおまけ付きなんだ、頑張って生き延びろよ」
「…!七夜…ってことは浄眼…まだ勝ち目はある!」
「…失礼」
あっちは戦闘を始めたようだ、血の気が多いこった、俺が言えた言葉じゃないが
「さて、久しぶりに会ったとはいえ、なんか話すことでもあったかい?」
「ううん、何もないよ?言いたいことはあったけど」
「奇遇だな、俺もだ」
フフフ、クックック、と互いに笑い合う
「「此処で死ね、――化物/酔っ払い――!!」」
互いに告げると同時に能力を発動する
日は落ちたばかり、夜はまだまだ永く続く
次回は戦闘回、プロットという名の妄想もここまで…どうなることか…
誤字脱字報告、ご意見ご感想、お待ちしております。