仕事や私生活で全く手がつかずにいましたが、短いながらも投稿
待っていてくださる方がいましたら本当に申し訳ありませんでした
――狂っている
諸葛孔明、龐統士元は言葉を交わすことなく意思を通じた
なるほど、夜の奇襲は定石とも言える、黒く塗られた矢も闇夜では確かに有効だろう
では、目の前の光景はなんとする?
『堕ちろ』、と一声かけた主君の言葉と共に、地へと落ちた矢はどうやって説明する?
駆け抜けてきた騎兵を、瞬く間もなく切り刻んだ、あの気さくな青年をどう表す?
たった三千余りの騎兵のみで、正面からの奇襲を仕掛けてきた敵は?
それを読み切った上で『中央を空ける』鶴翼之陣を敷いた主君の心情は?
――何もかもがわからない、故の恐怖、故の狂気――
「あ、ありえません…」
「うん、ありえないよ…」
目の前の光景に抱いた純粋な感想
その思わず口づいた言葉に返したのは他でもない主君だった
「なにが?奇襲のこと?矢を落としたこと?それとも、あれかな、七夜君が思った以上に化物だったってこと?」
気が付けばいつもの様に微笑んで、こちらを見下ろす主君がいた
「え、あ、う、その…」
「あ、もしかして鶴翼を選んだ理由かな?」
誤魔化すように首を縦に振る二人
本当に聞きたかったのは他のことだった、だがそれを聞いては二度とこの人を主君と思えなくなってしまいそうで聞けなかった
「うん、簡単だよ、中央突破して欲しかったんだよ」
「「え?」」
「んー…?あー、そうだね、二人共優秀な上にいい子だもんねー」
そう言って二人の頭を撫でる
まるで、出来の悪い子供をあやす母親の様に
「でも、今回のことでわかったよね?」
「私は目的の為なら、どんな毒でも飲み干してみせるよ」
そう言い放ち、勢いよくぐるりと振り向く
気が付けば敵の騎兵の数騎が迫ってきていた
二人は互いをかばい合うように抱きしめ合う、口からは小さく悲鳴が出た
例え英知に優れようとも、棒きれ一つすらまともに振れない小娘だ
暴力こそ最も恐れるものであり、忌避するものであった
しかし次の瞬間に見たものはおよそ人間ができる芸当のものでは無く
「馬の進行方向とは逆に、首だけに負荷がかかるとどうなると思う?」
数にして五か六かその全ての『騎手のみ』の首が反対へと折れ曲がっていた
「答えはこちら!残念だったね~」
いつもの様に、微笑みながらそう言葉を紡ぐ主君
そう、いつもと変わらないのがとても恐ろしかった
私達はその笑みを絶やさぬために自分の力を振るっていたのか、と
「…騙す気はなかったんだよ?」
こちらに背を向けて、心情を読み取るように語りだす
「けどね、私の夢は知ってるよね?…その為にはこうするしかないんだ」
夢――皆が笑顔でいる世界――
「私の夢はね、ずっと続けばいいなんて思ってない」
「私の夢は、ほんの一瞬、光が瞬くような一瞬でいい」
「ただの一瞬だけ、皆が、全ての人間が笑顔になればいいの」
――私という、狂気の王様が死んだ時だけ、その夢が叶えばいいの――
思わず息を呑んだ、ただの理想だと思っていた
本気で、真剣にその理想を語る、だからこそ着いていこうと思った
だが違う、この人は違った
「だから、その時までには、さ」
覚悟があった、私達には足りなかった、足りなさ過ぎた覚悟が
「どうか私のことを」
だから、言わないでください、そんな顔で、あなたは不器用な人なんだから
「嫌いになってね?」
微笑みながら、泣くだなんて、器用なことをしないで
「おっと、危ない危ない」
語る口調は落ち着いたもの、目にも映らぬ斬撃を彼はひょいと軽々しく避ける
「…ッ!!」
斬撃を繰り出すは、天下無双と謳われた呂奉先
そして、それを避けるのは
「夜目は効く方でね、随分とまぁお速いことで」
避けながら軽口を叩く、七夜と名乗る青年
縦横無尽に周りを駆け、呂布の一撃を避け続ける
「流石は天下無双、さっきの贋作者とは訳が違う」
「…黙れッ!!」
今、彼は無手であり、手元には愛用の仕込み短刀は無い
これには訳があり、遠巻きにこの戦いを見てたものならば短刀の在処を知っている
「しかし、まぁ、俺もまだまだってところかね?自分の武器を壊されるとはね」
贋作者を速攻で仕留めたまでは良かったんだがね
青年は避けながらも、自身の行いを深く戒める
戦闘開始前から相手が気にしていたような、魔眼的な物は自身には無い
あるのは、すぐに作れるような仕込み短刀と常人ならざる身体能力だけだ
相手は二流どころかドのつく三流だった、眼を気にしすぎて投げた短刀に反応できてはいなかった
呆れるほどにうまくいった、そのまま極死を決め、短刀を回収して次に入るはずだった
…が、そこまではうまくいかず、贋作者の最後の意地というべきか…
「『我が骨子は捻じれ狂う』、ね…」
短刀は贋作者の眼に突き刺さったまま螺旋を描くように捻じ曲がった
現状の敵を前にして、あれを引き抜ける余裕は無い
そうこうしているうちにも、死の一撃――いや、暴風とも言うべきか
自身でなければ見るも無残な肉塊と成り果てるだろう、暴風を如何に回避するべきか
「殺す、お前だけは…!!」
「アレに何を求め、如何なる想いを抱いていたかは知らないが―」
道中で殺した騎兵の槍――その穂先を折り鉄片と化した物――の刃の部分のみを右手で握りこむ
無論、握りこんだ手中から血が流れ落ちるが――無用と断ずる
「殺すのは俺の専売特許でね。――斬刑に処す。その六銭無用と思え」
そして、荒れ狂う暴風の最中に、青年は笑みを浮かべ駆ける
横薙ぎ――下がるな、受け流して掻い潜る
振り下ろし――避けるな、受け止めつつ打点を逸らす
振り上げ――呑まれるな、柄を足場にして前に出る
斜め振り下ろし――焦るな、身体を捻り横へと避ける
横薙ぎ――好機だ、振り切られる前に駆けて首を狙う
読みか、反応か、放った一撃は柄で防がれた
ギィィンと残響音を聞きつつ次へ
横薙ぎ、振り下ろし、振り上げ、横薙ぎ、振り下ろし――
その全てが致死の一撃、しかし青年はその全てを避け続ける
肉を切る音も、骨を砕く音も聞こえず
ただ、空を切り裂く音と金属の残響音が聞こえるばかりである
「…ッ!いい加減に…!」
「悪いね、もう少し付き合ってもらおうか…何、夜は長いんだ、焦る必要はない」
まるで踊るかのように繰り広げられる武闘、互いに決定打が打てぬままに、音だけが連鎖して鳴り響く
そして、そこに一手が加わる
「…待たせた、恋」
七夜を襲う横合いからの斬撃、低い姿勢を保ちつつ後方に下がることでギリギリ回避する
「おやまぁ…脳天串刺しにされたら素直に死んでおけよ」
――吸血鬼でもあるまいし
そう、溜息をつき前を見る
そこには貫かれた跡すらも無いエミヤモドキがいた
「悪いがそう簡単には死ねない身でね」
よく見ればエミヤの体は僅かに青白く発光している
「ああ、…そこまで忠実に再現したのか、それでも、致死まで防げるものか?」
「そこまでバラす訳もないだろう、こちらは二流にも劣る三流でね」
ああ、これは返そう
言葉と共に投げつけられる捻じ曲がった短刀
鉄片を捨て、右手で受け止める
鉄片を握っていたほうがまだましと思える痛みが手の中に広がる
が、無用、と即座に感覚を切り捨てる
「さて、仕切り直しと行こうか」
構えるエミヤと呂布、呂布は落ち着き、エミヤには今までが演技かという程の威圧感が生まれている
干将・莫耶と呼ばれる白黒一対の夫婦剣と方天画戟を向けられる七夜
他の転生者ですら圧倒するような威圧を前に、そこには深い笑みがあった
「――ああ、面白い、実に面白い」
「ようやくだ、生きている、と実感できる、そんな戦いに巡り会えた」
「感謝するよ、心の底から、さ」
構えた二人に対して七夜はゆっくりとしゃがみこみ、両の手を交差し地面ギリギリまで下げる
――吾は面影糸を巣と張る蜘蛛
―――ようこそ、この素晴らしき惨殺空間へ
瞬間、七夜の姿は消える
否、目に映らぬ速度で二人の周囲を飛び跳ねる
「恋!後ろを頼む!!」
「…わかった」
背中合わせとなり、構える呂布
そして静かに目を瞑るエミヤ
「…お前もあいつも、勘違いをしている」
その両手の剣を地に刺し、腕を組む
「俺が求めたのはエミヤなんかじゃない」
そして静かに目を開く
「求めたのは俺の『起源』だ」
瞬間、エミヤの頭上の空間に金色の穴が開く
穴は瞬く間にエミヤと呂布の周囲に展開されていく
「『王の財宝』」
そこから飛び出すのは無数の武具
かつての英雄達が手にしたであろうものの原典
「…なるほど、ね」
――の贋作
瞬く間に飛び出した武具が破壊されていき、最後には七夜が立っていた
「『起源』ね…納得したよ、さっきの復活も君の『起源』によるものってことだ」
血だらけになった右手を揺らし、左手をズボンのポケットに入れながら笑う七夜
「俺の予想なら君の『起源』は『模倣』ってところかな…一体どれだけ殺してきたのやら」
「お前には言われたくないさ、身体能力だけで落とせる代物じゃない」
そしてまた武具を打ち出そうと、空間に穴があいた瞬間――
「――当たり前だ」
エミヤの眼前には七夜がいた
「・・・ッ!」
「一体お前は『七夜』というモノをなんだと思っているんだ?」
何をするわけでも無く、話し始める七夜
「『鬼を殺そう』、その思想のみで長年鍛え上げてきた一族」
「狂った思想のもと、狂った方法で血を濃く引き継ぎ続けた一族」
ギシリ、そんな擬音が聞こえてきそうな笑みを浮かべる七夜
「その果て、極みがこの俺だ、人間如き今更相手にもならない…だからこそ求めたのさ」
瞬くことすら許さずにそこから消え
「だけど、まぁ」
面倒くさくなってきたんでね
そしてその場には周囲の合戦の怒号のみが響き渡る
「・・・逃げられた、いや、見逃されたか」
周囲に七夜の気配はなく、そっとため息をつくエミヤ
「世の中、化物だらけだ・・・俺もそうだが・・・」
全く、どうなっているんだか――
つぶやき見上げた夜空は新月のせいもあってか、星がよく見えた
空を見上げるエミヤを高台から見下ろし、ため息をつく
「全くどうなっているんだか」
典型的な小物だと思っていた、思い込まされていた
実際はどうだ、多数の転生者とであってきたがその中でも一等のモノ――殺意だった
「今の状態じゃ、良くて相打ち…かな?」
そうなればいいなと、希望的観測を打ち立てる
呂布にエミヤモドキ、呂布にさえ気をつけていればいいと思っていた
実際はどうだ、気をつけるべきはエミヤモドキだった
致死の攻撃を受けても蘇る能力、横合いからの攻撃も自身でなくては避けきれなかっただろう
何よりも、一度殺されたというのに向かってくるあの胆力
「…この時代で生き延びてる時点で警戒すべきだった、か」
ここに至るまでに一体どれだけの転生者が『目覚め』、どれだけが『眠った』ことか
「うん、考えてもしょうがないし、戻るかね」
――いつまでも子守をサボるわけにもいかないしね
次回は董卓Vs主人公(予定)
七夜の設定に関してはちょっと曖昧なところがありますが、まぁモドキくんはそう思い込んでいるっていうことで…
誤字脱字報告、ご意見ご感想、お待ちしております。