化物らしく、人間らしく   作:照坊主

15 / 15
2年越しの更新です

次の更新もいつになるかわかりませんが…頑張ります…


何度でも、繰り返す

日が落ち、月の光もない新月の夜

星明かりの下、兵士の怒号が響き渡る

 

なるほど、闇夜に、しかも新月の夜に紛れての奇襲は確かに有効だろう

最初に射掛けてきた矢を黒塗りにしたのも、鎧も同じようにしたのも

 

「がぁぁぁ!!!死ねぇ!!!!」

 

「待てっ!!俺は味方だ!!」

 

だが、乱戦となれば無意味となるだろう

こういった奇襲は、速やかに駆け抜けなくてはさして効果はない

 

乱戦となり、味方同士で争うのも道理

見えないのだ、隣に立つ人間の顔すらも

 

最初は明かりを目指せば良いだけだったが、そこからは違う

一糸乱れぬ連携で一度強く当たり、速やかに撤退する

 

夜間の奇襲とはそういったものだというのに

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「…はぁ、全く」

 

襲いかかってくる兵士、ため息をつく女性

女性はほんのわずかに星の光を反射する金髪を左手でかきあげ

 

ヒュゥン

 

と、軽い風切り音と共に右手に握った細剣がブレた

 

襲いかかった兵士はそのまま女性の横をすり抜け倒れた

倒れた兵士をよく見れば、首にうっすらと赤い線が浮かび上がっている

 

「流石ですね、麗羽様」

 

「見てたのならあなたがどうにかなさいな、猪々子さん」

 

ごろり、と倒れた兵士から転がる首を横目に

頬を掻きごますような仕草をしながら猪々子は答える

 

「いやいや、あたいが手を出す前にやられちゃどうしようもないですよ」

 

「…はぁ、後でお仕置きですわね」

 

えぇ!と心外だと言わんばかりに驚く猪々子

はぁ、と心労を吐き出すようにため息をつく麗羽

 

「こんなところにまでこのような雑兵が来ているのですもの、当たり前でしょう?」

 

「それに関しちゃ斗詩の役割じゃないですかー!」

 

横暴だー!と騒ぐ部下を無視しつつ麗羽は問いかける

 

「…それで、なぜここまで押し込まれていますの?あと、斗詩さんは何をしているのかしら?」

 

「あらー…無視ですか…っと、えぇと、斗詩の方は中央ぶち抜かせた劉備軍を殲滅できるよう弓兵を手配中です」

 

馬鹿な味方は敵より怖いですからねーと続ける猪々子

 

「なら、斗詩さんに伝えておきなさい、『馬鹿な味方を殺すより哀れな敵に慈悲を』と」

 

敵の弓兵はまだ残っている、この奇襲で見かけたのは騎兵と歩兵のみ

切り捨てた敵兵の装備もまた弓兵のものとは考えにくい

 

「え~?それ、あたいが行かなくちゃダメですかね?」

 

「あなた以外に斗詩さんの場所を把握してるものが他に居らして?」

 

言われて頬を掻く猪々子

なるほど、確かに彼女の場所を把握してるのは自分くらいだ

 

まぁ、仕方がないかと思い自身の主君が続く言葉を待っているのに気づき口を開く

仕方がない、と思うあたり、彼女の性格が伺える

彼女とて軍を率いる身であり、決して伝令を行うような立場では無いからである

 

「で、なんで押し込まれてるかっていうと…兄貴のせいですかね」

 

「あら?立華さんがここに?」

 

「はい、ま、そのせいで混乱に拍車がかかっちまって、どーしよーもねーってとこです」

 

猪々子さん口調、と麗羽が注意し

うげっ、と猪々子が苦い顔をする

 

そんなやり取りをしていると、二人の真横に黒い塊が音を立てて飛来してきた

二人は驚きもせず、目を凝らし飛来してきた物が何であるかを確認する

 

「…馬?」

 

「正確には馬の胴半分、ですね」

 

そして麗羽は奇襲を受けてから3度目となるため息をつく

 

「…相変わらずですのね、立華さんは」

 

「相変わらずですねぇ、兄貴は」

 

 

 

 

 

 

 

「かぁぁぁ!!!」

 

「シッッッ!!!」

 

シャラン、と言う金属同士を擦り合わせた音がその場には何度も響いていた

 

立華がその身より生成した青龍刀を振るう度に、月は振るわれた青龍刀よりも早く手にした剣を振るい

青龍刀の斬撃の軌道そのものを書き換える

 

およそ、その技は控え目に言っても人が振るうにしては余りにも人間離れした技であった

 

立華が振るう剣は、常人が振るう術理の範疇を超えはしない

しかしながら、彼が化物とされる所以はその膂力である

 

振るう剣が例え凡百の者たちのそれに毛が生えた程度のものだとしても、彼はそれを己の剛力のみで神速の一太刀へと変える

しかし、その一太刀を見切れるものがいたとすれば、彼の剣に天賦の才があるようには思えないだろう

 

実際、月にはそう見えた

剣を振る動作がわかりやす過ぎる

 

その速度や威力は確かに驚異だが、一つ一つの動作を見れば回避が容易いのだ

故に予測できる、故に―――

 

シャオン

 

―――斬撃を書き換えれる

 

「だぁぁ!しゃらくせぇ!!小手先ばっか上手いのは相変わらずかよ!!!」

 

「力任せなのは相変わらずですね?何も進歩していないのがよくわかりますよ?」

 

抜かせ――口の中でつぶやき、更に斬撃を加える

 

ジャオン

 

書き換えられる斬撃、その音に濁りが出始めてきた

相手が達人であれ、同じ化物であれ、『俺は負けない』

 

超える技量を持つならば、それを上回る剛力でねじ伏せる

超える剛力を持つならば、それを上回る物量でねじ伏せる

超える物量で来るのならば――その全てを喰らうのみ

 

「どうした!?疲れてきちまったか!?いいんだぜ?いつものように逃げ出してよ?」

 

言葉を発しながら青龍刀を投げつけ新たに片刃の大剣を取り出し斬りかかる

 

「いえ、今回はここで、確実に仕留めます…ここは人間が住む場所であり、お前のような化物はあってはならない」

 

その斬撃を真っ向から受け止める月

持っていた剣は名剣と呼ばれるものではあるが、それでも身の丈程ある大剣を受け止めるにしては不足していた

 

だが、彼女はそれを受け止め――次の瞬間には立華の首が飛んでいた

 

 

「――――出したな。クソッタレが」

 

即座に修復された頭から発せられたのは苦々しい悪態

 

超える技量を持つならば、それを上回る剛力でねじ伏せる

超える剛力を持つならば、それを上回る物量でねじ伏せる

超える物量で来るのならば――その全てを喰らうのみ

 

―――だが、そっくりそのままそれを返されたら?

 

「ええ、出させてもらいましたよ?どうしますか?逃げますか?」

 

クスクスと笑う少女、場所が場所なら一枚の名画ともなる微笑みだが

場面は戦場、それも殺戮が行われていたであろう爆心地である

 

「お兄さんがくれた、『反射』の業、超えれるものなら超えてみなさい」

 

微笑みはそのままに、斬りかかる月

 

「…舐められたもんだ」

 

そしてその斬撃を1歩踏み出しわざと深く体に埋めさせる立華

それは剣の根元まで深く埋められた

 

「ッ!?」

 

埋めた剣をそのままに体を溶かす

どろりと溶けた体はそのまま10歩ほど離れたところで人の形を作り始める

 

「これで終いだ、クソガキ」

 

解放された剣は根元から、長年雨風に晒されたかのようにボロボロに朽ちていた

 

「俺の血が付着した部分だけ、時間を加速させた、面白いだろう?」

 

ぐにゃりと、貼り付けたような笑みを浮かべる

驚愕に染まった顔を見るのはいつでも面白い

 

「そんな…!?業は一人に一つじゃ…!?」

 

「阿呆、今まで見せなかっただけだ、俺はどんなことでもやってみせる」

 

大げさに両手を開きながら答える

 

「お前の能力は何度も見た、お前はいつも能力を使うときは必ず『持っているもの』に俺の力を当てさせていた」

 

「もっと言えば、発動は一瞬のみ、ジャストガードみたいなもんなんだろ?」

 

「だったのならば、見えても反応できない一撃で仕留めりゃいい」

 

ふぅとため息をつき、右手で新たに生成した大剣を担ぐ

 

「じゃあな、それなりに楽しかったぜ」

 

担いだ大剣を横に構え突進する

一見ただの突撃だが、行うのは人ではなく化物

 

瞬く間に10歩の距離を詰め

 

「あ――」

 

唖然としてる少女へと大剣を振り抜く

 

 

 

が、手応えは無し

 

「…ちっ」

 

その場には少女は無く

周りを見渡してもそれらしき影は見当たらない

 

「…あー、めんどくせぇ、また逃げたのかよ」

 

このように逃がすのは初めてではないが、いい加減に仕留めておきたかった

だが、今回の戦でわかった、能力者が如何に多くこの世界に放り込まれていたのかを

 

「ふざけやがって、そんなに地獄で踊る様が見たいってのかよ」

 

思わず口に出した言葉は、少なくなってきた戦闘の音に溶けて消えた

 

 

「…だけどよ、今回ばかりは逃げちゃダメだぜ?潔癖症の月ちゃんよ?」

 

大将が戦場からいち早く撤退する、兵士たちにとっては敗北よりひどい結果となるだろう

 

「さぁて、流れ出した水はなかなか止まらねぇぞ?」

 

クカカ、とのどを鳴らすように笑う

 

愉快でたまらねぇ、結局ガキのまんまだ

どいつもこいつも、戦争ごっこ止まったままだ

 

「そんな温い訳ねぇだろ、一等人間の殺し方考えこんだ国の、戦争だぜ?」

 

ああ、愉快だ、人間が大量に死ぬ

死ねば死ぬほど、俺は死ななくなる

 

「化物を殺すのはいつだって人間…ね?よく言うぜ」

 

――俺が死ぬとすれば、俺が生きるのに飽きた時だけさ――

 

 

…どうして、どうして…

 

「どうして、なぜなんですかお兄さん…」

―あのままでは、彼に飲まれていた―

 

「っ!だとしても!今度ばかりは…!!」

―理解も許しもいらない―

 

「私が!私がいなくなったら!!」

―だが、彼を止めれるのは君だけなんだ―

 

「…それは」

―本当だ、これは嘘でも何でもない―

 

―『反射』は彼自身にも影響する―

 

―今回で分かったんだ、後一手足りないんだ―

 

「後一手…」

 

―すまない、耐えてくれ、月―

 

「…謝罪はするんですね」

―無論だ、本来は私の罪なのだから―

 

「わかりました、今は耐えます…だけど」

 

―ああ、必ず―

 

少女は一人、城壁の上にて空を見る

月明かりはなく、星空だけが見える空を

 

―――ごめんなさい




書いたり消したりして、ツギハギだらけになってしもうた…

誤字脱字や、ご意見ご感想お待ちしております

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。