とりあえず連投となります
俺はこれを知っている
熱気と殺意と欲が混じったこの空気を
俺はこれを知っている
何ら意味のない言葉に動かされ、意味も見出さずただひたすらに動く人の群れを
俺はこれを知っている
与えられた意志を、自らの意思と勘違いして死んでいく阿呆達を
俺はこれを知っている
これこそが俺の望んだ世界なのだと
「あぁ…絶景というのはこのことを言うのだろう」
俺の目の前で、戦争が行われている
頭に黄色の布を巻いた奴らが、それなりに立派とも言える鎧を着た連中と殺し合っている
ある者は怒号を、ある者は悲鳴を、ある者は降伏を、腹の底から叫んでいる
血が、肉が、頭が、臓物が、人が吹き飛んでいる
…人?
「おぉ…?なんだ、いるじゃないか、俺以外に化物が」
赤毛だ、血の色より淡い赤毛の女が血風を巻き上げている
そこには一切の慈悲が見られない、躊躇いもない
ただ当たり前のように死が巻き上がっている
「クッ…クハハハハハハ!!!なんだよ、俺だけじゃないのかい!」
圧倒的に格が違う
同じ人間を扱うにしてはあまりにも粗雑だ、あまりにも粗暴だ
まるで、雑草を刈るかのように、命を刈っている
「はぁぁぁ…世界は広いねぇ」
顔がにやける、知りえもしなかった光景だ
これだけでもここに来た価値が見い出せる
「さて…俺もうごぉ!!」
衝撃が俺の頭を突き抜ける、文字通りに、物理的に
「いってぇ…って、矢か?これ」
額から飛び出てる矢をそのまま前に抜き後ろを振り向く
そこに見えるのは此方に弓を向ける妙才と傍らに不敵な笑みを浮かべる姉貴
どうやら頭を射抜かれたようだ、『頭にキている』って意味かい?これは
「へいへい…とっとと働きますよ、ったく…」
ご立腹なのかはわからんがね、普通射抜くか?
まぁいい、どうせ死ぬことはない
そんなことにに腹立てるよりも…
「俺もまぜてくれねーかなぁ?」
愉しい愉しい虐殺に赴く方が先だ
「よろしかったのですか?」
主人がやれといったのだが、不安は拭えない
アレがこちらに敵意を持ったが最後、防ぐ手立てはない
「ああでもしないとあの子は動かないでしょう?」
不敵に笑う我が主
「しかし…」
「あなたは恐れすぎよ、秋蘭、アレはそこまで器の小さい男じゃないわ」
「はぁ…」
頭を射抜くことに器も何もないんじゃなかろうか
「それに、早く私は見たいのよ、あの子の初陣を」
そこにあるのは笑みだ、閨で私たちに向けてくださる、慈愛に満ちた笑み
「華琳様…」
私はいつかあなた様がアレと同じになるようで怖いです
出てきた言葉は言えず、そのまま頭の中で消えていった
「はぁぁぁ!!」
目の前に出てきた男を殴り飛ばし、そのまま気弾で吹き飛ばす
黄巾――自分達の村だけでなく、今やこの大陸に蔓延る害悪
「でぇぇぇりゃぁぁぁ!!!」
飛び出てきた槍を躱し、反動で相手の頭を蹴り飛ばす
そのままに蹴り抜いた足を地に戻しまた回転、足に溜めた気を敵兵集団へ飛ばす
「うわぁぁぁぁ!!!」
「な、何だありゃ…化物か!?」
馬鹿な、ただ気を練り外へと出しているだけだ
何ら努力もせず、ただ奪うだけのお前らには出来ないだけだ
「ん~違うぜ」
咄嗟に出た侮蔑の感情を思考に反映させた瞬間
ほんの僅かな合間だった、私を化物と言った男以外は
「俺が化物だ」
皆死んでいた、まるで人形師が操る人形の糸が切れたように崩れ落ちていった
否、崩れ落ちるように血溜りの中へと沈んでいった
「え…あ、え?」
男は混乱している、無理もない
目の前にいた者達、隣にいた者達、自らの背後にいた者達
その全てが一斉に血溜りに沈んでいったのだ
「どうだ?人間にはこんな真似できねぇだろ?」
後ろから声が聞こえる、ごく最近聞いた声だ
確か…そう、確か
「そ、曹仁様?」
「あーいよ、何だい?波動拳使い」
我々の主、華琳様の弟君
春蘭様の一撃をものともしなかった、正真正銘の化物
「あ、いえ、その」
「あー…悪かったよ、獲物横取りする気はなかったんだが」
華琳様とは違う、くすんだ金色の髪を無造作に掻きながら自分の前へと踏み出す
「こいつが悪いんだこいつが」
先ほど、自分に対して化物と言ったであろう男を指差す
「こいつはこともあろうにお前さん如きを化物扱いしやがった」
男は見た
ひどく、ひどく歪んだ笑みだった
獣が吠える直前に浮かべるような、頬を歪ませながら浮かべる笑み
「だから、冥土の土産に見せてやろうと思ってな」
――本物をな――
男は咄嗟に逃げ出した、恐怖からか、不利だからかはわからない
なぜならそんなことを思うよりも早く
「逃げるなら手伝ってやる」
真っ二つにされていた、逃げようと体を翻した状態で
「ただし真っ二つだ…ってな」
自分は見てしまった、指を弾いたのを
自分は理解してしまった、その動作だけで真っ二つにしたことを
自分とは違う、技術でもなんでもない、ただの力だけでそれをやってのけたのだ
呆然とするしかなかった、戦場だというのに、先程まで戦っていたというのに
ここだけはやけに静かに感じた、周りでは怒声が飛び交っているのに
「さて、あの赤毛はどこにいったかね…」
一言呟き立ち去る彼をただ見送っていた
ぼんやりと、ただ見ていた
「自分も…」
今まで無かった、新たな気持ちが心に宿るのを感じながら
「自分も…ああなりたい」
尊敬はせども、軽蔑はせども
ただの一度も憧れはなかった
自分は自分、そう思い鍛錬を積み重ねた
強くなれば、強くなった分だけ守れるものが増えると
「あれが…自分の…!」
だけど、違う、違った
私が得れた強さでは、守れないこともあった
あの強さなら、化物ならば…!!
「到達点…!」
もうだれもしなせなくてすむんだ
「凪っ!!」
…?こえ?声…ああ、真珱の声だ…
「しっかりせえ!ボケっとしとる暇なんてないで!?」
「え、ああ…そうだな」
そうだった…ここは戦場で、私は隊長だ
「ほんまに大丈夫かいな…?こっちはええから一旦中央に行くで!」
「だが…」
こちら側の方が押されていた、そうだ、だから増援として…
「華琳様の命令や、『弟が向かうから右翼へ行け』やと」
そうか、アレが行くのか…そうか…
「…わかった、すぐに行く」
まだ、今はまだ、傍に立つことすらもできない
だから今は我慢しよう
いつか、必ず…
「それにしても…凪のやつどないしたんやろ…?」
彼女の戦い方は理解している
殴り蹴る、時には気弾で吹き飛ばす
加減ナシのそれはそこらの人間なんて耐えれずに吹き飛ぶ
だが、それにしてもだ
「なにも…ここまでバラバラせぇへんでもええのに…」
よほどイラついていたのだろうか?
まぁ、そうなのだろう、親友を怒らせたからこうなったのだ
「うん、まぁいいか、うちもとっとと行かな」
そう呟きその場を後にする
普段の彼女ならば気づけたのだろう
戦場でなければ、日常の中で生まれた死体ならば
自らの親友がこのような
その場に残ったのは縦に真っ二つになった死体と
綺麗に三等分された無数の死体だけだった