似たもの同士はすれ違う   作:エリアルの人間

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 はじめまして。
 需要ありそうでしたら続けていこうと思います。

 よろしくお願いします。


出会い

「日本で世界最強のウマ娘を育てたい」

 

誰もが小さい頃に1度は夢みて、そして諦める。そんな凡庸で、だけれど実現できないよくある夢。

そんな夢をご多分にもれず自分も持った。

違ったのは、俺がその夢を諦めなかった、いや諦めずに済んだことだ。

才能があった。

ウマ娘に関する資料や論文内容はスポンジが水を吸うように流れ込んでくる。テレビで見るウマ娘達の体調やレースの流れが手に取るように分かる。

環境も良かった。

近くには大きなウマ娘資料館があって調べものには困らなかった。

何より、人に恵まれた。

小学の同級生達は学校でも一日中ウマ娘の勉強しかしてない自分を誰も笑わなかったし、それどころか応援してくれたり、時には称賛してくれる。資料館の職員さんは最新の論文や情報をいつも持ってきてくれる。両親は「お前のやりたいことをやりなさい」と優しく背を押してくれた。

 

本当全てにおいて俺は恵まれていたと思う。

結果最年少12歳で中央トレーナーの試験に合格して、それを耳にしたと思われるアメリカの大学からの推薦に応じて大学へ飛び級した。

そこでがむしゃらに頑張って論文やら研究やらを学会に出したり、実際にウマ娘のトレーニングに参加させてもらったりしてあっという間に8年。

 

 

「感謝!よく来てくれた!日本ウマ娘トレーニングセンター学園は君の入職を心から歓迎する!」

「はい理事長。これから宜しくお願いします。」

 

日本に帰ってきた俺は日本ウマ娘トレーニングセンター学園―――トレセン学園に入園して、その当日に運命の出会いをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総てのウマ娘達の幸福」という他人から見れば縁木求魚で荒唐無稽と思われる夢。幼い頃からウマ娘として英才教育を受けた私はいつの間にかそんな夢を描いていた。

「辛い道だぞ、ルナ。」

「叶わない夢かもしれないわよ?」

 

この夢のことを告げた時、いつも厳格な両親が私が初めて見るような表情で聞きかえしてきたことを覚えている。

その時私は幼いながらもこの先待ち受ける苦難が如何程のものになるか想像ができた。それでも―――

 

「そうか。ではその夢を往きなさい。お前が描く夢を私たちは応援しよう。」

 

両親からの承諾を得て私は「全てのウマ娘達の幸福」を果たすためには何が必要なのかを考えた。答えは簡単だった。

必要なのは―――力だ。

政治力に経済力、ウマ娘としての実力…挙げればキリがない。私には力が必要だ。そうでなくては世を変えることなど出来はしない。

 

その為に私は

「常に頂点を目指す…いや、頂点に君臨しなければいけない。」

全てのウマ娘が、いや全ての国民が「最強のウマ娘といえば?」「ウマ娘の頂点は誰か?」と問われた時に迷いなくシンボリルドルフと答えられる存在に私はなる。それが私のなすべきことだと悟った。

 

 

 

 

 

 

トレセン学園に入ってからも私は順調に歩み続けた。入試の結果は当然1位だったし、レースの実力でも同年代はおろか1つ2つ上の世代でも現状私に並びたつものはいない。小学から学園に上がる時に急激に成長して大人びてきたことも影響し見た目の風格も出てきた…ように思える。

なんにせよ、私は全国屈指のウマ娘達が集められるトレセン学園でも頂点をとることができた。先ずは上手くいったといえる。

 

しかし、ここにきて大きな問題が発生した。

私にトレーナーがつかないのだ。

 

実力が不足していることはない。先程も述べたが私はこの学年で1番…正直現時点では抜きん出て速い。当然最初の選抜レースでは新人から熟練まで溢れるほどのトレーナーに勧誘された。

そこまでは良かった。事実彼らの中には私の目標を十分に果たせるような腕があるトレーナーもいた。

 

だが、私が夢を語ると彼らは厳しいと去っていく。

「私では力不足だと思うわ。ごめんなさい…」

「生徒会長に立候補してその上で三冠…?流石にそれは…」

「…良いトレーナーが見つかると良いね」

 

分かっていたことではあった。わたしの夢と目標はあまりにも高く、険しい。それは理解している。

だが…日本の頂点ともいえるこの学園に所属するトレーナー達でさえ私の夢は厳しいと匙をなげる。この事実が私の心に負担にならなかったというのは…嘘だろう。

 

2月がたっても現状は変わらなかった。いつも選ばれるのは私ではない。2番の子だ。選抜レースへ出場する回数も減らした。最初は3日に1度は出ていたが今では週に1度出れば良い程度。

…正直、6月頭にはもう半ば諦めていた。7月に入ったら両親に相談して形だけのトレーナーでも用意してもらい、あとは自分で何とかしようと考えていた。

 

「雨、か。」

 

そう考えていた最後の選抜レースの直前に降り始めた雨は、まるで空が私の先を表してるようにすら思えた。

 

「…走ろう。」

 

この暗雲を振り払うように。より強く。より速く。

結果は変わらずとも常に目指すは頂。それが私の在り方だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい走りだった!」

「…貴方は?」

 

レース後に興奮した様子で話かけてきたのは長身の比較的顔立ちが整った男性だった。

雨が降っているのにも関わらず傘もささずに走ってきたようだ。裾が泥まみれだ。

 

「あぁ、すまないね。俺は今日この学園に来たばかりでね、そのついでに理事長と理事長補佐に選抜レースを見ていかないかと―――」

 

なるほど、と納得する。確かにこの顔は見たことがなかった。私は基本1度見た顔を忘れない。今日初めて来たというのならば合点がいく。…どうやら本当に興奮していたようなのか傘をぶん投げて走ってきたようだ。少し遠いところで理事長補佐のたづなさんが2つの傘をもちながらアタフタしているのが見えた。

 

「まぁ俺のことなんてどうでも良い!単刀直入にいこう!君、俺の…」

「待て。」

 

少し強い口調で彼の言葉を私はもう遮った。その言葉を軽率に口にして欲しくなかったのだ。

 

「少し、話そうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずは、初めましてトレーナくん。シンボリルドルフだ。学年は中等部1年。今日は私に声をかけてくれてありがとう。嬉しかったよ、とてもね。」

 

私は選抜レースを終えた後、彼に割り当てられる予定だという部屋でトレーナーくんに、自己紹介をした。かなり砕けた口調だが、そっちの方が良いと彼の方から提案があった。私もそちらの方がありがたいと甘えさせて貰った形だ。

 

「さて…私の担当になりたいということか。…とても嬉しいよ。最近そんな話はなかったからね。」

「本気で馬鹿げてるな…と言いたいところだが」

「うん、もちろん理由があるんだ。」

 

チラリと、落としていた視線をあげて彼を見る。

優しい目だった。同時にとても強い決意を秘めているように見えた。何を言われても意思は変わらないぞ、と。

本当に嬉しい…嬉しいことだ。

けれども…私はもう一度視線を落とす。

私はそれ以上に恐ろしかった。

 

…話すのが、怖い。

伝えたら彼も他のトレーナー達と同じように諦めてしまうんじゃないだろうか。それは無理だと、この私に向けてくれているこの熱意が翻って否定されるのが、堪らなく怖かった。

 

「大丈夫だ。」

 

彼のその一言で。一言だけで。私は自分でも驚くほど落ち着けて、

 

「私は―――」

 

全て話すことができた。

 

私の夢は全てのウマ娘達が幸福に生きられる社会を作ることだと。

そのためレースだけではなく、全ての点で頂点に立つ必要があることから生徒会長になろうと考えていること。

それが原因で他のウマ娘達より練習量は確実に落ちる。

それでも私は

 

「勝ち続けたいんだ。唯一無二の頂きとしてウマ娘達の目標と道標となり続ける存在でありたい。」

 

私の独白が終わると、しばし静寂が部屋を包んだ。何分その静寂が続いたのかは覚えていない。ただ私は落としていた目線をあげられなくて、酷く長く感じたことだけは鮮明に思い出せる。

 

「俺も言わなきゃ、ズルいよな。

 

―――俺の夢はさ、ルドルフ。世界最強のウマ娘のトレーナーになりたいんだよ。それも日本でさ。」

 

反射的に顔をあげていた。

そんな私を放っておいて彼は少しだけ寂しそうに続けた。

 

「アメリカでよく笑われたよ。なんだその子供じみた夢はって。そもそも世界最強ってなんだよってさ。」

「…それは興味深いな。君が思う…世界最強の基準とは、何かな?」

 

そうだなぁ…と、目を閉じて少し考える彼を私は強く食い入るように見つめていた。

 

「例えば、誰でもいい。質問するんだ。そう、誰でも良い。道行く学生、八百屋のオバサン、有名な野球選手に内閣総理大臣や外国の大統領。皆に質問する。」

 

あぁ。身体が、震える。

 

「世界最強のウマ娘って誰だと思う?って。そしたら皆が口を揃えて答えるんだよ―――」

 

なんてことだ、君は、いや君だったのか。

 

「―――シンボリルドルフ。」

 

 

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「さっきはごめんな?折角話してくれたのに黙っちゃってさ。感動してたんだ。君は最強なだけじゃなくて全てにおいて完璧なウマ娘になりたいんだな。

…最高だよ。シンボリルドルフ。君は俺に興味はないかもしれないが、俺はもう君の専属トレーナーになりたくてなりたくて仕方がない。

 

本当にミスったよ。あっちの我儘聞いて6月後半まで残るんじゃなかった。4月からちゃんとこっち来てればもっと早く会えたのになぁ。全く、外国いると日本のウマ娘の話題入ってきにくいんだよなぁ。

 

………さてと無駄話は置いといてだな、自己紹介という名のプレゼンをしよう。精一杯気に入って貰えるように話すから、良ければ最後まで聞いてくれ。おれの名前は―――」

 

padを取り出して説明する彼の声は私には届いていなかった。時が止まったようなとはあのような感覚のことを言うのだろう。気づいた時には彼の自己紹介という名のプレゼンテーションのページは14と表示されていた。一瞬やってしまったかと思ったがよく考えたら聞く必要はなかった。自分のトレーナーの経歴や特技、趣味なんてすぐに分かることになるだろう。

 

 

「もう…大丈夫だ」

「いや、ちょっと待ってくれ!まだ経歴も終わってないぞ!良ければ最後までとかさっきは言ったがやっぱり絶対最後まで聞いてくれ!頼む!自分でいうのもなんだが俺も結構凄いとこあるんだよ!」

「…ふふ」

 

目に見えて慌て出す彼を見て久方振りに心からの笑みが零れた。ここまで私をやる気にさせておいて、もう君以外のトレーナーなど考えられないと思っているのに、この男は断られると思っているのだ。

 

さて、このまま大慌てで自分の研究やら論文やら得意分野やらを説明する滑稽な彼を見ているのも面白いが、流石に可哀想になってきた。

 

「違うよ。もう決めたんだ。私のトレーナー君。」

「ホントか!良し!良し!ヨーシ!!じゃあ早速契約書を…」

「待ってくれ。」

「ん?」

 

このまま契約書にサインしても良かったのだが…

 

「すまないな。君の口から聞きたいんだ。さっきは私が止めた言葉をね。ふふ、何事も最初が肝心と言うだろう?」

 

これは半分本当で半分嘘だ。私はただ彼の口から聞きたかったのだ。

 

「あぁ、なるほど。そりゃ道理だ。」

 

そういうと彼は流れるように片膝をついて膝をついて片手を差し出す。

 

「偉大な未来の皇帝シンボリルドルフ。君はたかだか1トレーナーである俺の無茶苦茶な夢を叶えてくれるかい?」

「ふふ」

 

これは良い。少々大袈裟に見えるがトレーナー君と私が歩む遥かな道への第1歩だ。これくらいがちょうど良い。

 

「そうだな。では此方も問おう。たかが1ウマ娘が抱く先の見えない荒唐無稽なこの夢を君は叶えてくれるかな?」

あわせて私が手を差し出す。

彼はニヤリと1度笑って痛いくらいに強く返してくれた。

 

「よろしくな。私のトレーナー君。」

「ちょっと待ってくれ、よろしくしたいが、痛い、痛いぞルドルフ。」

「ふふ、すまないね。」

おや、強く握りすぎていたのは私の方だったかな?

 

「…やんだな、雨。」

「うん。よく晴れた。」

 

 

私はその日、運命の出会いをした。

 




本題まで遠いです。
私は信頼描写とかしっかりした方が後々よくなると思うのでお付き合いいただけると幸いです。

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