似たもの同士はすれ違う   作:エリアルの人間

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もう一度、きみと

 順調だったと思う。

 トレーニングもレースも学園生活も。

 俺とルドルフは何もかもが完璧だった。

 

 皐月賞までは、だか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『差し切った! 皇帝シンボリルドルフ、日本ダービーを制した! これで2つ! 三冠へ王手をかけました!』

 

 難しいレースだった。

 

 俺の想像以上にルドルフはマークされていた。あのバ群を抜けるのは一筋縄ではなかったはずだ。

 

 もし、俺の指示通りの位置で仕掛けてしまってたならば指しきれなかった可能性がある。このレース展開で2バ身差をつけれたのは、自身でなんとかしてくれただけだろう。

 

 ……俺のミスだ。

 予測が甘かった。

 このパターンは想像してなかった。

 しかし、決して想像出来なかったわけではなかっただろう。

 一重に練り込みが甘い。

 

 

 日本ダービーは俺とルドルフで勝利したんじゃない。

 彼女に勝たせて貰ったんだ。

 

「……」

 

 やはり、と言うべきか今回彼女に笑みはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やはり皇帝は強かった! シンボリルドルフ! シニア級の強者を破り、宝塚記念を制しました!』  

「……良し!!」

 

 実況と電光掲示板の文字を確認し、吠えた。

 やはりルドルフは強い。シニアでも問題なく──

 

 ──待て。

 俺は何を喜んでいる? 

 

 何故、声をあげた? 

 何故、こんなにも拳を握りしめている? 

 

 ──何故、いつもの様にいられなかった? 

 

 展開は良かった。最良とは言えなくとも2番目か3番目には入ってくるだろう。

 位置取りも最高だ。おれが思い描く位置にルドルフは着いてくれた。

 タイミング? 文句のつけ所もない。

 

 だったら……勝つに決まってるだろう。

 シンボリルドルフだぞ? 

 俺は皐月賞までと同じように彼女の1着を見届けて、当然だと彼女に頷くだけで良かった。

 のに、それが出来ない。

 

 どうして、出来なかった? 

 

 ルドルフか? そんなわけないだろう。彼女は完璧にやってくれた。

 シニア級だったから? 関係あるか。そんなこと。元から分かってる。

 

 俺だ。俺のメニューが甘かった。

 

 

 

 2度目だ。ダービーに続けて2度。

 俺は君にまた勝たせてもらった。

 

 もう、次はない。

 

 

 

 

 

 

 

 宝塚記念から数日たった。

 

 7月だ。

 春から続いたGIの波も一段落つき、ウマ娘達にとっては秋、冬のGIへと向けて力を蓄える重要な時期。

 

 当然ルドルフも例外ではない。

 いや、特に無敗の三冠の為の菊花賞、さらにその先のジャパンカップと有マ記念を獲るルドルフにとってこの夏の期間の重要度は他のウマ娘とは比較にならない。

 

「……やはり、合宿には参加したいな」

 

 ルドルフのトレーニングメニューを書き込みながら小さく呟く。

 もちろん……ルドルフは合宿に参加しなくても非常に高い水準でトレーニングに取り組んでくれる。

 それこそ他のウマ娘達が合宿で行うトレーニングと同等のレベルを学園でもこなせるだろう。

 だがいかにルドルフといえども当然合宿に参加した方が効率はあがるのは違いない。

 

 

 当然のことではあるのだが目指す頂きが高い分、出来ることなら最適な形をめざしたい所だ。

 加えてルドルフが合宿に来れないと困る一番の理由は他にある。

 

「トレーナー君」

「あぁルドルフ、どうだ?」

 

 ……と考えてるところに丁度ルドルフが部屋にやって来た。

 

 

「……厳しそうだ。やはり私は夏の合宿には参加出来ない」

「そうか」

 

 何となく彼女の入って来た様子で察したが、思った通りの結果だった。

 

 顔には出さないが、心の中で悪態をつく。

 これで俺はルドルフと2ヶ月も離れ離れになることが確定したわけだ。

 確かに完全に手放しになる訳では無い。テレビ通話なりなんなりでミーティング等は出来る。

 

 だが、2ヶ月。……2ヶ月もルドルフを近くで見ていられない。

 不安にならないわけが無いだろう。

 

 

 

 ……何を弱気な。

 

 彼女が生徒会の兼ね合いで練習が疎かになる可能性があることは2年前から知ってたこと。今更な話だ。

 

 

 

 切り替えろ。

 夏合宿用のメニューを書いていたノートを閉じ、新しくもう1冊別のものをとりだす。

 

 

「……すまないな」

「お前が謝ることじゃないだろう」

「君は学園には……」

「あぁ、残れない。たとえお前が参加しなくても行くことになる。確かに俺はルドルフの専属だが……それ以上に立場もある。理事長には世話になっているからな。無茶は言えん」

 

 努めて真っ当な理由を述べる。

 こちらの不安が伝わらないように、いつも通り、冷静に、全く問題などないと示すように。

 

「うん。その通りだ」

 

 彼女は、シンボリルドルフになんら変わりはなかった。

 

 

 本音を言えば、そう、本音を言えばだ。

 俺はお前に止めて欲しかったのかもしれない。ルドルフに「残って欲しい」と言って欲しかった。そうすれば俺は──

 

 

 

 ……確かに迷惑をかけることになるが、時期が時期だ。俺が合宿に参加しないこともきっと理事長や他のトレーナー達も許してくれると思う。

 それに……俺はお前の専属トレーナーなんだ。

 他のトレーナーやウマ娘よりも……お前がみたい。

 

 

 

「ルドルフ」

「なんだい?」

「……次は、勝たせてみせる」

「……」

 

 そんな要らない思考を振り払った。

 

 違う、今考えるのは今度こそどうやって彼女を俺が勝たせるか、だ。

 

 今度こそお前に、”皇帝”に最適なトレーニングを作ってみせる。

 お前の理想に釣り合うメニューを考えてみせる。

 

「任せてくれ、トレーナー君。私は大丈夫さ。君本人が居なくともメニューは残してくれるのだろう? それだけで十分さ」

 

 

 ……俺がいなくても、大丈夫か。

 

 ルドルフに悪意などあるわけがないことは分かっている。お前は優しいから、俺を傷付けるような事は絶対に言わない。

 

 

 だから、その言葉は無意識に出てしまったんだろうな。

 

 

「……そうか、分かった」

 

 もう一度、心に留める。

 次はないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、思っていたのに。

 3度目はたいした期間も開けずにやって来た。

 

『2着! 2着だ! ジャパンカップにて皇帝シンボリルドルフ、遂に敗れた!』

 

 敗北という、あまりにも分かりやすい結果を伴って。

 

 

 

「なん、でだ」

 

 答えはもう分かってるのに、呟く。

 

 ルドルフは”今日”出来る最高の走りをしてくれた。

 しかしそれは……ルドルフが”本来”出来る最高の走りではなかった。

 

 本当なら彼女はもっと強い。

 もっと速い。

 もっと──

 

 そう、勝てた。

 でも現実では敗北している。

 

 原因はなにか? 

 

 ……菊花賞だ。

 いや、菊花だけじゃない。

 

 練習だって少しだけ、オーバーワーク気味だった。

 ……菊花賞の後に気付いたんだ。

 ルドルフが……俺がいない間にメニュー以外にも自主的にトレーニングをしてたこと。

 だって……分かるだろ。

 有り得ないんだ、あの菊花は。

 俺のメニューだけだとあのタイムは出ないんだよ。

 その時俺は初めてそのことを知って、疲労の蓄積が読めなくなって……

 

 

 

「……嘘つけよ」

 

 

 

 嘘だ。そんなの。

 

 本当は気付いてたんだよ。

 菊花賞の前から。

 合宿から帰ってきて、最初にルドルフのトレーニングを見た時に、もう分かったんだ。

 そりゃそうだろう。

 どれだけルドルフを見てきたと思ってるんだ。菊花賞まで気づかないわけない。

 

 だから、その時点で理解していた。

 ……このまま予定通りのメニューをこなしていくと、疲労的にジャパンカップが危ないと。

 

 

 なのに気付かないフリをしたんだ。

 そんな訳ないって。

 ……今までこんなこと1度もなかったんだ。

 

 認めたくない。

 だって……認めてしまったら

 

 ──もうルドルフは俺を信用してないことになるじゃないか。

 

 

 

 だから、知らないフリをして。

 別にこのまま予定通りで行っても菊花賞で無理をしなければほぼ負けることはない。幸い菊花賞は今のルドルフなら最後流しても十分勝てる。問題ない。

 

 なんて、自分に言い聞かせて。

 

 ただ俺がシンボリルドルフと離れたくなかったから。

 俺が彼女の専属で在りたかったから。

 そんな俺の自分勝手なエゴが

 

 

 ──彼女の夢に決して消えない傷をつけた。

 

 

「……」

 

 

 終わりだ。

 まだターフにたつ彼女を見て、思う。

 

 ごめんな、シンボリルドルフ。

 キミにそんな顔をさせてしまって。

 

 

 

 

 

 

 そこからはあまり記憶にない。

 ルドルフを帰して、記者会見で敗戦の原因はとか、シンボリルドルフさんの

 様子はとか、責任は誰にあるかとかこれからどうしますかとか……

 

 そんな質問とその後の対応に追われて学園の自室に着いた時にはもう午後の7時だった。

 

 

「お疲れ様です。トレーナーさん」

「……あぁ、どうも」

 

 自室にはたづなさんがいた。

 どうやらわざわざ待っていてくれたらしい。

 

「……あの、大丈夫ですか?」

「えぇ」

 

 どうやら、傍から見ても中々憔悴したように見えるらしい。

 ……まぁいいか。別にルドルフにみられている訳でも無い。

 

 そんな事よりやるべき事をさっさと済ませてしまおう。

 

「すいません。理事長はまだいらっしゃいますか?」

「はい。まだ居られますが……いかがなさいました?」

 

「……今からお会い出来ますか?」

「可能だと、思います」

「案内お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「惜敗。2着とはいえ素晴らしいレースだった」

「……」

 

 理事長はまずそんな慰めの言葉をくれた。

 いや、慰めではなく本気でそう思ってくれているのかもしれないが。

 

 ……これもまた、どうでもいいか。

 

「暫く、休暇を頂きたいと思います。……少なくとも今年中は」

「……む?」

「ちょっと待ってください! シンボリルドルフさんはどうするんですか!? 彼女は今年の有マ記念に……」

 

 理事長というよりは隣で聞いていたたづなさんの方が強く反応した。理事長はまだ何を言っているのか理解できない様子だ。

 

「彼女のトレーナーは辞任します」

「……え?」

「何故!? き、君たちは学園理想の関係であった! たった一度の敗戦で……」

「たった、じゃないんですよ」

 

 消えないんだ。この敗北は。

 これからどれだけルドルフが勝利を重ねようと

 どれだけルドルフが偉業を成し遂げようと。

 いや、彼女が偉大になればなるほどこの敗北は語られる。

 

 もう、二度と消えることは無い。大きな傷だ。

 それを、俺がつけた。

 

「……では、なんでですか? ……貴方とトレーナーさんの間に何が……」

「……俺とルドルフの問題ですから」

「そんな……」

 

 しばらく、誰も口を開かなかった。

 

 たづなさんは信じられないといった目で。

 理事長は、正気かと疑うような目で。

 

 じっと俺をみていた。

 

 

 

「……了承」

「理事長!?」

「これは彼らの関係だ。……但し、彼女の承認も得られなければ認められない。まだ伝えてないのだろう?」

「そのことなんですが……たづなさん。本当に申し訳ないのですが、ルドルフにはたづなさんの方から伝えて貰えないでしょうか」

「……私ですか?」

「……はい」

 

 勿論情けない事を言っているのは分かっている。

 

 でも……きっと俺が直接伝えに行ったら俺はルドルフの担当を辞められない。

 

 彼女は優しいから。

 きっと俺を許してくれる。

 もう一度頑張ろうと、俺が欲しい言葉をくれる。

 

 それは、嫌だった。

 

 

「……はい。分かりました。なんとお伝えすれば宜しいですか?」

「ただ、契約の解消だけ伝えてくれれば良いです。……それで、伝わります」

「分かりました」

 

 直ぐにたづなさんは部屋の外へと出ていく。

 理由は聞かずにいてくれた。

 ……本当に有難かった。

 

 

「理事長。俺のデスクとパソコンにルドルフの事のメニューや対策ノート等が入っております。……少しは引き継ぐトレーナーの役にたつでしょう。

 ルドルフにも自由に使っていいとお伝えください」

「……」

 

「……では、失礼致します」

 

 特にもう話す事もなかった。

 一礼だけしてドアノブにと手をかける。

 

「不問。今は何も聞かないぞ。……だが、年明け。元日に私は君を呼び出そう。その時までに立ち上がっていてくれ。

 

 君は……日本ウマ娘界にとって……必要な人材だ」

 

 

 返事はしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからは、何をしていたけっか。

 

 適当に車を走らせた。

 地元へは帰れなかったからとりあえず、何となくで車を走らせた。海とか、山とかなんの目的もなく。疲れたら近くにホテルをとった。

 下手にルドルフのトレーナーだったとバレるのも嫌だったから、マスクとかサングラスなんかもして。

 

 

 連絡も結構きていた。

 たづなさんとか、エアグルーヴのトレーナーを含めた同僚のトレーナー達。幾人か面倒を見た事があるウマ娘からも。一応心配は無いとだけ返信しておいた。

 やはりと言うべきか、ルドルフからは何もなかったが。

 

 

 何も、決まらなかった。

 これからどうするかなんて、考える気力も湧かなかった。

 1週間、2週間と無意味な時間が過ぎていって……

 

 12月の末。

 気が付いたら中山レース場に着いていた。

 我ながら呆れる。まだ未練があるようで自分でも驚いた。

 

 

「……誰が勝つと思う?」

「やっぱり皇帝シンボリルドルフ?」

「……いやぁ、でもなぁ。世代最強と言っても……有マは分からないぞ?」

「そうよねぇ……宝塚記念は危なかったしジャパンカップは……」

「あぁ。それに負けたのは大きいぞ」

「……そうだよなぁ……初めて負けたって事はメンタルもキツイよなぁ」

 

 観客からそんなルドルフの勝利を疑問視する声が少なくなく聞こえた。

 ……腹立たしいにも程がある。

 

 お前ら如きに何が分かる。

 ルドルフが負けたのは俺が原因だ。

 更に良いトレーナーがついたであろう今の彼女なら負けるわけが無い。

 ちらりとパドックを見た感じ絶好調とは言わんまでも調子も仕上がりも良かった。

 そもそも有マはルドルフが1番得意といっても良い2500m。加えて……安定して勝つだけのレベルになら学園の合宿が終わった頃には既に達していた。

 

 

 素人の予想程度で彼女を語るな。

 今日のルドルフには”絶対”がある。

 

 

 ……なんて、一瞬思ったが。

 前のレースを見てしまったら、そう思うのも当然か。それに俺に反論する資格もない。

 1人でそう納得して、黙っておこうと思っていた。

 ……のだが、隣で座っていたウマ娘が立ち上がった。そのままズンズンとその観客の元へ近付いていって

 

「君達うるさいなぁ! シンボリルドルフさんは絶対勝つもん! はじまる前から変な事言わないでよ!」

 

 威勢よく啖呵を切った。

 

「でもねぇ……まだ子どもの貴方には分からなかもしれないけれど……」

「ボク子どもじゃないもん!」

 

「……まぁまぁお嬢ちゃん。あんまり騒いでも他の人の迷惑になるから……」

「ボクよりもおじさんたちの方がよっぽど迷惑じゃん! ボクみたいにシンボリルドルフさんを応援しに来ている人だって沢山いるのに……勝手なこと言って不安にさせないでよ!」

 

 その娘の勢いに押されて、その集団はここを離れて別の場所へと去っていった。彼ら以外にもヒソヒソと同じような事を話していた奴もピタリとその口を止めたようだ。

 

 正直、有難かった。

 自業自得とはいえ俺の所為でルドルフが批判されているのを聞いているのは、針のむしろに座っているような気分だった。

 

「……やるな、君。ありがとう。スッとしたよ」

「だってムカついたんだもん。わざわざ口に出さなくていいじゃん。……ルドルフさんは凄いんだ。……絶対負けないもん」

 

 戻ってきた彼女に声をかけ感謝を伝えると、嬉しい言葉を返してくれる。

 

 しかし……そうは口で言ってもやはり不安なのだろう。目じりに涙が浮かんでいた。

 

 

「安心するといい。今日は……あの時の、ジャパンカップのような間違いは起こらない」

「……ホント?」

「あぁ」

「……」

 

 このウマ娘を不安にさせてしまった理由も元を辿れば俺のせいだ。

 

「説明しよう」

 

 恩返し……と言うよりも贖罪というべきか。こんな事で何が変わる訳でもないが。

 できる限りこのウマ娘の不安が晴れるように詳しく説明した。

 バ場だとか、距離だとか。

 出場するウマ娘と比べてルドルフはどうだとか。

 

「……だから、最低でも2分の1。上手く行けば2バ身は差をつけて勝てる」

「……」

 

 あまりレースの事を理解していない小学生位の子でも分かりやすいように説明したつもりだったのだが……理解出来なかったのだろうか。

 まさしく”ポカン”といった顔をしている。

 

「お兄さん、なんでそんなに詳しいの……?」

「……いや。……なんでと言われても」

「……わかった! お兄さんもルドルフさんの大ファンなんだね!」

 

 ……どうやら目的は果たすことは出来たようだ。先程とは打って変わって元気ハツラツといった様子だ。

 

 それにしても”ファン”か。

 

 ……そうか。今の俺はただのシンボリルドルフのファンにすぎないなのか。

 

「あぁ、そうだな。俺も彼女のファンなんだよ」

「だよね! ボクお兄さんの事気に入っちゃった! でも勿体ないなぁ! さっきの人達にも同じこといってやれば良かったのに!」

「……そんな資格はないんだ」

「……?」

「まぁ、どうでもいいだろう。そんなことは」

 

 少し強引に話を切った。

 自分の身の上話など赤の他人にしたいわけが無い。

 それに……

 

「はじまるぞ」

 

 ファンだからな。

 応援しないといけないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『残り1000メートルを通過。これから最終コーナーへと入っていきます!』

 

 2500メートル。長距離とはいえどもウマ娘の脚力ならば終わるのはあっという間だ。

 既に残り1000メートル。レースも終盤に差し掛かる。

 

「ルドルフさん……! ルドルフさん……!」

「落ち着け」

「ムリだよ!」

 

 レース序盤から隣はずっとこんな感じで祈っているのだが……説明した意味があったのか? 

 

「大丈夫だ。教えた通りだろ?」

「でもやっぱりボク不安だよ!!」

 

 ……確かに言葉だけではそう思うのも無理はないが、本当に心配はない。

 

 ルドルフの位置は最初からここまで理想的だ。俺がまだトレーナーだったらソコにつけと指示するだろう。

 レース状況も最上に近い。

 

 ならばもう何の不安がある? 

 

 

『さぁ最後の直線に入ります! シンボリルドルフまだ来ないか!?』

「ねぇ! そろそろ仕掛けた方が良くない!? ルドルフさん間に合わないよ!」

「違う」

「違うってなにさ!」

 

 まだだ。まだ仕掛けるには早い。今仕掛けると前にいる4番と5番、14番が邪魔だ。行けなくはないが無駄にスタミナを使う。

 

 少し……もう少し待て。

 五番がこれから先に仕掛けるだろう。

 そうすれば、道が出来る。

 

「……今だ」

 

 

 呟くと同時に皇帝は動いた。

 

 ひとり、またひとりと。

 皇帝は止まらない。

 抜けば抜くほど、彼女は加速する。

 

 ほら見ろ。もう彼女の前には誰もいない。思った通り、完璧だ。このまま最高速を保って2バ身。これでルドルフの勝──

 

「……は?」

「スゴい……!」

 

 まだ止まらない。

 まだ加速する。

 

 2バ身なんてものでは無い。2着との差が3バ身、4バ身と離れていく。

 

 俺が知っているよりもずっと速い。

 ずっと強い。

 

 その姿は、まさしく”頂点”

 

 

『決まった! 圧勝!! 皇帝が帰ってきた! 年末最後の大一番はシンボリルドルフが制した!!』

「やったァ! スゴいよ! 圧勝だよ! やっぱりシンボリルドルフさんはサイキョーなんだ!」

 

 何も、入ってこなかった。

 会場を揺るがすほどの歓声も。

 隣ではしゃいで俺を叩くウマ娘も。

 

 ただ情けなくて。

 

 あぁ、ルドルフ。お前は……このひと月どれだけ努力したんだ? 

 

 文字通り、血を吐くような。いや、そんな生温い言葉では足りない程の努力があったんだろう。

 それだけのトレーニングをさせて怪我をさせずに調子をも保つトレーナーも俺より遥かに優れていることに違いはないが、もう、これはトレーナーとかどうこうじゃない。

 

 

 なのに、そんなルドルフに対して──―

 

「……何を、してんだ、おれは!」

 

 この一月何をしていた? 

 たった一度の敗北で、夢やぶれたと自暴自棄になって……

 大違いだ。何が釣り合うだ。馬鹿も程々にしとけよ。

 釣り合う以前の問題だろうが。

 

 

 

「……お兄さん?」

 

 

 

 ……なのに。

 

 

 あぁ、やっぱり駄目だ。

 今日もう一度お前の姿をみて、走りをみて、どうしようもなく思ってしまった。

 

 シンボリルドルフ、やっぱり俺は君のトレーナーになりたい。

 

 

「……大丈夫?」

 

 どうやら心配をかけてしまったようだ。

 まだトレセンにも入っていないような小さなウマ娘に心配されるなんて、本当に自分自身が嫌になる。

 

 

「……いや、すまない。……大丈夫だ」

 

 

 そう、もう大丈夫。

 

 覚悟は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、考えた。

 どうすれば良いか。

 もう一度彼女に必要とされる方法を。

 自分自身が納得して君の隣に立てる方法を。

 ……正直全然思い浮かばなくて、そんな方法あるのかなんて最初は思ったりもしたが、

 

「……そうか」

 

 簡単なことだった。

 

 示せば良いんだ。結果で。

 俺はルドルフをもっと強くできると、彼女自身に示してやれば良い。

 

 どうやって? 

 

 ──皇帝を超える。

 

 1回だけでもいい。

 まぐれだっていい。

 シンボリルドルフ、彼女を超えるウマ娘を育てれば証明できる。

 ──俺ならばお前をもっと強く出来る、と。

 

「……ハハ」

 

 

 可能か? そんな事が。

 

 分かってるだろう。

 彼女がどれだけ強いのか。

 1番近くで見てきたんだ。誰よりも分かってる。

 

 

「……だが、勝つ」

 

 

 生憎もう諦められない。

 やはり俺は、お前のファンでは嫌なんだ。お前を見ていたいんじゃない。応援したいんじゃない。

 俺は、お前と共に歩みたい。

 

 だから──

 

「──勝ってみせるぞ、”皇帝”シンボリルドルフ」

 

 その後でもう一度、言わせて欲しい。

 

 今度こそ、俺に君の夢を叶えさせてくれ。

 




一応書きたいところまではかけました。
雑ですが、感想も返していきます。

面白いと思っていただけましたら評価や感想いただけると幸いですが…
それよりもわたしの2天井ヤエノムテキ完凸チャレンジの成功を願っていただけると嬉しいです。

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