空想科学部門は予想通り動揺していた。
だが、決してパニックにはなっていない。
これくらいのことはよくあること。
かつてジャニファーが握りつぶされたことに比べれば何ともないのだ。
(・・・ここにいる奴らはクソ野郎ばかりだけど、死んだら後味悪いんだよな)
そう思いながら、メインルームに向かう。
座標不明の空間に部門は展開されており、
メインルームと何百ものサブルームが存在する。
そこに向かう途中で、同僚に出会った。
「よお、アンゲルス」
「おっ、モリアーティー。クソったれな事態になったな」
「そうだな。あと、もう何百回も言ったが、僕の名前は森崎だ」
森崎駿は別の物語層から雇用された局員だ。
ちなみにスカウトしたのはアンゲルスだ。
魔法科高校の劣等生の物語層の宇宙の一つに潜入したときのことだ。
アンゲルスの知る中ではクソッたれではないクソ野郎だった。
この部門にいるだけで、クソ野郎なのは避けられないのだが。
事実、森崎にだってクソったれな部分はあるのだから。
だからこそ、空科の人間だ。
「それで、森崎。どこの物語の馬鹿がやらかした?」
「魔法少女まどか☆マギカ外伝マギアレコードだろうな。
リゾート予定地だったからな。しかし、普通は壁を破れないはずだ」
「おおかた、誰かが報告書を落っことしたんじゃねえか?
この前もそれが原因でミルキィホームズがカチコミしてきたじゃねえか。
あれは他の奴らが即座に処分してくれたけど。
それよりも、情報が欲しい。そうじゃねえとやってらんねえ」
「残念だが、メインルームもサブルームも画面という画面が命乞いでびっしりだ」
「うへえ。あまり罪悪感をかきたてないでほしいんだけどな」
仕方がないので、適当な休憩室でやり過ごすことにした。
空想科学部門の休憩室はベッドも付いているのだ。
どこぞの地上本部とは天と地の差である。
アンゲルスはコーラを飲み干して、ベッドに寝転んだ。
誰かが置き忘れていた漫画がある。怪盗少女マジカルきりんだ。
主にマギアレコードの物語層で確認される漫画作品だ。
意外と面白いので、空科でも人気を博している。
「・・・あれ、そういやこれは無事なんだな?」
「どういうことだ、アンゲルス?」
適当なページを開いてみせた。
すると、普通に漫画が書かれていた。
「そういやそうだな・・・だが、それがどうしたんだ?」
「モッリーは大事な本にびっしりと落書きされたらどうする?」
「撃ち殺す。あと、僕の名前は森崎だ」
「だろ?そこだよ、そこ。つまり、第四の壁を破った奴を見破れるってことだ。
そいつはマジカルきりんが好きな奴ってことだからな。
まあ、俺はマギレコをそんな知らんから、マギレコ好きなやつに・・・」
「ところがどっこい、そいつらは何か知らんがアニ・レオンハートみたいになった」
そう言って入ってきたのは、プロジェクトリーダーのバラスだ。
彼は普通に管理世界出身の局員だ。
空科は魔法少女リリカルなのはの物語層の人間と、別の物語層の人間で構成されている。
大半は当然、管理世界出身者だが。
「アニ・レオンハートって・・・水晶に閉じ込められたのか?」
「ある意味で死人に口なしだ。まだ生きてるけど。私は知識がなかったから助かったがね。
これから消し去る登場人物なんて知る必要もなんてないからね」
こいつもなかなかのクソ野郎だ。
程度は違うが、みんながみんな、クソ野郎だ。
空科に善性を期待するのは間違ってるのだ。
「ところで、アンゲルスくん。例の報告書は渡してくれたかね?」
「内容が命乞いに変わった上に、炭化したがな。
まあ、内容の要約は伝えといたから、時間の問題だぞ。
ただし、あの変態の裾が炭化したから、そっちの意味でも時間の問題だ」
「向こう側の先住民が消えるか、こっちが炭化するか、か。
最悪のチキンレースだね。まあ、いつものことだが。
アンゲルスくん、こんな事態だからこそ頼みたいことがある。
第四の壁を破りやがった身の程知らずを消してほしい」
アンゲルスはかったるそうに黒い手袋をはめた。
「部門長の許可はもらってるんだろうな?」
「もちろん。こういうのは君の得意分野だろ?
すまんね、プロジェクトに協力してもらってただけなのに」
「いや、ここ最近は平穏な任務ばっかりだったからな。
こういった任務もあってくれたほうがありがたいくらいだ」