SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部 作:大野 紫咲
ユイトはSOATで、イサクとリアを伴って作戦会議を行う。
1-1 発端
「今月に入ってもう114件目か……どうなってる……?」
通報のあった箇所を記した、セブンスコード全域を示すマップを薄暗い会議室で眺め、ユイト――
不老不死の存在・アウロラの解析と繁殖を目的として、とある人物が仮想空間であるセブンスコードを〝捕縛〟状態に置き、ログイン中の大勢のユーザーを巻き込んだ、12ヶ月間のマインドジャック事件から、はや数ヶ月。
このセブンスコードの基盤そのものでもあった少女・アウロラに代わって、彼女の肉体と記憶を「コード」として受け継ぐことになったユイトは、新しいセブンスコードの創設者――大仰な言い方をすれば「神様」として、常時は人前に姿を現わすことなく、このSOATの最上部で部隊の指揮や街の運営に携わっていた。
「いやぁ……ついこの間まで、暇すぎるくらい平和だと思ったんだけどなー。
だいたいが、市民の小競り合いとかそういう感じの奴で、行っても大したことはねーんだけどさ。
にしてもこの頻度、どうなっちゃってんの」
「イサク、お前達の方でも何か新しい情報は掴めていないんだったな」
「まぁねぇ……オレたちが鎮圧に行くと、大概はみんな憑き物が落ちたみてーに大人しくなるしさ。
聴取したヤツらも、よく覚えてねーんだとか、訳の分からないことを言いやがるし」
ユイトの同僚でもあり、相棒でもあるイサク――
会議に参加していたもう一人の女性も、いつもはひだまりのように穏やかな微笑みを浮かべている顔を、困惑の色に染めていた。
「街には量産型の植能を所持している方も多くいますし、傷害事件に発展する事例もあるみたいで……いずれにしろ、早めに対処しなくては、危険です」
「今、榊が植能の所持申請制度を整備してるんだっけか?」
「はい。SOATの隊員にしか植能の所持が認められていないことが、人々の不満に繋がるのならば、制限つきで一般人も正式に所持出来るようになればいいのではないかと、橿原さんが仰って」
イサクに呼び掛けられ、健気にうなずいたその女性――
あまりに働き者で、ユイトもイサクも時々心配になるぐらいだが、本人は「こう見えてタフなのが取り柄なので」と昼夜問わず動き回っていた。
ユイトが、リアを前に小さく眉根を寄せる。
「いや、しかし……これだけの数の事件が起きると、リアも新制度の設立以前に、諸々の対処が大変だろ? やはり、少し落ち着くまで、植能所持の件に関してはSOAT隊員のみに制限を掛けた方が」
「いえっ! やらせてくださいっ! 一度宣言したことを撤回してしまうと、SOATの信用問題にも関わります。それに雑事に関しては、仕事をよく分かってらっしゃる
「そうか……?」
「橿原さんの、作り上げた街ですから。みなさんの居場所を守るためにも、私がお手伝いできることはやりたいんです」
ひたむきな瞳を見ながら、ユイトの目が驚いたように微かに見開かれた。
「リア、そこまで、セブンスコードのことを……。わかった。だが、無理はしないでくれ。お前が皆のことをそう思うのと同じように、ボクにとってもリアは、大切な仲間だ」
「ひゃ、ひゃいっ! そんな、ご心配いただいて、ありがとうございますっ……!」
若干赤くなって、慌てたように制服のマントをぱたぱたさせるリアを見ながら、イサクがからかい気味に声を上げる。
「お~お~、相変わらずお熱いねぇ、ご両人。ここにオレが居る事忘れてない?」
「青柳さんっ! こっ、これは、そんなんでは……っ!」
「イサク、彼女が困っているだろ。ボクはただ純粋に、彼女を心配して声を掛けただけだ」
「なんでだよ! お前らが真面目すぎてなんっにも進展しねーから、オレが気ぃ遣ってやってんですけど!?」
一時の緊張から解放され、会議室が和やかな雰囲気に包まれたその時。
バタバタと慌ただしい足音がして、部屋の扉が開く。SOATの制服がぶかぶかに見えるほど、華奢で小柄な――と言っても、身長180cm近いユイトと比べて、という意味だが――人影が覗いた。
「カシハラ! E3地区でまた通報! 大通りの近くで、酔っ払いが倒れたまま動かなくなってるってさ!」
「ヨハネか……。ノックぐらいしろ。大事な会議中だったらどうするんだ」
「はぁ? あんたがリアちゃん達と3人で部屋貸し切ってるんだから、隊長のボクが乱入したところで何も問題ないでしょ」
「何も問題ないって、お前な……」
「ふ~ん? それとも何? ボクには聞かせられないような、いかがわしい会話でもしてたってワケ?」
「はぁ……隊長になっても、相変わらず憎まれ口の減らないヤツだな」
「あんたこそ、些末な事に囚われて、全ッ然問題の本質を見ようとしないよね」
「お前がいちいち揚げ足を取るからだろ!」
「あんたがくだらない挑発にいちいち反応してくるからでしょ!」
険しい瞳で食ってかかりながら、エンドレスでユイトと言い争いを続けるのは、褐色肌とショートボブの中性的な女――ヨハネこと
その見目麗しさに似合わない口の悪さを誇りながらも、仲間を思う強さと隠れた正義感は人一倍――のはずなのだが、何故かユイトとは、〝捕縛〟で知り合った当初からすこぶる折り合いが悪い。
もはや名物となったそのやり取りを眺めていたリアが、苦笑して間に入った。
「ま、まあまあ……ヨハネさん、通報があったなら、すぐ隊員をそっちに派遣しないといけませんよね」
「リアちゃん! そ、そうだった。こんな事してる場合じゃない……」
「E3地区でしたら、近くの詰所に片桐隊長が今視察で行っているはずです。すぐに連絡して、向かってもらいましょう」
「わかった。念のため、ボクも向かうことにするよ」
「たかが酔っ払いの補導だろ? 一部隊に任せときゃ、わざわざ隊長のお前がこっから出向くことねぇんじゃねーの?」
イサクがそう止めたが、既に会議室の扉を開けながら、ヨハネは軽く首を振る。
「状況がよくわからないんだけど、人数が多いみたいだし、最近の事件のこともあるからね。いくら害のなさそうな通報って言っても、油断はできない。何かちょっとでも原因の手がかりになりそうなことがあれば、ボクが調べてくる」
そう言って、颯爽とマントを翻し去って行く後ろ姿を眺めながら、イサクがぽつりと呟いた。
「……なんだかんだ言って、あいつが一番、隊長としてアツい奴だと思うんだけどなぁ」
「ボクに突っ掛かるのさえやめてくれれば、いくらでも隊長としての職務に励んで欲しいんだが」
「なんだよ、なんだかんだ言って、お前も結構認めてるんじゃん?」
「一応は〝恩人〟だからな。とはいえ、横にいるだけで疲れるし癪に障る……」
ものすごく嫌そうな口調でユイトが口にした「恩人」は、他でもないヨハネ本人に散々言わされたものだ。事実〝捕縛〟当時、ヨハネは共に困難を乗り越えた影の立役者とでも言うべき存在で、当然彼女の力なしでは今の自分がなかったこともユイトは自覚しているが、それと仲の良さとはまた別の問題である。
「まぁ、市井のことは、一時期賭場にも出入りしていたヨハネが一番詳しい……何か、ボクらでも見落としがちなことに気が付くかもしれない。
あいつの報告を待って、出来る限りの対策を取れるように、こっちも動こう」
〝セブンスコードの神様〟とまで銘打たれるようになってしまったユイトは、かつて唯の「カシハラ ユイト」だった頃のようには、おいそれと動けない。
不老不死の生命体――アウロラの肉体を、データ化してバーチャル空間の基盤としていることは、セブンスコード運営の中でも本当に限られた人員しか知らない、トップシークレットだ。
そして、アウロラの全てのデータをその身に刻まれているユイトは、まさにこの街の実権と機能そのものと言っていい。
マインドジャック事件を起こした張本人である、ニレ――アウロラの研究チームで助教を務めていた
それが、イサクやヨハネを始めとするユイトの仲間達が決めた、密やかなSOATの存在意義だった。
真剣なユイトの顔から送られる信頼のまなざしを、リアとイサクは頷いたままで受け止めた。