SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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ムラサキの使った謎のチョコレート。
その正体を訝しむソウル達の元に、聞き込み調査中のヨハネが訪れる。
何とかムラサキの存在を隠そうと思った二人は……?


1-12 嫌疑

第12節 嫌疑

 

 アオカゲを名乗る人間たちから予期せぬ襲撃を受けて、程なく。

 落ち着きを取り戻した喫茶・クロカゲの営業時間が終わり、心ここにあらずといった様子で、手元の皿を拭き続けるソウルに、ウルカが気遣わしげに尋ねた。

 

「ソウル、もしかして、この間のムラサキのこと考えてる……?」

 

 はっとして、顔を上げるソウル。

 自らの心配事を、見て分かるほど顔に出してしまったことにバツの悪い思いをしつつ、ソウルはツンと立った銀髪を彩る髪留めを直しながら、素直にうなずいた。

 

「ああ、うん……。あん時、ウルカは避難してていなかったから見てねえかもしんないけど、姐さん、あの男に口移しでなんかやってるように見えてさ……

助けてもらったんだから、別に気にする必要もねえけど、なんだったのかなーって……」

 

 驚くかと思いきや、ウルカはしばらく無言で何かを考えていた。

 しばらくして立ち上がると、階上の自室に行き、何かを取って戻ってくる。その手には、ウルカがよく使っているポーチが握られていた。

 不思議そうなソウルの前で、その中から小さな巾着包みを取り出し、紐を緩めるウルカ。中身を覗き込んだソウルが、驚きの声を上げる。

 

「これっ……! チョコレート! まさか、姐さんのと同じ!?」

「うん。多分、そう。前に、ムラサキにもらったことあるの。私じゃなくて、他の女の子たちも。

ソウルは確か、あの時いなかったよね。前に、泥酔したお客が店に入って来て、ベビードールの子達が無理矢理暴力を振るわれそうになったことがあったって、話したでしょ? その時も、ムラサキは助けてくれたんだ。……あんな風に」

 

 少しその切なげな目を伏せたのは、不本意な接吻を実際に目の当たりにしていたからかもしれない。

 指でつまむと溶けそうなので、巾着ごしに、その何の変哲もない四角いチョコレートをソウルはしげしげと眺めた。

 

「なんなんだ、これ? ウルカは、食ったことあんの?」

「ううん。自分で食べちゃダメだって言われた。もちろん、お客さんとか友達にもあげちゃダメって。……すごい強力な、媚薬入りなんだって。私やベビードールの子達が、たまに強引な客がいて困ってるんだって話をしたら、そういう状況でも相手を追い払えるようにって、護身用にくれたの」

「や、媚薬はマズくね? 奴ら、逆効果じゃん」

「でも、毒物を盛ったら、ベビードールの子達が罪に問われちゃうでしょ。これ、体から力が抜けちゃったり、頭がぼんやりして……そう、酔っぱらったのと似た状態になるんだって言ってた。もちろん量は調節できるけど、使った人間に興味が向かなくなるぐらい、強いんだって。だけど、毒や電子ドラッグとは違って、殻に痕跡が残らないみたい」

 

 一応調べたけど、命に関わるような物質は入ってなかったよ、と言われ、胸を撫で下ろしながらも、ソウルは尋ねる。 

 

「まあ……実際あの男も、ぼーっとして店から出てっただけだもんな……。にしても、セブンスコードって生身の体と違ってデータの世界だから、薬の調合って結構難しいんだろ。姐さんは一体どうやってこんなものを」

「さあ……それは教えてくれなかったの。『原材料秘密だから! 絶対に、こいつは口からゲロ吐かせても構わないって思うぐらいのクソ相手の時だけ使ってね、自分に向けて使っちゃ絶対にダメだからね!』って」

 

 その言い方に、思わず噴き出すソウル。

 いくらムラサキの口真似とはいえ、ウルカの口から出る言葉とは思えず、その汚い語彙にしばらく笑いが止まらなくなったが、ふと真顔になって、フロアのテーブルの上を拭きながら言った。

 

「それにしても、ますます姐さんって謎な存在になったよなー」

「うん。私達のこと、気に掛けてくれるのは嬉しいけど、ムラサキ自身のこととか、どうしてセブンスコードに来たのかとか、何も知らない……。それなのに、話してると時々、すごく不思議な気分になるんだ。まるで、ずっと前から知ってる人と、一緒に話してるような……」

「あ、それオレもわかる。なんだろなぁ、初めて会ったって気がしなかったんだよな、姐さんは」

 

 こういう裏の世界でいると、どんな相手であれ嫌でも警戒せざるを得ないというのに、ムラサキはどんなに謎めいた人物であれ、不思議とそういう気持ちを抱かせないのだ。

 そう思って二人が首を傾げていたところへ――「準備中」の札を下げた扉が開かれて、かららんとドアベルが鳴った。見慣れたSOATの制服姿の人物が、勢いよくフロアを歩み寄って来る。

 

「おいっ、『着物姿の淫魔』が出入りしてるって噂の店は、ここか!?」

「なんなんスかもう~、ヨハネ隊長。入って来るなり……こっちはもう営業終了してるんですけど。ちょっと落ち着いて水でも飲んだらどうっすか」

「いいだろ、聞き込み調査の仕事なんだから。……で、何か知らないか。最近、和服姿の妙な女が、このへんをうろついてるらしいって噂。実はボクも会ったことある。店の客に、そういう奴がいないか教えて欲しい」

 

 よほど気合が入っているらしいと見えた。

 水の入ったコップを渡すウルカにお礼を言い、ぶはあっと一気に飲み干したヨハネを前にして、ソウルはちょっとだけウルカと相談するように目配せをする。

 

「あ~~……すんません、オレら、昼営業のスタッフがメインなんで、あんまり夜の賭場のことは知んなくて」

「てことは、それらしい奴の姿を、昼に見たことはないんだな?」

「ええ、まあ」

 

 たしかに、「客として」見たことはない。ムラサキは、喫茶・クロカゲの従業員として働いているのだから。嘘はついてない。

 心の中で言い訳して頷くソウルの前で、ヨハネはただでさえ彫りの深い顔に、刻まれて取れなくなるんじゃないかと言うぐらい深い皺を寄せている。

 

「通報がある前に収束したらしいんだけど、何日か前の夜に、ここで乱闘騒ぎがあったって聞いたんだ。何人かの男が、クロカゲを襲撃して女を拉致ろうとしたとかで……そん時の客から、和服姿の女がリーダー格の男を骨抜きにしたとかって……」

「あ、あ~~……なんか、そんな風に言ってる奴いたっすね。オレ誘導と防御に必死で、全然見てなかったんすけど」

「あの時、大半のお客さんは避難しちゃってたし、たとえ和服姿の女性がいたとしても、勘違いじゃないかな……? あの時はコスプレOKのイベントにしてたから、普段と違う格好の人、いっぱいいたしっ……!」

「そうか……まあ、普通あり得ないよな。小柄な女が一人で、なんて。いや、ボクだって信じたくないんだけど……前に見ちゃったっていうか……」

 

 援護したウルカの証言もあり、ヨハネはあっさりと信じたらしいが、相変わらずテーブルに座ったままで頭を抱えている。

 このままにしておくと、しらばっくれ続けたとしても何か気付くかもしれない、と危ぶんだソウルは、無理矢理話題を変える事にした。

 

「そ、そ~いえばあの襲ってきた奴ら、アオカゲとかっていうらしいっすよ。クロカゲの後に出来た新しい勢力とかで……」

「アオカゲ……?」

「なんか、オージさんとリーダーっぽい男が会話してた時に、そう言ってました。なんか、お前らへの不満を俺らが代わりに晴らすー、みたいな感じで……難しくて、オレにはよく分かんなかったっすけど。迷惑な話ですよね」

「前と違ってギャンブルの縛りが厳しくなったから、うちに不満を持っていたみたい。でも、それだけじゃなさそうだったけど……」

 

 ソウルとウルカの話を聞き、手袋を顎の下に当てながら、ふむ、と頷くヨハネ。

 

「なるほど……。そいつら、調べてみる必要があるな」

「あ、そうそう! そいやオージさんが、戦闘した時に男が妙な能力使ったっつってました! なんか植能じゃなくて、とにかく変な……オレの位置からよく見えなかったんすけど!」

「何だって? てことは、もしかしてこれは、イサクが言ってたエレメントのことと関係が……。オージか。わかった、そっちを当たってみるよ。ありがとう」

 

 独り言を言うように呟いてから礼を言うと、隊服を翻して、ヨハネは風のように去って行った。

 「みんな! ヴァイスドームにこれから急行だ!」という威勢のいい声が表から聞こえてくるのを耳にして、ソウルはどっと疲れたまま、安心の溜め息を吐く。さすがのウルカも、ほっとした表情だ。

 さっきまで頭を抱えていたヨハネと反対に、今度はソウルが机につっぷした。

 

「あ~あ~、姐さん目立つことやり過ぎなんだよぉ……! 一応アオカゲの話を出してヨハネさんの気ぃ逸らすことには成功したけど、このまんまじゃ姐さんがアオカゲ絡みで事件を起こしてるって疑われかねねぇじゃん」

「捜査の結果によっては、そうなるかも……。でも、あの場でムラサキが助けてくれたってことを証言したら、今度はうちで庇ってあげられなくなっちゃうし」

 

 どうしようもないことながら、疑いが向かないことを祈るしか、二人には出来なかった。心配そうな顔をしていたウルカだが、ヨハネが出て行った扉を見つめ、背筋を伸ばしながら、毅然として呟く。

 

「ムラサキは、うちの女の子たちを守ってくれたよ、何回も。今度は、私達が守ってあげなきゃ」

 

 その言葉には、ソウルも同意しながら、隣で力強く頷いたのだった。

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