SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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手錠が外れないため、止むを得ず一緒に行動することになったヨハネとムラサキ。
飛ばされた八尺様の帽子をミカが回収する一方、二人はパソコンから手錠の解除キーを入手するべく、SOATの寮に入ろうとするが……?


1-17 潜入

第17節 潜入

 

「リバーッ!」

 

 勢いよく声を掛けたミカが、その剛腕で剣を振り下ろす。

 がきんっ! と金属同士がぶつかる音がして、跳ね返された刃をさすりながら、眉根を下げたミカは困ったようにヨハネを見た。

 

「ヨハネぇ、やっぱりこれ無理よぉ。どんな凶悪犯でも逃げられないようにって、最高難易度のセキュリティと強度を使ってロックしてある手錠なのよ? アタシのリバーごときで太刀打ち出来るわけないじゃないのぉ」

「そこを! なんとか! さっきは八尺様の手首ごと切り落としたぐらいの凄い刀だろ!?」

「さっきのミカちゃん、格好良かったねぇ。ほんと、たまにこう、凄い漢気を覗かせるところがたまらなくイイっていうか」

「あらムラサキちゃん、分かってるじゃないの♡ でもあんなとこ見られちゃって、アタシちょっと恥ずかしいわぁ~」

 

 手錠の間の鎖をぶらんと揺らしながら、のほほんと会話するムラサキと、それを受けて照れたようにテンションが上がるミカを見たヨハネが、鎖の反対側で繋がれた己の手首を前に、がっくりと頭を垂れる。

 

 約一時間ほど前。

 八尺様と仮称を定めた化け物が街中を徘徊する直前に、ムラサキを確保したヨハネは、彼女が逃げないよう手錠で互いの手首を繋いだまま行動を共にしていたのだが、あろうことか、ダメージを与えた八尺様に、落とした手錠の鍵ごと逃亡されてしまったのだった。

 おかげ様で、二人は手を繋ぐとまではいかずとも、程近い距離のまま、離れられずにいる。

 

「ね~ヨハネ、結局ムラサキちゃんを捕まえるって目的は達成したんだから、それでいーじゃないの。このまんまSOATに連れ帰っちゃえば、事足りるじゃない?」

「バカッ、こんな体で本部に戻ってみろ! どー考えても他の隊員たちの笑い物になるだろうがッ!」

「変なところ気にするっていうか、真面目ねぇあんた……」

 

 もう何度か刀を当ててみるものの、やはり全く効果がない。

 火花を散らす鋼鉄の鎖を目の前で見ていたムラサキは、ふと思い立って、遠慮がちにミカに問い掛けた。

 

「あの~~……この世界ってさ、トイレ行きたくなったりしない?」

「ああ、それはね、心配しなくて大丈夫よぉ。一応、見慣れた景観を作るって目的で、トイレ自体は建物の構造に自動で組み込まれてるけど、アタシ達は手とか顔洗う以外に使わないし、普通のアバターは催したりしないから☆」

 

 その答えを聞いたムラサキが、ほっとして胸を撫で下ろす。

 

「そっか、よかったぁ……ヨハネさんと連れションする事になるかと思って、割と本気で心配しちゃった。あ、でも、リアルの世界の私が尿意爆発してたら、それはそれでヤバいのか……」

「だっ……! だ、誰が連れションだよっ!」

「だって、どっちかしたくなっちゃったら、そうするしかないでしょ? まぁでも、ヨハネさん女の子だし、一緒のトイレに入れるのはまだ不幸中の幸いかなと」

「全ッ然幸いでも何でもないっ! っていうか、女の子が連れションとか尿意爆発とか、下品な言葉連発するんじゃないよ!」

「え……そっか。女の子として見てくれるんだ。ふふ、ありがと。うれしい」

 

 予想に反して、はにかんだ嬉しそうな笑みを浮かべられたヨハネは、毒気を抜かれる。

 手錠を見下ろしたムラサキは、気を取り直して提案した。

 

「まあまあ、常識的に考えて、さすがにマスターキーとかあるんじゃないの?」

「一応SOATに戻ればある……けど、さすがに中を歩けば人目につくしな。最悪、寮にあるボクのパソコンからアクセス出来れば、解除キーを手に入れられるかも」

「ん? ああ、そうか。もう隠れ家は引っ越して、寮暮らしなんだね」

「クロカゲにいた時に使ってたあそこのこと? アレは、まあ一応契約は切ってないから、使ってないけど自宅としては残って……って、だからあんたが何でそんなこと知ってんだよ!?!?」

「だからさ、ヨハネさんが自分で正解出してたじゃん。私は、過去の世界から来たの。ずっと君達のことを見てた。

……さっきミカちゃんと時間渡航者のことを話してたから、もしかしたら今ならちょっと信用してもらえるかな、て思って近づいたんだけど」

 

 少し悲し気な微笑みを見て、ヨハネは、さっき彼女に声を掛けた時のことを思い出した。

 隠れるには十分な人混みで、逃げようと思えば、ムラサキはヨハネを巻いて逃げ切れるはずだった。

 それをわざわざ、ヨハネの呼び掛けた声に返事をして立ち止まってくれたのは、向こうから話す機会を持とうと思ってくれたからなのか、ということに、今更ながら気付く。

 

「……。まぁ、その話は後でゆっくり聞くとして、とりあえず今はあんたのことを信じるってことにしとくよ。

つまり、あんたはたまたまこっちに来た旅行者ってだけで、あの紋を使った奴らの起こす、一連の事件と関係はないんだね?」

「あの、さっきの男の人にあった水みたいな模様のこと? うん、知らない。初めて見た」

 

 戸惑うように口を開いたムラサキの頭には、自分の体の紋様のことがある。

 けれど、報じられている火・風・雷・土などの紋様や、今見たばかりの水紋とは、明らかに異なっている。

 それを説明するには、今は時間が足りないと判断したムラサキは、とりあえずヨハネ達のために出来ることをしようと顔を上げた。

 

「ねえ、もし私があの八尺様をどうにかしたら、私は事件を起こしてる側じゃないし、あなた達に敵対もしないって、信じてもらえるでしょ?」

「え? そりゃあ、そうだけど……」

「じゃあ、さっさと私達で、八尺様捕まえないとね」

「捕まえるって、どうやって?」

 

 驚いたヨハネに向かって、ムラサキは小さくウインク。

 

「八尺様の、落とし物を使うのよ」

 

 

 その帽子は、ヨハネが各隊員に通達する間でもなく、あっさりと見つかった。

 あまりに大きな帽子が突然飛んできたので、その場所でも大騒ぎになっていたらしい。

 付近にあった公園からそれが見つかった、という報を受け、ミカがその帽子を引き取りに向かっていた。

 

「あらま、ちょっとした机ぐらいあるじゃないの。抱えたら前が見えなくなっちゃうわ~。でも、麦わらで出来てる分、随分と軽いわね」

 

 丁度公園のパトロールに回っていた隊員が、ミカに敬礼しながら答える。

 

「お役に立てて光栄ですっ。あの街に現れた化け物を、楠瀬(クスノセ)隊長と同じく第一線で倒した(クヌギ)隊長がこの作戦を考えられたということで、本官は感動しきりでありますっ」

「こっちこそ、アナタたちが早めに動いてくれたおかげで助かったわ」

「それでその……作戦指示を出された櫟隊長は、どちらに……?」

「あ~、今はちょっとね。準備中なのよ、色々とやることがあって」

 

 明らかに言葉を濁したミカだが、納得した隊員は感心したような表情を顔に浮かべて去って行く。

 改めて巨大な帽子を抱え直したミカが、溜息をついた。

 

「まったく、あのコは。まだ捕獲命令が出てる被疑者を寮に連れ込むなんて、悪いコになっちゃったんだから、んもぅ。……でも、ヨハネってちょっと悪いコの顔をしてる時の方が、なんとなく生き生きしててカワイイわよね? な~んて!」

 

 そう口に出しながら、ミカは改めて、手錠を外しに寮へ戻ったヨハネとムラサキの身を案じながら、セブンスコードの大通りに程近いDG地区の方の空を眺めたのだった。

 

 

 八尺様との戦闘があった地区と、丁度線対称の場所に当たる地区。

 かつて、SOATの「CQ地区担当詰所」と言われていた場所は、今はSOATの本部として機能している。

 そしてその本部に隣接する地区――DQ地区に、ヨハネ達の住むSOATの寮はあった。

 

「こっち……今のうちに」

 

 寮と言えども、いつでも出動や出勤に備えられるよう、内部はコンピューター設備や施設が充実していて、ちょっとした詰所や支社のようにも見える。

 興味深そうに、ムラサキが黒を基調としたその屋内を眺めた。

 

「へえ~~……こんな風になってるんだあ……」

「見た事なかったのか?」

「だって、私が見たのSOATの寮室の中だけだもん」

「うわ、ますますストーカー……」

「だから、違うってばっ! そこしか映してくれなかったんだから、しょうがないでしょ!? 私だって、もっと隅々見て回れるもんならじっくりガン見して……」

「バカッ、声が大き……っ、誰か来る!」

 

 曲がり角に身を隠そうとしたヨハネは、ぼやぼやしているムラサキの手を、手錠で引き摺るのではなく思わず引っ掴んで、その傍に引き寄せた。

 むぐっと声を上げるムラサキの口を、片手で塞ぎながら壁に押し付ける。

 

「……!」

「じっとして」

 

 壁に背をつけたまま佇むムラサキは、至近距離でヨハネに囁かれ、こくこくと頷いた。

 

角膜(コルニア)。視覚情報を改竄」

 

 左目が輝いて植能が発動し、ムラサキの体を透明人間のように覆い隠す。

 直後、足音がして現れたのは、ヨハネより小柄な女性職員だった。

 

「あっ、ヨハネさん! お仕事お疲れ様です!」

「やぁ、リアちゃん! リアちゃんは、今は休み?」

「いえ、寮で少し、この間の事件のデータを整理しようかと……一応、休憩時間なんですけどね」

 

 勤勉な姿勢を露わにしながらも、照れたような表情で俯く女性職員は、(サカキ)莉亜(リア)――ヨハネ達の同僚で、「捕縛」解除のために奔走した仲間の一人だ。

 

「休みはちゃんと取った方がいいよ? リアちゃん働き者だし、あんまり根詰めると体にも良くないからさ」

「ですね。……あれ?」

 

 そう言って不思議そうに首を傾げたリアが、ヨハネの傍に顔を近付けて、くんくんと鼻を動かす。

 

「不思議です……ヨハネさん、今一人ですよね? なんだか、誰か傍にいるみたいな、甘いお花の香りが……」

「わあああああ! リアちゃんっ、ボクも実は部屋でちょっと仕事しようかなって思ってたところなんだよね! 悪いけど先行くよ!」

「え? あっ、は、はいっ! この後また、作戦のために外に行かれるのですよねっ!? ヨハネさんこそ無理なさらず、お気をつけて……!」

 

 少し驚いた顔をしながらも、リアは廊下の真ん中に立ち尽くして、ぽかんとヨハネの背を見送った。

 まさかそのヨハネが、手錠に繋がれたムラサキの手を握ったままで引きずりながら、寮の奥へ歩いていくとは知りもしないで。

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