SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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夜のスケートリンクで行われる、八尺様捕獲作戦。
果たして、上手くいくのだろうか……?


1-19 迎撃

第19節 迎撃

 

 その日の夜。

 八尺様が暴れた閑散とした街に集められた、ヨハネ率いる部隊以下隊員たちは、作戦行動に備えるべく、己の隊服に備え付けた武器を確認しているところだった。

 

「みんなぁ~~! 毒ガス弾は行き渡ったかしら! 足りないと思うコは、まだあるから十分に持っておくのよ! 唯一の有効な攻撃手段なんだからねん!」

 

 白い氷が張られたフィールドの真ん中には、冬景色に全く不似合いな、大きな麦わら帽子。

 その周辺を囲むように座席が作られたスタジアムで、弾薬補充班、攻撃班、報告班、救護班などに分かれた隊員たちが、せわしなく動いている。

 ここは、街中に損壊せずに残っていた、スケートリンクだ。

 

「楠瀬隊長ッ! こちら、遠隔攻撃用のマシンガンと、近接攻撃用の手榴弾の補充が終わりましたッ! 一斉砲撃、いつでも可能です!」

「ありがと、心強いわね。猛毒の方は大丈夫? あたしのリバーもあるし、SOATには再生型のリバーもまだあるから、製造班にもじゃんじゃん回してちょうだいっ」

「はいッ、十分であります! ……ところで、櫟隊長はまだ……?」

「あ、ああ……さ、最後の作戦指揮の打ち合わせって言ってたわ。始まる頃には戻ってくるわよ」

「さすが櫟隊長! 頼りになるであります!」

 

 そう言った隊員は元気に持ち場へ駆けていくが、ミカは溜め息をつく。

 その櫟隊長――皆の前へ姿を現わせない原因を抱えたヨハネは、スケートリンクの下、観客席から離れた出入口で、ムラサキと共にそっと様子を窺っていた。

 

「けど、あんたもよく思いつくね。スケートリンクを戦闘場にするなんて」

「八尺様って、水のエレメントから出来てるっぽいんでしょ? だったら、水は凍るから、寒い場所なら動きが鈍るんじゃないかと思って。けど、セブンスコードの中じゃ、食品貯蔵用の冷蔵室は必要ないからあんまりないし、そういう場所でも戦うには狭すぎるでしょ。

街中で一番寒くて広そうでおびき出しやすそうなところを探したら、このスケート場だったってわけ」

「なるほど……」

 

 ヨハネは素直に感心しているようだったが、ムラサキはスパイクを履いて整列した隊員たちの列を見ながら、心配げにヨハネの腕をつつく。

 

「ねえ、ヨハネさん、ほんとに出てかなくていいの……? いくら真打ち登場~ってなっても、隊がピンチになってからやっと出て来ましたじゃ、信用も評価も失墜すると思うよ。しかも女連れで」

「そう思うんなら、あんたがこの手錠をなんとかしろよッ!」

「いやムリ。ミカちゃんの剣でも壊れないもの、どうにかなるはずないじゃん。やっぱりあの鍵取り返さないと……」

「だからっ、それを取り返すための戦闘なんだろ!」

 

 さっきからずっと、この調子で押し問答だ。

 ヨハネは何がなんでも、ムラサキと手錠で繋がれた状態を他人に見られたくないらしいが、かといって戦いに参加する以上は人に見られるに決まっているし、これでは埒が明かない。

 隊員たちは、隊長であるヨハネの登場を心待ちにしているようだし、自分のせいでSOAT内のヨハネの地位が下がることは避けたい。

 そう思って、ムラサキは盛大な溜め息をついた。

 

「ええいっ、もう面倒くさいなぁ。今出ようと後で出ようと、女連れで状況悪いには変わりないでしょうが! ほれっ!」

「うわ、ちょっ……!」

 

 どかんっ、とムラサキがヨハネの背を押す。

 つんのめったヨハネが慌てて隠れようとするが、もう遅い。

 集合していたSOATの隊員たちが、ぽかんとヨハネとムラサキの方を見ていた。

 姿を見せていなかった隊長が、仲良く手を繋いだ(ように見える)格好で見慣れない服装の女と並んでいるので、当然ながらザワザワとざわめきが走る。

 

「櫟隊長、その方は……?」

「あ~~……えっと、これは……」

 

 自分の背中を押したムラサキにいっそ説明させたいぐらいだったが、彼女は隣で口笛を吹きながら素知らぬ顔をしている。

 その様子をギッと睨みつつも、仕方なくヨハネは口を開いた。

 

「彼女は、この事件の『協力者』だ! 共に例の怪物を目撃したため、今回の件が片付くまで同行してもらうことになった! 今回の作戦の発案者も彼女なんだ。こう見えて、かなり戦闘には精通している。共にボクと前線へ出る手筈になっているから、できる者は援護を頼む!」

 

 思わぬ発言に驚きの声が上がったが、隊長であるヨハネがそう言う以上、疑う余地もなく、小隊の面々は拍手を送る。

 

「あと、この件は出来る限り内密にしておいてくれ! 討伐にはどうしても彼女の力が必要だが、民間人の協力者をSOATが使った事実は、表向きは内密にしておきたい。作戦が失敗しても、一般人である彼女の双肩に責が掛からないよう、報道機関への情報提供も最小限にしたいんだ。頼んだぞ!」

「イエスッ、サー!」

 

 ヨハネの隊は、普段のヨハネの行動や人柄もあってか、よほど部下からの信頼を得ているらしい。

 そう言って小声で敬礼した隊員たちが、散らばっていく。

 ふう、と力んだ肩を降ろしたヨハネに向かって、ムラサキがようやく口を開いた。

 

「すごいや。大演説だったね」

「あんたなぁ……! 誰のせいでこうなったと思ってるんだよッ……!」

「でも、結果的にはみんなの士気も上がったし、よかったでしょ? 変に隠し立てするよりは、ある程度嘘を交えて本当のこと打ち明けといた方がいいよ」

「隠し事だらけのあんたがそれ言う……?」

「よしっ! 私達もがんばろー!」

 

 ヨハネの言うことを無視して、ムラサキが手錠の掛かった手をぐいっと上げる。

 つられて無理矢理その手を上げたヨハネは、げんなりと溜め息を吐いた。

 

 

 スポットライトが当たり、きらきらと光を反射したスケートリンクが、しんと静まり返る。

 花飾りのついた麦わら帽子が、まるで美術館の芸術品か何かのように、白いフィールドに鎮座している。氷から蒸発した水蒸気が、微かに白い煙を立ち上らせる。そこだけ見ると、非常に幻想的な風景だ。

 

 息をつめて暗い座席に身を潜ませながら、本当に来るのかと半信半疑でヨハネが待ち受けていたその時。

 ぎゅるん、と渦を巻く青い何かが、突如フィールドの真上に出現した。

 

(きた……!)

「ぽぽぽっ」

 

 耳奥で、泡が勢いよく弾けるような音。

 一斉に武器を構える音と、ピリピリした緊張感が場を支配する。

 ずしん、という音を立てながら、昼間と同じように白いスカートを纏った八十尺の八尺様が、その場に姿を現わした。

 

「攻撃、はじめ!」

 

 各隊の合図で、帽子を拾い上げようとした八尺様を、SOATの隊員たちが一斉に攻撃し始めた。

 拾うのを邪魔されていると思ったのか、八尺様の身の捩り方も、振り返り方も、昼間とは比べ物にならないくらい速い。透明な腕を振り回し、弾力のあるそれに叩きつけられた隊員たちが、座席や氷の上へ弾丸のように飛ばされては、爆音と共にめり込んで動かなくなる。

 

「伸びる腕に気を付けろ! 上を狙えば、足元からの攻撃への防御がおろそかになる! 無理に頭部を狙わず、遠方からっ……!」

 

 自身もその腕を、縄跳びのように飛び上がって避けながら、ヨハネが間一髪のところで叫ぶ。足元や頭上を掠めていく触手をなんとか避けられているのは、一緒に繋がれたムラサキが、息を合わせてなんとか動いているからだ。

 

「化け物め、これでも食らえ!」

 

 意気込んだ隊員の一人が、冷却装置の冷気を放出する。大砲の口から吹雪が飛び出すようにして、その冷気が八尺様の手足を包み、つららのように凍らせた。

 

「ぽぽ、ぽ……」

「やったか!?」

 

 歓喜の声を上げる隊員たち。

 しかし、激しく身を捩って動く八尺様には、一時の足止めなど造作もないことだったらしい。ばきん、と派手な音を立てて凍った部位を折ると、折り取った部位から液体のようなものを流出させた八尺様は、すぐにその身を復活させてしまう。

 戦果を挙げた隊員は、虚しくもスタジアムの縁まで放り投げられてしまった。

 

 ヨハネの後方から襲い来る鋭い槍のような触手を、背中合わせになったムラサキが、植能を込めた手を翳して躱す。反面、ムラサキの背後から巨大な脚が迫る時には、ヨハネが庇いながらステップを踏むことで、なんとか踏みつぶされるのを回避していた。

 

「ありがと、助かった……!」

「こいつら、埒が明かない! 一体何本腕あるのさ!?」

「腕じゃないよ、この細いのは多分髪の毛……ああもう、何でもいいや。ねーヨハネさん、あっちの方にある表彰台用のステージに、なんとか八尺様の視線向けられない!? デカい分、方向転換させたらすぐにはそっち向けないでしょ。ガラ空きの背中をみんなで叩いてもらおうよ」

「攻撃は集中させた方がいいしな……けど、どうやって囮になる?」

 

 そう言うヨハネと、スケート場の反対側に滑っていった八尺様の帽子を見比べたムラサキは、一つ頷いて口にした。

 

「ヨハネなら、それだけで十分囮になるんじゃない?」

「ハァ?」

「街中で戦った時も、あいつら勝手に集まってきたでしょ。八尺様って、気に入った男の人を憑り殺すって言われてるから、見目麗しいヨハネがいたら、それだけで多分」

「いや、人の事なんだと思って……ていうか、ボクは男じゃ、」

「基本的には男を狙うらしいけど、稀に女を狙う八尺様もいるって聞いたことある! だいじょーぶ!」

「大丈夫じゃないッ! どっちでも関係ないじゃんか! おい、聞いてる!?」

 

 ぎゃあぎゃあ喚くヨハネを、手錠をぐいっと振って攻撃から避けさせつつ、ムラサキは冷却装置の大砲と共に、観客席の方へ避難していたSOAT隊員の方へ、輝く瞳と左手を翳した。

 

「ウーム! 対象を魅了!」

 

 するするっ、と伸びた桃色の光が、リンクの端にいる隊員たちを取り巻いて、ムラサキへと虜にさせる。

 そんな彼らに向かって、ムラサキはひらひらと手を振った。

 

「ねー、ちょっと! そこの君たち、あの帽子に向かって一発ぶちかましてくれない? 空気砲でいいからさ! ステージの方まで進むように!」

「りょっ、了解しましたぁ! ただいまぁ!」

 

 ムラサキにメロメロ状態の隊員たちは、あっという間に作業に取り掛かる。ぼん、と撃たれた大砲の空気圧に押され、帽子がものすごい勢いで、八尺様の股の方に向かって滑って来た。

 ちょっとしたスノーモービルのようだ。ただし、圧倒的にデカいが。

 コーヒーカップのように滑って来た帽子の縁に当たって、何人かの隊員が巻き込まれながら吹き飛ばされていた。

 

「きたきた! 乗るよー!」

「ちょっと待ってムラサキ何考えてる!?」

 

 丁度その時、八尺様の腕がぶんっと真横から振り下ろされる怪獣の尻尾のように迫ってきた。

 ヨハネの腕を引っ張りながら、ヨハネもろともその腕に飛び乗ったムラサキは、暴れる八尺様の勢いにまかせて、ぼうんと滑って来た帽子の真上に飛び乗った。

 

「わひゃあ! 大成功!」

 

 バウンドさせた二人を乗せた帽子が、そのまま八尺様の股の間を潜り抜けて、しゅーっと正面ステージの方に向けて滑っていく。狙いのものを目にしたからなのか、果たしてヨハネの見た目に惹かれたからなのかは分からないが、八尺様は明らかに狙いを変えて、帽子の後を追うようにふらふらと歩き始めた。

 その隙を逃さずに、ヨハネが振り返りながら無線で通達する。

 

「全隊員、八尺の背後を狙え! ボク達で惹き付ける!」

 

 わーっと掛け声が掛かったかと思うと、広い背中に向かってSOATの隊員たちが一斉攻撃を仕掛けた。

 白いワンピースに焼け焦げが出来、破れても、八尺様は意に介する余裕がない。

 

「おらおらおらァ! 今度こそ、アタシの刃の威力、思い知らせてやろうじゃないのッ! リバー! 猛毒を放散ッッッ!」

 

 単騎で斬り込むミカを筆頭に、隊員たちも士気を取り戻し、手榴弾やマシンガンで総攻撃を食らわせる。猛毒を食らった体の後ろ半分が、ずぶずぶと溶けるように崩れ始めていた。

 冷却装置からの冷凍光線も、今度は八尺様が避けなかったおかげで、確かな効果を発揮している。歩を進めていた八尺様の足が、ついにリンクへと氷柱のごとく完全に貼り付いて動かなくなり、隊員たちから物凄い歓声が上がった。

 

(いける……!)

「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」

 

 ヨハネがそう思った時、後ろ半身を失った八尺様が崩れ落ち、青色の光を帯びた謎の物体が、宇宙人のようにその場へ姿を現わした。

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