SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部 作:大野 紫咲
取り逃がした者達を追うが、彼らはヨハネが到着する前にノックアウトされていて……?
第2節
「うわぁ、阿鼻叫喚図……」
現場に到着したボクが、思わず呟いてしまったのも無理はない。
昼間から、そんなに大人数の酔っ払いがなんでいきなり出没したのかはわからないけど、とにかく聞いていた人数の想定よりはだいぶ多くの人達が、歩道を倒れたまま埋め尽くしていた。
その大部分が、
(……これ、巻き添えくらった無関係の人間まで混じってるんじゃないだろうね?)
そうは思ったものの、十中八九そんな気しかしない。
あの女隊長の武器って、ガドリングガンなんだよね。ボクのコルニアは幻覚を使って対象を錯乱できるから、狙いを定めて撃ってくる相手や武器には有効だけど、乱射されるとさすがのボクでも歯が立たない。
ましてや、一般市民に向けてそんなもん使った日には、後から粛清だとか無差別の暴力だとか叩かれて、フォローが大変に決まってるのにさ。
「いくら強いって言ったって、考えものだよ」
SOATの隊長たるもの、周りの手本にもなるつもりで、しっかりと職務を果たして欲しい。
とも、なかなか大口叩いて言えないんだけどね。一応ボクより年上だし、所属期間もボクより長いしさ。それに……
そこまで考えた時、屍とも思しき山の上にいた、金髪の女隊長――こと
「ああ、クヌギ……お前が来たのか?」
「ボクがって、他に誰が……ああ、なるほど? カシハラが来ると思ったわけ? あんたならとっくに知ってるだろ、あいつは今、そんなに簡単にはSOATを離れられない」
「わ、わかっている! わかっているが……ちょ、ちょっとくらい期待したっていいじゃない……ぐすっ、もう一週間ぐらい、ユイトに会ってないんだもん……」
なんだこの乙女ちっくな顔は、と思いつつ、毎回泣かれそうになる度にボクは焦る。
一度は退職したSOATにもう一度帰ってから、どうやらこれがこの隊長の素の顔らしいということはわかったけど、だからってカシハラで感傷的になる度に泣きそうになるのはやめて欲しい。
ボクからすれば、あんな奴のどこがいいのか全くわからないけど? でも事実、今カシハラはリアちゃんといい感じなわけで、それもあって奴の元カノだったミライさんが情緒不安定なのは、そりゃ納得はするけどさ。だからって、職場に私情を持ち込んじゃダメでしょ。
ボクらはこのセブンスコードで、正義と仲間を守るSOATなんだから。
周りでは他の隊員たちが、石になった人達を慎重にがらがらと崩して、道から撤去している。加勢しながら、ボクは彼女に尋ねた。
「恋愛って、そんな我を失うほどいいもの?」
「いいかは分かんないけど、あなただっていつか恋すれば分かるわよぅ! この、胸がぎゅーっとなる苦しい感じ……」
「はぁ……別に、詰所から戻ったらいつでも会いに行けばいいでしょ……。それで、状況は?」
「す、すまん、私としたことが、取り乱して……一応、この通りにいた奴らはすべて鎮圧した。凶器を持っている者はいなかったが、どうも皆、自力で立っていることも出来ないほど活気がないというか……通行人にまで抱き着いたり這い寄ったりで、怪我人が出かねん勢いだったものでな。少々荒っぽい手段を取らせてもらった」
「ま、この広範囲を手っ取り早く黙らせるには、あんたのゴールブラダーが確かに適任かもね。原因はなんだったの? ただの酒にしちゃ、あまりにも大人数だし同時多発的だけど」
「今調査しているが、ざっと聞き込んでみた限り、どうやらこの近辺で、我々SOATに対するデモを計画する集会が行われていたようだ。そこで提供されていた酒類が、原因としては考えられるな」
「デモ……」
正義を全うするには、代償がいる。
というか、正直ボクは、今でも迷ってる。
半官半民で運営してきたセブンスコードは、裏のトップがカシハラに変わってからというもの、クロカゲを政府直営のカジノに改修したり、一般人の植能保持制度を新設したりと、今までにない改革を進めてきた。
ただ、それはまだ始まったばかりの道半ばで、それを良くは思わない人も、もしくはボク達のことを誤解したままの人も沢山いる。
『治安維持部隊を謳っておきながら、ニレによるマインドジャック事件を止められなかった、無能な集団』
『闇の世界も同然のクロカゲと、裏金やコネで繋がっていた不透明な組織など、たとえ運営だとしても信用できない』
そんな声は、新生セブンスコードの設立当時から、山ほど耳にした。
それでもボクがここに残ったのは、カシハラやみんなが、どれほど街の人のために本気なのかを、わかって欲しかったからで。
そう思う一方で、こうやって治安維持に乗り出すのは、ボクみたいな――リアルの世界にも、SOATみたいなまっとうな組織にも居場所がなかったボクみたいな奴の行き場を、奪って踏み潰すことにも繋がるんじゃないかって、そんな気がしてしまう。
結局ボクは、〝捕縛〟が解除されても、曖昧さに溺れて自分に迷うボクのまま――何にも成長なんか出来てないのかもしれない。
黙り込んだボクを慰めるみたいに、ミライ隊長は――ボクも隊長だから隊長って付けて呼ぶ必要はないんだけど、「ミライさん」ってどうにも呼びづらいんだよね――肩を叩いて言った。
「お前の気持ちも分かるが、今は考え込んでいても仕方がない。それより、さっき部下から気になる報告が入って来た。取り逃がした奴のうち、数名が裏路地に逃げ込んでいったと、近隣を歩いていた民間人から通報が入ったそうだ」
その情報に、ボクは頭の考え事を一旦置いて、気を引き締めた。
切り替えって大事だよね。まずは、目の前の仕事だ。優先するべきことを優先しないと。
「場所は、ここの道? ボクが見て来る」
「頼めるか。私は、ここが落ち着いたら引き続き集会場だった店へ調査活動に行ってくる。そんなに人数は多くないだろうし、あの様子からして植能で暴れても民間人に危害は出ないと思うが、くれぐれも気を付けろよ」
「わかってる」
手短に引継ぎを終えて、ボクは隊の数名を連れながら指定のポイントへ向かった。
賭場も含めて、セブンスコード内の治安はだいぶ良くなったはずだけど、表通りから少し裏に入った場所には、やはりゴミであったり落書きだったり、外からは見えない無秩序が顔を覗かせる。
裏といっても、普通にマンションやアパートはある通りで、人の出入りはある。もし誰かに危害を加えているようなら、植能を使っての闘いもやむを得ない。
そう思って隊員に緊張感を促したけど、ボクの予想に反して、道にいた数名の酔っ払いは力尽きて道路に倒れているだけのようだった。
(なんだ……拘束するだけで済みそうだな)
あんまり戦闘がなくても、体がなまってしまいそうだけど。
そう思って確保に乗り出した時、傍を歩いていた通行人が声を掛けて来た。
「やぁ、今日もお勤めご苦労さんだね。オレもさっき通報を入れた一人なんだ」
「あ……ありがとうございます。お怪我はありませんでしたか?」
「いやぁ、こっちは何も。あんたらも迅速な対応でいつも助かってるけど、今回ばかりは先客がいたなぁ。珍しいじゃないか、SOATの隊長さんが遅れを取るなんて」
「先客?」
思わぬ言葉にそう問い返すと、その男性は笑って頷いた。
「家に帰る途中だったんだが、私と離れていた娘と妻が、その酔っ払いに絡まれそうになってね。慌てて戻ろうとしたんだが、その前に若い女の子が立ち塞がったんだ。
何やったか知らんが、へこへこしながらその酔っ払い、離れていってね。
私も家族も狐につままれたような気分だったんだが、その女の子も気が付いたら居なくなっちまってて。
けど、すごかったんだよ。私らに絡んでた酔っ払いだけじゃなくて、ふと眺めたら周りにいた奴らみんな、ばったり倒れてるじゃないか。偶然とは思えねぇ」
「その女……気になるな。どんな身なりでした?」
「さぁ、オレもちらっと見ただけだから、とんと印象にねぇけど……」
そう言って、首を傾げられた。まぁ、咄嗟のことなら、覚えてなくても仕方ない。
とりあえずその女、彼を酔っ払いから守ったんなら、悪い奴ではなさそうだけど。
でも、セブンスコードの
(どういう理屈で、ここにいる数人の意識を飛ばしたのか……ちょっと警戒しておく必要はあるよね)
ぱっと見た感じ、確保した人たちに、パンクリアスとかゴールブラダーで見られるような、植能による顕著なダメージの跡がないのも気になる。
「わかりました。ありがとうございます」
そう言って、引き上げようとしたその時。何かを思い出したような声を出した男に、一瞬引き止められる。
「そういえば! その子、珍しい服を着てたよ。ここらじゃ、リアルの世界でもあんまり目にしないような……ああいうの確か、キモノっていうんだっけか? 私服にするような人は、あんまりいないよねぇ」
(着物姿の女……?)
ホラーはあんまり得意じゃないんだけど、幽霊伝説みたいな話だ。
原因のはっきりしない暴動事件の数々に、それをふらっと現れて解決する着物の女。
(……いや、別にビビッてなんかないから!)
誰にともなく言い訳しながら、ボクは来る時より心なし早足になって、その路地を抜け出てしまった。