SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部 作:大野 紫咲
ムラサキの件で除隊を覚悟したヨハネだが、ユイトからの提案は思わぬもので……?
ずっと一章ではちょっとわかりづらい気がするので、一応まだ第一部の中ではあるのですが、次から二章に変えようかと思います!
シリーズ名を「第一部」とか「第一シリーズ」に変えればいいもんな!(アニメか)
第21節 新設
セブンスコードの運営機能と、治安維持全般を担っているSOAT内に、未成年の少女へ心身の傷を負わせ、八尺様事件の切欠を起こした男が所属していたことは、セブンスコードとリアルの社会、両方での大スキャンダルとなった。
今後のためにも、出来た傷から膿は早いうちに出すべきと判断したユイト達の判断で、適切な謝罪や保障は行われたものの、社会に走った動揺は大きく、SOATへの風当たりもそれから暫くは強かった。
最高機密であるユイトが目に見える表舞台に出るわけにはいかないとしても、代わりに会見へ出た幹部や、問題対応に当たってくれた隊員たちを彼は労い、裏方ではギリギリまで処理や仕事に追われていたため、疲弊の色を滲ませてSOAT本部を駆け回っていた彼がようやくヨハネを呼び出したのは、騒動からひと段落ついた頃だった。
(よくて減給と停職、悪くて除隊か……)
各々事後対応で忙しかったせいで、ムラサキの件については報告書を出したっきりになっている。直接顔を合わせて細部や認識の擦り合わせを出来るのはありがたい機会だが、それ以前に、要警戒対象とされていた人間をこっそり寮に上げ、戦闘に参加させたあげく取り逃がした自分は、まだSOATに居ることを許されるのだろうか。
せわしなく黒い隊服姿の隊員たちとすれ違いながら廊下を抜けて、ヨハネは執務室に歩を進めつつ溜め息を零した。
「……はい」
返事のあった扉を開けば、ユイトが丁度電子書類を前に机に向かっていたところで、その傍へ二人分のお茶を用意していたリアが、入れ違いにぺこっとお辞儀をして帰っていくところだった。
顔を上げたユイトが、途方に暮れたような笑みを浮かべる。
「ああ、お前か。来たか」
「……うん」
「まあ、座れ。ここ一週間は、お互いろくに休めてないだろう」
「あんたと意見が合うのは癪だけど、同感だね……まさか、あんたと面付き合わせて、一緒に茶を啜る日が来るなんて」
誠に癪だと思うが、もう今はそうする気力しかない。
しみじみと染み入るリア特製のお茶を二人で有難く味わいながら、ヨハネが口を開いた。
「なんかこれ、ボクら若い人間の挙動じゃなくない?」
「どうせこれからのボクには、寿命なんて関係なくなるんだ。振る舞いが年上らしいか、年下らしいかなんて、長い目で見れば些末なことだろ」
「それはそうだけど……。まあ、責任ある立場って、楽しいことばかりじゃないからね」
二人でほっ、と溜め息をついた後、ユイトが改めて本題に入る。
「お前が報告書に書いてたことには、あれで相違ないか?」
「ない。……むしろ、あんたが今までボクを泳がせてたのが不思議なくらいだよ」
「お前とミカの助力がなければ解決できなかったことは確かだ。それに、お前ほどの隊長がいなければ、あの男が抜けた後の隊員たちの士気を維持するのも難しかっただろうしな」
思いもがけない称賛と労いに、ヨハネは内心目を丸くしながらも、ちょっと肩をすくめてみせる。
「いやに褒めるな。餞の言葉にでもするつもり? 別に、クビにしたいんだったらオブラートに包んでくれなくってもいいよ」
「されたいのか?」
「誰だって、進んで職を失いたいヤツはいないだろ。……けど、ボクの場合は、ここを辞めても前にいた賭場の世界へ戻るだけだ。安心とまではいかないけど、首を切られる他の隊員ほど絶望感はない。……そうだな、馴染んだ生活に戻るのも、悪くはないかもしれない」
強いて言うなら、コルニアを持ち逃げすることは、前と違って今のSOATでは難しいことだろう。
だとしたら、自分が向かう行く末も、あの頃よく見ていたベビードール達と同じようなところだろうか。
侮蔑とまではいかなくとも、さすがにそこまでは――と思っていた世界に、自分が堕ちる。けれど、そうなって初めて見える世界も、あるのかもしれない。自分がSOATである頃にはファインダー越しに見えずにいた、何かが。
ふと、暗い自嘲の笑みを浮かべるヨハネの前で、ユイトが頭を抱えた。
「本来なら、お前のやったことは除隊処分にしたいくらいなんだがな……」
「うう……」
「だが、お前が寮にあの女を連れ込んだあたりから、黙認していたボクが言えたことでもない」
「はぁ!? 知ってたワケ!?」
思いもがけない方向に話が転がり始めたらしい。
完全に予想外の方から刺された情報に、ヨハネが声を裏返らせた。そんなヨハネに、ユイトは淡々と説明する。
「リアが怪しんで報告してくれたんで、部屋の中とその後の行動も監視させてもらった」
「いや隊員の部屋の中に監視カメラ仕掛けるとか悪趣味にもほどがあるでしょ!? あんた毎回そんな手段使ってんの!?」
「別にカメラを使ったわけじゃない。そんな非人道的かつ非常識な手段で全隊員を監視してるわけないだろ。忘れたのか? これでもボクはセブンスコードの『神』と名指される存在なんだ。極端に言えば、誰がどこで何をしようと、筒抜けにさせる程度の『手段』は、本気になれば講じられる。……著しく力を消費する禁じ手だから、やらないけどな」
「それを、一隊員の覗きをする為に使ったってワケ……」
げんなりするヨハネを、文句を言うなというようにユイトは軽く睨む。
「言いたくはないが、もしお前がSOATの謀反者だった場合には、こっちとしてもプライバシーの条項など構っていられなくなるからな。
まあ、結果として榊の奴は、何か違う方面で誤解をしているようだったが……」
「うわああああああもう無理だ……社会的に生きていけない……死にたい」
今度は、ヨハネが頭を抱える方だった。ある意味それは、除隊されるより酷い出来事のような気がする。
悪夢を見ているような気分になりながら、ヨハネは机上のお茶を零しそうな勢いで叫んだ。
「ていうか、そこまでバレてるなら、作戦の前にもう声掛けてくれたってよかっただろ!? こっちだってコソコソ隠れる必要なかったのに、なんでわざわざ……!」
「榊が言っていたんだ。お前はコルニアで隠せたつもりだったらしいが、寮で先のない手錠がお前の手首に見えたと。それで隣に誰かがいたらしいと言うんだから、その……こっちとしても判断に困るだろう。
お前が容疑者を無許可で寮に連れ帰ったのか、それともその……何か……つまり、そういう性癖を持つ人間と……だとしたら、一般人の寮への立ち入りが禁じられていない以上、個人の事情に口を出すわけには」
「あああああああわかった! わかったからそれ以上言うなッ、頼むから! ボクが覚えのないことでどんどん汚されていくような気がする!!!」
SOATの裏切り者かと思った相手には覗きすら辞さないくせに、変なところで真面目さを隠さず困惑するユイトに、ヨハネが絶叫する。
たまに思い出すが、ユイトはこれでもヨハネより年下なのだ。
座っているだけなのにぜーぜー息を切らすヨハネを、なぜか楽しそうに見やって笑い声すら上げたユイトは、こんな風に言った。
「とにかく、彼女……大野と言ったか。彼女が拒否しているのは、SOATに出頭して植能の調べを受けることなんだろう?
こちらとしては、例の事件の容疑者の線からは外れたし、事件解決に協力してもらった恩もある。謎めいた部分もあるとはいえ、害をなす存在と決めつけたのは、こちらの早計だったかもしれない」
はたと顔を上げるヨハネに頷くと、ユイトは目の前の画面に、企画書と条項のようなものを立ち上げさせる。
「ヨハネの調査のおかげで、表向きにはなっていないものの、こちらも時間渡航者専門の部署を立ち上げることに成功した。
彼女の証言が正しければ、他にも何名か存在が確認されているようだからな。都市伝説だった奴らの裏付けが、ようやく取れたよ」
「時間渡航者の部門……何をするための?」
「有り体にいえば保護、かな。この世界に詳しくない存在である彼らには、生活上のサポートがいるだろうという上の判断だ」
「IDをそこに登録させるの?」
「普通に生活している以上、渡航者がIDを持たずにいるとは考えにくい。こっちの世界の魂に匹敵するものだし、これがないと物の購入も施設の利用もできないはずだからな。
ってことは、彼らのIDは、SOATを通さずに自動発行されているってことだ。
どういう仕組みかは分からないが、そのIDを今からでもSOATに紐づけすれば、行動やログインの記録を残すことは出来る」
「……監視するってこと?」
ごくりと唾を飲んだヨハネが問い掛けると、ユイトは一度溜め息をついてから、ゆっくりと頭を振った。
「表向きは穏やかな言い回しに甘んじても、まあつまり、そういうことだな」
ムラサキに逮捕の可能性やSOATからの危害が及ばないことを喜ぶべきなのか、新たな懸念事項とするべきなのか、難しい顔で黙り込んだヨハネに、ユイトは微笑み掛ける。
「安心しろ。運営関係者も、あまり事を荒立てることは望んでいない。時空改変のような実害のある干渉に及ぶ奴らが現れず、人数が膨れ上がらない限りは、内密にこちらで管理しようと思う」
マウスをクリックしながら、その書類を一通りコピーしたユイトは、データをヨハネの端末に送信しながら、立ち上がった彼を見上げる。
「どうせだから、お前の任を変えることにするよ。捕獲ではなく、彼女を説得した上で、SOATに任意同行させてくれ。
彼女にはIDの件だけではなく、植能の件もある。
いくら本人が嫌がっていても、最終的にはこっちで一度検査を受けて欲しいんだ。一般人に植能が突然発現する例は、珍しいからな。今は問題なくとも、後々その植能が危害を及ぼす可能性もあるかもしれない」
それに関しては、正直ヨハネも同意見ではあった。
ユイト達には報告済だが、
実際に目にしたヨハネからすると、少なくとも並の量産型植能以上の威力を持っているように見える。低威力ゆえに黙認されている
「今はよくても、こっちの世界で広く知れ渡ってしまえば、彼女を狙う人間が出て来るとも考えられる……?」
「だろうな」
それらの事情を呑み込んで、黙り込みながら顎を引いたヨハネの様子を承諾の合図と見て取ったユイトは、空の湯呑を手に立ち上がる。
「こっちには、研究機関と職員も揃っている。ニレやアウロラの一件があってから、旧役員やポストも一新して、人道面にも定期的に監査を入れつつ気を配っている。
手荒な真似は決してしないし、安全に検査を受けられると、彼女にも説明してくれないか」
「はぁ? ヤダよ面倒くさい。カシハラが自分で言えばいいだろ」
「ボクから説明したら、ボクがお前とのやり取りを全部聞いたことまで、彼女の耳に入ってしまうじゃないか。それはいいのか?」
「う……脅迫だろ、それ……」
思わぬところで墓穴を掘ってしまったヨハネに、ユイトが苦笑する。
「それに、どういうわけか彼女はお前には気を許しているだろう? 心を開くには、お前の存在が多分役に立つ」
「は、はあぁ? どこが?」
「お前、自覚がないのか?」
「気を許してるって……どこがだよ。こっちが折角親切で動いてやってんのに、人のことからかってばかりだし、ペースはめちゃくちゃだし、勝手にボクのお株は持って行くしさ。どうせ面白がってるだけでしょ、アレ」
「ボクが言うのも何だが……お前、多分そういうところだぞ」
ますます訳が分からないという様子で、部屋を出てブツブツ言いながら隣を歩くヨハネを、ユイトは含み笑いで見やっていた。
(ボクが……できること、か)
消えかけていた心の希望に、火が灯る。
ムラサキと出逢い、あの八尺様に憑かれた少女を見た時から、ずっと思っていたこと。
一つの決意を胸に、ヨハネはそれを仲間に打ち明けようと、心に抱えたままで前を向いた。
ザザザザザ……
「『あれ』は泳がしておくままにしておくか。ふぅん」
暗いビルの片隅のような場所。
明滅する画面を見つめていた少年は、独り言のように呟いた。耳元のヘッドフォンを見る限り、どこかを盗聴でもしていたのだろうか?
監視カメラの映像をザッピングし、彼は紫袴の長い髪の女性を映し出す。
「今すぐ捕まえる気がないってコトは、ボクにも取り返すチャンスがあるってコトかな?
けど、あの時に続いて、今回も……一体、何者だ……?」
白い光に照らし出された、無表情の横顔が呟く。
彼は、橋のたもとで八尺様とムラサキを覗いていた、あの少年だった。