SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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崩壊したシェルターの跡地で救助活動を行う隊員達と、立ち尽くすヨハネ。
ムラサキは見つからないまま、捜査会議は思わぬ方向性に……?


2-6 佇立

第6節 佇立

 

「どうして……」

 

 せわしなく担架を持って号令を掛け合う人達の声が行き来する。

 SOATの捜索員たちが、土と瓦礫の山から、埋もれた人達を助け出している。自分もその中に加わって、一分一秒でも早く救助に加わるべきなのに、ボクは痺れたようにその場を動けずにいた。

 数刻前まで、コンクリートの土台があったその場所。建物の基礎部分から、壁から、全てが徹底的に破壊され尽くして、まるで嵐が通り過ぎた、もしくは大地震があったかのように、めちゃくちゃだ。

 現実でも、こんなに酷い光景を見たことはない。戦争が起こっている世界とか、大災害が起きた地域とか。テレビ画面の中で目にしていながら、ぼんやりと遠い場所のことのように、考えていた景色が目の前にあった。

 

「櫟隊長、大丈夫ですか」

「あ、ああ……」

「ご無理をなさらないでください。幸いにして、重傷レベルの怪我人は少ないようですから。大方の救助活動はもうそろそろ終わりましたし、救護班によれば、回復用のカプセルに搬入すれば皆数時間のうちに意識を取り戻すだろうとのことです」

 

 安心させるように声を掛けてくれたのは、年上でありながらボクを対等に扱ってくれている隊員の男だった。父親くらいも年の離れたその男性に、ボクはなんとか頭を振ってみせる。

 

「ダメだ。ボクだけここで何もせずに見てるなんて」

「あなたは、十分よくやってくださった。後方から全体を眺め、適切な人数を把握し派遣するのも、隊長であるあなたのお仕事ですよ。

……それに、あなたはまだお若い。この眺めはあまりにも酷すぎる」

 

 そう言われて初めて、自分の頬に涙が伝っていることに気付く。

 思わず俯いたボクの肩に、ゴツいグローブの大柄な手が触れた。

 

「先に戻ります。あなたの隊もSOATも、これぐらいの事ではへこたれませんよ。

皆の知恵を合わせて、我々の出来ることを探りましょう」

「……すまない」

 

 肩を叩いてくれた頼もしい手に応えて、ボクは拳で涙を拭いながら顔を上げた。

 何をやってるんだ。こんなところで呆然として泣いてる場合じゃない。

 現状を把握しようと、ボクは仮設テントへ戻る前に敷地内を一通り回った。一体何の武器を使ったら、ここまでつぶさに分解できるのだろうと考える。場所によっては、盛り土や砂になっている部分すらある。

 

(まさか……これも、エレメントの……?)

 

 ここまでの破壊活動が行われているというのに、通報してきた人たちもSOATも、こんな惨状になるまで気付かなかったというのも妙な話だ。SOATの本部の近くに建物を作ったというのに、これでは完全に無意味じゃないかと思いながら、唇を噛む。その時だった。

 

(……!?)

 

 見覚えのあるようなものが見えて、ボクは足元の砂に足を取られながら駆け寄った。さらさらとした砂地獄のような場所でそれを拾い上げ、汚れを手で払う。

 ピンク色のリボンがついた髪留めを見て、ボクは立ち尽くした。

 

(ムラサキの、髪留め……!? なんで、こんなところに)

 

 慌てて近くを掘り返したけれど、既に捜索は終わっているのだから、このあたりに人の気配があることはあり得ない。

 見つかった人の中から、ムラサキがいたという報告はまだ聞いていないはず。テントに引き返しても、気を失った人たちの中にやはり彼女の姿はない。

 何人かは意識を取り戻していたが、ひどい錯乱状態にあって、話を聞くことが出来るようになるまでは、まだしばらく時間が掛かりそうだった。ただでさえ、現実で辛い目に遭って避難してきているのに、これは無理もないと思う。よほど恐ろしい目に遭ったのだろう。

 その中を見回っている時。不意に、制服の袖を引っ張られる感触で、ボクは足を止めた。

 平坦な瞳をした少女が、すぐ傍に立っていた。土に汚れた服のまま、頭に回復用の包帯を巻いている。ボクが視線を向けると、怯えたように視線を少し下げた。けれど、掴んだ手を離そうとはしない。

 

(この少女……)

 

 どこかで見た事ある、と記憶を探ったら、前にシェルターの玄関ですれ違った時に、ムラサキの傍で見たような気がする。このくらいの年の子は、あの中にまだ少なかったはずだから、事務手続きをした時にもなんとなく覚えていた。

 名前は確か、ヒバリといったっけ。

 そこへ、若手の世話係の隊員が慌ててすっ飛んできた。

 

「あっ、すっ、すみません。ほら、安静にしてなきゃ。隊長様をあんまり煩わせては」

「いや、大丈夫。ちょっと待って。彼女、何かボクに伝えたいことがあるみたいだ」

 

 隊員を制して持ち場に戻ってもらってから、テントの端の静かな場所で、少女の隣に腰を下ろす。

 

「どうしたのかな。あの場で起きたことを、何かキミは知ってる?」

「……ともだち」

「え?」

「あなた、むっちゃん、ともだち。わたし、しゃしん、みた」

 

 長い睫毛を瞬いて、静かに紡がれた言葉に、ボクは瞠目した。

 むっちゃん……多分、ムラサキのことだ!

 肩を揺さぶりたくなる気持ちを抑えて、ボクは少女を覗き込んだ。

 

「ムラサキのことを、何か知ってるのか!?」

「……いっしょ、いた。ずっと、いっしょだった」

「それで、その後は……?」

「わからない。いなく、なっちゃった」

 

 泣きそうな表情を少女が浮かべた。

 元々表情が乏しい子ではあるようだけど、それでもぐっと結んだ唇と瞳から、涙を堪えているのがわかる。

 今はこれ以上何かを聞き出すのも酷かもしれない、と思いながら、とりあえず傍にいる救護担当に後を引き継ごう、と思ったら、彼女はボクを必死で見上げて言った。

 

「むっちゃん、わたし、まもって、くれた。

わたしたち……まもって、くれたの。

おねがい……さがして」

 

 短い言葉だったけれど、それで十分だった。

 きっとまた会いに来る、と彼女に約束して、ボクはSOATへ向けてシェルターを後にした。

 

 

 

 あれから数日。

 依然として、ムラサキを含む数名の女性達の行方は知れなかった。

 奇妙なのは、あの建物の倒壊具合に比して、瓦礫や土から救出されたシェルターの女性達が、皆無事であったこと。

 そして後からヨハネが見舞いと調査を兼ねて出向いたところ、皆事件発生当時の記憶は曖昧だったものの、話のできる者全員が「ムラサキに助けられた」と口にしていた。

 

「目撃情報も、今のところ見つかっていないそうですね」

「あの倒壊前の状態を見た人間は、通報してきた中にもいないようだ。皆、気が付いたらああだったと言っていた。故に、犯人の姿も……」

「シェルターの女性達は何と?」

「何者かによって催眠状態だった可能性が高く、記憶がある者は、薄汚れた壁や露出した地面の感触などを覚えているそうだ。……だが、そのような場所はあのシェルター内に元々存在しない。故意的に発生させられたシェルターの裏空間に、被害者たちは閉じ込められていた可能性が高い」

 

 ざわざわと、質疑の回答を受けて隊員たちが会議室でざわめく。

 そのうちの一人が、ヨハネに向かって質問した。

 

「その現場で生活していた女性の一人は、例の水のエレメントの事件の際も近くにいたとか」

「ああ。協力者として戦闘に当たってもらっていた」

「並々ならぬ力の持ち主と見受けられますが……彼女が、一連の事件の主犯とは考えられないでしょうか?」

「なっ……! 彼女はまだ、行方不明なんだぞ!?」

 

 確認できる限り、シェルターの誰もがムラサキを犯人扱いしていない事は、報告済みだった。

 それにも関わらず発せられた疑問に、場が一時騒然となる。

 

「もしかしたら、逃走してそのまま行方をくらましているのかも」

「被害者達が催眠状態であるなら、彼女に対して誤った認識を植え付けられている可能性もあります」

「確かに、毎回この人がいる場所で事件は起こっているしなぁ」

「ていうか、結局何者なんだ? 植能保持者なのか?」

 

 予想外の展開に、書記官のリアは手を止めて目を丸くしていたが、ミライは難しい顔だ。

 必然的に、その場に揃った全員が、総指揮官を務めるユイトを頼らざるを得なくなる。

 だんだんと静かになった会場で、視線を集めたことを感じ取ったユイトは、やるせない表情になりながら溜め息をつき、マイクを取り上げた。

 

「確かに、何らかの関連性があるとする考え方は、特段不自然なものではないだろう。

……このままだと、彼女には監視対象ではなく、容疑者として確保命令を出さざるを得なくなる」

 

 その言葉に、思わず跳ね上がるように椅子から立ち上がったヨハネが、ついにユイトに詰め寄った。

 腕先でユイトの胸倉を掴み、大声で詰る憤怒の形相を見て、傍にいた隊員たちが動揺にどよめく。

 

「ッ、おい! まさか、ムラサキのこと疑ってんのか!?」

「ボクだって、そうしたくはない。だが、エレメントに憑かれた者達の痕跡がなく、状況証拠であのリボンがあるとなると……」

「そんな……っ、ボクや彼女に助けてもらった人らの話も聞かずに、よくそんな事が言えたねッ!」

「お前こそ、彼女一人のことになると頭に血が上り過ぎだ! 冷静な判断で、客観的に真実を見据えて来たお前はどうした!? 情に流され過ぎじゃないのか!?」

 

 ユイトに睨み返され、ヨハネは胸倉をつかんでいた手をはっと緩める。

 そのヨハネを見下ろすような形で、ユイトは落ち着いて口を開いた。

 

「お前は、今までに何度も彼女と接触して来たかもしれない。その距離でしか見られない側面というのも、勿論あっただろう。

だが、ボクも含めて、ここにいる面々はまだ一度も彼女と対面したことがないんだ。

現場の状況だけ見て、あれをやってのけたのが彼女ではないかと、恐れる隊員がいることも理解できるな?」

「……」

「彼女を疑いたくない気持ちはわかる。けれど、物事を一方的な側面からだけ見るのは危険だ。

誰もが納得できるような証拠を集め、その結果として彼女が無実になればそれでいい。そのために全力を尽くすのが、SOATとしてのお前の務めだろう」

 

 静かに語り掛けられ、ヨハネは留飲を下げながら深く息を吐く。

 自分がムラサキに肩入れし過ぎることは、確かに否定できない。それほどまでに強く、彼女に捕まって欲しくないと、悪人であって欲しくはないと、願っていた。

 あの、善人ぶることすら難しいだろうと思えるほどの笑顔を、信じていたかった。

 大人しく引き下がったヨハネを見て、上官同士の争いを懸念していた隊員たちから、ほっと安堵の声が上がる。

 

「……現地に、エレメントの調査班を出すよう依頼してくる」

「ああ。ヴァイスドームで研究を進めておいてもらったおかげで、そろそろ現場に残った力の残滓から、その場で使われたエレメントを割り出す事も可能だそうだ」

 

 朗報とも言えるユイトの言葉にも、返事をせずにくるりと背を向けたヨハネは、扉を出る直前、ぽつりと呟いた。

 

「……カシハラ」

「ん?」

「……。ごめん」

「気にするな。仲間の目が曇ったり迷ったりした時に、それを補い正しい道に軌道修正してこその仲間だろう。ボクらは一人じゃない。誰だって、間違いを犯すことはある。それを相互に指摘し合えるように、ボクらは一緒にいるんだ」

 

 自信なさげに振り返ったヨハネに向かって、ふっと笑みを浮かべたユイトが、グローブの拳を突き出す。

 

「一人はみんなのために、みんなは一人のために。――セーブ・ザ・バディ、だろ」

 

 よく言うヨハネの口癖を持ち出したユイトに、ヨハネはようやく笑い、そしてごつっと自らの拳を突き合わせた。

 

「うん。そうだった。まさかあんたに励まされるなんてね」

「お前の救いたい相手が、救えるといいな」

 

 微笑んだユイトの激励に背を押されながら、ヨハネは今度こそ班員の調達に向けて待機室へと駆け出す。

 その瞳に、先ほどまでの迷いや落ち込みはなかった。

 

(全部、ボクがはっきりさせればいい。

絶対に、彼女なんかじゃない。彼女があんな風に人を傷付けることなんて、本意でするはずない。

彼女を無実にするための証拠を、必死になって集めればいい。今はそれに集中する。

――セーブ・ザ・バディ! セーブ・ザ・ムラサキ!)

 

 心の中でだけ、大声で自分に向かってエールを上げたヨハネは、決意に満ちた顔つきでますます駆け足の速度を速めたのだった。

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