SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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ヨハネと喧嘩別れして落ち込むムラサキの元でも、例の怪映像が流れる。
怯えながらも、思わぬお助けアイテムの力を借りて、映像に紛れた暗号の解読に成功したムラサキは……?


2-11 解読

第11節 解読

 

(はあ……どうしてヨハネにあんなこと言っちゃったんだろ……私のバカ……)

 

 あれから数日。

 ログインはしてきたものの、外はなんだか雲行きが怪しいし、通信障害の影響で外出自粛令が敷かれているとか何とかで出れないし、仕方ないから部屋でうだうだ過ごす日々を送っている。

 しかもあいかわらず、こっちにログインしてくると体が重くて怠くて、体調は微妙。せいぜい微熱がある時程度の怠さだけど、こんな時に人と会う予定とか仕事がなくてよかったと思う。

 ……けど、ここでただ布団にくるまっているのも、現実でも家事しか出来ない役立たずの脛齧りなのに、こっちでも同じだと思えてなんだか気が滅入る。

 

(……あの子、大丈夫かなぁ)

 

 寝返りを打って枕元の籠を見るけれど、あの黄色い鳥はまだ戻って来ない。

 部屋の窓を開けっぱなしにしているので、隙間から自由に出入りしてもらえるようになっているのだけど、治りたての翼でどこかに出掛けて行ったきり、帰ってきていないようだ。外は暗雲が立ち込め、稲光が建物の間を縫って時折走り抜ける不穏な天気が続いているから、どこかで雷にでも撃たれているのではないかと心配になってしまう。

 

(……探しに行ってみようかな?)

 

 けれど、もしあの子の方から飛び立つことを選んだのだとしたら、これは余計なお節介以外の何物でもないだろう、と思うと、枕に顔を埋めたまま動く気がなくなってしまう。

 それに、エントランスのあの恐ろしい落書きの群れを見て、身が竦んだ。

 正直、家から出るのが怖い。

 私がこっちに帰って来てからますますひどくなった……ということは、やっぱり何かが、私を見ている。あの(・・)シェルターの一件で、なんとか退治出来たのではないかと思ったけど、まだ倒しきれてない残党がいる……か、それとは全く関係ない別の勢力がいたらしい。

 

 停電してしまった部屋で、自分の肩を抱く。

 ヨハネがこの部屋に訪ねてきた時には、まだ多少錯乱状態にあったと思うけれど、あの後何回か悪夢にうなされて、やっとはっきりと思い出したことがある。

 ……けれど、かといってこれを、どうあの子に伝えればいい?

 ヨハネには仕事だと嘘をついたけれど、あのシェルター襲撃事件の後、仕事は取っていない。あの時に植能を発動した反動だけで、しばらくベッドの上から動けなかったのだ。

 そこに来て、私のことを知りたいとか助けたいとか言うくせに、ぎゃーぎゃー騒ぎ立てるものだから、つい腹が立ってしまった。……失態だ。自分が辛いからって、しかもそれを年下の子に甘えてぶつけるとか、最低すぎる。

 でも、具合が悪いのを押しても、ついついこっちへログインしてしまうのは、やっぱり同じ世界にヨハネがいる――と思ってしまうからに他ならない。ただいたところで、何が出来るわけでも、力になれるわけでも、変わるわけでもないのだけれど。ただ、同じ世界にいられるという幸せと安心感だけで、十分私が存在する理由には値する。

 そのくらい、好きなのだ。あの子のことが。

 会いたい。声が聴きたい。

 そう思っていたら。

 

「へ?」

 

 音もなく、にわかに部屋の中が明るくなった。

 電気……ではなく、壁際に設置した薄型テレビがついたからのようだ。ベッドの壁まで届くモニターの明かりが、眩い色を投げかけている。

 

「なんだ、テレビか……」

 

 ほっと納得しかけて自分にかぶりを振る。いや、なんだではない。リモコンに触ってもないのに勝手にテレビがつくっておかしくないか???

 しかもこんな薄暗い部屋で、停電もしててネットも繋がらないはずなのに、テレビだけつくとか、これホラー映画だと絶対に中から何か出て来たり変な映像が映ったりするパターンだが???

 と思いながら、こわごわ私は布団の影から様子をうかがう。

 映っているのは、よく放送休止後に流れているカラーバー。こういう場面でみるとそこはかとなく不気味だ。

 ……既に嫌な予感しかない。

 今はまだ真夜中じゃないし、ワンチャンただの故障であってくれ……と願う私の期待も虚しく、切り替わった画面にはセピア色のゴミ処理場らしき場面と、不気味な音楽が流れ始めた。

 

「ひいっ」

 

 もうこの時点で発狂しながら目を背けてしまいたかったけど、テレビに突然映るゴミ処理場と不気味な音楽という要素には、聞き覚えがある。

 片目だけ辛うじて布団の横から覗かせていたら、案の定びっしりと並んだ白い名前が、エンドロールのように下から上をぞろぞろ這い上っていく。

 

「カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト

カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト

カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト

カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト

カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト

カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト

カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト カシハラ ユイト」

 

(やだあああああああもう!!!!! NNN臨時放送かいっ!!!)

 

 恐怖と混乱が振り切れるあまり、怒りが勝ってしまって思わず枕をテレビに投げつけそうになった。

 NNN臨時放送というのは、有名な都市伝説のひとつ。

 深夜、放送休止の時間帯にテレビを見ていると、突然カラーバーがゴミ処理場の背景と不気味な音楽の映像に切り替わり、無作為に読み上げられる色んな人の名前が次々テロップ表示される。そして最後に「明日の犠牲者はこの方々です。おやすみなさい」というナレーションと共に締めくくられるという、死亡予告じみた謎の現象のことだ。

 もっとも、この都市伝説は作り話という説が強いらしく、面白がった界隈の人間が、実際に不気味な映像を作ってニコ動とかに上げていることが多い。

 見た事ないけど、そういう奴だと最後のナレーションの後に、いきなり顔面蒼白で瞼のない口裂け殺人鬼の顔が、画面にいきなりバンッと……

 

(いやああぁぁぁぁぁぁあああ!)

 

 想像しただけで怖くなってしまい、私は思いっきり布団に潜りこんだ。

 もう、文章からそれを考えるだけで充分ホラーを味わえる人間に、実際のホラー現象を体験させてどうしようっていうんだ、セブンスコードは。

 怖くてまったく動けないが、布団から壁の輝きを見るに、まだテレビは動き続けているみたいだ。振り返ってじっと見ているのも怖いけど、かといって目を離した隙に、今度は貞子とか出てきたらたまったもんじゃない。

 

「んぐぅ……」

 

 もう最悪強制ログアウトも辞さないつもりでいると、今度はテレビとは違う、別の真っ白な輝きが部屋を照らし始めたことに気が付いた。

 おそるおそる視線を向ければ、ベッドの脚側にある机の抽斗が、ぽうっと白い光を帯びて光っているではないか。

 

「も、もう、なんなの……」

 

 助けを呼ぼうにも、相変わらず電波は通じないし、部屋には不気味なテレビと不気味に光る机だけ。外には落書きだらけの壁と不審者。もう泣きたい。

 怪奇現象てんこもりの部屋で、半べそをかきながらテレビに背を向け、何か異常が起こらないかとチラ見しつつ、おそるおそる机に近寄る。

 これで抽斗開けた瞬間、中から白い手が出て来て引きずり込まれるとかされたらぶっころしてやる、と誰にともなく思いながら、床に座った状態でずるずる這い寄り、下からそろっと抽斗を開けてみた。

 ……溢れる光が強くなっただけで、特に何かが襲って来る気配はない。

 警戒しながらも、ようやく立ち上がって中をのぞき、私はあっと声を上げた。

 

「これ……」

 

 中で光に包まれていたのは、紺色の皮で包まれた手帳と、丸い手鏡だった。

 ところでこの抽斗何入れたっけと思っていたのだが、すっかり忘れていた。

 

「愛理にもらった手帳と鏡だ……。特に役には立たないだろうけど、お守り代わりにでもどっかしまっとけばって言われたんだった。

でも、なんでこれが光ってるの?」

 

 両手に持ち上げて、私は首を傾げる。よく見ると、発光している本体は手鏡のようで、手帳もそれに釣られるように皮が淡い光を放っていた。

 背後では相変わらず不気味な放送が続いているものの、エンドレスで流されているせいで、少しずつ恐怖が薄れて来た。この鏡が、励ますように明るく光ってくれているおかげもある。電灯さながらで、暗かった部屋もこの周りだけ昼間みたいだ。

 と、不意にその鏡から光の筋が伸びたかと思うと、部屋のテレビへまっすぐつながった。驚いた拍子に、私は手帳を取り落してしまう。

 

「っと、わっ!」

 

 机に落ちた手帳が、ぱらぱらっと捲れて真っ二つに開いた瞬間。

 そこに扇型の画面がぶおんっと広がったかと思うと、テレビに流れているテキストがそのまんま表示され始めた。さすがに背景や音楽までは真似されていないが、文字列だけで十分不気味だ。

 

「な、何……? この手帳、手帳じゃなくて超ハイテクのパソコンみたいな奴なの?」

 

 セブンスコード内での予想外の働きにビビりつつ身構えるが、愛理がくれたものが何か悪さをするとも思えない。

 突然白い顔が現れないことを祈りつつ、勇気を出してその画面を見つめているうち、あることに気が付いた。

 

「なんか……文字混じってない……?」

 

 「カシハラ ユイト」の「カ」と「シ」の間に「12」という数字が見える。

 その下段の文字の隙間は9、その後は4……といった具合に、ランダムに数字が紛れ込まされているのだ。

 

(もしかして、この『カシハラ ユイト』はめちゃめちゃフェイクで、こっちが本当に伝えたい情報だったりするの?)

 

 ひとつ、落ち着いて深呼吸をする。

 この騒動を引き起こしている奴が人間か人外かは知らないが、何か犯人に繋がることがわかるかもしれない。

 解けるか解けないかはともかく、ここでじっとしているよりはマシだと決めた私は、机に座って、画面をスクロールしながらペンを手に取り始めた。

 愛理の手帳に書くのは勿体ないので、別の紙に見つけた数字を書き写していく。

 文字列は、こんな風になった。

 

「19 16 11() 32 12 11() 15 8 9() 9 8 8() 11 16 8 21 10() 19 8 16 9() 17 16 21 14 9() 11 16 21 14 8() 19 22 28 9()

 

(……なんのこっちゃ)

 

 某大家族映画で、数学オリンピック代表になりそこねた某天才少年が解いてたみたいな奴だったらもう完全にお手上げだぞ、と思いながらノートを睨むが、どうもそれよりはだいぶ簡単な類の気がする。

 数字が沢山出て来る割には、使われている数字の種類に偏りがあるようだし、「・」がついた文字に至っては「8」「9」「10」「11」の4種類しかない。

 

(文字を数字に置き換えたやつかな?)

 

 一番簡単なやつで思いつくのは、アルファベットをその順番の数字に置き換える換時式の暗号だが、アルファベットは26文字しかない。この文字列の中にある最大の数字は、28だ。

 

(でも、26には近い感じだよね……。シーザー式で動かしてある、とか?)

 

 シーザー式というのは、そのアルファベットを同じ数ずつだけ横にずらして作る暗号のこと。たとえば元の文が「ABC」ならば、三文字ずつずらして「DEF」もしくは「XYZ」になる。

 この数字も、前か後ろにずらした後にアルファベットに変換すれば、何か文章になるのかもしれない。全部、それなりに大きな数字だから引き算しても正の数になるし。

 問題は、その「何文字分ズレているか」が分からないところにあるのだが。

 

(アルファベットは26文字しかないから、ずらし方のパターンって言うて25通りしかないんだよね。総当たり的に求めることもできるけど……)

 

 セキュリティ面ではガバガバのそれも、この量を手書きで全部試せと言われたら、さすがに日が暮れてしまいそうだ。

 んー、と呻った私は、何か手がかりになりそうなものがないかと、もう一度画面を見つめる。映像が一周するまでのログが、手帳型のスクリーンには表示されていた。

 

(……ん?)

 

 ただ無意味な羅列だと思っていた文字を、ぼんやりと見つめていた私は、その数を数えてみる。

 「カシハラユイト」は7文字の名前。それが、一行につき7個。

 それが7行集まってひと段落になり、更にそれが7段分再生されたところで動画が一周終わる。

 偶然にしては、かなり作為的なような。

 

(セブンスコード……7、か)

 

 安直ではあるけれどやってみよう、と思いながら、まずはさっきの文字列から7を引いて、新たに数字の列を作り直した。

 

「12 9 4() 25 5 4() 8 1 2() 2 1 1() 4 9 1 14 3() 12 1 9 2() 10 9 14 7 1() 4 9 14 7 1() 12 15 21 2()

 

(やった! アルファベットに収まる数になったぞ! あとはこれを英字に置き換えて……)

 

 1=A、2=B……の法則に従って文字化すると、浮かび上がったのはこんな文章だった。

 

「lidyedhanbbaadianclaibjingatacdingaloub」

 

「……いや、全然読めんし」

 

 やっぱりこんな簡単な方法で解けるわけないか、と投げやりな気持ちでペンを投げ出したら、ぴかぴか、と鏡がまたたき、手帳に浮かび上がった数字の一部が光り始めた。

 

(ん……? そういえば、この「・」が付いた数字のこと、すっかり無視してたな)

 

 さっきは「8」「9」「10」「11」だったが、7つ戻した今は「1」「2」「3」「4」だ。どう見ても、何か法則性があるような感じがする。

 

(4種類の何か……なんだろう。そもそもこの数字、どうすればいいのかな)

 

 何か目印のために傍点がついているような気がするが……もしかして、この数字だけアルファベットに変換せずに、そのまま読めという事だったりするだろうか?

 試しに傍点の数字を今度はそのままにして、さっきの文字をもう一度読み返す。

 

「li4ye4han2ba1dian3lai2jing1ta3ding1lou2」

 

「……あ」

 

 その瞬間、恐怖も何も忘れて、私はぽかんと口を開けてしまった。

 大半の人は、これを見てもまだ意味不明な文字の並びにしか見えないだろう。しかし、私には見覚えがある。

 

(こ、これ、中国語?)

 

 信じられない気持ちでアルファベットを見つめた。1から4は、中国語で言うアクセント・声調を表すための数字。第一声から第四声までのアクセントと、アルファベット表記の発音を一組にして、その漢字の読み方を表す表記法があるのだ。

 

「こ、こんなん、学習者じゃないと絶対ちんぷんかんぷんやん……」

 

 暗号作成者の意図が読めず、不親切すぎる設計に思わず呆れてしまった。普通そこは英語とか使うだろう。いや、英語だとすぐ読まれるからかもしれないけど。

 何故私が分かるかと言うと、一応大学で専攻だったからである。専攻と呼ぶにはかなり中途半端なところで終わってしまったので、今んところ何の役にも立っていないが。

 

 とりあえず、そうとくれば話は別だということで、私は部屋の隅に置いてあった箱から、電子辞書を取り出した。バッテリーはまだあるみたいだ。

 「ネット環境あるのに、こんなとこに辞書なんか持ち込んでどうすんの」とミソラに散々呆れられながらも、ゴールドを積んでこっちの世界に変換してもらった愛用の電子辞書だが、作っといて助かった。

 

(う~ん、ここから推測できる単語は、『ba1dian3』=八点と『lai2』来、『ding1lou2』=頂楼くらいだな……。八時にどこかの屋上に来いって言ってんのか?)

 

 しかしそれ以外が意味不明なので、最初の単語をまずはじっと見つめる。「li4ye4han2」という単語は辞書を見ても載ってないし、けれど「8時に」という文要素の前に置いてあるところからして、主語だと思う。

 主語に当たる単語で、それらしい名詞が見つからないとなると……

 

(だいたいそういう時って固有名詞なんだよね……。え、えっ、ちょっとまって)

 

 ぼーっと見ていた私は、慌てて辞書を繰る。ye4(イエ)という読み方の漢字でぱっと思いつくのは「夜」だ。その前後に漢字が来る三文字の名前……胸がざわざわとして、逸る気持ちで手書きパッドに漢字を入力した。

 

(私この漢字の読み方知らないんだよ。でも多分……やっぱり)

 

 浮かび上がってきた漢字を見て、背筋が冷たくなる。

 「櫟夜翰」……「li4ye4han2」(リー・イエ・ハン)はクヌギ ヨハネの中国語読みだ。

 

(じゃあこれ、ユイトを狙ってるように見せかけて、ヨハネさん宛てのメッセージってこと……!?)

 

 とりあえず、残りの部分の解読を急ぐ。「八点来jing1ta3頂楼」……八時に屋上へ来いと言っているのは分かるが、「どこの」に当たる部分の単語が分からない。

 屋上ってことは、それなりに高い建物のはずだ。だとすると、「ta3」(ター)という読みから推測される単語は、「塔」が妥当な気がする。

 

(東京タワーは東京塔だし、エッフェル塔も埃菲尔鉄塔だもんね……)

 

 ネットに接続されないままマップを立ち上げ、街中の建物を探す。「塔」をタワーと翻訳すれば……jing1(ジン)はそれを修飾する単語じゃないだろうか。

 かくなる上は、と「jing1」という発音の漢字を電子辞書で見てみるものの、意味が合いそうなものは特にない。

 

(意味関係ないとすると、音訳で『ジ・タワー』とか……なんかマンションの名前みたいになったな)

 

 一文字だと逆に推測が難しい。唸りながらマップと辞書の画面を交互に睨んでいた私の目に、ふと「中英辞典」の項目が映った。

 

(いや、まさかねえ)

 

 最近は、中国語の読みからでも英単語が調べられるのだから、本当に電子辞書って進歩したものだ。「jing1」と入力して、出て来たものをぺらぺら眺めてみる。

 lush、waterweeds、chaste tree……いくつか関係のなさそうな単語が出て来た後に、唯一セブンスコード内にある建物が出て来て、私は飛び上がった。

 

「茎:stem (of a plant)」

「これだ!!!」

 

 端末に地図を表示させ、拡大する。ES地区、セブンスコード大通りの近く。「ステムタワー」というのがある。たしか、本編でも終盤らへんにちらっと出て来たような。

 集めた情報を総合すると、あの不気味な映像からのメッセージは、こんな風に読めた。

 

「櫟夜翰,八点来茎塔頂楼」(櫟夜翰、八時にステムタワーの屋上に来い)

 

「八時……って、あと十五分しかないじゃん!?」

 

 もし夜の八時だったら、もう間もなく時間だ。

 ヨハネは、この事を知っているんだろうか?

 通信手段は遮断されているし、ワープのない今、十五分でこの地区からステムタワーまで駆け付けるのも不可能に近い。そもそも、行ってどうしようというんだ、私は。

 

(……でも、もしヨハネがこの挑発に敢えて乗ってたとしたら)

 

 どう考えても罠でしかないが、それを分かっていて行っていようとそうでなかろうと、きっと危険な目に遭う。

 もしものことがあったらと思ったら、あんな風に後味の悪い喧嘩別れをした後で、ヨハネのことを放っておいたことを私は一生後悔するだろう。

 

「絶対やだ! ヨハネを助けに行く!」

 

 もう、怖いとか何とか言っていられない。ぱん、と鳴らした柏手ひとつで着物と袴を纏うと、私は一気にアパートの外へ飛び出した。

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