SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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暗号に気付きムラサキの元へ向かおうとするヨハネと、入れ違いにステムタワーへ向かおうとするムラサキ。
車を使って移動しようと試みるムラサキに助け舟を出したのは、思わぬ人物で……!?


2-12 暗雲

第12節 暗雲

 

「……おい、マジかよ……狙われてるのって、もしかしてヨハネさん……?」

 

 暗室のような暗さの、喫茶・クロカゲ。

 愕然とした様子で、暗号の解析結果を眺めたソウルが呟いた。

 暗号の解き方自体は早々に分かったのだが、出て来た文字列の解読に時間がかかり、ウルカが手あたり次第、各言語システムに該当する部分がないか照会するという手法をとって、ようやくこれが中国語の文章らしいということが分かったのだった。

 眉根に皺を寄せて腕を組むヨハネの隣で、ウルカが地図を見ながら小さく顎を引く。

 

「……罠かな」

「だろうね。ボクは今から、一人でステムタワーの方へ行ってみる」

「だっ、ダメだよ! そんな、何が待ってるか分からないのに……!」

「でも、多分それが敵の狙いだろ。カシハラはSOATから出すわけにはいかない。もし大勢でタワーに押し掛けて、その結果SOATが手薄になってるところを襲われでもしたら、それこそ奴らの思うツボだ。ボク一人で行けば、被害は最小限に抑えられる。

……大丈夫だよ。そんな簡単に負けたりはしない」

 

 不安そうなウルカに、安心させるようにしてヨハネはにかっと笑ってみせる。

 決意を固めたらしいヨハネを見たソウルは、最初からそうするだろうと分かっていたかのように、クラカゲの倉庫で準備していた武器の袋を持って来た。

 

「これ、オレの植能で作ったガス弾が入ってる。攻撃力はそんなないけど、目くらまし程度にはなると思うぜ。

……って、ヨハネさんの植能だったら、こんなのいらないかぁ」

「いや。広範囲の相手となると、結構力も消耗するからね。ありがとう、ソウル。恩に着るよ」

 

 袋を受け取って微笑んだヨハネは、身を翻してクロカゲの出入り口に駆け寄り、ふと思い出したように足を止める。

 

「……そういえばこの映像って、今生放送なんだっけ?」

「あ? うん、オレらが見てたのは全部そうだぜ。今も流れてると思うけど」

「ま、待って。これ普通に民間の一般回線のテレビだよね?」

「? うん、普通にセブンスコードの地上波で流れてるテレビだよ……?」

 

 戸惑いながら答えるソウル達を目に、唖然と目を見開いたヨハネは、痛そうに片手で頭を支える。

 

「忘れてた……ステムタワーより先に、ムラサキん()だ!」

「姐さんとこ? なんで?」

「考えてもみろ。もしあいつが家でこれを見てて、万が一にも暗号を解こうもんなら、あのバカ絶対タワーに向かうに決まってる! 変な気起こす前に止めないと……!」

 

 しかし、ここから向かうには、ステムタワーもNT地区のムラサキのアパートも、それなりに距離がある。

 ヨハネが慌てていると、丁度クロカゲに入って来た腰まである長い紫髪の少女が、彼を見てぱあっと顔を輝かせた。

 

「ヨハネ~! 久しぶりだね!」

「にな!? なんでここに!?」

 

 ハルツィナヴァイスの《節制》の美徳担当、高瀬(たかせ)爾名(にな)が、掌を振っていつものにこにこ顔でそこにいた。

 驚くヨハネに構わず、になはヨハネの後ろにいるウルカにも手を振る。

 

「ウルカに連絡もらってぇ、電波干渉があっても使えるワープ装置を作ってたんだっ。奴ら大方の周波数領域を占領してるみたいだけどー、抜け道ってのは、どこにでもあるんだよねぇ。

だからそこを通って、とりあえず一人分、ぶーんっと移動できる端末を作ってみたのでしたぁ!」

「さ、さすが、天才ハッカー……」

 

 当時の作戦自体は結局失敗に終わったのだが、「捕縛」の時、ハルツィナのライブ中にドームをハッキングし、一度はニレのバックアップ破壊に成功した少女が、このになである。

 感心するやら呆れるやらといった様子のヨハネに、になはコンパスのような形の小型端末を、その手を掴んでぎゅっと押し付けた。

 

「はいこれ! ヨハネに貸したげるー!」

「えぇっ!? でもこれ、あんたのじゃ」

「お困りでしょー? こういう時こそもちつもたれつって言うしー、になはヨハネの仲間じゃんっ」

「私達はここで、残りの電波装置を破壊する方法を考えてみるよ。早くムラサキのところに行ってあげて」

「今姐さんのとこに行けるの、ヨハネさんだけなんだからさ!」

 

 になに合わせて、ウルカ達も頷いてくれる。

 仲間たちに支えてもらいながら、ヨハネもその力強い表情に不敵な笑みを返してみせた。

 

「……わかった。ありがとう。あんたらも、気を付けて!」

 

 ワープ装置の光が、ヨハネの体を包む。こうして彼は、クロカゲを後にし例のアパートに向かったのだった。

 

 

 

 考えなしにアパートを飛び出してしまったけど、どうやってステムタワーに向かおう。

 そう思いながらエントランスに降り立った私の前に、地面に空いた赤黒い穴からぼこっぼこっと浮かぶようにして、両腕で這いつくばる怪物が現れた。

 

「足をかえせぇ」「足をよこせぇ」

(忘れてた……こいつらがいたんだった)

 

 きゅっと唇を噛み締めながら、その顔を見る。

 完全に操られているようだけど……髪の長いテケテケは、間違いなくあのシェルターの女性達だ。

 ヨハネに、私の他にまだ何人か行方不明者が出てるとアパートで聞いた時から、もしかしてと思った。だって、テケテケは失くした自分の両脚を探している怪物。それに襲われたら、普通に考えて今度はテケテケに足を切り落とされたその人が、新しくテケテケになるんじゃないかと思ったけど、やっぱりそうだった。

 

「他にも操られてる人がいる……まずはこの人達をなんとかしなきゃ」

 

 這い寄るテケテケの後ろから、ゾンビのように路地裏を通って湧いてくる人達が、虚ろな目をしている。これも、テケテケの土のエレメントによる効果なのかもしれない。

 

「何もしたくねぇよォ……」「動きたくねぇよォ……」

「何でも持ってる奴妬ましぃ……」「ずりぃ……よこせぇ……幸せをよこせぇ」

 

 ぶつぶつと呟きながら迫って来る人達は、手に手にペンキの塗られたブラシやスプレーを携えていて、やっぱりこの人達が犯人だったんだなぁと思う。

 本心からか、それともエレメントに感情を増幅させられてしまった結果かは知らないが、テケテケ同様に意図せず街を破壊させられてしまっている。

 べしゃ、べしゃと彼らの投げる泥団子の塊が、足元へと落ちた。

 

「シェルターの時は結構暴力的な手段を取ったけど、中身が普通の人なら、あんまり傷付けない方がいいよね。

だとしたらやっぱり、使うしかない……。ウーム!」

 

 どっ、と玄関前の広場に上がった土の柱の間を縫うようにして、足を踏ん張り、植能を届かせる。

 危うく着物の袖を裂かれそうになったが、背後にいて泥団子や土を投げようとしていた人達の動きが、明らかに鈍った。

 一人、また一人と、眠ったようにばったり倒れ伏していく。

 

(よし、そのまんま昏倒してくれれば……)

 

 どちらにしろ、あそこを塞がれていたら表通りに続く路地に出れない。

 しかし、その驚異的な速さで植能のオーラをぶっ千切ったテケテケが、一人私の眼前まで迫っていた。

 もう一人が背後に回り、うへへへへと笑いながら、カチカチと白い歯を鳴らして私を挟み撃ちにする。

 

(しまっ……!)

 

 とっさに防御に回ろうとしたけど、間に合わない。

 片方から攻撃を受けるのを覚悟で、目をつぶった時だった。

 

「ギャーーーーーーーッッ!」

 

 凄まじい声が上がって、思わず目を開けた。

 バサバサという翼の音と共に、地面に影が映る。見上げれば、鷲や鷹よりも遥かに大きな鳥が、テケテケの目を鉤爪で潰しているところだった。

 思わぬ光景に唖然としたが、腰を抜かして座り込んでいる間にも、後ろからもう一人のテケテケが掴み掛かってくる。私を引っ掻いては振り上げられる腕をなんとか防いでいると、今度は飛んできた鳥がその背中に、鋭い鉤爪を突き立てる。

 

「びいいいい、びいいいい」

「ギャーーッ、ギャーーーーーーッ」

 

 苦しみ悶えるテケテケの後ろから、しゅうっとオレンジ色の煙が上がった。

 完全に息絶えたテケテケの中から現れた女性の姿が、元の人間らしい形に戻っていく。

 ほっとするのもつかの間、二人を襲った鳥は、ばちばちと雷撃の音と嘶きを上げながら、高く高くビルの上空へ舞い上がっていってしまった。

 

「きえぇぇぇぇえん」

「あっ、待って!!!」

 

 他の倒れている人達にも構わず、その体を大急ぎで跨いで路地を抜ける。

 上を見上げながら、必死になって走った。体の大きさは全然違うけど、あの黄色と黒の色合いと模様に、見覚えがある。

 

(あの子、もしかして……)

 

 稲光を頼りに表の通りへ出て空を見上げると、ぽつりぽつりと降り出した雨の中、傍の木や車に次々と雷を落とし、逃げ惑う人々の真上で高いビルに止まった大きな鳥は、ぶわりとその体を膨らませて閃光を放ちながら、よろめくように再びそこを飛び降りた。

 長い滑走路のような通りを低空で滑空すると、翼から放たれた電撃が、光の玉となって花火のように目の前で弾ける。

 暴風に思わず腕で顔を覆ってから見上げると、鳥は強く吹き始めた追い風に乗って、遥か彼方に見えるステムタワーの方角へと引き寄せられるように飛び始めた。

 

「! ダメだよ、あっちに行っちゃあ……!」

 

 なんだか嫌な予感がする。ヨハネだけじゃなくて、あの子まで危険な目に遭ってしまう。

 ざあざあと顔に雨粒を受けながら、どこかに移動手段はないかと探した。さすがにあそこまでは、私の足で走って追い付けるはずがない。

 一か八か。傍に路駐をしていた車の男性に、私は外から声を掛けた。

 

「あの、すみません! この車貸してもらえませんか!?」

「はぁ!? 何言ってんだてめぇ!」

「ちょっとでいいんです! 後で必ず、お返ししますからっ……!」

 

 自分でも、無茶を承知でお願いしていることは分かっている。

 間が悪いことに、そこへ男性の彼女らしき人が通りから帰って来ると、私に目を吊り上げた。

 

「ちょっと! 私のカレに何やってんの!?」

「あ、えっと、これは……」

「泥棒猫! 私がいちばんダーリンのこと好きなんだから!」

「はぁ? お前はただのセフレだよ。一度俺を捨てて出てった身で何言ってんだ!」

「ひ、ひどい! そんな事言うなんて……全部この女のせいね、許せない……!」

「なんでそうなるんだよ! オイなんなんだお前! オレの便利な女に変なこと吹き込みやがってよぉ!」

 

 彼氏彼女かと思えば、意外と複雑な関係性だったようで目を丸くしたが、今感心すべきはそこではない。

 車から出て来た男と、私に掴み掛ろうとする女に挟まれて、かなり状況は劣勢だ。

 

(っていうか、二人とも翳してる理屈がかなり滅茶苦茶な気がするんですけど!?)

「あ、あの、落ち着いて……!」

「落ち着いていられるもんですかっ! こうなったらあたしのとっておきをお見舞いしてやる! ネイルズ!」

 

 女の方は植能持ちだったらしい。

 後ずさった拍子に男の胸板へ押し付けられ、振り上げられた尖った長い爪に身を竦めた時だった。

 

「見苦しい真似はやめたらどう?」

「……!」

 

 振り上げた腕を押さえられ、ぴくりとも動かせないことに驚きながら、女が振り返る。

 派手な付け爪をした手の動きを邪魔しているのは、手首に巻き付いた細い鞭……彼女にも負けないほどグラマラスな体躯を雨に晒して、闇から出て来たように現れた女性が、眉を一本動かしただけで無表情にそこへ立っていた。

 

「サヤコさん!?」

「あんた、この女の知り合い!? 邪魔したらあんたもただじゃおかない……っ」

「他人に言いがかりを付けて絡む暇があったら、身の安全を第一に考えることね。もうここへも嵐がやって来るわよ。あの男を連れてさっさと逃げなさい」

「はぁ!? あいつはこんな時にヘタる奴じゃ……っ、ちょっと!?」

 

 サヤコさんにムチで路上へ投げ捨てられた女が、車の傍に蹲る男を見て顔色を変える。

 振り向けば、私の背後にいたと思っていた男が、目を閉じて座り込んでいる。慌てて女が濡れ鼠になりながらも揺さぶるが、どうやら眠っているだけのようだった。

 

「こいつら、あたしのダーリンに妙な真似して……!」

「私達が何をやったっていうの? 証拠も何もないのに、どうやって証明するのかしら。訴えに出ても不利になるのはあなたの方じゃない?」

「っ……」

 

 悔しそうに私とサヤコさんを睨み上げた女は、それでも自分が運転できない車に戻るよりマシだと思ったのか、建物の中へ男を引き摺って避難していく。見かけによらぬ剛腕だ。

 

「……雷が落ちる時って、実は車の中も安全な場所なんだけどなぁ」

「あら。いけなかった? あなたはあの二人を、追い出したがっているように見えたのだけど」

「う、正直そうだったから助かる……けど、ごめんね。サヤコさんまで嫌なところに巻き込んで」

「いいのよ。私はもうどこにも属しない女。気まぐれにあなたを見掛けたから、手を貸しただけだわ。あなたとの床は結構よかったし」

 

 表情からは読めないけど、意外にも気に入られていたらしい。

 その言葉に笑い掛けながら、私は既にびしょびしょになった手でドアノブを握ろうとし、唖然と目を見開く。

 

「あ、しまった。鍵……」

「はい。これでしょ」

 

 当然のように、サヤコさんの掌から車の鍵が出て来る。

 滑るように渡されたそれを手に、どうしてと驚いていたら、サヤコさんは濡れてもなおいい女に見える顔で肩をすくめながら、額を雨に晒した。

 

「さっきあいつが連れられて行く時に、ポケットからスリ取っといたわ」

「サ、サヤコさん強すぎる……」

「おそらくは、あの怪電波の仕業じゃないのかしら? このあたりの人達、注意力が散漫ったらないわ。おかげで、ありとあらゆる物を拝借するのに、私は結構便利だったけれど」

「……サヤコさん、もしかしてあんまり人に顔向けできない方法で食い繋いでる?」

「人の乗り物を勝手に奪おうとしてるあなたに言われたくはないわよ。あなたには関係ないことでしょ」

 

 確かにその通りだ、と苦笑してから、私はキーを差し込んだ。

 リアルの世界でもスタートボタン式の車が増えてしまったので、キーシリンダーを回すのは随分と久しぶりのことだ。

 ちらりと見れば、幸いなことにギアもハンドルもペダルも、私が住んでる時代のそれと大差ない。……マニュアルだけど。

 

「あなた、マニュアル運転できるの?」

「一応、これでも免許はマニュアルで取ってるんだよ? ……教習所以外、ほぼオートマでしか運転したことないけど」

 

 ウィンドウから覗き込むサヤコさんにうなずいて、私はクラッチを踏みながらエンジンを掛ける。

 ……うん、よし。ここまでは覚えてる。あとは、クラッチを踏みっぱなしでアクセルを踏んで、一速から少しずつ繋げばスピードが出せるはず。今は人通りも車通りもない分、事故る可能性は低い。ステムタワーまでまっすぐな道を選んで通れれば、なんとか……!

 

「ありがとサヤコさんっ! じゃあこれで……!」

 

 颯爽と言いながらブレーキをアクセルに踏み替え、油断して急にクラッチペダルを離した途端。

 ゆるゆる進み始めた車からぼんっ、と音がして、エンストした車が止まる。

 

「……」

「……見てらんないわね。ちょっと貸しなさいよ」

 

 シートをびしょ濡れにするのも構わず私と席を代わったサヤコさんは、その形いい手で黒革のハンドルを握ると、ペダルを踏んで滑らかに発進し出した。シートベルトをするのも忘れたまま、私はぽかんとその姿を眺めてしまう。長い爪で箱から煙草を取り出し、それに火を点けながら片手運転する様があまりにも余裕で、まるで元からこの車の持ち主だったかのようにぴったりきた。ていうか、格好良すぎる。

 

「サ、サヤコさんマニュアル運転できたんだ……?」

「貧乏で、中古のマニュアルしかリアルでは買えなかったわ。けど、所詮中古の軽だろうがスポーツカーだろうが、運転の仕組み自体は同じなんだから、私みたいな人間に乗り回されるなんて、この車も皮肉なものね」

「そんなことないよっ! マニュアル運転できる人って、超かっこいい……! しかも経済的な理由なんて、自立してて超いいじゃんっ!」

 

 髪から雫を滴らせながら、両腕を引いて意気込む私を見たサヤコさんは、驚いた後に可笑しそうな顔をしてくすっと笑った。

 

「相変わらず変な人ね、あなた。それで? どこへ向かえばいいの?」

「あっ、そうだったっ。ステムタワー向かって!」

 

 風はますます強く吹き荒れ、台風の時のように街路樹がしなり、窓ガラスに雨が叩きつける光景は恐ろしいものだったが、サヤコさんの運転は安定していて、ワイパーを最高速にしながら危なげなく街を走っていく。ギアチェンジも滑らかで、マニュアルなのにオートマに乗っているのと大差ないくらいの乗り心地だ。私の運転ではこうはいかなかっただろう。

 

 おかげで20分と掛からずにステムタワーに到着すると、私は車から降りながら、暗雲の垂れ込めるその頂上を見上げた。

 ぴかっ、ぴかっと激しい光が瞬いている。あそこにあの子がいる。そんな気がする。

 

「もうとっくに八時を過ぎちゃった……ヨハネは大丈夫かな……」

「八時に、何かあるの?」

「ちょっとねー、敵さんとの待ち合わせ、みたいな」

「……そこへ丸腰で飛び込んで行くなんて、あなたはホント馬鹿だわ」

「丸腰じゃないよ。私にはこれ(・・)があるもん」

 

 背中を向けて、見えない着物の下を指さす私を、サヤコさんは佇んだままじっと見つめている。

 長い髪が、煽られて風に散っていた。

 

「それに、私は一人じゃないよ! サヤコさんがいてくれたおかげで、ここまで来られた。

本当にありがとね。何もお礼できないけど、帰ったらまた、どっか二人で遊びに行こ!」

 

 そう言ってサヤコさんに手を振ってから、私はタワーの入口に駆け出す。

 自動ドアが開いたから、中は通電しているはずだ。エレベーターが動きますようにと祈りながら、私は暗がりのタワー内部へと入って行った。

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