SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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やっとのことでヨハネと合流したムラサキ。
息つく暇なく、二人に巨大化した鳥が襲い掛かる……!


2-14 巨鳥

第14節 巨鳥

 

 ぱちぱちと白く見える光をはじかせながら、鳥が光った目で上空からこちらを見やる。

 見上げていたヨハネさんが、小さく呟いたのが聞こえた。

 

「装置を破壊しても、間に合わなかったか……ったく、こんなにデカくなりやがって」

「そう、ち……?」

「アオカゲの奴らが、街中で雷のエレメントを利用した怪電波を流してたんだよ。多分この鳥は、野生の状態でその電波の力を受けて肥大した」

「街の人達が、暴走してたのも、もしか、して……?」

 

 眩暈のする頭でふらふら立ち上がり、並び立つ私の肩を抱いて支えながら、ヨハネさんが頷く。

 

「あんたは無理をするな。……その通りだよ、SOATの地上階で働いてた中にも、あの放送が流れた頃から、諍いを起こしたり暴走したり、電波の影響を受けた奴がいたみたいだ」

「え。ヨハネさんは、大丈夫なの……?」

「ボクは平気。他の奴らも、今は地下に避難してるから無事だと思う」

 

 よほど私が酷い顔をしていたのか、ヨハネさんはそう言ってから、安心させるように微笑んで、頭に手を置いてくれた。……わっ。撫でられてる?

 少し驚いていたら、遠くへ飛び去っていたあの鳥が、鳴きながら風を引き連れて戻って来る気配がした。黒雲の中で、雷がバリバリ光っている。

 

「こいつも、元は無害な野鳥だったんだろうけど……エレメントの力が強すぎて、我を忘れてるね。電気の生成と放電を繰り返しながら、大きくなってるんだ」

 

 真昼のように眩しい夜空を見上げながら、ぎゅっと口を結んでいたヨハネさんは、おもむろに腰の飾りへ手を突っ込んだかと思うと、私を制してゆっくりと後ろへ下がった。

 

「ここにある高エネルギー体が消滅しない限り、街全体の電波障害は解消しない。やっぱり、どうにかして倒すしか……」

 

 狙いを定めて、空に向かって銃口を構える。はっとした私は、その腕を反射的にぎゅっと掴んで縋っていた。

 

「ヨハネ! ダメ!」

「わっ! おい! 何すんだ……!」

 

 考えるよりも先に体が勝手に動く。驚いて振り払おうとするヨハネの前に、両腕を広げて立ち塞がりながら、風に着物の先を煽られつつも、私は必死になって叫ぶ。

 

「お願い、撃っちゃダメ! あの子、私の友達なの! 殺さないで……!」

 

 ごうごう風の鳴る音が耳をつんざく中、しばらくの間、銃を手にしたヨハネと見つめ合う。

 私の我儘だということは分かっている。でも、殺さないで欲しい。

 必死の思いで彼の目を見つめ続けていたら、はぁ、と溜め息をひとつ吐いたヨハネは、肩の力を抜いて銃を降ろし、腰の先にあったクチュールを邪魔っけに脇へ追いやった。

 

「殺そうと思って撃ったところで、あの大きさにこの弾丸じゃ、傷一つ負わせられないだろうよ」

「そ、そか。それは、そうだよね……。でも、どのみち効かないなら、やっぱり撃ちたくない……なんとかしなくちゃ。私とヨハネさんがいたら、きっとなんとか……」

 

 口に出して自分に言い聞かせながら、私は周囲に使えるものはないかと視線を巡らせる。

 ヨハネさんは、私が無意識に彼の口癖を使ったことに驚いていたみたいだけど、この時の私はそんな表情の変化に気付く余裕もなく、ふと腰の下の大きな袋に視線を止めて、ヨハネさんに尋ねてみた。

 

「それ、何?」

「ああ、これ? さっきソウルの奴にもらったんだ。あいつの植能で作ったガス弾なんだって」

「……これが?」

 

 袋をぽいと投げられたので、その中にぎっしり入っていたピンクのキューブ状の物体を指で摘まみ上げ、しげしげと眺めてしまう。

 どう見てもガス弾っぽくは見えないけど……と思った途端、それは目の前でぼんっと弾けて、顔面よりも大きい巨大なブロックに変わる。度肝を抜かれ、避ける動作と後ずさる動作を同時にしようとするあまり、その場に躍り上がってしまった私の足元へ、ピンクと黒のブロックはどかっと落ちて来た。

 

「わっ、わぁ! 何!? 何!?」

「あのクソガキ……間違えてやんの……」

 

 頭を抱えたヨハネさんが、私の持っていた袋に手を突っ込んだかと思うと、じゃらっとキューブを掴んで掌で弄んだ。

 

「これ、防御用のブロックだよ。SOATに支給されるけど、街中でも工事現場を覆ったりとか、立ち入り禁止区画を作ったりするのに使うことがある。

ま、クロカゲの奴らはよからぬ用途に使ってるみたいだけど? 改良すれば、弾込めも出来るんだ。

……けど、こんなもん渡してきてどうすんだよ、クソガキの奴! 幾ら並べたって、あんな鳥の前じゃ飛ばされてひとたまりもないし! なんにも使い道が……」

 

 ぶちぶちと文句を言うヨハネさんの前で、私はもう一度そのブロックを眺め、声を上げながら空を滑空する鳥を見つめた。ブロックの大きさは、丁度上に人が飛び乗れるくらい。暗い空から視線を往復させ、私は考える。

 

「……ねえ。ヨハネさん、それ弾に込められるってさっき言った?」

「え? ああ、一応銃身に込めて、撃った先に展開するようにはできるけど……」

 

 それなら。私は頷いて、不思議そうな彼の顔をまっすぐ見た。

 

「じゃあ、私の合図に合わせて、これ空に撃ってくれない? こう下から上に階段状になるように、だだだっと」

「はあぁ!? んなことしてどうすんだよ!? っていうか、なんであんたがボクに指示してるわけ!? あんたはこれ以上……」

「いいから、急いで準備して。それから、次にあの子がこっちに突っ込んできたら、この屋上の右半分に障害物が見えるようにして、コルニアを使って欲しい。あの子が避けようとして翼を傾けて、こっち側に旋回してくるように」

 

 文句を垂れつつも、ピンクの弾を次々込めていたヨハネが、私をはっとして見る。

 さすがというか、私のしようとしていたことが分かったみたいだった。

 

「……あんた、まさか」

「上手くいくかどうかは分からない……でも、やるだけやってみないとね。やらずに最初から諦めるなんて、ヨハネさんらしくないし」

 

 どのみち、もう体は最初からへろへろだ。アドレナリンが出過ぎて、逆に楽しくなってきた。

 にっと笑い掛けると、迷いながらこちらを見ていたヨハネは、溜息をついてから、決意を固めたように小さく頷いてくれた。

 

「わかった。けど、タイミングはどうする?」

「あ。うう~ん……端末の通話機能は使えないんだっけ」

「ここじゃ電波に阻害されてタイムラグが出まくりだ。無線は来るまでに全部隊員に渡しちゃったし……」

 

 一緒に並んで腕を組んでから、私はふと自分の端末の中をスクロールしていて思いついた。

 

「ね。この端末って、最高でどのくらいまでボリューム上げられる?」

「ボリューム? そりゃ上限さえ解除すれば幾らでも出るけど、何するんだよ」

「これで音楽鳴らして鳥さんの気を惹くから、それに合わせて撃って! そしたらいちいち声掛け合わなくても、私はそれ聞いて動けるし」

 

 これ知ってる? と〝Halcyon〟を表示させると、ヨハネさんは目を真ん丸くする。

 

「知ってる……けど、なんであんたがそれを」

「じゃあいけるね! 準備して! 前奏が終わったら出るから!」

 

 倉庫の影にヨハネさんを待機させて、囮になるように私はフロアへ躍り出た。

 バイオリンの音色を端末で響かせながら、暗い雲を見渡し風の中で私は佇む。向かい風が服の裾を孕ませ髪をなびかせる音を聞き、目を閉じて深呼吸しながら、遠くからだんだん近づいてくる鳥の気配を待ち侘びた。

 大好きな音楽と一緒に戦えるなんて、ぞくぞくしちゃう。

 ヨハネはもちろん知らないだろうけど、私は何度も、この曲でヨハネと一緒に手を組んで闘ってきたのだから。

 着陸する飛行機のように、翼が風を切るごうごうという音と、巨大な影が近付いてくる。……くる!

 

「っ、思ったより速いな!」

 

 一回目は様子見。銃をかまえたヨハネさんが、鳥の背中に向けて撃てそうな角度を見極める。悔しそうな声が呟く間に、体をくるりと引っ繰り返しながらターンした鳥は速度を上げたかと思うと、屋上の手前で猛烈に翼をはためかせ始めた。

 

「! やばい、風起こしだ!」

「一回防衛用に撃ってみる! あんたはそこを動くな!」

 

 その声をかき消す勢いで、よじれるようにして風が吹き寄せ、タイルが飛んだ。

 音楽があるおかげなのか、それともヨハネ自身に無意識に共闘の記憶が刷り込まれているのか。目の前も見えないほどの暴風と砂埃だったけど、不思議なほど、動くタイミングと止まるタイミングは互いに図ることができた。

 だんだんだん、と音が響いて、私の両脇に次々積み重なるブロックが、風を防いでくれる。私にぶつかる代わりに、それを物ともせずに蹴散らしながら、鳥が大声で鳴いて屋上すれすれを通り過ぎた。

 

「あ、ありがと、助かった……」

「次! コルニアで進路を妨害するから! あんたは左側に!」

「了解っ!」

 

 現れたブロックを踏んで、左の上空へ。さっきと同じように身を翻して突っ込んできた鳥の前へ、ヨハネさんは右手を翳しながら躍り出た。

 

「コルニア! 視覚情報を改竄ッ!」

 

 彼を囲むように、屋上の半分を覆う大きさの、サイコロ型の歪んだバリアが現れる。

 思惑通り、それを障害物と錯覚した鳥が、斜めに体を傾けて滑って来る。そのふわりとした羽毛を掴むように、一瞬のタイミングを音の盛り上がりから掴んで、私はブロックから飛び降りた。

 

「いけぇっ!」

 

 白いものに近づいたかと思った次の瞬間、ばふっ、という感触。そこが体のどこかも分かる前に、体が千切られそうなほど猛烈なスピードで引っ張られる。速い。速いし怖い! 周りの景色がびゅんびゅんと矢になって何も見えない。目すら開けられず、手に鳥の体毛を鷲掴んでいるのが精いっぱいだ。

 

「ぎゅえええっ」

 

 鳥が一声鳴いた。かと思うと、その体全体が発光して、爆音のごとく音楽が響き渡る。驚きながら、私はようやくうつ伏せのまま目を開いた。

 

(もしかして、私の端末に反応してる……?)

 

 左手首がぱちぱちとショートして、明らかに壊れている感触がするが、私の端末を暴走させた電流は鳥の中を巡って、信号を大幅に増幅させながら放出しているらしい。その音楽に応えるようにして、ちかっ、ちかっと下で瞬く光がある。

 

(あれ、ヨハネさんのコルニア……?)

『下で何とか罠を張ってみるから、今はとりあえずそいつに食らいついて! 振り落とされないようにしがみついときなよ!』

 

 何も聞こえたわけではないけれど、そう言われたように思った。

 

(よし、分かった……)

 

 次のサビまでの間に、ヨハネさんが何かするに違いない。そう思って鳥の首元に必死でしがみ付いていると、屋上に近づいた途端、ぴしぴしぴしっと星座のように青いラインが、鳥の腹あたりで弾けた。

 

「!?」

「ボクもそっちに行く! 動きを誘導して!」

 

 辛うじてそう聞こえる。銃弾の先にコルニアを発動しているらしい。光を攻撃と錯覚して驚いた鳥が、大きく飛び出るカーブを描いて嘶いた隙に、私は手を伸ばした。

 

「ヨハネさん、こっち!」

 

 屋上に近づいた拍子に、伸ばした腕が私の手に触れる。速すぎて一瞬の間には何も見えなかったけれど、私の腕を掴んで屋上を離れ去ったヨハネさんは、この豪速の中にありながらも、腹の方の羽毛にしがみ付いて上によじ登って来た。

 

「よかった!」

「そっちも!」

 

 隣で肩を並べると、二人も乗せてしまったことが不本意なのか、首をもたげた鳥が不機嫌そうに鳴く。けれど、その光は心なしかさっきよりも弱々しい。

 

「なんか、弱ってきてる……?」

「あんた、この鳥に何か植能使った?」

「あ! ごめん、全然考えてなかった!」

 

 今にも千切られそうな風に耐えるのが精いっぱいで、何も考える余裕なんてなかった。これじゃあ一体何のために乗ったのか、と恥ずかしくなりながら俯いたが、隣で体勢を整えて座り直したヨハネさんは、辺りを見回しながら叫ぶ。

 

「こいつ、高度を下げ始めてる! タワーより下を飛んでるんだ。今まで、あんたは無意識でも使ってることあっただろ。何か効いてるんじゃないか?」

 

 そう言われて見上げれば、確かに黒かった雲が遠ざかり、街の屋根が低くなってきた。上の私達を振り払おうと旋回しながらも、時々疲れたように羽根を広げて風に乗っては、また思い出したように羽ばたいて上昇するのを繰り返している。

 とはいえ、油断は出来ない。エネルギーが足りないと思ったのか、鳥は黒雲の塊を見つけると、勢いをつけてジェットコースターのように真上の雷めがけて急上昇していく。ほぼ90度の角度で、雲のトンネルが視界を過ぎ去った。

 

「わっ、眩しい!」

「手ぇ離すなよ! 電気蓄えたらまた速度が上がる!」

 

 ふわっ、と鳥が雲を飛び越えて上空に舞ったかと思ったら。

 大きく鳴り始めた音楽と同時に、また玉を弾くようにして動きが急峻になる。矢のように翼を畳んで突っ込んでいく中で、ヨハネさんが勢いを弱めようと、進路へブロック銃を撃っているのが見えた。

 

「くっそお、止まれ……!」

 

 間の悪い事に、私達が掴んでいる羽毛までもが、バチバチと放電しはじめた。頼みの綱である両腕が、静電気に当てられているかのようにぴりぴり痺れる。もう全身で、歯で噛み付きさえして振り落とされないようにしているのが精いっぱいだ。

 

「お願い、子宮(ウーム)! 対象を……」

 

 何か少しでも力になりたくて、焼けそうなほど熱を持った紋に力を集中させる。考えろ。多分、魅了じゃ効かない。魅了じゃなく、何か傷付けずに、この鳥をなんとかする方法……私が、考えなくちゃ。なんとか、この植能を使って。

 

「……ウーム! 対象を〝催眠〟!」

 

 かあっと、左胸の上が熱くなる。

 とたん、薄紫色の粉が舞って鳥の体を包み込みながら、タンポポの綿毛のようにぼうっと光り始めた。それに合わせて鳥ががくがくと痙攣し、巨体が徐々に縮み始める。

 

「! エレメントの力を失ってる……!?」

「ムラサキ! そろそろ着地の場所を探さないとマズい! このまんまだとどっかに墜落する!」

 

 しまった。乗る事ばっかり考えてて、降りる事は何も考えてなかった!

 ぴしぴしと、鱗が剥がれるようにして雷撃が鳥の側面を打つ。その間から必死で顔を覗かせ、私は街中の広い場所を探した。

 最後の抵抗をするように鳥がのたうち、おまけに小さくもなってきているので、まるでロデオに乗っているかのような乗り心地だ。

 

「山! 森林公園は!?」

「こっからだと遠すぎて多分もたないよ! かといって平原はボクらの真後ろだし、こっちの方向に飛び続けるとしたら……」

 

 言われなくても、建物がだんだん少なくなり、見えて来た景色を見て察した。ゲームの中でも、見覚えのあるセーフハウスと桟橋。湖だ。

 びゅんっと、鳥がその上を旋回する。ヨハネさんが声を張り上げた。

 

「ムラサキ! 合図で全力で植能使って! こいつがここを離れる前に、なんとしてでも着水させないと街に突っ込んでしまう! できる!?」

「お安い、御用っ……!」

 

 もはや体が浮いて、首にしがみついたまま半分飛んでいるような状態だ。湖畔に浮いていた雲から落ちる雷に合わせ、鳥がジグザグに飛行を始める。

 

「こっから出してたまるか……っ! コルニア! 視覚情報を改竄!」

 

 ずどんっ! とブロック銃を湖の岸辺へ撃ち込んだヨハネさんは、そこを起点に花火の幻覚を打ち上げた。火花を見て驚いた鳥が方向を変えると、飛んで行った反対の岸辺にまたブロックを撃ち、同じことを繰り返す。矢のように方向転換をしまくった鳥に引きずられながら、私達は竜巻のようにくるくると、湖へ高度を下げていく。

 

「今!」

「ウーム! 対象を催眠!」

 

 抱き着いた鳥に、もう一度一気に力を注いだ。視界がピンクの光に染まるか染まらないかといううち、完全に意識を失った鳥はひるるると墜落して、私達もろとも鏡のような湖面に頭から突っ込んで行く。

 音楽のフィナーレで、思いっきりばしゃあんと派手な水飛沫が上がった。

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