SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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ついにSOATの本部でユイトと対峙したムラサキ。
取り調べの末、ユイトが下した決断は……?


3-2 訪問

第2節 訪問

 

 それから。

 ムラサキはヨハネに連れられ、今はSOATの本部としての地位を確立した、元ルートCQ地区担当詰所の門をくぐる事となった。

 中にいるのは多くが隊服姿の隊員達なので、皆何事かという顔で、袴姿のムラサキを驚き顔で振り返っている。しかし、全くの赤の他人を見ているというほどにはその反応は強くなく、むしろ皆こそこそと、噂しあっているかのような雰囲気だった。

 

「……ひょっとして、私って結構有名人?」

「まあ、あんたは八尺様の前から色々やらかしてるからね……。あんたと一緒に、闘ったことのある奴もいるはずだよ」

 

 そういえば、八尺様事件の時に勝手に植能を掛けて動かしてしまった若者たちの顔を、オフィスルームの中に見かけたような気がしたムラサキは、彼らが慌てて目を逸らすのを見て、苦笑顔で傍を通り過ぎる。

 エレベーターで階を移動して、テレビ画面や自販機の並ぶ、休憩所らしきエリアに出た。天井から降って来る四角の電灯の光を、興味深げにムラサキが見上げる。

 

「ここ、もしかしてイサクくんがユイトさんと一緒にコーヒー飲んでた場所?」

「今じゃボクもたまに飲むけど」

「ふぇ~……オフィスって感じだぁ。つくづくデザインが、近未来的って感じで格好いいよね。実際にこの目に出来るとか、感動……」

「あんたの世界でこういうの、聖地巡礼って言うんだっけ? ったく、浮かれるのはいいけど、本来の目的忘れないでよ」

 

 観光に来たような様子のムラサキに、呆れたように言ったヨハネが、傍に興味本位でうろつきに来ていた隊員たちをしっしと追い払う。

 

「今はイサクは見回りに出てるはず。さっきカシハラに連絡したから、もう少し待ってて。多分、あっちの手が空いた時に上の部屋へ呼ばれるはずだから、あんたを連れて……」

「その必要はない。ボクが自分で彼女を案内する」

 

 少なくともムラサキにとっては聞き慣れた声が聞こえて、彼女は座っていたベンチから顔を上げた。

 SOATの黒い隊服――ではなく、それを色違いにしたかのような、他の誰とも異なる真っ白の隊服を着た人物が、部下を引き連れて目の前へ歩いてきたところだった。

 ヨハネが目を細める。ムラサキと共に立ち上がって廊下へ出た時、彼は隣に並びながらも、自分より身長の低いムラサキの方へ背を屈めると、耳元にそっと囁いた。

 

「あんたが『知ってる』って言ってた奴には全員、ボクが前もって話してあるから、あんたは何も心配しなくて大丈夫。答えたくないと思った質問には、答えなくていい。

自然体で、正直に話して」

「う、うん。わかった」

 

 なんとか頷いて背筋を伸ばすムラサキの前へ歩いてきた少年が、ゆっくりと立ち止まる。

 ヨハネとほとんど変わらない年に見えるその少年の面持ちを前に、ムラサキは緊張しながらも、どこか感慨深そうな表情になる。

 

「……そっか。『捕縛』が終わった後って、ユイトさんこの格好なんだもんな」

「ああ。普段は仰々しいからこの正装はしないんだが、貴女の反応を見ようと思ってな。

やはりヨハネの言っていたことは本当らしい。これを見て驚かないということは、『知っている』んだろう?」

「私が本当に過去のことを知っているかどうか確かめるために、わざわざこの服装を?」

「試すような真似をして申し訳ない。改めて、ボクが橿原(カシハラ)唯人(ユイト)だ。よろしく」

 

 少年らしい見た目をしていても、あの「捕縛」下で様々なことを経験してきた故か、ユイトは十分落ち着いたままで、にこやかに笑みを浮かべた。

 ムラサキも、少し緊張を緩めながら、差し出された白いグローブを握り返す。

 

「はじめまして。大野紫咲です。オオノでもムラサキでも、好きに呼んでもらえれば」

「貴女にとっては、ボクははじめましてではないと聞いているが?」

「うん、そう。画面の中では見てた……ヨハネさんの奪われてたコルニアと同じで、ほぼずっとユイトの視点から物語を見てて。何て言ったらいいのか……

ごめんなさい! 気安く呼び捨てにして!」

「構わない。何を見ていても、ボクが貴女にとって若造である事には変わりないだろう。

ヨハネ、ありがとう。彼女と少し話をしてくるから、先に研究所の面々へ話をつけておいてくれ」

 

 ユイトがそう言ってムラサキを従えながら歩き出すと、ヨハネは黙って引き下がりはしたものの、背後から物言いたげな視線を、いつものキツい目つきで浴びせていた。

 

「そんなに睨まなくても、乱暴はしない」

「……ッはぁ!? 別にあんた達のこと睨んでなんか……ってかそんなの当たり前でしょ!

もしボクが帰ってくるまでにムラサキを困らせるような事があったら、ボクがあんたを指揮官の座から引きずり降ろしてやるからね」

 

 そう怒鳴ってエレベーターホールへさっさと消えていくヨハネに、ユイトが苦笑する。

 

「ボクもヨハネと短いとは言えない付き合いのはずなんだが、あいつは完全に、貴女のことを優先するつもりでいるらしい」

「! すっ、すみません~! なんか上官にとんでもないご無礼を……」

「気にするな。あいつはいつもああなんだ」

 

 そう言って廊下の先を歩きながら、ユイトが隣のムラサキを見下ろした。

 

「貴女はもう随分、あの気難しいヨハネに好かれてるみたいだな」

「そっ、そうかなあ……? 確かにあの、ゲームの中では私ずっとパートナーにしてて、一番大事にしてたけど……あっそのっ、ゲームっていうのは、あくまで私から見たこの世界の話で! 決してユイトさん達の存在を軽んじるわけじゃっ」

「落ち着いて。少しゆっくり話せる場所まで、まずは移動しよう。面談用の部屋を用意してある」

 

 SOATの本部は、見た目以上に中身が広かった。一棟ではなく、いくつもの棟が集まっているように感じられる。元はここは小さな詰所だったので、仕事場が足りるよう、空間のデータを拡張したのだとユイトが説明した。

 移動の途中、いくつかの執務室や部屋を通ったが、その中にはムラサキが見たことのある留置所もあった。

 縦に鉄格子の嵌まった、檻のような収監スペース。SOATのネオンが輝く薄暗い小部屋の両脇には、帽子を被った隊員達が配置され、通路の警備や面談の監視などの仕事に当たっている。

 

「へーーっ……これがヨハネさんが留置されてた留置所……へーーっ……」

 

 何度もそのシーンを見たムラサキが、思わず感心したように声を漏らしてしまったので、ユイトも足を止めながら驚いた。

 

「そんなことまで知っているんだな」

「まあ、でもあの時ここにぶち込まれてたの、全部ヨハネさんじゃなくて偽物だったみたいだけどね?」

「っ……本当に、何でも知ってるんだな」

 

 驚きを通り越して、ユイトが畏怖するような目になるのを感じたムラサキが、苦笑する。

 その点も含めて、個室に通されたムラサキは、出されたお茶を前にしながら改めてゆっくりと話すことにした。

 ムラサキの世界にある、「セブンスコード」というアプリの存在。

 そこで紡ぎ出される「捕縛」時の世界と、主人公であるユイトの視点から見た闘いの日々。ただし、全てを網羅していたわけではなく、「捕縛」が解除された後の世界に関しても、ムラサキ自身にとってはほとんど情報がないこと。

 驚きを隠せずに、ユイトはその色違いの瞳を見開いて、しばらく話に聞き入っていた。

 

「まあ、時空を乱しに来た戦犯と思われても仕方ないかもしれないけど……私は本当に見てただけ。私が体験してる現実……あなた達にとっての過去に当たるのかな。その流れ自体を、変える事は出来なかったし操作する事も出来なかった。

私に出来るのは、みんなの戦闘のお手伝い」

「干渉ではなく、あくまでゲームの操作、というのを通してボク達に力を与えていたと……?」

「道筋は決まってたから、多分そういう扱いになるのかな。

2021年にはちゃんと2021年の時の流れがあって、この世界で推移してる出来事が、私の世界での時間の流れに従って、ピックアップされて映し出されただけなの。それこそ、ドラマみたいにして」

 

 ムラサキと一緒に頭を働かせていたユイトは、机を挟んで座りながら、腕を組んで微かに眉根を寄せる。

 

「ということは、貴女は単純に見ると、過去から未来の世界へ来ているだけにも見えるが……」

「実際にそうなのかは、分かんない。私の世界の2021年を生きていても、2054年になった時に、必ずこのセブンスコードが出来てる保証も……もっと言えば、アウロラが見つかってる事だって、あり得るかどうかわからないよね」

「それなら貴女は、時間だけではなく、世界と世界の間を跨いで移動してきていることになる。どちらにしろ、次元間移動には変わりないな」

 

 ヨハネの後押しがあったからか、抵抗なく信じてはもらえそうなので、ムラサキはほっと息をついて、湯気の立ったお茶を啜る。

 調書を取っていたユイトが、一息ついたところで顔を上げた。

 

「他にボクらについて知っている人間は、そちらの世界にどのくらいいる?」

「わからない……2021年ではユーザーって呼ばれてるけど、世界各地に散らばっていて、単純にダウンロード数だけを見たら相当いると思う」

「なるほどな。こちらで機密扱いにしている事も、貴女たちの世界の人間には筒抜けということか」

「ただ、その中で今でも定期的にログインしてる人間はどのくらいいるのか知らないし、本当にあの中の世界へ転移出来る人なんて、リアルでは私の他に聞いたこともないよ」

 

 他にも、この世界におけるムラサキの仕事や植能、シェルターでの出来事に関して幾つか質問をした後、ユイトは少し待つようにと伝えて一旦部屋を出る。

 外には、念のために録音を行っていた部下の隊員が控えていた。信頼を置いている上級隊員の一人で、ユイトの事務的な仕事を手伝っている者だ。

 

「どうします? 橿原指揮官」

「まず、彼女の職業だ。

売春は確かに、この街では罪に問われることだが……彼女のいた店は一応、営業法上の許可を申請していたようだし、何より同性同士の売春に関する規定がここにはない」

 

 リアルの世界でも、未だ扱い方が微妙な問題ではある。

 ヨハネ達の調査のおかげで、そのあたりを闇雲に締め付けるのも良くはないと判断していたユイトは、ひとつ溜め息をついてから、現行の規制が新しくなるまでは黙認の姿勢を取ることにした。

 

「次に気になるのは、彼女に他のユーザーにはない不調が見られるところだな」

「痛みを伴う……となると、ログイン時の神経接続から上手くいっていない可能性もあると思いますが」

「だとしても、違う時代にいるのだとしたら、こちらからリアルで技術員を派遣するわけにもいかない。しかもその時間軸が、この世界から地続きになっている保証もないしな」

 

 このへんに関しては、技術部門や研究所の人間に成果を期待するしかない。

 植能の件に関しても纏めて依頼することにして、その上で彼女をどう扱うかの最終判断は、やはりユイトに任されることになる。

 深く息を吐いて、珍しく弱った表情を浮かべながら、彼は無機質な通路の電灯を仰いだ。その横で、隊員は伝令を行うべく、メモを取っている。

 

「こっちが出来ることを支援しながら、全面的に滞在を認める形になりますかね?」

「ここではない世界と時代から来た人間に適用する法律が、このセブンスコードにない以上、現状ではどうすることもできないだろう。参ったな……」

 

 かといって野放しにするのも、何か問題が起こった時に、ムラサキのためにもSOATのためにもならない気がする。

 一つ案を決めてから、ユイトは隊員にヨハネを呼びに行かせ、ムラサキのいた部屋に戻る。

 

「待たせて済まない。これからヨハネと話をして、彼に貴女を迎えに行かせるから、先に談話室で待っていてもらえないか?」

「あ、さっきの部屋だね? えっと~~……」

「この階にも同じものがある。そっちに案内させるよ」

 

 女性隊員に案内役を頼んだ後、先ほどの事務官に呼ばれたヨハネがユイトの元へやって来る。

 先ほどまでムラサキのいた部屋へヨハネを招いてから、ユイトはこう口火を切った。

 

「ヨハネ。お前に、密航者の件に関する特別任務と権限を与えたいんだ。

しばらくの間、彼女の……ムラサキの護衛に付いてもらえないだろうか」

「それが、カシハラの結論ってこと?」

 

 大体思っていたところに落ち着いた、と言わんばかりにヨハネが顎を引くと、ユイトもそれに頷いてみせた。

 

「見たところ、今までの騒動も正当防衛以外で問題を起こしたことはなさそうだし……監視、と言っては彼女も居心地が悪いだろうから、これからはログインの際にこちらへの通知を義務付けることだけ、頼んでおく。あとはお前が、必要に応じて様子を見に行けばいい」

「ふうん。あんた、随分と丸くなったね」

「彼女から、色々と賭場や裏界隈のことを聞いたよ。ボクたちの目が届いていない箇所の事情や、世論なんかも知っていて、随分と参考になった。そういう情報源という意味でも、自由に動いて協力をしてもらった方が、助かるんだ」

「わかったよ。カシハラにしては、妥当な判断だね」

 

 そう言って了承の意を示すヨハネに、ユイトは思わず小さく噴き出した。

 

「……ヨハネ。お前、温情措置で本当は結構安心してるだろ?」

 

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした後。ヨハネは、微かに赤くなって早口になった。

 

「はぁ? 別に。危険だって判断すれば、強制退出や出禁も有りうるでしょ。ココの治安を守るのが、ボクらSOATの役目なんだから。いくら特別だからって、たかだか民間人の一人になんて構ってられないね」

「そう言いながら、万が一ボクが反対した時のことを考えてリアやミライにまで根回ししてたの、知ってるからな」

「っ! お、同じ女性の方が、心を開くってこともあるかもしれないだろ!」

「ふっ。お前もここでは女性のくせに、何を言って……わかったよ。そういうことにしておこう」

 

 まだむくれて言い足りなさそうなヨハネではあったが、そのままお開きになりそうな雰囲気を察して、ユイトのことを引き止める。

 

「カシハラ、あのさ。もう一個、頼みがあるんだけど」

「何だ?」

「彼女の植能のこと……風俗の仕事以外じゃ、当然危険が及んだ時に発動させるだろうけど、その場にボクがいた方が安心だしデータも色々取れると思う。

……見回りの仕事、ボクと一緒に組ませてくれない?」

「完全な一般人の彼女にか?」

 

 驚いたようにユイトが目を見開くが、ヨハネはじとっとそんな彼を睨む。

 

「次元を超えてやって来てる時点で、『完全な一般人』とはお世辞にも言えないでしょ」

「それもそうだな……。彼女を守ることは、SOATやセブンスコードの秘密を守ることにもなる」

「それにムラサキ、リアルで仕事に就いてないことを気にしてる、みたいなことを前言ってたんだ。別にこっちでの風俗だって立派な仕事だと思うけど、もしSOATの仕事が自信を取り戻すきっかけになるなら、手伝えたらいいなって」

 

 どことなくユイトの目が優しそうに滲んだのを察して、ヨハネがきまり悪そうに弁解する。

 

「べ、別にムラサキの為とか、特別扱いしたいとかそういうわけじゃないから。

あんまりこっちの悪い評判とか書かれても、ボク達が困るし……そ、それに、彼女が暇つぶしで来てるんだったら、こっちだって仕事を手伝ってもらえれば、一石二鳥っていうか?」

「そうだな。経緯はどうあれ、植能を持ったからには、戦闘慣れしておいた方が身を守れる確率は高くなる。

彼女だって、既にエレメントとの戦闘に加わったのは一度や二度じゃないんだ。お前が彼女の身を守ってくれるなら、こっちとしては安心して任せられるよ」

 

 実質ヨハネに一任する形で、ユイトがその場で許可証にサインをする。

 それを端末でデータ送信しながら、ユイトがふっと含み笑いを零した。

 

「ただし、部下本人の人付き合いに関しては、ボクは一切関与しないからな」

「はあ? 何の話……」

「気を配るのはいいが、既婚者に入れ込み過ぎるなよと言っている」

「!?!?!?!?!? だっ、誰が……! そもそもムラサキんちは特殊な家庭環境で、別にそういうのは相手から了承得てるって前に……っていうか何でボクがそんな事説明してるんだよッ!?!? あんたには何も関係ないだろ!?!?!?」

「いや、そっちが勝手に話し出したんだろ……ボクに怒られても困る」

 

 そうぎゃあぎゃあ言いながら、廊下で隊員達の奇異の視線を集めつつも、二人は別々の方面へ向けて的確に指示を飛ばしていた。

 形式上は臨時の職員としてSOATに所属させるムラサキの準備を整えるべく、事務員たちが走り回る。

 一通りの手続きを終えた後で、ようやく彼は説明と研究所への移動へ向かうべく、休憩所のムラサキのところへ合流しに行ったのだった。

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