SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部 作:大野 紫咲
その姿を見つけたミライやリアに誘われ、三人は女子トークを……?
第3節
(き、緊張、したあぁ……!)
女性隊員に待つように言われ、自動販売機の前のスペースへ腰を掛けてから、ムラサキは大きく息を吸って吐き、胸を撫で下ろした。
いくら一方的に顔見知りとはいえ、ユイトはセブンスコードの運命を担う存在といっても差し支えないわけで、そんな人間に自分は果たして不穏分子と見なされるかどうかと、内心はかなり緊張していた。
実際に会ってみると、しっかりしていながらも、元々の性格も相まってかなり温厚な印象は受けたが。こんな立場でなければ、ヨハネのように年下の子扱いしてすっかり可愛がってしまいそうな気持ちもある。
(って、ヨハネさんも隊長だから偉い人なんだけどね……)
それにしてもこの接しやすさは何なのだろう、と思いながら、早く廊下の奥からヨハネの姿が見えないかと、ムラサキが待ち遠しく首を伸ばしていると。
「貴殿が、櫟に植能持ちと言われていた大野という者か?」
凛とした女性の声に、休憩室のテーブルから声を掛けられた。
ふと顔を上げてそこを見ると、左右色違いの目をした金髪の若い女性が、丁度コーヒーを手に携えて座っているところだ。隊服の上から見ても明らかなほどスタイルがよい美女に、ムラサキは見覚えがあった。
「あなたは……ええと、ミライさん?」
「いかにも。
「え、ええその、えっと……プロフィールとか手記も、読んだりしたので……。ていうか、ミライさんは、セブンスコード復活直後に隊長を辞められたんじゃありませんでしたっけ」
「そのつもりだったんだが……何かと人手不足で呼び戻されてな。まあ、しかし、私の任務は今は辺境部の出張所管理や見回りに近い。街中の隊長職とは、また少し違う業務だ」
そう言ってすぅっと綺麗な目を細めてみせる。
(うう、何か警戒されているような……?)
自分のことを何でも知っている人間が、突然目の前に現れてぺらぺら喋り始めたら、確かにそれはストーカーみたいで気味が悪いだろう。
すわ何か鋭い言葉でも投げかけられるか、と内心ドキドキしながらムラサキが身構えていると、目の前の席に座るように、と促したミライは、背の低いムラサキのつむじをちらっちらっと見ながら、尋ねてきた。
「そういえば、その……ユイトはどうだった?」
(あ……そういえば、ミライさんってユイトの元恋人だったっけ)
愛情の重さ故に、「捕縛」の時は嫉妬の審判に掛かって、なかなか悲惨な末路を遂げたのを知っているが、それは表に出さずに、ムラサキは答えた。
「んっと、普通に元気そうでしたよ。取り調べの時も丁寧に接してくださったし……あっ、あの白い服、珍しいですよね。私はずっと、隊服姿ばっかり目にしていたので」
「ええっ! い、いいなあ……ユイト、私達の前じゃ今は全然アレ着てくれないのに……あなたばっかりズルい……っ」
「あああ、でもでも! 単に私が時空を超える前に、どの程度の知識を持ってるか確かめるためだって言ってましたし! ミライさんが頼んだら、ユイトさんはいくらでも着てくれるのでは……?」
「……ふう。すまない。取り乱したな。いいんだ、もう私は彼の恋人じゃない。まずは、不安のあまり相手を縛り尽くしたりせぬような大人になって……それからもう一度、自らの心に問い直そうかと思っている」
苦笑したミライさんから、思わぬ複雑な心境を聞かされてしまって、私は目を丸くした。
彼女は決して、あきらめたわけではないのだろう。
けれど、相手がどの領域で、どんな風に刺激や影響を与えてくれているのか、自分はそれをどの程度必要とし、どうすれば互いに搾取せずに共に生きていけるかと、模索して自分を見つめ直すのは、とてもいい傾向に思えた。
しんどい作業であるだけに、余計に彼女を尊敬してしまう。
「……強いですね、ミライさんは」
「なに、人に誇示できるほどのものではない。貴殿こそ……名前はムラサキと言ったか?」
「は、はいっ。よかったらそう呼んでくださいっ」
「ムラサキこそ、不具合のある植能を持ちながら、それを使ってエレメントの被害を鎮圧するなど、なかなかやるではないか。今は研究所への移動待ちか?」
「はい、ヨハネさんの迎えを待ってて」
丁度彼女も休憩中だったようで、私に飲み物を奢ってくれたミライさんは、完全に女同士の会話のノリになりながら、向かい合った私に質問してきた。
「具体的にはどんな体調不良が?」
「こっちの世界の人には、一時的な怪我や火傷だったり、ストマクみたいな植能でのダメージを受ける以外、痛みが生じないって聞いてるんですけど、私は普通に、使い過ぎるとお腹とか体とか痛くて……倦怠感もあるし。
ていうか、子宮に関する能力なんで、生理もあるんですよね。酷いと一日動けなくって」
そこまで言ってから、難しい顔のミライを見て、ムラサキはふと話さなくてもよい事を話しすぎてしまっただろうかと思った。
植能の副作用と言いつつ、実際は薬で誤魔化したり気合を入れて動けばなんとかなるものばかりで、特段病気や不調のようには扱われないのでは、と思ったのだ。
もっと冷凍ビームみたいな視線を浴びせられたり、甘えるなと一括されるかと思ったが、ミライは神妙に頷いただけだった。
「そうか……大変だったな」
(あれれ? 「生理痛ぐらいで甘えるな」とか言われるかと思ったけど……)
勝手にスパルタなイメージをミライに抱いていたムラサキは、半分ほっとし、半分は同じ女性ということで共感を覚えてもらえることに感銘を受けつつ、ココアの湯気を吹いて口を開く。
「ミライさんはバリバリお仕事出来るから、もっと厳しいこと言うかと思ってました」
「それこそ、この世界がセブンスコードだからこそ出来ることだ。リアルの世界では、私もそこそこ悩まされた。ましてや動けないほど酷い奴となると、同情を禁じ得ないな」
「え……2050年代になっても、生理痛ってまだ撲滅されてないんですか? 信じらんねぇ……」
「月経困難症を改善するピルの類は随分と進歩したんだがな……。未だリアルでは完全に取り除くことも出来ないとは。医療に関する全研究の総力を上げて、生理痛の根絶に当たって欲しいものだ」
うんうん、と激しく頷き合いながら二人が喋っているところへ、もう一人女性の声が掛かる。
「お二人とも、お茶はいかがですか? 新しい茶葉が手に入ったんです」
急須と茶碗をお盆に乗せて運んできたのは、リアだった。
肩手を上げたミライが隣の椅子を引き、リアはミライとムラサキの丁度真ん中ににこにこと座る。
「リアちゃん、ヒバリちゃんのお見送りお疲れ様。大丈夫だった?」
「はい、道中特に問題は起こりませんでした! ヒバリさんもことりさんも、とってもいい子で。私の方がなんだか癒されてしまいました」
「わかる……でも、ありがとうね」
「ほう、榊はもうこんなにムラサキと仲良くなっているのか」
「まだそんなにお話は……でも、私ったらもうすっかり、オオノさんと友達気分になってしまいまして。オオノさんからは、居心地のいい匂いがするんです」
照れたように話すリアから思わぬ評価を受け、ムラサキははにかんだ笑顔になる。
「ありがと。この植能持ってて、そんな風に言われたの初めてだからうれしい……あの、ムラサキって呼んでいいよ、リアちゃん。そんなに堅苦しくならなくても」
「敬語は癖なので、つい。でも、それでしたらムラサキさんと呼ばせていただきますね」
「だったら、お前こそ私に敬語を使わず話せ。だいたい、私の方が年下だろう」
「うぐ、そうなんだけど、ミライさんめっちゃ格好いいししっかりしてるから、こっちもつい……わ、わかった、善処しますっ」
リアもミライも、内心はムラサキに興味津々だったらしい。
珍獣のような扱いを受けながらも、こうやって自分に興味を持ち、なおかつ好意的に接してくれる味方の存在はありがたい、とムラサキは嬉しい気持ちになった。ヨハネやミカも一応女子に数えていい気はするが、彼ら以外の女子とゆっくり話す機会も、そういえば久しぶりだ。
テーブルを囲みながら、話は弾んだ。
ムラサキの植能の話題になり、ミライは身を乗り出しながら、思い切ったように口火を切り出した。
「その……魅了の能力、ということはだな、その……おっ、お前の能力は、たとえば意中の人間を誘惑したり、などということは……!」
「隊長! ムラサキさんは困ってるんですから、興味本位で尋ねては失礼ですよ!」
「だっ、大丈夫大丈夫!」
慌ててリアちゃんに手を振ってから、赤くなって聞くのも必死という様子のミライさんを、微笑ましげな目になって見つめ返してしまう。
(本当に、ユイトのこと好きなんだなぁ)
ああは言っても、どんなに格好よくても、やっぱり乙女な部分を消しきれないミライさんが可愛い、とムラサキは思う。
一番素朴で率直な気持ちが溢れてくる、そんなどぎまぎとしたミライの表情を見ながら、ムラサキは二人に答えた。
「自分が意中の相手でも、そうでなくても、無関係にこの力は効くと思います。
自分に心を向けさせることもできるし……相手が『好きだ』と思う対象に、強烈に惚れさせる作用を催すこともできます。簡単に言うと、いいなぁって思ってるものに惹かれちゃう、みたいな。
ただどちらにしろ、一時的なものなので、解決にはなりませんけどね」
「そ、そうか……惚れ薬みたいなもの、だな」
「でも、一時的な効果しかなかったとしても、そういうのってなんだか憧れちゃいます……よね」
小さく言ったリアに合わせて、俯く三人。
きっと今目の前の二人は、同じ相手のことを考えているのだろうな、とムラサキはった。
結局は自分でどうにかするしかないのだけれど、そんな力があるのなら縋ってみたい、と思うほどには、好きな相手がいるということだ。
「いいねぇ、恋してるって」
思わず口に出すと、リアはわたわたと手を顔の前で振る。
「わっ、わたしはっ! 別にそんなんでは……っ!」
「お前こそ、意中の相手はいないのか?」
「へっ? 私ですか? 私は……」
言われてムラサキの頭にすっと思い浮かぶ、一人の顔。
リアルにいる夫ではなくて、今恋にときめく相手と言われて、思いつくのは――
「あはは、やだなあ。いませんよ、そんな人」
なんて。いないことにしてしまった方が、きっと幸福だろう、とムラサキは無理に笑顔を作る。
(何の行き着く先もない私から想いを向けられても、きっとあの子は困るだろうから)
本当は、わかっている。
自分の気持ちも、それが叶うことは現実的にはきっとあり得ないだろう、ということも。
ただ、叶わないと言われても常識外れと言われても、それをどこかで諦めたくない気持ちが、心にあった。相手の「普通の」幸せを願うことが、相手の人生にとって一番だ、といくら頭で分かっていようと、それと心を殺せるかどうかは、全くの別問題なのだ。
そんな身勝手な気持ちを隠し切れず、切ない笑みのまま目を伏せたムラサキを見て、リアとミライは顔を見合わせた。
と、そのタイミングで、ムラサキの胸を占めていた人物が、ぱたぱたと足音を急がせてやって来る。
「ごめん、お待たせ! ムラサキ、色々許可が出たから、これ持って研究所に行こう!」
「ヨハネ!」
ぱっ、と瞬時に憂鬱も哀しみも影を潜めたムラサキの表情が、明るく輝く。
時間押してるから、と挨拶も早々に急き立てられ、ぺこりと頭を下げて二人に手を振ってから、ヨハネの後をぴょこぴょこついて歩くポニーテールの頭を見ながら、肘をついたミライが呟いた。
「……ムラサキって、私達より大人の割には、分かりやすいよね」
「ええ……いい意味で、距離を感じませんよね」
一言も名前を漏らしていないのに、一発で好きな相手がこちらから察せてしまう、ムラサキの素直さと表情の動きを前にして、ミライとリアは肩を並べ小さく笑い合った。