SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部 作:大野 紫咲
料理を作り上げ、三人で囲む和やかな食卓が始まる。
第4節
「ただいま」
「お、ウルカ! おかえり」
「おかえりなさいー」
普段、喫茶クロカゲで接客をするのと同じ、黒を基調にしたゴスロリらしきふわりとしたドレスに着替えている。
「いい匂い。もう夕ご飯作ってるの?」
「うん。丁度野菜を炒めてたとこー」
「楽しみだなぁ。あ……ネロの面倒見ててくれてありがとう、ムラサキ」
「ううんー。ネロちゃんは、いつもすごく大人しいから。私が面倒見る間でもないよ。さっきも二階の窓辺でお昼寝してたとこ」
そうムラサキが答えると、呼ばれたようにして、ウルカの足元から、黒猫がにゃあと声を上げる。
抱き上げて、ぺろりとその頬を舌で舐められたウルカは、くすぐったそうに笑った。
「ネロ、お手伝いがあるから、ちょっと待っててね。ムラサキ、このまな板と包丁、まだ使う?」
「んーっと……いや、今日は挽肉使うから肉切らないし、もう出番はないかな」
「洗っといてもいい?」
「うん、ありがと。ウルカちゃん」
目線を合わせるムラサキに、ウルカもにっこり微笑む。
〝捕縛〟当時は言葉すらままならず人形のようだったウルカも、自我を取り戻した今はすっかり表情豊かな年頃の少女だ。
ふふん、と張り切って鼻歌を歌いながら、粉末を鍋に入れるムラサキの手元を、ウルカは覗き見た。
「味噌汁……って、お出汁から作るんだね、ムラサキは」
「今日みたいに手軽にしたい時は、ほんだしだけどね。売り物にしちゃっていいのかなってレベル……」
「でも、ムラサキの作るご飯、お客さんはみんな美味しいって言って食べてるよ。わたしもソウルも、ムラサキの作るご飯が好き」
「ふふ、ありがと。嬉しい」
洗い物に入るウルカの隣で、今度はフライ返しで湯気を上げる野菜を炒めるムラサキを見ながら、ソウルは不思議そうに首を傾げる。
「姐さんって匂いに敏感だけど……なんでそんなにわかるんだ?」
「え、今も分かんない?」
「さすがにこれだけ近かったら分かるけどさ。セブンスコードって、特定の食べ物とか飲み物に組み込まれた物以外、基本無臭だから。あんまり意識したことなくってさ……姐さんに言われて、少しは分かるようになってきた気がすっけど」
ひくひくと、鼻を動かすソウル。
その前で、ムラサキはフライパンをじゃっと振りながら大歓声を上げた。
「わひゃあ、すごい。見てみて、こんな必殺料理人みたいな真似、現実世界じゃ絶対に出来ないよ。中華料理の達人みたい」
「こっちの世界でも、あんまりやってる人いねぇと思うけど……」
「楽しいー! 一度こんな風にやるの夢だったんだよねー!」
ムラサキが揺する大ぶりのフライパンと上がる炎の上で、刻まれた野菜達が空中に円を描きながら舞い上がるように踊る。
ある程度料理の経験や知識がある者は、データを調理している際も、調理器具の動きや火力に調整を加えることが出来る。
全てをデータで管理されているセブンスコードでは、当たり前でありさほど珍しくもないことなのだが、こんな小さな事で夢が叶うだなんて変わった奴だな、とソウルは思う。
中火でしんなりしてくる野菜から立ち上る香りに、うっとり顔のムラサキ。
ふと思いついて、ソウルは口にした。
「姐さん、SOATのリアさんみたいな植能持ってんじゃね?
「私には、あの子みたいに思い出を蘇らせたり、記憶を再生したりするような力はないよ。もちろん、匂いを解析するなんてことも出来ないし。ただ感じるだけ」
「ふぅん。じゃあ、リアルの世界の影響かな」
「でも、私は悪い人じゃないよ?」
フライパンから顔を上げ、にこりと笑う。
悪い人じゃない。
彼女は度々、そう口にする。
害意はないという言葉を、本人の額面通りに受け取っていいのかはわからないし、ソウルも初めからムラサキの全てを信頼している訳ではないのだが、今のところちょっと変わり者なだけで、悪さを働くつもりは本当にないように見える。
少なくとも、ニレやサヤコよりは、ずっと。
そうこうするうちに出来上がった料理を、ウルカとソウルが協力して皿に盛る。がらんとした休業中の店内を独占して、テーブルに食器を並べる賑やかな音が響き始めた。