SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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SOAT私有の研究所へ、今後の研究方針の打ち合わせも兼ねて向かうヨハネ達。
それを迎えたのは、意外な人物で……?


3-4 驚嘆

第4節 驚嘆

 

「悪いね、遅くなって」

「ううん、むしろごめんね、私のために。さっき手続きって言ってたけど、なんかあったの?」

 

 早歩きで行くヨハネの隣を歩きながら見上げると、彼は少しペースを落としながらムラサキの顔をちらりと見た。

 

「本当は、あんたの了承取ってから動けばいいんだけど、人がいるうちにやれる事はやっときたかったから……。

あんたにさ、出来ればボクと組んで、SOATの仕事を手伝って欲しい」

「SOATの?」

「この間の件でもわかったけど、理由はともかく、エレメントの暴走を図ってる勢力が、あんたを狙って接触したがってる可能性は高い。

そこから守るために、まずはあんたの仮所属をSOATにしときたいんだ。

研究所に出入りするにもその方がやりやすいだろうし、ボクらも何かあればすぐ動ける。身分証だけでもいずれはそうするつもりだったんだけど」

 

 つまり、SOATとしてムラサキを正式に仲間に迎え入れるということになる。

 街中でばったり隊員達と会った時に、協力したいにも関わらずどちらが敵だの捕まえる側と捕まる側だの、考えるのが面倒だったことを思うと、その方が得策のような気がして、ムラサキもあっさり頷いた。

 

「なるほどね。SOATになっちゃえば、私がみんなに追っかけられる理由もなくなるもんね」

「まあ、あんたは密航者っていう特異的な事情の持ち主だし、あくまでそれは身分上の話だから、こっちの隊員に課すような重責を負わせることはないし、安心して」

「非常勤とかバイトみたいな感じってこと?」

「そんなとこ。まあ、ここまではボク達が勝手に決めたことだし、実際の労働に従事するかどうかは、あんたが判断してくれていいけれど……」

「やる。私手伝う。その方がヨハネの助けになるんならそうしたいし、みんながここまでして、私のこと考えてくれたんだもん。力になりたい」

 

 間髪入れず答えたムラサキに、ヨハネの目が柔らかく微笑んだ。

 ふと垣間見せるこんな優しい表情を目にする度、ムラサキはどうしたらいいかわからなくなるほど、心臓が高鳴るのを感じている。

 

「わかった。ありがとう。

てなると、あとは研究所への出入りの仕方と挨拶かな」

 

 作ったIDカードを渡されて、それがムラサキの端末にインストールされたのを見届けると、ヨハネは地下階にある、ネオンで照らされたような黒い渡り廊下の前で、透明な自動扉を見上げた。

 

「こっからが研究所のフロア。

表から入るときはSOATの正面玄関の裏手が入口になってるけど、一般人が間違えて入って来ないようにわかりにくくなってるんだ。

急ぎの用事がなきゃ、あんたはこっちから入って来ればいいよ」

「こんなの、あったんだね」

「あんたも知ってたんじゃなかったっけ。杉浦(スギウラ)のことを知ってたでしょ」

「まあ、ユイトさんがオージさんの殻に入ったまま倒れて、一回運ばれてきたのは知ってるけど……それでも、見たのはちょっとだけだからね」

「まあ、こっち側の棟にも研究室はあるんだけど、本格的な機材が揃ってるのは研究所の方って感じかな。

施設的にはSOATの物だけど、外部機関とも提携して協力してるんだ」

 

 話すより見た方が早い、と言わんばかりに、入り口のIDチェックを経てヨハネに連れられながらムラサキが中へ入ると、すれ違う職員の白衣率が一段と上がった。

 隊服姿の者もいるが、一段と私服やスーツ姿の職員が多い。これが外部の機関が入ってきている影響かな、とムラサキは思った。

 

「ザ・研究所って感じだね〜。みんな眼鏡似合うし、インテリで頭良さそう……」

「こっちの世界だと、矯正視力は殻で調整できるから、眼鏡は伊達が多いけどね……。

ある意味ステータス、みたいに思ってるのかな。確かにちょっと、眼鏡といいそれ以外といい、変わり者は多いような。

あんたがこれから会うヤツも、多分……」

 

 壁に所狭しとコンピュータが埋まり、何に使うのかも分からないような光を放つ実験器具が沢山置いてある、研究室のような部屋を覗きながら、ヨハネがそう言った時だった。

 

「あっ! もう来てた! やあやあ、ヨハっち〜〜!」

(ヨハっち……?)

 

 生真面目そうな足音が響く研究所には、おおよそ不似合いな能天気な声が遠くから呼び掛けてきた。

 大きな模造紙やら、積み上げた段ボールを前が見えないくらいに抱えてやって来たその人は、声からして女性のようだ。白衣の下から、ストッキングに包まれた細い足が覗いている。

 はて、どこかで聞いたことあるような……とムラサキが思っていると、その人物はよっこらしょと資料の箱を床に起き、無造作に紙やら器具やらが飛び出すその合間から、ぷはあっと顔を出した。

 

「ようこそ、我らが叡智の結晶、SOAT研究所へ、なんちて! ヨハっちに至りましては、今日もご機嫌うるわしゅう!

そしてあたし達、やっとふっつ〜にこっち(・・・)の世界で会えますなぁ! サ・キ・ちゃんっ♪」

「ああ〜〜〜〜っ!!!!」

 

 それまで、どんなに驚いてもなんとかそれを心の中だけに留めていたムラサキだったが、ついに周りが振り返るのも構わず大声を出してしまった。

 白に近いパープルグレーのツンツンした長髪スタイル。トレードマークとも言える、真っ赤な縁あり眼鏡。

 白衣を羽織ってはいるが、その下のケバケバしたタイトスカートの柄と、研究員とは思えないほど露出の高い胸元は、ここで会うより前から見知ったものだった。

 主には、風俗のお客として。

 

「ミ、ミソラ……?」

「あいっ。ふふ、ここでムラサキの担当に携われて嬉しいよぉ〜。これで合法的に、ランデブー出来ちゃう感じ? あんな事もこんな事も、し放題だねっ」

「おい、ボクは『何をやってもいい』とまでは言ってないぞ」

 

 そうたしなめつつ、二人の関係性を気にするようにちらちら様子を伺うヨハネを置いてきぼりにして、ムラサキは驚きに面食らったままだ。

 ミソラを指さしたまま、あんぐりと開いた口が塞がらない。

 

「うっそ! ミソラってSOATの人間だったの!? 嘘でしょ!?」

「言ったでしょ~ん、結構エラいところに勤めてるって」

「そ、そりゃ金も研究技術も充実してるはずだ……まさか国家機関所属なんて……」

「知り合い?」

 

 若干蚊帳の外にされたヨハネの表情がむすっとし始めたので、ムラサキは慌てながらそのマントの袖を引っ張った。

 

「ほら、あの、前に私の紋のことを調べてくれたり、この着物を用意してくれた友達がいるって言ったじゃん。その人が、ほれ、」

「ああ……。なんだ、ミソラも、知ってたなら教えといてくれればいいのに」

「だってぇ、あたしがあんまり口出し過ぎると、またSOATは身内贔屓の人事が〜とかって叩かれるでしょ〜?

それに、来れるならちゃんと実力で来たかったんだよん。その体、あたしがちゃんと見て治せるようにしたげるからね。

ここにいれば、あたしも堂々とフルで権力使えるようになるからっ」

 

 そう言って、こちらを覗き込みながらパンパンと肩を叩くミソラを見上げ、ムラサキは若干涙目になった。

 

「ソラ……ありがとう」

「ま~あ、あたしSOATっていうか、厳密に言うと諮問機関の人間なんだけどねん?

研究の人手を貸したり技術協力する代わりに、施設を提供してもらってるんだよん。

SOATだけに任しとくと、また前みたいな事件が起きかねないっていうんでさぁ。あたしは研究所に雇われてる、違う機関の人間~ってことで。

だから別に、サキが言うほどすごい事じゃないんだよぅ。虎の威を借る狐って感じぃ」

「それでもびっくりだわ!!!!!

だって、そんなところの人間が連日の風俗通いっ……もごぐふぅ」

 

 すんでのところでムラサキの口を塞いだミソラが、目を白黒させる彼女を羽交い絞めしながら、にっこりとヨハネを見る。

 

「て~ことで、この子の植能の調査に関しては、あたしに任せてもらってもいーい?」

「あ、ああ……もちろんいいけど……」

「あ~よかった! 友達同士の方が、色々と喋りやすいこともあるよねぇ? そうだよねっ、サキっ!」

「う、うぐ……くるしい、はなして……」

 

 ぽかんと見つめるヨハネの前からムラサキをずるずる引き摺ると、ミソラは大きめの機材の横に隠れながら声を潜める。

 

「も~、びっくりした。あんな潔癖症な隊長のところで、いきなり風俗通いのことなんかバラさないでよぉ。上に何て言われるか、わかったものじゃないじゃない」

「ごめんごめん、あんまり驚いたから、つい……ていうか、それはミソラが悪いでしょ」

 

 ようやく口から手を離され、呆れながらムラサキがミソラを見上げる。

 白衣で大柄な彼女に後ろから抱き締められていると、パンダの親子のようだとムラサキは思った。

 

「あ〜〜……でも、隊長うちらの研究内容とか、これから普通に聞くよねぇ。どうやって誤魔化そう」

「もう正直に話すしかないんじゃ……」

「いや〜ん! あたし給料下げられたくな〜い〜!」

「んなこと言ってもムリ……んんんわかったから叫びながら抱き締めるのやめてぇ! ぐるじいから!」

 

 もはや隠れる意味もないくらい大騒ぎの二人の元へ、呆れながらヨハネがやってくるまで二人の攻防は続いたが、結局のところこれからの研究方針を決めるにあたり、二人が知り合った経緯も含めてすべてを話してしまうしかないのだった。

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