SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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ミソラに案内され、研究所の中で検査と解析結果の説明を受けるムラサキ達。
そこから分かった、ムラサキの植能に関する真実とは……?


3-5 研究

第5節 研究

 

「……事情はわかった。実際ミソラが協力してくれたおかげで、ムラサキはこれまでこっちの世界でやって来れたんだろうし、今回は不問に付すけど、あんたなぁ……」

 

 ようやく落ち着いて、透明なカプセルのような解析装置の中へ寝転がりながらデータを採取されているムラサキを前に、もの言いたげな呆れた目で、ヨハネがミソラを見やっていた。

 

「えっへっへ。大人には、息抜きってもんも必要でしてぇ。

まあまあいーじゃん、あたしがいたから、ムラサキの紋に気付けたっしょ? それに知り合ってた時からちょいちょいデータは採取してたから、基礎的な分析は終わってるしね」

「そりゃ確かに助かるけどさ」

 

 ぴこぴこと、ミソラがよく分からない難しそうなコンピューターのキーボードを触っている。

 画面に数値やグラフが浮かび、それらを見上げながらも、大きな操作盤の前に座ったミソラは両手を動かした。

 

「前も言ったとーり、この紋をデータ変換した時の信号配列が、サキの体の構成や神経のシステムに入り込んじゃってるんだよね。

強引に剥奪しようとすると、殻ごと損壊しちゃう可能性があるから、下手にいじれないんだよぉ。

違う世界から来てる人って、IDもなんか特殊だし」

「ってことは、やっぱりムラサキの体に残したままで、何とか手を講じるしかないのか……」

「それに関しては、サキも言ってたっしょ? 人から貰う精力が、抑える力になってるって。

サキの体の不調はね、淫紋が植能を発動させた時に体内のエネルギーが枯渇しちゃって、外部に動力源を欲してる時に起こるんだけど、それを人から精力って形で補給してるから、収まるんだよね」

「でも、確か女性が相手の時だけだって……」

「ん~……。詳しくは分からないけど、そういうのは、人の好みとか恋愛対象っていうのも、関係してくるのかも。特に性的な云々ってのに関しては、サキは男性に対してあまりいいイメージを抱いてない……とかかな。

科学的に分析するのが難しいから、わかんないけどね。本人の心が影響してんだと思う」

 

 ムラサキがカプセルの中にいて聞こえ辛いのをいいことに、ミソラはそう小声で教えてくれた。

 

(……てことは、ボクが何とかしようと思っても、サキにとっては逆に上手くいかなかったりするんだろうか)

 

 隊服の胸元に、ヨハネが手を当てる。

 この服の下の殻は女だけれど、リアルの性別だったり、心の在り方ということになると、不確定な部分もあるわけで。

 そう思って複雑な面持ちになっているヨハネの元へ、蓋の開いたカプセルの中から出て来たムラサキが戻ってきた。上下ともに、レントゲンを撮る前に着るような検査用の服を着ている。

 

「ねぇ、まだなんかやるのお……?」

「はいっ! 次は唾液の中の植能の分泌値とホルモンの関係を調べるからっ! ここ座ってこれ噛んでー」

「歯医者か!」

 

 ぐるぐると色んな機械をたらい回しにされ、へとへとになりながらも、ムラサキは大人しく台座の上に顎を乗せると、差し出されたプラスチックの棒を噛んで、椅子ごと回転する装置で機械に晒されている。おそらくはこれにも多少、ミソラの探求心を満たしてやろうという良心があるのだろう、とヨハネは思った。

 

(せめて、後でケーキかアイスでも奢ってやろう……)

 

 さすがのヨハネも同情心からそう思い始めた段階で、分析を完成させたミソラが、ぺらっとした紙にレポートを印刷すると、その内容をヨハネとムラサキにも分かるように、天井から降りて来た大型のモニターに映した。

 元の袴姿に着替え、ヨハネの隣の椅子に座ったムラサキも、ぽかんとそれを見上げる。

 

「……わあ。なんか人間ドックみたい」

「こんなにすぐ出るのか。早いな」

「まぁ、検査薬と反応させて分析するのに、時間が掛かる項目もあるけどねん?

でも、これでサキの体にある紋が、個別に違う能力を持ってるってことと、エレメントの力を吸収してるってことはわかったなりぃ」

 

 驚き顔でヨハネ達が振り返ると、ミソラは頷いて、レーザーポインターで画面の一部を指し示した。

 ムラサキが大慌てで食いつく。

 

「紋ごとに違う力を……? えっ、てことはこれ、植能の力が変質してきてるってわけじゃなかったの!?!?」

「そそ。植能によっても、ミライ隊長のゴールブラダーが結晶化と石化、リアっちの嗅覚が解析と再生を持ってるみたいに、一個の植能で二つ以上、力が宿ることってあるでしょーん?

サキの場合は、それが極端に多いってぐらいに思っといてくれりゃいいよん。

ざっと数えたところ、似た奴を同系統に分類しても、七つはその体にくっついてるみたいだからねぇ」

 

 想像以上の多さに付いて行けず、ムラサキが目を白黒させる。

 少し眉根を寄せてミソラがキーボードを叩くと、机上に体と淫紋の分布図を示したホログラフィが浮かび上がった。

 

「七種類の模様。でも、どれがどういう力を発動してるのか、サキ本人には自覚がないってことでおーけい?」

「う、うん、全然……『魅了』と、この間の『催眠』以外は。それだって、ピンチに偶然できたってだけで、コントロールしてた訳じゃ」

「さっきの検査で、意図的に植能発動してもらったっしょ? あの時の淫紋の発光状態と反応を見るにぃ、多分、発動中の能力に対応した場所が光ってるのね。魅了だったら雫の模様、催眠だったら蝶の模様~、て具合に」

「え? でも、関係ない場所が光ってることもあるよ……?」

「うん。サキの植能は、ホルモンによって全身に効果が及んでるから、発動してる場所は一番目立つように光るけど、それ以外も引きずられて動いてるってことはあるね。

……それか、恐らくは未発見の能力を、まだ無自覚のうちに発動してるか。多分、今までも高確率でそーだったはずだよ。その場合はそもそも自覚してないんだから、コントロールのしようもないよねっ。だから暴走を招きやすいんだよぉ。知らないうちに、エネルギーを浪費して燃費を悪くしちゃってる車みたいな感じかな」

 

 眼鏡の奥の瞳を光らせるミソラに、ムラサキがごくりと唾を飲む。

 話を聞いていたヨハネが、ミソラを見て問い掛けた。

 

「残りの紋の力が何なのかは、こっちの調査で突き止められないのか?」

「ううー、そこはねぇ、植能だから。ほら、あたしらの植能って、どの臓器か分からないと命じられないわけでしょ?

それと多分一緒なんだよ。だから多分サキが見つけないと、残りの能力は確定付けられないんだなぁ……もちろん、調べてはみるけどさー」

「じゃあ、私がどうにか見当付けて、使えるようにしていかないとコントロール出来ないってことか……」

「そゆことになるよね……。あ、あともう一個、気になる関係性のデータが見つかってね」

 

 眉を下げつつ、次、エレメントとの関連性ね、と話題を変えながら、ミソラが別の資料を画面に掲示していく。

 

「念のために、エレメントの成分を抽出する探知機も、使ってみたんだぁ。

そしたら、子宮の上の雫からは、水のエレメント。胸の上の蝶からは、雷のエレメント。それから、これはシェルターでの例の騒ぎがあったからだと思うけど、背中の髑髏の天秤からは、土のエレメントの反応があるんだよん」

「!?」

 

 再び、ヨハネとムラサキは驚きに顔を見合わせて、口々に言い募った。

 

「でっ、でも! 私、植能は使えるけどエレメント使いってわけじゃないよ!? 今までそれっぽいの、一度も……」

「そうだよ。確かに事件の首謀者とは対峙してたけど、サキの身に何かそんな変な事が起こったことって……」

「うん。多分、サキの力としては使えるわけじゃないと思う。ただ、紋の内側に反応があるんだ。封印されてる、っていうのかな……。

この、淫紋っていうブラックボックスの中に入ってんのは、多分サキが倒した、大型のエレメント関連事件の主犯……いわば〝ボス〟格の奴が持ってた、エレメントの力だと思うんだよねぇ」

 

 完全に蓋が閉じられちゃってるから、中身までははっきり分からないけど、と言いながら、ミソラがテーブルにホログラフィで映した紋のモチーフを、こんこんと拳で叩く。その模様を目にしながら、ヨハネはじっと考え込んだ。

 

「なんで、ムラサキの体の紋が、植能とは無関係のエレメントを……?」

「それは分かんない。けど、少なくとも今挙げた、雫と蝶の淫紋は、エレメントを吸収したことで安定して、ムラサキの体に定着してる。

その証拠に、多分この二つの紋の力は、サキはもう意図して使うことができるはずだよ?」

「ええっ?」

 

 ムラサキの声が裏返りそうになった。てっきり、火事場の馬鹿力的なものだと思っていたので、半信半疑でミソラの顔をまじまじと見てしまう。

 

「で、でも、あの時は私の意図に関係なく、私の周りにいた人とか触られた人はみんな寝ちゃって……」

「多分、それはまだ半覚醒状態だったから! ほら、試しにちょっとこの子でやってみてよ」

 

 ミソラが、小さなケージに入った実験用のマウスを持って来る。

 バーチャルの世界にもマウスはいるのか……と若干可哀想な顔になりながらも、眠らせるだけならと、ムラサキはその籠にそっと手を翳した。

 

「ウーム。対象を催眠」

 

 ぱあっと、その掌から金の粉のようなものが数瞬散る。

 すると、鼻をひくつかせてケージの中を歩いていた白いマウスは、その赤い目を閉じかけてうつらうつらし始め、藁の上にこてんっと横になりながら、寝息を立ててしまった。

 完全に眠っているが、それを近くで見ていたミソラにもヨハネにも、眠り出す気配はない。ムラサキが狐につままれたような顔で二人を見比べる。

 

「……あ、あれ? ちゃんとできた……」

「ほらぁ! でしょお! んにしても凄いねぇ、初めて目の前で見ちゃったよーっ。ビデオ回しとけばよかったぁ」

「コントロールが効けば、こんな風に対象や強さも調整できるようになるんだね。これなら安心して見てられる」

 

 感心したように、微笑んでその様を見守っていたヨハネは、ふと気が付いて言った。

 

「そういえば、さっき背中からは土のエレメントの反応があるって言ってなかった? そっちはどうなのさ」

「それがねえ、何故か天秤の紋は、雫や蝶に比べて、エレメントの反応量が半分しかないんだにゃ。

ってーことは、多分まだ覚醒が途中までしか済んでない……って考えられるんだけど、サキは何か心当たりある?」

「土のエレメント……に遭遇した時のことだよね。ん……多分、八尺様や雷鳥を倒した時と、差異はなかったと思う。木端微塵に、っていうか……エレメントの源自体がなくなるまでは、倒したと思うから。それ、私の体の中にあったんだね」

 

 胸元に手を当てたムラサキが、複雑な表情になる。

 そういえば、SOATに上がった報告書では、事件後崩壊したシェルターの跡地からは、結局エレメントの憑依していた犯人は見つからなかったと、ヨハネは聞いていた。ムラサキの曇った顔から、何かがあるとヨハネは察したが、今は何も聞かずにミソラに先を促す。

 

「てことは、もし他のエレメントの力を見つけて、ムラサキの体の紋を全部『覚醒』できれば、今より暴走も抑えられて、ムラサキ本人への負担も減っていくってこと?」

「その可能性は高いだろうねぇ。エレメントがどーいう働きをしてこうなってんのか具体的には分かんないけど、とにかくつっよい奴を倒したら、サキの紋が覚醒するってのは分かったんだし。

多分、紋が必要なエネルギー源を、エレメントっていう超特大級の力で補ってる感じなんじゃなあい?」

「だとすると、やっぱり任務に連れ回した方が、早く全ての紋の『覚醒』を終えられるってことか」

 

 しかし、それには危険も伴う。

 ヨハネは真面目な顔になると、椅子から立ち上がって、改めてムラサキに手を差し出した。

 慌ててその前に起立したムラサキが、すらりと背の高いヨハネの精悍な顔つきを、まばたきして見上げる。

 

「さっきも言ったけど、改めて、あんたを仕事上のパートナーに迎えたい。

ボクのコルニアはシールド系の能力だし、正直攻撃力が強い相手と当たったら分が悪いのはわかってる。

けど、あんたの事は必ず守るし、仲間とも協力して絶対に傷付けさせないようにするから。

ボクを信じて、付いて来てくれる?」

「う、うん、もちろん……! むしろ、私は初心者なのに、バックアップまでこんなにしてもらって、しかも私の淫紋のために助けてもらってばっかりで。こちらこそ、本当にいいのかな。私で」

「あんたにしか出来ない事がある。あんたの力や発想力は、戦闘時にすごい補助になるんだ。

こっちとしても、エレメントの調査と対応には行き詰ってる。これからも、転機を切り開くのに協力してよ」

 

 その淡い青の瞳には、今までの戦闘で蓄積された、ムラサキへの確かな信頼が宿っている。

 躊躇った様子でいたムラサキは、その信頼を感じ取ると、嬉しそうに小さく頷いて、差し出された手を握った。

 それでようやく安心したのか、ぎゅっと力強くグローブ越しに手を握り返しながら、ヨハネが見たこともないほど無邪気な顔で笑う。

 

「改めてよろしく、ムラサキ!」

「うん。こっちこそ、改めてこれからもよろしくね。ヨハネさん」

「おおおおお! カップリング成立ですな!」

「おいやめろ、そのお見合い番組みたいなコメント……仕事の話だからね、仕事の」

 

 呆れたようなヨハネの視線が刺さるのも気にせず、ミソラは嬉しそうだ。

 まとめた検査のデータを端末に転送しながら、説明をしてくれる。

 

「とりあえず、現状で覚醒状態なのは、雫紋と蝶紋。それから半覚醒で天秤紋。

それから、きわめて覚醒が薄くて今はうっすらとしか跡が見えないけど、蛇紋、蔦紋、花紋があるねぇ」

「あれ? あとひとつは?」

「あ、忘れてた。サキの内股に、陰陽の形の紋があるんだけど、これはもう覚醒済だにゃ」

「え!? そんな事ある!? だって、私が経験したのは、雷と、土と、水の、ええと……」

「もう面倒くさいから、格好良く『試練』って呼んじゃおーよ。多分だけど、陰陽紋は試練なしで覚醒してる。

あたしの推測なんだけど、陰陽紋は『代償』としての紋だねっ。エレメントの力は感じないけど、雫や蝶と一緒で、定着して青紫色にはなってるみたいだし」

「代償……?」

 

 ヨハネが首を傾げると、ミソラは手首の端末にデジタル時計のような画面を立ち上げてから、ぴこぴこと弄る。

 

「ほら、サキが植能使うと具合悪くなるって言ってたでしょ。生理とか怠さみたいな副作用が出るって。

多分、こいつが原因なんだにゃ。陰陽紋だけは、他の紋と違ってぜーんぜん植能自体の反応が現れなかったのよ。てことはね、推測だけど、存在それそのものに意味があるの。

これがある限り、子宮(ウーム)を使った反動は起きるんだけど、逆にこれがないと子宮(ウーム)は使えない、って奴ねー」

「うわ、めんどくさ……」

「まぁ、リアルの世界じゃ女の体には当然起こるんだけど、何もセブンスコードで律儀にそこ反映しなくても、って感じだよねぇ……」

 

 憂鬱そうな糸目になったミソラが、ムラサキに同意した。

 

「けど、残りの『試練』て4つでしょ? その途中で、陰陽紋がエレメントの力を吸収することがあれば、何か変わったりするかもねん」

「変わらない可能性もあるってことだね……」

「うーん、ぶっちゃけ今までの検査の値見る限り、この紋だけ極端に変動への受容性が低そうだから、何も起こんない可能性の方が高いんだけどねぇ。はは……」

 

 期待を持たせるような事は言わずに正直に告げたまま、ミソラが笑う。

 その時ヨハネの端末が鳴り、通話を受けたヨハネは少し離れた場所で話をしてから、ムラサキ達を振り返った。

 

「ごめん。ちょっと仲間が仕事で呼んでるから行って来る。帰りは送るから、あんたはここで待ってて」

「え、そんな、悪いよ」

「平気。今日夜番だから、ボクもそろそろログアウトの時間だし。ミソラ、暇だったらサキにSOATのマニュアル見せたげて」

「あいあいさー!」

 

 元気よく返事をしたミソラに見送られ、ヨハネが研究所の連絡通路を出て行く。

 ミソラの隣に立ってその後ろ姿を見つめながら、ムラサキは溜め息をつくと、恨みがましい目で隣を見上げた。

 

「……もう。ソラ」

「んー? なに?」

「ヨハネに、黙ってることあるでしょ。……ほんとは、知ってるよね。覚醒や試練なんてなくても、何とかする方法」

「ありゃ。もう話したんじゃないの?」

「私から言えるわけないでしょ!」

 

 ほんのり頬を染めたままムラサキが睨み返すが、ミソラは白衣の裾を翻しながらそ知らぬ顔だ。

 

「んー、まあ、何とかなるっていうか、アレ(・・)も言ってみればぁ対処療法のうちだけど?

でも、ヨハっちとならイケると思うんでしょ? 言ってみればいいのに」

「まだそこまでは……っていうか。うう、ソラは研究者なんだから、ソラが言った方が説得力あるじゃん」

「ダメだよぉ、それじゃ。これはー、サキが言うからー、意味があることなんだよ?

どのみち自分も相手も、強制されたんじゃ使えない方法なんだからっ」

「そうなんだけどぉ……」

 

 まだ、話すには時が至っていないような気がする。

 

(パートナーには、なるって言ってくれたけど……)

 

 ミソラの計算によって理論上は成り立つというだけで、試したことのない方法だし、正直これは〝仕事上の〟パートナーとしては埒外もいいところの対処方法なのだ。

 自分はいいとしても、ヨハネがいいと言うかどうか。

 やっぱりもう暫くは黙っておこう、と決意したムラサキの腕を取りながら、ミソラが案内する。

 

「さてっ、あたしも仕事に戻ろうかな。こっちの丸机と椅子は、共用だから自由に使って―。自販機とコーヒーサーバーあっちにあるし!

今電子マニュアルのデータ送信しといたから、暇だったら読んどいていいよっ」

「うわ、10時間ゲームやっても疲れなさそうなぐらいゴツい椅子だ……ありがと。

あ、ねえ、そういえばさ」

 

 立ち去ろうとしたミソラに、ムラサキは何気なく気になっていたことをことをふと問い掛けた。

 

「ミソラって、結局本名もミソラで合ってるの?」

「ん? おおおぅ、リアルの世界じゃフルネームで名乗るのが文化だもんねぇ。

そそ。改めましてっ、高瀬(タカセ)美空(ミソラ)だよっ。よろしくちゃん」

 

 ミカの真似をして、おどけて言いながら舌を出したミソラを見て、ムラサキは目をぱしぱし瞬いた。

 

「高瀬、美空……?」

「うん。だよだよん。どーかした?」

「……ねえ、もしかしてと思うんだけど、ハルツィナヴァイスの高瀬爾名(にな)ちゃんって、ミソラの知り合い?」

「ああ! になはねぇ、あたしのはとこに当たるんだよねぇ」

 

 たはー、と笑いながら、ミソラが頭に手を当てる。

 その一言で、何となく繋がりそうで繋がらなかったパズルのピースが綺麗にくっついた気がした。

 

「はとこ! 遠! 微妙に遠い!!! でも、そのぶっ飛んだ思考回路どーりで見覚えあると思った!!!!!」

「あっはっは、そんなに似てるぅ?」

「いや、その……独特の言い回しというか、雰囲気っていうかさぁ……」

 

 になの方は天性の才能を持つスーパーハッカーだが、天才脳っぽいところも、どこか似ている気がする。高瀬家の血筋には、そういう人間が多いんだろうか。

 ムラサキは大笑いしながら去って行ったミソラを見送りながら、世間は狭いなぁと思いつつ、マニュアルの1ページ目を開いたのだった。

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