SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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ヨハネが帰宅しないうちに一度目が覚め、「土の試練」の出来事を思い出すムラサキ。
未だヨハネが知らない、謎のシェルター崩壊事件の真相とは……?


3-7 土男

第7節 土男

 

 ふと、ムラサキは目を覚ました。耳元ですぅすぅと、ことりの寝息が聞こえる。

 どれくらい経ったのだろう。まだセブンスコードの中にはいるようだが、ヨハネが帰って来た気配はない。

 不思議に思って携帯を見れば、どうやら買い出しの途中でミカやリア達に掴まり、心配した彼女らに見舞い品を色々買わされてしまったらしい。

 リアちゃんおすすめのたい焼き屋でテイクアウトしたらすぐ帰るから、という文面と写真を見て、思わずくすりと笑ってから、ムラサキは布団で横になった。

 

(みんな、やさしいなあ……)

 

 本当に、自分が受けるには勿体ないくらいの贅沢だ。

 ちらりと懐中時計の蓋から中身を覗けば、まだリミットまでは時間がある。

 ヨハネが帰ってきた時には、あのシェルターでの出来事――いわゆる「土の試練」の話を、することができるかもしれない。

 思いもがけず心の準備をするための時間を得て、ムラサキは知らず知らず、先日の取調室での、ユイトとのやり取りを思い出していた。

 

『貴女の植能は、魅惑と魅了の……特殊なフェロモンで他人の伝達神経や精神に作用する、武器としては顕現しない型なんだったな』

『そうね。こういうのって、何系って言うのか知らないけど』

『ログを見たんだが、あのシェルターでの事件に貴女も関わっていたんだろう? 多くの女性が、記憶はおぼろげながら、守ってもらったと証言している。武器を持たない貴女が、どうやってあの場にいた全員を倒した?』

『それは……』

 

 本当は、覚えていた。

 あの異空間化したシェルターの中では、何が現実だったのかも分からないほど、時の流れも対峙したものも、めちゃくちゃに思えて――それでも、夢の内容をはっきりと話せる日があるのと同じように、ムラサキは覚えていたのだ。

 それを拒否したのは、ひとえに恐怖心と、それから――

 

『……ごめん。それは、あまり言いたくない』

『……すまない。嫌な記憶を思い出させたな』

『いやっ! それはいいの! 犯人を倒せたんなら、何よりだし……それに、あの時の異空間を解除できたおかげで、テケテケにされてた人達を助けるのにも役立ったんでしょ。さすがに怖かったから、SOATがその人達を元に戻してくれて、良かったなって思ってるよ。これでやっと安心して眠れる』

 

 ユイトは申し訳なさそうな顔をしただけで、それ以上無理に聞こうとはしなかったけれど、詳しい情報は欲しいはずだ。それにおそらく、ヨハネにもそう発破を掛けているはず。

 布団の中でまどろんでいるうち、ムラサキはあの日の記憶を再生した夢の中へと、引きずり込まれていったのだった。

 

《約一ヶ月半前》

 

 ヨハネに言われた女性用のシェルターに引っ越して、一週間が経った。

 引っ越したと言っても、結局忠告通り、あのアパートには出入りしていないし、荷物を何か持って来たわけじゃない。単身で突然やって来ても何も不都合がないくらい、個室は綺麗で設備が整っていた。

 もちろん、女性以外を保護するシェルターもあるにはあるが、現状SOATが把握している中で、暴行や虐待等の被害者数は圧倒的に女性が多いらしい。こんなところは現代と変わらないのだなと嫌な思いになりつつも、それをすぐにでも手厚く保護する施設が整っていることには、少し安心の念も抱く。

 

「ムラサキちゃん、そんなくるくる一生懸命働かなくていいのよ? お客さんなんだから、ゆっくりしててくれれば……」

「いいんです。動いてないと落ち着かないし。それにこっちで家事とかしてた方が、一緒に作業する人とも仲良くなれて楽しいから」

「ありがとう。私も嬉しいし、助かるわ」

 

 そう言いながら、一緒に乾燥機からシーツを出していた年配の女性が微笑んだ。

 籠を持ってリネン室の外に出れば、他にも何人かいた若い女の子たちが、遠慮がちに会釈を返してくれる。

 ここの人達は事件に遭って心の傷を負った人ばかりなので、無気力だったり過度の緊張状態だったりする相手もいるけれど、それも無理はない。

 こんな風に私と仲良くなってくれる人達もいたので、たまにそういう人たちの中に入りながら、分担しているシェルター内の家事のお手伝いをしたり、年下の子に勉強を教えたりしながら、私は過ごしていた。

 外と出入りが出来ないと暇かなぁと思ったけれど、風俗の仕事が出来なくても、これはこれで楽しい。

 特に、学校に通えていない子達は、私の拙い教え方でも勉強が面白いみたいで一生懸命聞いてくれるので、私も嬉しかった。

 

(SOATに捕まって面倒なことになりたくないっていうのもあるけど、この職業のこと、ヨハネにバレちゃったら軽蔑されないかなっていうのも、あるんだよ……。

そんなこと思う子じゃないって、わかっては、いるけど)

 

 思わずため息をついて、ふと端末に立ち上げたヨハネの写真を見つめた。

 ヨハネが監視のために私に張り付いていることも、本当は私を任意同行させたがっていることも、分かってはいる。

 けれど、そんな職業柄の彼の葛藤を忘れてしまうぐらい、一緒にいるのが楽しくて、本当の自分を見せるのに躊躇してしまう。

 体に染みついた、この紋のこと。人の妻でありながらも、これを使って望む人にひと時の快感と充足を与える仕事をしていること。

 もしそれらを、穢れているかのように扱われたら――この世界に来るずっと前から、ヨハネのことを気に入っていた身としては、こんなに近くなってしまった今、心に傷を負うのは避けられない。

 そんなエゴに満ちた理由で、人間関係を勘定して距離を取らなければならない自分に嫌気が差しながら、着物の胸元をぎゅっと掴んだ時だった。

 

「おねえちゃん。おてつだい、おわり?」

「あ。うん、今終わったよー。どした? わかんないところある?」

 

 答えながら振り向くと、短い髪の女の子がノートを抱えて傍に立っていた。

 表情の変化が少ないこの感じは、かつてのウルカちゃんとも少し似ている。

 

「さんすうのしゅくだい、おしえて」

「う……算数かぁ……が、がんばる」

 

 理系科目は大の苦手なのだが、小学生くらいまでの算数なら、まだ何とかなるかも……と思いながら強張った笑みを見せた私を、背丈の低い痩せた女の子が不思議そうに見上げてから、こくん、と頷いた。

 最近よく私にくっついて来る、この女の子の名前は雲雀(ヒバリ)ちゃんという。

 両親が亡くなってから身寄りをなくし、リアルの世界でも施設に保護を受けている間、コミュニケーションや心のケアを目的として、時々ログインしているらしい。

 私が写真をじっと見ているのを、声を掛ける前から眺めていたのだろう。手元の端末を覗き込んだヒバリちゃんが、小さく口を開いた。

 

「……このひと、だれ?」

「この人は……んー……私の、友達」

「……むっちゃんの、ともだち。だいじなひと?」

 

 物静かな子であまり喋らなかったのだけど、最近はこんな風に言葉が増えてきた。よく気が付くと私や年上の人達の傍にいて、他の人達にも可愛がられている。

 鋭い指摘に思わず目を見開きながら、私はちょっと笑った。

 

「ん……うーん、そうかな。隠し撮りするなよって怒られちゃったけど、私はね、この人の顔見ると元気が出るから。やっぱり、だいじなひとかな」

 

 なかなか写真なんて撮らせてくれないヨハネは、ぎゃーぎゃー怒られながら撮ったその横顔を、こんなに大事にされているなんて想像もしないだろう。

 本人に向かっては面と言えないことでも、ヒバリちゃん相手には素直に打ち明けてしまう。安全な環境で、ちょっとでも彼女の心が癒えることを願いながら、私は小さな手を曳いて微笑んだ。

 もっとも、ヒバリちゃんに癒されているのは私の方かもしれないんだけど。

 

「宿題、リビングでやろっか」

「うん」

 

 そう言いながら、並んだ個室の一つを通り過ぎた時だ。

 

「……ウ……メツ……」

「ん?」

 

 何か、物音か呻きのようなものを聞いたような気がして、足を止める。

 けれど、小さな音と違和感は、すぐに消えた。ドア越しだし、私の聞き間違いか何かだろうか。

 同じように止まったヒバリちゃんが、不思議そうにぼーっと私を見上げる。

 

「どうしたの……?」

「あ、ううん。なんでもない。変な音が聞こえたと思ったけど、私の勘違いだったみたい。そもそも、生活音なんていくらでも聞こえるしね、ここ」

 

 悪い予感を振り払うようにして、私はまた手を繋いで歩き出した。

 この間、あんなことがあったばかりだから、神経が過剰になっているのだ、と。

 結果として、その予感は正しかったのだ。

 もし私が、この違和感を気に留めずに注意していれば。ザザッと砂嵐のように荒れたドアの下から、微かににじり出る這いつくばった人影を、見ることができたかもしれないのに。

 

 

 その日の夕食の時間。

 バイキング形式の食堂で、集まった女性たちの物静かなお喋りを眺めながら、私も隣に座ったヒバリちゃんと食事を摂っていた。

 野菜のスープをちまちまと啜るヒバリちゃんが、人参を綺麗に残しているのを見て、思わず苦笑してしまう。

 

「人参嫌い?」

「こっちで、たべなくても……へいきだもん……」

「そうだけど。でも、こっちで食べられたら、リアルでも食べれるようになるかもしれないよ。ね?」

「……」

「ほら。私の星型の人参と交換してあげるから」

 

 スプーンで自分の皿から差し出すと、ヒバリちゃんは分かりやすく目を輝かせた。

 

「これ、むっちゃんが、きった?」

「そうだよー。これくり抜くの意外と大変なんだから。食べてくれたら、おねえちゃんうれしいなー」

「たべる」

「よし、えらいぞ」

 

 星型人参の製造過程をきっちり見ていたらしいヒバリちゃんは、ぱくっとスプーンに乗せた人参を口に運ぶ。そんな様子を見守っていた、いつも通りの、微笑ましい夕飯の時間――のはずだった。

 

 突然悲鳴が上がって、私とヒバリちゃんの体が硬直した。

 耳を澄ますと、上の階から凄まじいバタバタという音が聞こえ、ふたたびしーんと静まり返る。不安に駆られたその場の女性たちが、ざわざわと顔を見合わせた。

 

「お、落ち着いて……皆さんは、ここを動かないで。私が、見て来ますから」

 

 ただでさえ恐ろしい目に遭って来た人達に、これ以上怖い目に遭わせるわけにはいかない。

 誰かが騒いでいただけならいいのだが、侵入者だったら、私が通報なり戦闘なりしなければならないかもしれない。大丈夫、今までだって大体の奴は相手にしてきたのだと思いながら、一つ深呼吸をして、私は食堂のドアを開けた。

 

「ヒバリも、いく」

「だ、だめだよ。ヒバリちゃんは危ないからここに残って」

「ヒバリ、ゆうき、だす。だいじょうぶ」

「……」

 

 少し迷ったけれど、この決意に満ちた静かな目を見る限り、絶対に言うことを聞いてもらえないような気がした。無理にここに置いて行って、後から私を一人で追って来られるよりは、連れて行った方が安全かもしれない。

 絶対に傍から離れないように、と目で合図してから、そろそろと廊下に進み出る。

 

「でんき、ちかちか、してるね」

「うん。ちょっとおかしいね……みんな無事だといいんだけど」

 

 まるでホラーハウスか廃病院だ。

 腕を掴んで寄り添うように歩くヒバリちゃんを連れ、慎重に歩きながら、周囲の音に耳を澄ませる。

 空調も止まってしまったようで、周囲は静寂とひっそりした闇に包まれていた。

 

(配電システムがやられてるのかな……? このシェルターの電力と動力源を先に断つなんて、悪戯に混乱を引き起こす愉快犯というよりは、計画的にも思えるけど……)

 

 ミステリー系の漫画だと、犯人がよく最初に取ってくる手段だ。

 これで終わるとは思えず、次に何が起こるかと身構えていたその時。べたべたべたっ、と聞き覚えのある足音が壁から聞こえたような気がして、背筋がびっと固くなった。

 

「お、おねえちゃん?」

 

 とっさに、動きがあった方向に端末の懐中電灯を向ける。

 光の当たった先には、黒いシミのある壁が浮かび上がるだけで、何もない。

 

(……黒い染み?)

「ね、ねえ、こんな汚れ、この場所にあったっけ……?」

「ううん。このろうか、きれいだったよ」

 

 マズい。知らないうちに、どんどん敵の手に落ちている気がする。圧倒的にマズい。

 

(もしかしなくても、テケテケの仕業だこれ……。どうしよう、地面を媒介にして空間を改変してるなら、もしもの時は上の階に逃げてもらえば安心だと思ったけど、こんなところまで侵食が進んでるの……?)

 

 そもそも、物音がしたのが上の階ならば、上から攻めてきている可能性も高い。

 もしそうならば、私達にはこれ以上逃げ場がない。

 

「……上がるしか、ないよね」

 

 だいたいのホラーゲームの鉄則は、上に進む、だ。

 物音のした階に辿り着くと、壁の黒ずみが酷くなった廊下と、そこから続く視聴覚室の中が阿鼻叫喚図だった。

 力尽きたように倒れる人、怯えたように頭を丸めて叫ぶ人、ぶつぶつと意味不明な言葉を呟く人――その中で、残った若い女の子が、内臓を引き摺る腕立ての化け物と対峙している。

 

「テン……ソウ……あし……めめめめめめめ」

「あ……ああ……」

「っ危な……!」

 

 ここからでは走っても間に合わない。とっさに植能で誘惑すると、ずるりと身を反転させながら、テケテケがにたぁりとこちらを向く。

 

「見ぃつけた。あし。あしあしあししししししししししししし」

「ごめん、こっちに来るかも……ヒバリちゃんはそこの部屋に隠れてて」

 

 彼女を隠すや否や、廊下の壁に跳ね返るようにしてテケテケが這ってくる。ゴキブリ並みの速さだ。

 

「こっの……!」

 

 手近なところにあった、破られた扉の下の消火器を持つと、植能の力を込めて、ガンッとテケテケの頭にお見舞いした。本来はこういう使い方をするものではないが、消火剤を噴出したところで効くとは思えないし、鈍器として使った方がまだいい気がする。丸腰よりマシだ。

 

「うおっ……!」

 

 身を翻し、袴を踏まれた隙にとっさにその口へ消火器の先を突っ込む。

 ポンプの底で顔面を潰されているのに、あり得ないほどデカい口を顎を外しながら開けたかと思うと、テケテケはがちがち鳴る歯で鉄製の消火器に噛み付いた。

 ぶしゅう、と喰い込んだ歯の下からガスが漏れる。かっぴらいた目が気持ち悪い。まるでゾンビ映画だ。

 睨み合った末、そのまんま消火器を持ってコンクリの残骸に向けてぶん回すと、釣られたテケテケは自らコンクリート片に突っ込んで動かなくなった。

 その隙にヒバリちゃんを引っ張り出し、私はテケテケがUターンするより前に一足飛びで女の子の元へ走った。

 

「大丈夫!?」

「あ……あ、あいつ……他の人達も、どんどんおかしく、なって……」

「落ち着いて。とりあえず、外の世界に繋がってる脱出口を探そ。あっちの奥に非常階段があったから、それで下の人たちと……」

 

 そう言った時、後ろでゴトゴトと音がした。

 腕だけで這い上がったテケテケが、笑いながらこっちに狙いを定めている。

 

「テン……メメメメメメ……つ……」

「よく喋る上に動く奴だなぁ……」

 

 見た目はほぼ一緒だが、今までのテケテケとどっか違うのか? と思いつつ、身構える。

 それにしても、この言葉の羅列、何か頭に引っかかるのだが……。

 ぼんやり考えている暇はないので、さっきの消火器で物理的攻撃が通じたことを逆手に取りながら、私は傍に転がっていた鉄製のドアを、盾代わりに移動させようとした。やろうとしたことを察して、ヒバリちゃんがとててっと駆けてくる。

 

「ヒバリ、てつだう」

「足、挟まれないように気を付けてね」

 

 腰の立たない女の子の代わりに勇敢さを見せたヒバリちゃんと、なんとか凹んだドアを押して前に立たせてみたら、わざわざそれを待っていたかのように腕を踏み鳴らしていたテケテケが、こっちに疾走してきた。

 

「くそぉ、なんやこいつ、その程度どうってことないですよみたいな面しやがってぇ……

どんなゲロ難易度のクソゲーでも、これよりはマシだっつの!!!」

 

 思わずものすごい悪態を吐いてしまったが、無理もないと思って欲しい。

 救援は皆無、こっちはろくな力を持たない女子二人と今にも失神しそうな子が一人、対抗できる武器はなし。どんなホラゲーでも、もうちょっと対抗手段くらい残してくれるもんじゃないだろうか。

 せめて清めの蝋燭とか安全エリアとかさ。

 と思っても仕方がないので、ドダダダダッという音を聞きながら、せいぜい植能の力を盾代わりの扉に展開させ、衝撃に備える。先にヒバリちゃんに非常ドアを開けに行かせて、ここでテケテケがつっかえてる間に逃げられればいい。

 ……しかし、予想していた衝撃は、いつまで経っても訪れなかった。

 きょとん、と顔を見合わせ、ヒバリちゃんと恐る恐る表を覗くと――テケテケの姿は影も形もなく消えていた。

 周りの人達も、パニックで狂乱しているものの、襲われている雰囲気ではない。

 

「な、なんだか知らんけど、助かった……?」

 

 少しばかり胸を撫で下ろして、後ろで庇っていた女の子を振り返る。

 相変わらず蒼白な様子で震えていて、気分は悪そうだ。

 

「とりあえず、あいつはどっか行ったみたい。大丈夫だった……?」

 

 ぺたんと座り込んだまま、ふうふうと息をついて俯いた女の子の肩に、そっと手を触れた瞬間。

 髪に隠れた顔が、ぎょろりと飛び出そうな目玉を回して、こちらを見た。

 折れそうな角度で気持ち悪い捻り方をした首と頭が、ぎゅるんとこちらを向き、人間のそれとは思えない言葉の羅列を吐き出す。

 

「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」

「ひ、っ、」

 

 思わず、肩に掛けた手を反射的に外して突き放し、後ずさってしまう。

 

(ち、ちがう!!! こいつ、テケテケじゃない! テケテケなんかじゃないっ……!)

 

 自分を襲ってきたものの正体に気付いた瞬間、背筋がぞっと寒くなった。

 どうして、あの廊下とさっきの声で気付かなかったんだろう。

 「テン・ソウ・メツ」なんて鳴き声で思い浮かぶ都市伝説は、ひとつしかない。

 しかもこいつは、――ヤマノケは、女性にだけ憑りつく化け物だ。

 たとえ相手が一体だとしても、女性だけの集合住宅にこいつが解き放たれるのはあまりに危険で分が悪すぎる。

 

「みんな! 早く逃げっ……」

 

 周りを振り返った瞬間、異質な、妙な気配を感じた。

 空気が生温い。さっきまで悲鳴を上げて怯えていた女の子達が、四肢をだらりとさせてぴくりとも動かない。

 

「っ……まさか」

 

 ケタケタと笑った全く同じ顔達が、一斉にこっちを向く前に、辛うじて背後に蹲っていたヒバリちゃんを庇った。

 

「テン・ソウ・メツ……テン・ソウ・メツ……」

「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」

「う、わっ!!!」

 

 わんわん反響する鳴き声の大合唱の中、何かの思念がぐにゃりと入り込む気配がする。

 辛うじてそれを振り払うように、背後に植能の力を全開にさせて手を翳し、もう片方の手を目の前の非常口へと必死で伸ばした。

 

「ウーム! 対象を魅了ッ……!」

 

 一瞬だけ遠ざかった喚き声が、背後で閉じた扉の向こうでがなり立てる。

 ガタガタ言う扉を防ぐ術もなく、涙の溢れる左目を耐えきれずに閉じたまま、よろめいた足を辛うじて一歩踏み出し、その場を遠ざかった。

 とっさに植能のフェロモンをバリア代わりに出来ていなければ、危うかった。

 あいつらの顔をまともに見ながら攻撃を浴びただけで、認知をぐちゃぐちゃにかき乱されて、眩暈がするような。私が私でなくなるような。

 ヒバリちゃんも同じだったようで、私に小さな手でしがみついたまま、啜り泣いている。

 

「うう……むっちゃん、こわいよう……」

「行こう……はやく、ここを出て、SOATに助けを」

 

 動けないヒバリちゃんを負ぶって、私は電気の消えた建物内を歩いた。

 私も泣きたいぐらいだけど、こんな小さな子を残して私が泣いてる場合じゃない。

 体が、ひどく重い。さっきあの一瞬に食らっただけなのに、怠さと眠気で崩れ落ちそうになる。

 非常口の向こうの階段は外のはずなのに、どんよりとした赤黒い雲が続くだけで、外らしい景色はどこにもない。端末が正常にネットに繋がる気配も、まだなかった。時々文字化けする歪んだ画面が表示されるだけだ。

 

(あの時と……同じだ……やっぱり、瞬間移動(ワープ)が使えない……)

 

 もしかしたら、このシェルター自体が、あのヤマノケの力で丸ごと異空間化してしまっているのかもしれなかった。

 ヤマノケがテケテケを操っていたのか、そもそもあれ自体がテケテケの振りをしたヤマノケだったのかは分からないが、どちらにしろ外界と連絡が取れない今は、私一人の力であれを撃退するしかない。

 

(ヨハネ……。どうしよう)

 

 繋がらないと分かっていても、手の中に番号を表示させたままで端末を握り締めてしまう。

 数が、多すぎる。ヤマノケが憑依するタイプの怪異なら、今ここにいる女性達全員が、操られて敵になってしまっているということになる。しかもその人達を、なりふり構わず攻撃するわけにもいかない。

 そんな、絶望的な考えに気を取られてしまっていたせいだろう。不意に角からぬっと現れた、胴についた気持ち悪い男の顔にびくついたその瞬間に、ほんの僅かだけ、背負ったヒバリちゃんと背中との間に、距離が空いてしまった。

 

「ウーム!」

 

 とっさに植能を発動するも、地面が私とヒバリちゃんを引き離す壁を作るかのように、ボコボコと隆起する。

 次々と立ち上がる土の柱と砂埃が、まるでベルトコンベアのように私を端まで追いやった。辛うじて土くれから頭を出したけれど、生きているのが不思議なレベルだ。

 ミミズのように這いつくばって、泥に塗れた着物と袴を引っ張り出した時、すぐ目の前に歩いてくる、ケタケタ笑いが目に入った。

 

「し、しまった……!」

 

 それは、Tシャツを頭から被ったみたいな格好の化け物。二本足で人型なのに首がなく、ずんぐり太い胴体の胸元に、丸くて白い男の顔がついていた。私の知っている、都市伝説・ヤマノケのビジュアル。

 けれど、全体的に黄土色がかっているのと、表面が岩のテクスチャよろしくガサガサしていることから、こいつが土のエレメントの創造物だ、ということを私は知る。

 とっさに自分の身だけは守ったけれど、私が吹っ飛ばされている間に、ヒバリちゃんがヤマノケに捕まっていた。人間のものとも思えない、土気色の太い腕に捕まって、ヒバリちゃんが苦しそうにもがいている。

 次いで、周りを護衛するようにして、ゾンビのように操り人形の体を動かしたシェルターの女性達が、動物のようにうろうろと私達を囲む。テケテケさながら、這いつくばったままこっちへやって来る人もいる。

 

「うがあああああ」

「お願い、正気に戻って……!」

 

 私にのし掛かり、涎を飛ばしながらがちがちと歯を鳴らす女性達を、なんとか植能の力で押し返す。

 押し返された女性の指が、ばらばらっと先端から土や石のように味気なく崩れていくのを見て、私の方が正気を失いそうになった。

 ひび割れた頬。年齢に関わらず、ガサガサして折れそうな腕。ボロッと膝から下が崩れ落ちた脚。

 ついに、この人達にまで、ヤマノケの力が浸食を始めたのだ。

 

(手遅れになったら、みんな元に戻れなくなるのかもしれない――)

 

 真っ暗になりそうな頭の中で、まだ干渉を受けずに、涙目を浮かべて私に助けを求めるヒバリちゃんの瞳だけが、私に唯一希望を与えた。

 まだ、諦められない。諦めるわけにいかない。

 

「……子宮(ウーム)。対象を――」

 

 この時、私は何と言ったのだろう。きぃんと耳鳴りがして、一瞬周りのおぞましい音も風景も、何もかもがわからなくなる。

 次の瞬間、不意に暴れるように男が叫んだ。

 

「お、おい、何やってんだ……どうなってんだよォ!」

「……?」

 

 男の胴体で、土の腕から生える、尖らせた岩のようなナイフが、カタカタと揺れていた。片腕でヒバリちゃんを羽交い締めにしたままの男の鼻先に、ナイフを突き付けているのは……他でもない、男自身の(・・・・)左腕だ。

 何故だろう。極限状態の中で、何故か私は反射的にわかってしまった。

 燃え上がるこの体の淫紋を――この植能を、今どう使うべきなのか。

 自分の手が、自分を刺そうとしている。想定外の状況を受けて、男の形をしたヤマノケは、少なからず動揺している様子だった。

 

「お願い……その子を離して。私だって、あまりこんなことしたくない。けど、私たちを逃がしてくれる気も、離す気もないなら、私にはこうするしか」

「ふざけんなよォオっ、このアマ! 貴様ッ、淫乱な売女のくせに!

売女……ソウ、もう何モ……したくナイ……一生金と女ダケ……暮らし、タイ……

てめえなんかの植能でこっちの殻に傷が付くはずもねぇだろうが、この股開くしか脳のないゴミムシが!」

 

 ロボットのように、唐突に話す声のピッチや速度を変えながら、尚強がってみせる男。薄汚れた体を、恐怖がバレないようめいいっぱい冷めた平坦な瞳で見つめながら、男の言動を観察する。

 

「や、やれるもんならやってみろよォ! こちとらな、右手さえ空いてりゃ犯す事なんざ朝飯前だからよォ! お、おれは……おおおおおれは……一生……女ダケ……食っテ暮ラス……他のモノ、全部イラナイ」

 

 その姿がザザッとブレて、体の一部が、時折隆起した土の塊になる。

 やっぱり。喋ってる内容が支離滅裂だし、体も正常な人間のそれじゃない。

 途中で意識がとろんとしたように、目を濁らせて涎を落としながら喋る男の声に、どう聞いても人間とは思えない声が混じっている。

 ヤマノケは女にしか憑りつかない、という都市伝説を私は思い出す。

 

(ってことは、こいつは女の子達に入り込む前の、誰かが「エレメント」に憑かれて出来た、ヤマノケの原型……? 全ての元凶はこいつってこと?)

 

 ふと考え事で私の力が緩んだ瞬間に、男はナイフを自分に向けていた手とヒバリちゃんを、同時に下ろした。植能の力が切れたらしい。同時に、凄まじい倦怠感に襲われた私は、腕で体を支えていられずにその場に倒れ込んだ。

 

「おねえちゃん!」

 

 掠れた声で悲鳴を上げたヒバリちゃんが、私を助け起こそうと駆け寄ってくる。

 

(さっきのは、一体……? あれを、もう一回出来れば……)

 

 けれど、何がどうしてああなったのか、私自身にも分からないのだ。

 じんじんと痛む頭の左半分を押さえていると、緩んだ腕からヒバリちゃんを取り落していたことに気付いたらしきヤマノケが、暴れるように地面へひっくり返る。

 

「あああああ゛! めん! ど! くせ! おれが動かなくても、なんとかしろおぉぉぉぉ」

 

 固いコンクリートにはあるまじき、液体のような動きを見せた地面が隆起する。

 その波に乗るようにして、さっきまで大人しかった女性たちが、蜘蛛の群れのように集まって来る。

 その体は、もうぼろぼろなのに。土になった半身が折れて、立ち上がれない人もいるのに。

 本体である男は、命令するだけで何もしようとはしない。

 怒りで、思わず拳が震えた。

 

「なんなの……なんなの、本当に。

一体何が目的なの。みんなをこんなにして、どれだけ苦しめれば気が済むの。

あたしに用があるの!? だったら、あたしだけ殺せばいい! さっさとあたしだけ捕まえて、八つ裂きにでも何にでもすればいいじゃんッ!!!!!

なのに、なんでこんな……ッ! 関係のない人を狙うんだよ!」

 

 まともに言葉が通じる相手じゃないということは分かっているのに、叫びを抑えることができなかった。

 まったく動じていない風にして、両手で持ったナイフを構えたヤマノケ男が、ケタケタにやにやと笑う。

 

「何がそんなにおかしいんだよっ……!」

 

 怒りで、左目が燃える。

 ごおっ、と振り払った着物の袖から流れ出た植能の力が、ピンクの波のように迸り出て、周囲に立つ女性達を包み込んだ。

 どうやらそれで、効いてはくれたらしい。ぽやん、とした後で気を失ったように倒れた女性達の体が、多少殻の損傷を残しながらも、元通りの人間らしい体に戻っていく。

 

「お、おねえちゃん、すごい……」

 

 隣で呆然としたように見上げるヒバリちゃんにも、構っている暇はなかった。

 また憑依されたらおしまいだ。それまでにこいつを何とかしなくては。

 

「アアアアアアアアア!」

 

 キレた男は、人形を作って使役することは諦めたらしい。再び地面を隆起させると、舌のような造形のそれで、ヒバリちゃんを巻き取って手元に連れて行く。

 

「ヒバリちゃん!」

「お前のせいだ、全部お前ノ! 報復にその体に傷でも付けてやろうか、そうすればおれノもんだってわかるだろーに、なぁ!」

「バカ、やめて……!」

 

 咄嗟に動こうとしたものの、駆け寄る直前で、私の体は地面から生えてきた土の十字架へ磔にされる。

 ごほっ、と咳き込んだ隙に、ヤマノケはヒバリちゃんを突き放すように四つん這いにさせ、両手にギラリと輝く鉈ほどもあるナイフを振り上げた。

 そして。

 

「きゃああああああ!」

「っ……!」

 

 その瞬間、思わず見ていられずに目をつぶった。

 ごめん。ヒバリちゃん。動けなくて、ごめん。

 けれどその直後、私が恐れていたような、断末魔の悲鳴は降って来なかった。

 

「……?」

「ぐ……が……」

 

 震えてながら押さえていた頭から手を退けて、不思議そうに見上げたヒバリちゃんが、驚きにこれ以上ないほど目を見開いていた。

 もちろん、離れて見ていたはずの私も、愕然とした。

 ――ヒバリちゃんに向けられていたはずのナイフが、男の脳天に突き刺さっていることに。

 

「あ……」

 

 彼が両腕を捻り、自分自身で、歪な体の正面から貫通させたナイフ。

 男は何が起こっているか分かっていないような顔に、最期まで薄ら笑いを浮かべながら、白目を剥いている。

 ぼこっ、と血のような泥を流しながら、殻を崩壊させつつ倒れていくヤマノケ。それを見て、正気を保てなかったヒバリちゃんが、ついに意識を失った。

 

「…………」

「あ……っ、う、うそ、でしょ、」

 

 動こうとして、崩れ落ちた十字架へその場にどちゃりと放り出され、膝をつきながら、私は思わず手を伸ばす。

 けれど、ヤマノケ――男はまるで乾いた土が崩れるようにして、サラサラと頭のてっぺんからその姿を消した。砂埃が、吹き付けた風に舞い上がる。

 いつもならば、紋が消えて人間が残るはずなのに――人間ごと、その殻ごと、この世界から消えてしまった。

 愕然とした頭が、真っ白になる。

 

(う、うそ、私、……こ、ころし、ちゃったの……?)

 

 1ミリも手を触れていないとはいえ、自分のやった事が信じられなかった。

 今まで、「魅了」の力で他人が自分にとって都合良く動くよう、唆したことはあった。私のためなら何でもする、という気持ちになった相手が、自分の意志で動いて、それが「他人を操っている」ように見えることもあった。

 ……けれど、これは?

 化け物とはいえ、私は相手を、相手の意志を無視して無理矢理動かした。「助かりたい」「雲雀ちゃんを刺させたくない」という、己の欲望で。

 こんなことが――この子宮(ウーム)の植能で、出来てしまうなんて。

 

 力尽きたように呆然と四つん這いになっているうち、熱かった左の瞳から熱が引いていく。

 テケテケたちの形もなく、あとは気を失って倒れ伏した女性たちの上へ、まるで遺体を埋める時にスコップで土を被せたみたいにして、その残骸が広がるばかりだ。

 

「…………」

 

 遠くから聞こえてくる、サイレンの音。ぱらぱらという現実じみた音が、周囲を打つ。

 雨だ。雨が、降って来た。

 この子だけはと、ヒバリちゃんだけは背負ってなんとか建物の外へ出て振り返れば、さっきまで恐ろしい土の巣窟のようだった空間は影も形もなく――代わりに、無残に破壊された建物の断片と、地面からショベルで大量に掘り起こされたかのような土の山ばかりが残っている。

 ここなら安全だろう、という物陰にヒバリちゃんを寝かせ、降りしきる豪雨に背を激しく打たれながら、私はとにかく呆然としたまま、重い着物を引き摺って立ち上がった。

 

「ごめんなさい……」

 

 天候を操作できるセブンスコードで、雨なんて滅多に降らないのに。その煙のような水飛沫に紛れるようにしながら、1メートル先も見えない路地を必死で歩いていた私は、袴の裾を踏んづけてどちゃりと水溜まりへ倒れ込んだ。

 その体を、焼け付くような痛みと発情の快感が襲う。

 

「…………ッ…………! うぅ……!」

 

 脚の間を伝う水は、雨なのか、それとも別のものなのか。

 情けなさに打たれながらも、一番最初に思ったのは、ここから少しでも離れなきゃ、ということだった。

 サイレンの音がしたってことは、多分異空間化が解除されて、通報した誰かによってSOATがこっちに駆け付けようとしている。

 どうして、あそこが襲撃されたのかは分からない。

 でももし、あいつらが私を狙っているのだとしたら、これ以上被害を広めるわけにはいかない。出来るだけ、人目につかないところへ。

 最悪私が潰されようと殺されようと、誰にも迷惑が掛からなければ。

 

「はあっ……はぁ……」

 

 心臓が熱い。媚薬の働きをする植能が、血液に乗って全身を巡る。

 自分の植能が暴走しているせいなのか、怠惰に関わるエレメントの攻撃を受けたせいなのか、もう全然分からないけれど、とにかく怠い。

 這うようにして進んだけれど、コンクリートの地面についた膝が痛いだけで、平衡感覚もおかしくて、もう1ミリ進んだのかどうかさえ分からなかった。

 ……せめて現場に残された子達が、私のせいで襲われたとか、私を同居させてくれたおかげで狙われたとか、そんな風に思われて責められないといいな。

 そう、半分保身的なことを思ったけれど、既に現場から離れて人通りの少ない地区に逃げ仰せた私を、見つける者はいなかった。

 泥水の中で一人のたうち回る私の、はだけた着物の下で、降り注ぐ雨を蒸発させるほどの熱を持ちながら、蔦のように繁殖し広がった紋たちが暴れているのがわかった。喉を締め、足元を掴み。二度と消えない傷のように、ギリギリと肌を引き裂きながら、焼けていく。

 

「助…………けて……?」

 

 自分で持つと決めたものを、誰かに助けて、なんて言う筋合いはないのに。

 叩きつける雨の音を背景に、意識が遠くなる。

 廃ビルに付いた鉄の非常階段が、打楽器のように雨音を反響する。

 この雨の中を、わざわざ屋外へ出るセブンスコードの住人はいない。

 こんな様を誰にも見られず、晴れる頃には、意識を取り戻して歩いて一人で帰れるだろう――

 そのことに安堵を覚え、背中を丸めながらも、どこか哀しい気持ちを言葉にせずにはいられなかった。

 たとえ自己憐憫だとしても、どうせ自分しか、聞いている人はいないのだから。

 

(――役立たず)

 

 もっと、今すぐ立ち上がって走れるほどの、体力があったなら。

 もっと、中途半端に人の関心を惹かず、見くびられもしない姿であったなら。

 もっと、何かを直接的に攻撃出来る、かっこいい力が持てたなら。

 けれどこの体も、見た目も、植能も、生まれた時から決まっていた。

 「最初からそうだった」以外に、理由なんてない。

 だったらこの悔しさは、憤りは、どこへ向かえばいい。

 ヒーローになんかとてもなれやしない。

 善な心も、善な道具もありやしない。

 どの世界も上には上がいて、上位互換以外には誰も見向きもしない。

 だったら、この命は、どこへ――

 何も特別ではない私は、どこへ――

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