SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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一部第三章最終話です!
ムラサキと植能を共有したことにより、今度は自分が体調不良で倒れてしまうヨハネ。
そんな彼にムラサキは……?


3-10 手当

第10節 手当

 

「んで? 今度はヨハっちが、生理痛でぶっ倒れていると……」

 

 それから、数日後のこと。

 ムラサキ達から経緯(いきさつ)を聞いた研究所のミソラの元へ、痛みで倒れたヨハネが本部の方から運ばれてきたので、医務室で休ませながら、ミソラは苦笑した。

 その手で調合した新型の痛み止めを、試験管の中で揺らしている。

 ぐったりとベッドで横たわったヨハネが、何故か研究機材が室内に併設されているという異様な眺めの医務室で、蛍光色の光ともうもうとした煙を上げる試験管をうつろに見上げた。

 

「なんかすごい色だけど、効くのそれ本当に……」

「ばっちりばっちり。も~徹夜明けの頭痛で悩まされた同期が、眠剤と併用しても全く眠くならずに疲れと痛みだけ取れて、バリバリ翌朝論文の提出に間に合ったぐらい、ばっちりな代物だから!」

「いやそれ痛み止め関係なくない? 逆に心配なんだけど。人間が飲んでいい奴じゃないだろ絶対」

 

 戦々恐々としたヨハネが、これを飲まされる恐怖自体に痛み止めの効果があるんじゃないかと思いながら、ベッド際の壁に後ずさって薬を拒否していると、医務室の電子ロックが解除されて人影が駆け込んで来た。

 

「ヨハネさんっ、大丈夫!?」

「ぴるる」

「お、来た来た。鳥ちゃんも一緒かぁ」

「も~、ミソラ、今度はことりを実験台にしないでよ?」

「わかってるわかってるぅ。今日は変なことしないからっ。うふふ、でも羽根の一枚や二枚、分析器に掛けてみたいよなぁ」

「ぴっ」

 

 前回、研究所への訪問時にミソラに散々体中をいじくり回されたことりは、白衣姿の彼女に若干警戒気味である。

 が、それでもムラサキにくっついて来たのは、ヨハネが心配だったかららしい。

 ぱさぱさと枕元に飛んでいくと、その頭や腰のあたりをつんつんとつついている。

 試験管を置いてその様を見ていたミソラが、感心したように声を上げた。

 

「賢いんだねぇ、やっぱり。痛みの部位がわかるんだ」

「ねぇ、生理痛ってお腹が痛いんじゃないの……? なんで頭痛が……なんか気持ち悪いし……」

「あ~、それは……人によって、ほんとに色んな不調があるんだよね。お腹が痛くなるとは限らなくて、胸が張って痛いとか、微熱とかもあるし。あとは物凄い食欲出るとか、もしくはその逆も……」

 

 

 地獄の底から這い出るような声が布団から聞こえてくるのに答えながら、ムラサキは心配そうにヨハネの傍へしゃがみこむ。

 

「薬飲んでないの?」

「来た時はそこまで酷くなかったから……いけると思って……」

「ったく、私に薬飲めって見舞いに来た人が、何やってんだか……ほら、市販薬。おにぎりとかスープ買って来たから、飲む前に何かちょっと食べて。どうせミソラの薬は飲んでないんでしょ」

「もー! 何気にちょっと二人とも失礼じゃないかい!? これでもリアルじゃ認可が下りてる市販薬の開発とかも担当してんだからね!?」

「誰も死んでないよね……?」

「あたしが! 作ってるのは! 毒薬じゃなくて薬だっつーの!」

「毒薬にはならなくても劇薬程度には……冗談だってば」

 

 ぷんすこと怒っていたミソラだが、ふとベッドに腰掛けてヨハネにコップの水を渡しながら背を支えるムラサキを見て、にやにやとした笑みを浮かべた。

 

「ね~、そんな事しなくっても、薬以上にバッチリ効く方法、あたしが教えてあげよっか?」

「えっ、そんなんあるの!?」

「あるある。しかもサキとヨハっちにしか効かないやつ」

「何それ、どうすればいいの?」

「そのスープを、サキがあ~んってやるの! そうすれば、ヨハっちの不調なんか一発で治っちゃうって」

 

 思わず真顔になって、手元に取り出した蓋つきのカップと匙に視線を落としたムラサキは、ベッドに座ったまま低い声を出す。

 

「……いい加減にしないと怒るよ?」

「わっ、ほんとなんだってばっ! ただのあ~んじゃダメで、熱~い奴じゃないと多分ムリなの、この方法!」

 

 ばたばたと慌てながら、ミソラが白衣の袖を振った。ポケットに差し過ぎたペンがじゃらじゃらと落ちそうなぐらい揺れている。

 怪訝そうに半信半疑の目で首を傾げていたムラサキだが、どちらにしろ寄り掛かったヨハネが腕一本も動かせないほどしんどそうに見えるので、ムラサキは湯気を立てるカップの中のスープを一口匙に掬った。

 自分が食べる時と同じように、適度に冷めるようふうふうと息を吹きかけ、最後にちょっと唇の端で温度を確かめてから、匙を持った手を差し出す。

 

「はい、ヨハネさん」

「……。あんたって人は、本当に」

 

 すっ、と目を逸らしたヨハネの頬が、熱のせいではなく心なし赤いように見えて、ムラサキは不思議そうに暫し考えてから、あっと声を上げた。

 

「ごっ、ごめん! もしかして間接キスとかそういうの嫌な人……」

「い、いい! 別にイヤじゃないから、食べる!」

 

 やけくそのように言ってから、鳥の雛のようにぱくっと匙に食いつく。その様子を、ヨハネとムラサキの間に止まりながら、ことりは不思議そうに交互に見比べていた。小さく笑ったムラサキが肩を揺らす。

 

「もしかして、大人なのになんで餌付けしてるんだろうとか思ってるのかな、この子」

「かもしれない……なんか恥ず……」

 

 そうは言いながらもムラサキの厚意を跳ね除けることはせず、せっせと匙を口に運ぶムラサキに合わせて、開き直ってスープを完食したヨハネは、ふう、と息をついてから空のカップを眺め、ふと気付いたように顔を上げた。

 

「……あれ? さっき薬って飲んだんだっけ?」

「ううん。まだだよ。よもやそんな事も覚えていないほど朦朧としてたとは、可哀そうに……」

「なんか……飲み終わったら、本当に楽になったんだけど」

「え!?」

 

 そんな馬鹿な、と言いたげな顔でムラサキが慌てて隣を振り返る。

 少し首を傾げながら、ヨハネは重たげな瞼を開いた。

 

「お腹は、まだ微妙だけど……頭がズキズキするのが、なくなったような」

「なんでだろう……あったまる物を食べたからかな……?」

 

 でもセブンスコードでそれは関係あるのか、とムラサキが不思議に思っていると、傍にやって来たミソラが解説してくれた。

 

「もうヨハっちとムラサキは、植能の譲渡に関して『契約』をしちゃったわけでしょ?」

「うん。持ち主が私だからか、子宮(ウーム)の力自体は、今は私にしか使えないみたいだけど……」

「そいでも、サキの植能の発動源である紋は、二人の体にある。つまり二人は一蓮托生~! なわけだ!

だからね、ヨハっちがサキの負担を軽減してあげられるみたいに、サキもヨハっちのことは癒すことができるんだよん」

「! そっか、冷ます時にスプーンに口を付けて温度を確かめるから……だから『熱いものの時』って言ったわけね」

 

 品のない言い方をすると、多少なりとも唾液が入るわけで、それを介して粘膜同士の接触ということにカウントされるのだろう。

 多少恥ずかしい思いはしたが、それでヨハネが楽になるのは何よりだと思いながら、ムラサキは照れ笑いで顔を上げる。

 

「他には、何かないの? その、要は契約の時やったみたいにキスとか……」

「それも効くとは思うけどぉ、もう互いの契約相手は互いだけって体で分かってんだから、多少服を挟んだ普通の身体接触でも効果あるよ?

普通に手を繋いだり~、体に触ったり~。これから先は二人で居るのが、どんどん居心地よくなるんじゃないかなっ。

お互いに、離れられなくなったりして~?

理由なく触れ合ってるのが気持ち良かったり、安心したり。それもその紋と植能を共有してる効果だねっ」

 

 それを聞いて、つん、と背後で不愉快そうにヨハネがそっぽを向くので、やや慌てるムラサキ。

 

(そ、そりゃイヤだよね。自分の意志と反してそんな、心に作用するようなこと……。

私はその、触れ合えて嬉しいって思うけど、それは私がヨハネを好きだからで)

 

 内心しゅんとして下を向くムラサキに気付かないまま、ミソラは早口で説明を続けていた。 

 

「まあ、でも一番は粘膜同士の接触が、一番強力だし手っ取り早いんだけど? 情報の伝達も、回復もね。

いわゆる濃厚接触ってやつ? きゃーーーーっ」

「もう、ミソラったら……」

「だあって、ちょっと羨ましいんだもん! 夢あるでしょー? 好きな人と植能通して通じ合っちゃうなんてさぁ。ロマンチックじゃない?

感情が直接作用するなんて、研究対象としてもめっちゃめちゃ興味深いから、ついテンションあがっちゃって」

 

 てへ、と舌を出してみるミソラにぐいぐいと背を押されて、ベッドから遠ざかりながら、ムラサキは微笑み掛ける。

 

「でもちょっと意外。ミソラにも、そういうの羨ましいって思う気持ちあるんだ?」

「まーあね? だってあたしには、多分一生分からない気持ちだからさ。くっつき合って幸せそうにしてる人ら見てるだけで、うれしー気持ちになるんだよね。ま、ヨハっちに言っても絶対認めないし怒られるだろうけど」

 

 薄々刺々しい雰囲気を察したからわざわざこちらに連れて来たのか、とまたもや苦笑しながら、ムラサキはせめて飲み物のお代わりを持って行ってあげようと、湯沸かしでお湯を沸かした。

 

「そいにしても、甲斐甲斐しいねえ、サキは。言うて、植能の副作用って割り切ってしまえば、ヨハっちにもくっつきたくなる事は気にしなくていいよって言えるでしょ?

別に最低限の付き合いだけして、心の底から心配したり面倒見たりする必要なんて、ほんとはないのに」

「……うん。そうなんだろうし、本当はその方が後から楽なんだろうと思うけど」

 

 セブンスコード住人には不要な気遣いと知りながら、わざわざカフェインが出ない、橙色のドライフルーツが混ざったお茶をポットの中へ入れて、お湯を注ぐ。

 その手つきを見ながら、眼鏡の奥のミソラの目がきらりと光った。

 

「ほ・ほ・ほぅ? 本気ですな」

「……わかっちゃう?」

「その愛おし~い目と林檎みたいなほっぺ見りゃあねん! うふ、サキってほんとかわいーね」

 

 軽く抱き着いて、ほっぺにキスをしてくるミソラを受け止めながら、向こうの世界に残してきた幸と、このちぐはぐな感じが似ているとムラサキは思う。

 湯気の香りを嗅ぎながら、赤い色がゆらゆら抽出されるポットを軽く揺らし、ムラサキは問い掛けた。

 

「こんなの私のエゴっていうか……ヨハネも言ってたみたいに、私得でしかないって、分かってはいるんだけどね。

だって、子宮(ウーム)の譲渡に一番必要なのは、送る・受け取るっていう相互の意思でしょ。けどそれが、恋愛感情である必要はないんだから、別にヨハネが私のことどう思ってようと、譲渡の儀式は作動するわけで」

「ん? 違うよ?」

 

 きょとん、とミソラが首を傾げる。背の高いミソラの長いふわふわした髪を見つめて、ムラサキはぽかんとなった。

 

「えっ。まっ、前にミソラがそう言って……」

「まぁ、確かに植能の共有に関する了承は、大前提として必要なんだけどさっ。

それに加えて、相手に関する何かしらの強い情……世間一般で言われる、恋情とか愛情とか執着に該当するもの? 特に受け手にはそういうのがないと、成立し得ないだろうって結果だったよ、あたしのデータ分析だと。

あれ? 言ってなかった?」

「言ってない! てか、何それ!? はじめて聞いたけど!?」

「ごめんごめん、研究者のおつむって、研究以外のこところっと忘れちゃうからさ~」

 

 ヨハネのいない時でよかった、と仕切られたカーテンの向こう側を窺いながら、ムラサキがぱたぱた熱くなった顔を扇ぐ。とんでもない爆弾情報だった。

 ゆっくり深呼吸しながら、一生懸命頭を働かせる。

 

「え……んん……?ちょっと待って、じゃあ、私とヨハネさんは……?」

「まー、だからさ? 割り切れとか言ったけど、お遊び半分の生半可な気持ちじゃそもそも作動しなかったはずなんだよねっ。受け渡しの儀式ってさ」

「……」

「それが調べたかったから、研究所に来てやって欲しかったんだけどぉ。サキとヨハっちってば、先にちゃっかり契約の儀式済ませちゃってんだもん。いつの間にか終わってたから、実際はどーだったのかもうわかんないよねー」

 

 ぶーぶーとミソラが口を尖らせる。

 調べることが出来たとして、感情という見えないものをいったいどうやってデータ化して分析するのかなど気になる事は山ほどあったが、今のムラサキはたったひとつの事で、頭がいっぱいだった。

 

(じ、じゃあ、あの時のヨハネさん、って……?)

 

 パートナーだと呼んでくれた言葉が耳に蘇る。

 ヨハネ本人には、果たして自覚があるのかどうかわからない。けれど、どういう形にしろ、自分のことを強く想ってくれていたのは確かだ。

 衝撃の事実を自分にだけ知らせたことを恨みがましく思いながら、ムラサキが両手にカップを抱えて立ち上がる。そんなムラサキに意味深にちゃらちゃら笑い返しながら、ミソラが電車ごっこのように再び背を押して、薬を飲み終えたヨハネの元に叫びながら戻って来た。

 

「は~い! サキちゃん特製、元気の出るハーブティーでーす!」

「まさかこれもあ~んして飲めとか言わないよな」

「だっ、大丈夫! 今回は私口付けてないから……あ、で、でも、汁物続くの嫌だった?」

「別にそんなことはないよ。ガツガツ固形物って気分でもないし。あんたが淹れたんならもらう」

 

 ミソラのより効きそうだ、とようやく見せてくれた屈託ない笑顔に、ムラサキの胸がまたどきんと鳴った。まともにヨハネの顔を見られず、俯いてしまう。

 

「……」

「? どうした?」

「サキちゃんは今、恋する乙女なのだ~」

「はぁ? ミソラはまた意味の分からない事を……あっちでサキを困らせてたんじゃないだろうね」

「おぉう、自分がしんどいはずなのに人の心配とは、逞しいっ。

まーまー、あたしはしばらく用事があるし、外に出てるからさっ。どーぞ好きなだけイチャついて回復に努めてくれたまへー。鍵も閉めてくし、思う存分添い寝でも何でもしてくれて構わないからっ、早く元気になってね~!」

「ばっ、誰が……! てか、医務室の鍵閉めたら医務室の意味ないだろ!?」

 

 ヨハネの叫びも虚しく、ミソラは大きな体を毬のように揺らして、楽し気に部屋を出て行ってしまった。静かになった部屋に、湯気の立ったカップと、ムラサキ達二人が取り残される。

 清潔感のある仕切りカーテンの内側で、ヨハネが呆れて目を細めた。

 

「行っちゃったし……ったく、騒がしい上に失礼な奴」

「あはは……ごめんね」

「? なんであんたが謝るのさ」

「だってミソラが、さっき言ってたでしょ。傍にいるほど居心地が良くなって離れられなくなるって……。

あの時、なんかちょっと嫌そうな顔してたから、ヨハネさん。

もしかしたら、心に添わない作用が出ることが、迷惑だったり不愉快だったりするのかなって」

「別に迷惑とかは思ってないけど?」

 

 不思議そうに頭を傾けられて、まっすぐで綺麗なボブを見ながら、ムラサキが目を丸くする。

 

「え……?」

「言ったでしょ、もう腹は括ってるって。……それに、ボクが怒ってたのは別にそこじゃなくて。

……あいつが、……とか言うから」

「?」

 

 ぼそぼそと声が小さくなったヨハネに、ムラサキが内緒話のように顔を近づけると、微かに赤らんだ頬で目を吊り上げたヨハネが、あらぬ方を向いて呟いた。

 

「あいつが、植能のせいとか、言うから! ボクがあんた自身に対して思ってることは、植能云々なんかと関係ない。惑わされてたから、あんな事を引き受けたワケじゃない。

ボクは、植能の効果なんかなくても、ちゃんとあんたと触れ合うことを……」

 

 もしょもしょと口を動かすだけでその先は言葉にならなかったが、ムラサキにはそれで十分だった。

 あたたかい気持ちがいっぱいになって胸に手を当てると、その感情に惹かれたようにことりが嬉しそうにやって来て、ベッドに座り込んだムラサキの袴の膝で丸くなった。

 慌ててかぶりを振ってから、ヨハネが布団に戻る。

 

「ご、ごめん。体調悪いからなんか変なこと言ったかもしれない。忘れて」

「ううん……。ねえ、お腹、隊服の上から触ってもいい? ミソラが言ってたことがほんとなら、手当したらちょっとは楽になるかも」

「言う通りにするのは癪だけど、仕方ないね」

 

 仕方ない、と言いつつ、その表情がそわそわしている。

 ムラサキは軽く微笑んで、ふと布団の隙間から手を入れると、ヨハネの下腹部にそっと当てた。

 じわりとぬくもりが広がるに従って、ヨハネが目を閉じる。

 

「あったかい……あんたの手、あったかいんだね」

「冬は冷え性でやばいんだけどね。でも、あったかい場所にいる時は、割と……」

「……不思議だ。なんか安心して、眠くなってくる。さっきまであんなに痛みでどうしようもなかったのに」

 

 布団から出した手で、ヨハネがきゅ、とさりげなくムラサキの着物の袖を握る。

 それが甘えているようで可愛くて、けれども口には出さないまま、ムラサキはヨハネのグローブを外すと、片方の手を腹部に触れたまま、もう片方の手で褐色の手を握った。

 

「そうだ! 膝枕してあげるよ。接触面積増えた方が、具合良くなるでしょ?」

「ひっ……! い、いい! そこまでしなくても……っ」

「だいじょぶだよ、こっちの世界ならそれなりに長く正座できるかもしんないし。それに、添い寝よりはいいでしょ?」

「うぐ……それ交換条件に出すの卑怯だから……」

 

 ころん、と転がって、ヨハネがムラサキの膝に頭を横たえると、ことりもふかふかのお腹でのしかかりながら、ヨハネの体を温め始めた。

 指先に触れる羽毛が気持ち良く、自分まで眠ってしまいそうな心地で、ムラサキはヨハネの手を握ったり、額を撫でたりしながら、優しく目を細める。

 

「あんた、寒くない?」

「大丈夫、ヨハネさんとことりが乗ってるからあったかい。……やさしいね。いつも、私の心配ばっかしてくれて」

「あんたがあんまり弱っちいからでしょ。危なっかしくて見てらんないだけだよ」

 

 憎まれ口を叩きながら、甘えるように寝返りを打ったヨハネは、膝から離れようとしない。

 その背や肩、色んな部分に手を触れながら、ムラサキが言った。

 

「今日のはお店のスープにしちゃったから、今度、ヨハネさんの家に行ってスープ作ろうか」

「そん時までに治ってる気もするけどね……」

「そしたら、ただ美味しいごはんが食べれるだけじゃん。好きなだけ『あーん』もできるし」

「具合が悪くないのにやる必要ないでしょ。……ま、あんたの料理の腕を見物するいい機会かもね」

 

 にべもなく言いながらも、緩んでいるその口元から感情が計れるようで、ムラサキはまた心が温かくなるのを感じる。そんな些細なことが、たまらなく嬉しい。

 いつか、あの部屋で――前に訪れたヨハネの自宅で、美味しいご飯を囲んであったまってから、同じソファかベッドでぴったりくっついたまま、寝られたらいい。

 それが、たとえ必要のないことだとしても、植能なんか何も関係なかったとしても。同じ気持ちでいてくれるなら、寄り添っているだけできっと幸せなことだろうから。

 

 そんな大それたことを夢見ながら、ムラサキは静かで温かい部屋で、ヨハネの体に手を当て続けていた。

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