SEVEN's CODE二次創作夢小説【オレンジの片割れ】第一部   作:大野 紫咲

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絶体絶命――と言えるほどでもないピンチに乱入してきたのは、その場の殺気にも面子にもまったく不似合いの、能天気な女だった。


1-8 闖入

第8節 闖入

 

 さすがに、彼らの感情を逆なでし過ぎたかな。

 バカ正直に他人とやり取りすれば、ボクはどうしても気遣いってものが欠けがちになる自覚はあったけど、今もまた、どこかで選択を間違ったらしい。

 振りかざされた刃物の光沢に肝が冷えた。

 乱闘沙汰なんてクロカゲで幾らでもあったし、イカサマがバレて追われた経験も数知れずだったから、今更怖がることなんてない。

 ただ、まさかSOATの制服を着た人間に向かって、堂々と――ここまで何の躊躇もなく民間人から武器を振り上げられることなんてないだろうと、高を括っていなかったかと言われたら、嘘になる。

 

「っ……! おい! 落ち着いて……」

「もうお前達から、話を聞けだの回答を待てだの、先延ばしにされるのにはウンザリなんだよォ!」

 

 後ずさった瞬間、斬、と振り下ろされた刃の起こす風が、肩先を撫でる気配にぞっとする。

 今まで、こういう時は相棒のミカと組んで相手をすることが多かったから、大柄で一撃が重い武器の相手は、粗方ミカに任せていたせいもあって、攻撃に転じるのにほんの僅か遅れが出た。

 

「仕方がないっ……! コルニア! 視覚情報を……」

 

 シールドを展開しようとして、思わず唇を噛む。

 どうしてボクは、守らなきゃいけないはずの奴らに、害意を向けているんだ。

 ボクなりに、やれることはやって、成果は上げたつもりだった。

 ボクたちの活動を認めてくれる人。すれ違う時に、笑顔を向けてくれる人。揶揄しながらも励ましの文句をれる人。そういう人たちの姿を見ながら、どんなに小さな歩みでもムダじゃないと、自分達のやってきたことには意味があると、思えてきたところだった。

 どうして、と、やっぱり、が頭の中を旋回しそうになる。

 どうして、上手くいかないんだろう。やっぱり、無駄なんじゃないのか。

 ボクは、何のためにここへ、立っているんだろう。

 あの日以来捨て去ったと思っていた諦めが、久方ぶりに心に顔を出し掛けた、その時だった。

 

「ちょっっっっっっと待って! ね! 落ち着いて!」

 

 全くの場違いな衣装でそこに現れたのは、一人の女性だった。

 闘いに必死過ぎて、ボクは気付けていなかったらしい。

 どこから滑り込んだのかと思うぐらい滑らかに、縋るようにゴロツキの太い腕とボクの間に入り込んでいた彼女は、無意識に背後へ庇いたくなるほどに小柄だ。

 珍妙な乱入者に、男たちも目を白黒させている。

 

「な、なんだお前。どっから……」

「さっきから全部見てた! ね、とりあえずここで争っても何の利益も生まないでしょ? あなた達はこの場所を潰されたことが不満なんだよね。だったら、このヨハネ隊長が、掛け合ってあなた達の望む場所を取り返してくれるように、冷静に論争した方がいいかなーなんて」

 

 半ばボクに抱き着くようにして庇った彼女は、ずるずると腰が引けていて、どう見ても乱闘騒ぎに慣れているようには見えない。

 ……もしかして、面倒くさい種をひとつ増やしてしまったのではないかと思ったボクは、愛想笑いを浮かべる彼女に内心げんなりと溜め息をついた。

 男たちが、せせら笑いを浮かべる。

 

「はは、嬢ちゃん。悪いコトは言わねぇから譲んな。そこのお高く留まったお役人サマは、痛い目見ねぇとわかんねぇのさ」

「よっく見たら可愛い顔してんじゃねぇか。話し合いなんてくたびれるだけの遊び、オレらにはどーでもいいからさ。そいつなんかほっぽってこっち来いよ。可愛がってやろうぜ」

 

 下世話な男たちの太い腕が、ごきごき音を立てて動く。下卑た笑いを顔に貼り付けたままで。

 

「ぐ……やっぱりそう簡単には上手くいかないか」

 

 そう呟く彼女の唸り声が隣から聞こえる。

 むしろ、この状況でどうして上手くいくと思ったのか教えて欲しい。

 とりあえずどう彼女を連れてこの場から逃げるか、に頭を切り替えて考えていると。

 

「あら、ほんと? うれしい」

 

 けろりとした、よく通る裏声が響く。

 あろうことか、彼女は自ら、ふらりと男たちのリーダーに近づいていったのだ。ボクは息を飲んだ。

 

「おいッ……!」

 

 その時。足を踏み出した彼女が微かに、唇を動かすのが見えた。

 何を言ったのかはわからない。

 訝しむ間に、彼女はリーダー格の男の腕に、すっぽり包まっていた。おぉっと周囲から歓声が上がる。

 

「……それじゃあ、凝り固まった価値観しか頭にない誰かさんよりも、あなたがもっともっと、危険な遊びを教えてくださるかしら?」

「あ、ああ、もちろんだとも……」

 

 幼い顔つきのくせに、艶っぽい声は、たじろぐほどにしっとりと熱を孕んでいた。

 思いもがけない行動に動揺して、男の声と顔が蕩けるのがわかる。

 その太腿に指を這わせた彼女の、妖艶な手つきから――ボクは見た。一瞬そこから触手のように伸びた桃色の光の筋が、周りにいた男たちの足元を取り巻き、消えていくのを。

 

「お、おい! お前だけずりぃぞ! オレにも代われ!」

「何言ってんだ、オレが先だ!」

「ふざけんじゃねぇぞ! 彼女の心は誰にも渡さん!」

 

 目の前で、何が起きているのかわからない。

 瞬時にハーレム状態を形成したその場を呆然と見ていたボクは、慌てて頭を振って働かせた。

 目の前の危険はとりあえず去ったけれど、それでもこのままでは彼女が犠牲になってしまう事には変わりがない。

 そう思って、今やボクには目もくれない奴らの外側から、打開策を考えていたボクと彼女の、目が合った。

 路上にも構わずあぐらをかいて座り込む男の上で、その太い腕に和服のまま抱かれていた彼女は、ボクに向かって目配せすると、指先で静かにちょいちょいと、左の目を示してみる。

 

(左目……?)

 

 ほんの一瞬だったが、そのジェスチャーが示す事実は明確だ。

 彼女は、ボクの植能を知っている。

 こくり、とうなずいてから、ボクは今度こそ広域に、その力を展開した。

 

「コルニア! 視覚情報を〝改竄〟ッ!」

 

 わああっ、と男たちが一斉に浮足立つのが見えた。

 幻覚で複製した〝彼女〟に惹かれ、夢中になっているようだ。

 その隙にその場をするりと抜け出した彼女は、路地の入口側に立っていたボクの方へ走り寄ると、息を切らして言った。

 

「行こう。今のうち。あっ、でも、私には触らないでね。あいつらと同じ目に遭いたくなかったら」

 

 そうボクに奇妙な忠告をした彼女は、多少息が上がっているけど、それ以外は無事なようだ。

 とりあえずは安全な方へ道を戻りながら、ボクは矢継ぎ早に尋ねた。

 

「ねえ、ちょっと待って。さっきのあれ、どうなってるのさ。どういう仕組み? あの指先から出てた光って、媚薬系の電子ドラッグか何か? あんた、ボクとどこかで会ったことあったっけ。なんでボクの植能のことを知ってる? ボク一人のためにあんな体張るような無茶までして、どういうつもりで」

「助けてもらった相手に、お礼もなしで質問攻め? 礼儀知らずなところはユイト相手の時と変わってないね。まぁ、そういうところ、私は好きだけど」

 

 脚は止まらないけど、驚きに思考が止まりそうになった。

 なんでこいつが、ボクとカシハラのやり取りを知ってる? 今の体制になってから、カシハラは滅多なことでは人目につかないようにしてるはずなのに。一体どこで、何を見たんだ?

 

「待って。なんで、あんたはボクとカシハラのことを……」

「おっと。口を滑らせすぎたか。まぁ、余計な手出ししてたらごめんね。ヨハネさんなら勝てると思ったけど、さすがにちょっと人数多くて分が悪いかと思ったから」

「そんな事はいいから……!」

 

 助け出されたことは事実だし、彼女が首を突っ込んだことに云々言うつもりはない。

 それよりももっと気になる事があったけれど、彼女は街路に出るなり、唐突にボクの後ろ側を指さして目を丸くした。

 

「あー!」

「?」

 

 反射的に振り返った途端、ぱんっ、と肩を叩かれる。

 その瞬間、視界が奇妙な色に染まった。

 コルニアを食らった時の幻覚作用とはまた違う、けれどどこか違和感を禁じ得ない……気が付いたらボクは、街路を過行く通行人の、素足や首元を目で追っていたのだった。

 一時の季節柄のイベントを覗いて、年中気温が一定のここでは、露出が多いファッションの人間も勿論多い。ミニスカートから伸びる、覆いのない肌や、剥き出しになった細い首筋。灯り始めたネオンに照らし出される二の腕の、怪しい輝きが、普段以上に妙に艶めかしくて、きめ細かに見えるような……

 

「……って、そうじゃなくてッ!」

 

 一体自分が何をやっていたのか分からないまま、大声を出しながらふと周囲を見渡せば。

 道行く人々の波の中に、当然彼女の姿はなかった。

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