また説明不足で多数の方が疑問を感じられているようだったので、申し訳ないです。
それではお楽しみください。
「…ここは?……」
天井はなんだか知っている気がするが、ここがどこだったか思い出せない。
暗く、どんよりと時間が停滞したような部屋だ。
壁には時計がかけられており深夜の1時を指していた。
ベッドから降り、部屋の外へと足を運ぶ。
廊下に出ると、部屋同様に白を基調にした、豪華な家であることがわかる。
ゴニョゴニョと聞き取る事が難しいが、話声が聞こえる。
そちらの方に歩いていくと、何故か身を隠しながら、その声を伺っている自分がいた。
「…だか…いった…だ…」
まだよく聞こえない、扉に耳を当て、その声を拾おうと試みる
「…顔がよかったから拾ってきたんんだ、ある程度、対外的に良い感じになってもらわないと困るだろう。」
「お医者様の話ではあなたに問題があるって言ってたじゃない!」
どうやら喧嘩をしているらしい。
「またその話か?仕方ないだろう!」
「それをあんな小汚いガキを拾ってきて!」
「じゃあどうする?!今から捨てに行くか?そうすれば子供を拾ってきたが、育てられずに捨てた大馬鹿だ!そうなったら対外もくそもあるか!」
「私はそういう事が言いたいんじゃないの!」
その言葉で自分が何者なのか、はっきりと思い出してくる…
この豪華な家も、自分が何故こんな空虚な気持ちでいるのかも…
そんな時、残酷にも扉が開く。
ぷしゅーっと音を立て左に自動で扉が開くと、部屋の中の二人は驚きの表情でこちらを見つめる。
「さ、悟、どうしたんだい、こ、こんな時間にまだ夜中じゃないか」
女の人は嫌そうな顔でこちらを見もしない。
「さぁ、今日は少し寒い、ベッドから離れていると風邪をひくぞ?」
おじさんに促され、自分の部屋へと連れ戻される。
「もう寝なさい、私はまだ仕事が残っているから」
また遠くから声が聞こえる。
「…様!…さ・び様!…」
どうやら自分を読んでいるらしい。
「むささび様!」
アルベドが横で必死に自分の名前を呼んでいた。
「むささび様!お気づきになられましたか?!寝ながら涙を流され、とても苦しんでいた様子でしたので、申し訳ございません。無礼と知りながらも起こさせていただきました!」
今だ状況がよくつかめないが、うなされている自分を心配してくれたのだろう。
「…うん、ありがとう…いいの…いい夢じゃなかったから…」
アルベドはやるせない顔でこちらを見ている。
「むささび様、どうかお一人で抱え込まず、私たちに、私にご相談ください。何か問題があるのでしたら、私が必ず解決して見せます!」
「うーうん、大丈夫、もう終わったことだから…」
そういうとむささびはどこか遠くを見る目になり、ベッドから起き上がる。
「…今は何時?」
「…はい…現在は朝の4時でございます。」
「そっか、じゃあそろそろ依頼に戻るよ。いつもの確認よろしくね。」
アルベドは悲しそうな顔をするがしっかりと見送りの言葉を言ってくれる。
「かしこまりました。このアルベド、むささび様の留守、しっかりと務めさせていただきます。」
「お願いします。」
むささびはやり取りを済ませると指輪を使って移動するのだった。
「ささび様、おはようございます」
ゲートをくぐると依頼で野営したテントの中に出て、ナーベ、ユーリが迎えてくれる。
「うん、ソーイは?」
「ソーイは現在外の警戒に当たっています、夜中は何事もなく、モンスターなども現れませんでした。」
「そっか、ほかのみんなは?」
「一部の者は既に起きているようです。また漆黒の剣、ンフィーレア共に不審な動きはありませんでした。」
「わかりました、ありがとう」
ユーリと現状確認を終わらせると、テントの外に出る。
外は日が昇っている最中で、辺りを少し明るくしていた。
「お、おはようございます、ささびさん」
声のする方を見るとニニャがこちらに近づいてくる。
「おはようございます」
挨拶を返すと、ニニャは深く頭を下げる。
「昨晩は本当に申し訳ありませんでした!」
「…いいんです、僕の方こそすみませんでした、ニニャさんは何も悪い事はしていません、ごめんなさい」
「、ありがとうございます。」
「この後はどうしますか?」
「たぶんみんなもそろそろ起きてくると思いますので」
「わかりました、僕は川で顔を洗ってきます」
ニニャと別れ、小川の方へと行くとソーイが周囲を警戒していた。
「おはようございます、ささびさん」
「おはようソーイ、夜は何もなかった?」
「はい、多少モンスターがウロチョロしていましたが、こちらには来ませんでした。」
ソーイとやり取りをしながら小川の冷たい水で顔を洗う。
「ふー、ちょっと冷たいけど気持ちいい、ソーイはよく寝た?」
「いえ、ナーベと交代した後もテント内で警戒を続けていました。」
その言葉にささびは顔をしかめる
「ちゃんと休まないとだめだよ、休まないとパフォーマンスが落ちちゃうんだよ?」
どこからか持ってきたような言葉を使って、僕へ注意を促すが、あまり効果がない様だ。
そこへペテル達がやってくる
「おはようございます、ささびさん、ンフィーレアさんも今起きてきまして、朝仕度が終わったら荷造りを初めて出発しましょう」
「わかりました、それじゃあ、仕度、済ませてきちゃいますね」
軽く挨拶を終えると出発へと向けて準備を始めるのだった。
「そろそろ到着します!」
ンフィーレアが周囲に聞こえるように言いうと、その言葉通りに道の先に建造物が見えてくる、村を囲んでいる柵が見えてきた
「あれ?おかしいな、あんな頑丈そうな柵前はなかったはずなのに…」
「ンフィーレアさんもしかして、違う村に来ちゃったとか?」
「それはありえないですよ、この道だってしっかり覚えてますから、でもどうやって…」
ンフィーレアの言葉に一行は警戒を強化する、開拓村にそんな速度で柵を建築するなんて不可能だろう、可能性としては帝国だ、万が一、帝国軍に占拠され、村が前哨基地として生まれ変わっているのなら、即座に撤退が必要だ。
「どうしますか?」
「行ってもよろしいでしょうか?」
ンフィーレアは申し訳なさそうに周囲を伺うが、彼が恋心を抱いている村娘があの村に住んでいることを既に知っている漆黒の剣は首を縦に振る
「まぁ、まだ決まったわけじゃないからな、それに帝国軍だったとしても、こっちが攻撃したり、逃げたりしなけりゃ、冒険者に攻撃はしてこないだろ」
「うむ、そうであるな」
「情報隠蔽の為にしばらく拘束されるかも知れないけどな」
メンバーは笑いながら冗談を飛ばしている。
「ささびさん構いませんか?」
(んー、国とのいざこざになったらめんどくさいし、アルベドから避けるようにって言われちゃってるんだけどなぁ…でも…ここで依頼を投げ出す方がマイナスになっちゃうかな?…すぐに答え出さないと…)
「…はい、僕たちもそれで大丈夫です」
全員の同意が得られると村の柵へと近づいていく、入口へと続く一本道の脇には麦畑が広がっており、収穫されておらず伸び放題になっていた。
「ちゃんと管理してほしいな、これじゃあもったいないだろう」
ペテルは死をいくつか乗り越えてきた経験から畑を凝視する…
とそこにはンフィーレア達を覗き見する目があったのだ、カモフラージュされ、良くは見えないが、その目が確実に人間の物ではない事だけは確かだった。
「なっ!」
ペテルが驚きの声を上げる当時、周囲の麦畑から悠長に喋るゴブリン達が武器を構えながら顔を出す。
「武器を下げてもらいましょうかねぇ」
既に相手に囲まれ、こちらは武器も抜いていない、ペテルは自分が如何に早く動こうと、相手に突き刺される状況に冷や汗が止まらなかった。
出来るだけ多くの情報を得ようと首を動かさずに目だけで周囲を見渡していると、更にゴブリンからの要求が飛んでくる。
「後ろのあんた達もだ、こっちの兄ちゃんたちはさして怖くねぇが、あんたらは別だ、ちょっとばかしまずい雰囲気をバリバリ感じるぜ」
(探知魔法でわかってたけど、やっぱり『ゴブリン将軍の角笛』で召喚されたゴブリンたちだよね…部外者を警戒して、入れてくれなくなっちゃったのかな…どうしよう…ん?)
ささびは自分が持っていたアイテムの対策に頭を悩ませていると、更に前方から一人の人間が近づいてくるのがわかった
(最悪、正体をばらして入れてもらうしかないかなぁ…)
「安心してほしい、俺たちはあんたらが危害を加えてこない限り、攻撃するつもりはない」
その言葉に怒りを爆発させたンフィーレアが怒鳴りつける
「お前らが村を占領したのか!」
激高するンフィーレアをニニャがなだめる
「ンフィーレアさんちょっと落ち着いてください、どっちが有利か言うまでもありません、相手もどうやら積極的に攻撃を仕掛けては来ない様ですから、ちょっと様子を見ましょう。大丈夫です、ささびさんたちもいますから」
その言葉に少しだけ冷静さを取り戻したのか、深呼吸するとンフィーレアは馬の手綱を力強く握った
とそこへ村の入口からゴブリンに守られながら一人の少女が顔を出す
「エンリ!!」
ンフィーレアが村娘の名前を叫ぶと、相手も名前を叫ぶ
「ンフィーレア!」
その声には好感の色が混じっており、漆黒の剣のメンバーもエンリと名前を聞いて、警戒を解くのだった
(あの人が言ってた薬師ってンフィーレアさんの事だったんだ…ますますあの人の目的がわからなくなってきた…)
「そんなことがあったんだ…」
ンフィーレアはエンリから村に起こった惨状を聞かされ、無力感に苛まれていた。
エンリの傍により、慰めていようかと迷っているとそれよりも早くエンリは涙を拭き、覚悟の声を上げる
「妹もいるし、悲しんでばっかりいられないわ」
そう覚悟をするエンリの顔を見て、改めて恋心を実感する、好きだ、愛している、そう伝えたい、村に入るまでの葛藤で更にその気持ちは強くなった
「エンリ!!」
思わず口から言葉が出る、エンリは急な大きい声にびっくりした顔でこちらを見ていた。
「……も、もし困ってることがあったら言ってよ出来る限り助けるからさ!」
「うん!本当にンフィーレアは私にはもったいないくらいの友人だわ!」
「…ぁ、あ、うん…いや、いいんだよ、長い付き合いだしね」
また機会を逃してしまったンフィーレアだったが、彼女が自分に向けてくれる笑顔はとても美しかった。
「それで…あのゴブリンたちはなに?」
「村を助けてくださった、むささび様が置いて行かれたアイテムを使ったら出てきたの。私に従って色々と働いてくれるわ」
(むささび?…ささびさんと名前が似てるけど…偽名使うんだったら流石にむを取るだけなんてお粗末な真似はしない…かな?)
「そうなんだ…」
ただそのむささびという人には村を、好きな人を救ってもらったとはいえ、嫉妬心を抱かずにはいられなかった、先ほどからエンリの口からたびたび登場する人物は窮地の村を圧倒的な力で救い、エンリの目をキラキラと輝かせていた、とても我儘な感情だが、男として、意中の相手の目線は自分に向かせたかったのだ
「それでそのむささびさんだっけ、どんな人なの?特徴とかわかってれば知ってるかもしれないし、僕も会ったときにお礼を言いたいしね」
エンリから聞かされた人相はますます、ささびさんにそっくりだった、身長も同じぐらいの少年であり、ライトニングの魔法を自在に操るマジックキャスター
この国に小柄で高位の魔法を操るマジックキャスターは知っている限りでは二人しかいない。
「それに真っ赤なポーションをくれたの!」
ンフィーレアは疑問が確信に変わったように尋ねる
「…もしかして、その人って…女性?」
「?違うよ、顔はびっくりするぐらい綺麗だったけど、男の人だったよ。でも確か一緒にいた黒いフルプレートの女性がアルベドって…」
もはや確定だ、『むささび=ささび』ここから違う場所を探す方がバカバカしいほど証拠が出そろってしまった。
しかし、話を聞く限り、ささびさんは現在連れている仲間以上に強大な戦力を持っている、推定アダマンタイト級とされる、黒いフルプレートの女性、アルベド
同じく、素手で騎士の鎧を突き破る執事、セバス
帝国四騎士すら陵であろう戦力は個人が所有していていいものではなかった、無論むささびがどこかの国に所属していようと、その情報の価値は考えるだけで呼吸が荒くなるレベルの物だった。
自分はそんな人達にこそこそと近づいてはポーションの製法をしろうとしていたのだ。
思わず自分に嫌悪感を抱き、あまりにも価値が高い情報を持ってしまった事も相成り吐き気さえしてくる。
「だ、大丈夫?顔色悪くなったけど…」
その様子を魔法でナーベと一緒に覗いていたささびは失態を自覚していた。
(もー、これ完全にバレちゃってるよね…どうしよう…んー)
ささびがこれからどうしようかと考えていると、ナーベから謝罪の言葉が飛んでくる
「申し訳ありません。むささび様の正体が露見したのは私の失態です」
「でも…まぁ、うん、失敗は誰にでもあるよ。今回はしょうがないよ」
「いえ!ですがっ!」
とそこへンフィーレアが息を切らしながらやってくる。
「ささびさん!」
ンフィーレアはすぐ近くまでやってくると、息を整えてから話始める。
「ささびさんはむささびさんなのでしょうか?」
「・・・・・・・」
「ありがとうございます!この村を、エンリを助けてくれて!」
既に覆しようのない真実を掴んだ少年に、ささびは小さく自信なさげに答える
「…ち、ちがうよ、ぼ、ぼくは…」
「わかっています、お名前を隠されているのは何か理由があるんだと、それでもこの村を、僕の好きな女性を救ってくれたことにお礼が言いたかったんです、ありがとうございました」
ンフィーレアは感謝の言葉を述べると再び深く頭を下げる。
「…もー、頭を上げてください」
もうどう頑張っても弁明は出来ない、ならばいっそ認めてしまった方が楽だ
「それと隠していたことがあるんです。」
ンフィーレアから聞かされる内容によってはナーベが有無を言わさず丸焦げにさせる可能性もある、ナーベに目配りすると、ナーベは頭を下げて下がってくれる。こういうメイドとしては凄い優秀だ。
ひと払いがすむと、ンフィーレアは覚悟を決めた顔をして話始める。
「実は…むささびさんが宿屋で女性に渡したポーションは通常の方法では作れない、非常に希少なものです。そんなポーションを持つ人物がどんな方なのか、それと製法を知るために、今回の依頼をしました。申し訳ありません」
「そっかー、そうだったんだね…」
(これでこの人の目的もわかったかな…それにしてもこれからどうしよう…ポーションも返してもらわないとだめだよね…魔法で記憶消せたりするのかな?…なんかちょっとめんどくさくなってきちゃったな…上げたものを返してくれ、なんて言えないし…よし帰ってアルベドとデミウルゴスに相談しよ)
「でもポーションの作り方がわかったとしても、どうやって使うつもりだったの?」
少し考える素振りを見せるとすぐに話始める。
「そこまでは考えていませんでした、単なる知識欲の一環だったので…うちのおばあちゃんもそうだと思います。」
「それと、僕がむささびって知ってるのは貴方だけですか?」
ンフィーレアは自信を持った顔で即答える
「もちろんです!ほかの誰にも話していません!」
(よかった、これで漆黒の剣の人達まで知ってるなんてなったらお手上げだったよ…)
「今の僕はささびです、それを絶対に忘れないでほしいです」
「わかりました。」
その決意の目を確認すると、ささびは疲れたように俯くのだった。
「むささび様、申し訳ございません!」
ンフィーレアと話し終えた後、近づいてきたナーベは第一声から謝罪してくる。
深々と頭を下げ、顔は見えないが、恐らく自責の念に囚われているだろう。
「アルベドの名前を出しちゃったのはよくなかったね」
「この命で謝罪を!」
ナーベは腰に掛けられた剣を引き抜き自分の首筋へと当てる。
「やめて!」
ささびは激高して、その剣の刃を掴み奪い取る、勢いのあまりナーベを押し倒していしまう。
ナーベの剣のデータ量はむささびの上位物理無効化を突破し、剣を掴む手からは血がぽたぽたと流れている。
ナーベは驚きの表情でゆっくりと剣を離す
「お願い…死ぬなんて言わないで…」
「は、はい」
むささびは既にナーベの手を離れた剣の刃を強く強く握っている。剣を使って血がぽたぽたと流れている
ナーベは驚きのあまり思考が真っ白になっていた。
「も、申し訳、ご、ございません。」
そこへソーイが呼びにやってくる
「む、むささび様?ナーベラル?」
「う、うん、ごめんね…」
ささびはゆっくりと立ち上がるとなーべへと手を差し出すが伸ばした時に痛みが走り手を切っていたことに気が付く
「「「あ…」」」
「む、むささび様!ただいまスクロールにて治療を!」
ソーイが急いでスクロールを取り出し、治癒魔法を使用するとむささびの手の傷は後も残らず消える。
「ありがとう、ソーイさん」
そこへユーリもやってくる。
「むささび様?そろそろ出発になるとのことで、起こしいただきたいのですが…」
ユーリはやってくると三人のそわそわした雰囲気に気が付く。
「何かございましたか?」
むささびは苦笑いするとその場をやり過ごす。
「うーうん、なんでもない、いこっか、あ…それと二人とも名前と敬語…ね?」
「ここから森に入りますので、警護をよろしくお願いします。」
依頼主からの要請に漆黒の剣とむささび達は戦闘準備に入る、薬草採取をするメンバーを除けば、全員が武器を構え。ナーベとむささびはフライを使用して若干浮き木の陰からいつモンスターが現れても応戦できる構えだ。
そこへ依頼主から新たな注文が入る
「ささびさん、もし森の賢王が現れたら、殺さずに追い払っていただけませんか?」
だがその注文ははたから見ればかなりの無茶難題であり、ルクルットがそれを指摘する。
「おいおい、そいつは流石に無理だぜ」
そんなことはお構いなしといった態度でささびは依頼主にその理由を尋ねる
「どうしてですか?」
「はい、実は森に近いカルネ村がモンスターたちに襲われないのは森の賢王がこの辺りを縄張りにしているからなんです。それを殺されてしまいますと…」
(村にモンスターが出るようになっちゃうってことかな?・・・)
「わかりました、もし現れたらそうしますね」
その何気ない雰囲気に漆黒の剣は驚きの声をあげる
「まじかよ、相手は何百年も生きている伝説の魔獣だぞ…」
「強者だけに許された態度であるな…」
既にポイントに到着し、一行は薬草採取を始めていた。
「それでささびさん、ご計画とは?」
「うん、アルベドの提案なんだけど、この森で有名な森の賢王ってモンスターがいるらしいんだけど、そのモンスターを討伐すれば、一気に有名になれるって、それで今森にアウラさんがいるんだけど、僕たちの方へ誘導してくれるって」
「その際はどう対処対しますか?」
「んー、アルベドが言うには圧倒的にやっつけた方がいいらしいから…僕一人でやっつけてみるよ」
「かしこまりました」
そこへルクルットが森の賢王の足音に気が付く
「ちょっと待て何か来る!」
ルクルットは地面に耳を当て、懸命にその音を聞き分ける
「早い!しかもかなりのスピードだ!」
「まさか森の賢王?!」
慌てる漆黒の剣とンフィーレアに支持を出し撤退させる
「みなさん、退避してください、森の賢王は僕が迎撃します。」
その言葉に反論する者はなく、みなささび達の実力を信じていた。
「わかりました、お願いします。」
(って護衛だからこれが最優先なのかもしれないけど…見てる人がいなかったら森の賢王かわからないし…殺しちゃダメって事だったし…どうすればいいんだろう?)
そんなことを思っていると、ンフィーレア達は撤退し、足音はどんどんと近づいてくる。
ささびは足音がする方へ少し進むと防御系魔法をいくつか展開する。
そして…森の奥から大きくて黒い物が近づいてくるのが肉眼で確認する。
「クリスタルウォール」
バキッンッ!と堅いもの同士がぶつかる音が大きく静かな森に響き渡る。
攻撃してきた正体は蛇のような鱗に包まれた長い尻尾がゆっくりと木々の後ろへと下がっていく。
(凄い便利な攻撃方法…低レベルだからよかったけど…高レベルになったら結構強いかも…)
どう攻撃するか悩んでいると魔獣から深みのある声が届く
「某の初撃を完全に防ぐとは見事でござる」
「ご…ござる?」
「さて、某の縄張りへの侵入者よ。今逃走するというのであれば、先の見事な防御に免じ、某は追わないでおくが…どうするでござるか?」
「それはできないです、依頼なので、ごめんなさい、で、でも、会話をする時は顔を見せるのは常識だと思います!」
「おぉ、それは失礼したでござる、では、某の偉容に瞠目し!畏怖するがよい!」
森の賢王は堂々と言い放つと木の陰からその巨体を見せる。
白銀の体毛に覆われ、先ほどの蛇の様な尻尾を持ち、体には魔法の文字の様な模様が浮かび上がっている。
「おぉー」
「ふふふ。その仮面の下から驚愕が伝わってくるでござ「かわいい!」
「「「へ?」」」
その場全員から驚きの声があがる。
「凄い!ジャンガリアンハムスターだ!かわいい!」
「なんと!某の姿を見て可愛いと!それに某の種族を知っているでござるか?」
「うん!ちょっと違ったけど、貴方に似た動物を友達が飼ってた!」
後ろではプレアデスたちが「おぉ・・」と感動している
「それはぜひ聞きたいでござる!生物として子孫を作らなければ生物として失格でござるがゆえに…」
「そ、それはちょっとわからないかな…」
「そうでござるか…」
「…ごめんなさい」
「いいでござるよ…それより!そろそろ無駄な話はやめにして、命の奪い合いをするでござる!」
(でもハムスター攻撃するなんてしたくないしなー…よしっ!)
「スキル!龍の威光、レベル一!」
むささびがスキルを使用すると、ものすごい勢いでひっくり返り、おなかを見せる
「降参ござる~!それがしの負けでござるよ!」
(でも困ったなぁ~、強そうなのがよかったのに、これじゃあペットだよね…)
来た道を戻り、森を出るとみなが喜びに満ちた顔で出迎えてくれる。
「お帰りなさい!戦闘は避けられたんですか?」
ささび達の戦闘をしたとは思えない綺麗な格好にニニャが訪ねるが答えは後ろから出てくる
「「「森の賢王?!」」」
「はい、森から突っ込んできたのでやっつけたんですけど…」
「この森の賢王、殿に仕え、共に道を歩む所存、皆々様には迷惑はおかけしないでござる」
「しゃ、喋った!」
「凄い!なんて立派な魔獣なんだ!」
(え?おっきいだけのジャンガリアンハムスターだよ?)
ささびが困惑していると、更に賞賛の声が上がる
「強大な力と叡智を感じるのである!」
(どこに?!)
「これだけの偉業を成し遂げるとは!ナーベちゃんを連れまわしてるだけあるわ!」
「…み、みんなはどう思う?」
後ろのプレアデスに尋ねるが…
「強さはともかく力を感じさせる目をしています。」
「まさにささびさんの威光を広めるにふさわしい魔獣かと」
「この様な魔獣をペットとして飼われるなど、素晴らしいとしか言えません」
(どうしてぇ!?!?!?)
ンフィーレア達は採取も終わり、エ・ランテルへと帰還していた。
「それでは私たちは一足先にンフィーレアさんのお宅で荷下ろしを済ませておきます」
「荷下ろしだったら僕たちも手伝いますよ?」
「いえ、旅の途中、夜中の警護はささびさんたちにやってもらっていたのでこれくらいさせてください」
「…わかりました、それじゃあ、魔獣の登録が終わったらそちらに向かいますね」
「ささびさんのおかげで大収穫でした!追加報酬を用意して待ってますね!それでは!」
「ナーベちゃん!しばしの別れだけど寂しがらないでくれよー!」
「虫けらが!頭をひねりつぶしますよ!」
「さっさと行くのである!」
やり取りを終えると冒険者組合へと入っていく。
「みんなお待たせ!登録が終わったよ!」
ささびは登録を済ませると外で待たせていたプレアデスたちと合流する。
既に森の賢王を囲む人だかりができていた。
「いえ、待たせるなど、とんでもございません」
何度目かもわからない敬語はもう諦めることにする。
「ハムスケ!今日から君の名前はハムスケ!」
その名前を聞くとハムスケは満足した声で喜んでくれる
「わかったでござる!これからは殿にもらった名に恥じないよう努力するでござるよ!」
ハムスケの声を聴き更に集まっていた人々は驚きの声を上げる。
「喋った!」「あの魔獣がカッパーのプレートって本当かよ!」
「蒼の薔薇じゃないのか?」
ささびは満足そうに胸を張ると、勢いよくハムスケに飛び乗る。
「じゃあハムスケ!ンフィーレアさんの家まで!」
「わかったでござる!」
とそこへ職人らしい少し汚れたエプロンを付けた御婆さんがやってくる。
「のうおぬし、もしや孫の依頼を受けた冒険者じゃないか?リイジー・バレアレというんじゃが…ンフィーレアの祖母じゃよ!」
「んー?あ、あぁ!僕は依頼を受けたささびです、それにナーベ、ソリュ…ソーイ、ユーリです、そしてこちらが…」
自分の番が回ってきたハムスケは嬉しそうに顔を上げる
「某は森の賢王!今はハムスケという名を殿にもらったでござるよ!」
いきなり顔を上げ、言葉を発する魔獣に駆け引きに心得のあるリイジーも恐れを抱く。
「こ、この精強な魔獣が、かの森の賢王だというのか?」
「は、はい、ンフィーレアさんの依頼の先で出てきて、手なずけちゃいました。」
「なんと…それで孫は今どこに?」
「今、家に薬草を置きに行っています、魔獣の登録が終わったのでご自宅に報酬を受け取りに行くところでした」
リイジーは調子を取り戻したようににっこりと笑みを浮かべると声を出す
「ほーなるほど!それでは一緒に行かんかね?」
「わかりました、よろしくお願いします。」
リイジーに連れられ、予定よりも早く家に到着する。
「来るのは初めてじゃろ?ここが我が家じゃ」
そういって扉を開けようとするリイジーをささびが制止する。
「ど、どうしたんじゃ?」
ささびは警戒しながら小さな声で警告する。
「中にアンデッドがいます…心当たりありますか?」
リイジーはアンデッドの名を聞き思わず大きな声を上げる。
「なんじゃと!…それでわしの孫は?!」
「お、落ち着いてください、取り合えずはアンデット3体の反応しかありません」
「どうなっておるんじゃ…」
ささびはプレアデスたちを見る、既に戦闘態勢に入っており周囲を警戒してくれている。これなら説明は不要だろう、さすがは戦闘メイドだ。
「僕たちが突入して安全を確保します。」
「だがお前たちははカッパーじゃないのか?」
「登録したばっかりでカッパーなだけです、実力は調べた限りこの街一番の冒険者です」
リイジーはハムスケを一度見ると息をのむ
「わかった!汝らを雇おう、報酬はいくらでもいい!孫を救ってくれ!」
「わかりました、少し待ってください」
ささびはリイジーからの了承を得ると魔法を発動させる、第八位階の情報系魔法だ、単純な感知魔法だが、それ故にこの世界の住人であればこの魔法から逃れられる者はいないだろう、罠がない事も確認した。
だがアンデッドの姿を確認したささびの顔は一気に暗くなる
「わかった、中には死体1、アンデッド3、扉を開けて正面、倉庫の方へまっすぐ行ったところ、罠、伏兵なし」
慣れた口調で端的に、必要な情報のみを伝えるとユーリが扉の前へと移動する。
「はっ!」
ユーリが正拳突きを放つと扉は軽々と家の中へと飛んでいく。
後ろからソーイ、ナーベ、ささびと続く。
そして家の中をしばらく進むと倉庫の扉へとつく
「・・・・・ユーリ殲滅して」
「かしこまりました、開けます。」
ユーリは一言だけそういうと扉にタックルする。
吹っ飛んだ扉にペテルだった肉塊が一瞬で潰される。
ささびの命令を受け1秒とかからずアンデットたちは殲滅される。
そこへリイジーが後ろから入ってくる。
「こ、これは…?ンフィーレアは…」
「誰かがンフィーレアさんを攫う為にしたんだと思います。」
「頼む!ささび殿!わしの孫を救ってくれ!さっきも言った通り報酬はなんでも支払う!」
リイジーの話を受けてささびは即座に了承する。
「わかりました、じゃあンフィーレアさんの居場所を割り出します、少し外にいてください、ソーイ、ナーベ護衛をお願いします。」
二人に連れられ、リイジーは外へと出ていく
それを確認したささびは魔法を起動するのだった。
お読みいただきありがとうございます。
龍の威光はささびが使えるスキルで絶望のオーラに似たところがあります。
トブの大森林ではアウラとの絡みはなくなっています。
また原作で描かれていて本作で描かれていないバックストーリーはほとんど同じです。
次回は変更がなければクレマンティーヌ戦です。更にダークになっていくささびを描いていきます。
これからもよろしくお願いします。