SSSS.01 X-OVER DREAM《仮面ライダー×グリッドマン》   作:ヒダリテ

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第01回 アノ日々の再・来
#1


---side real world---

 

 平時には多くの家族連れでにぎわっているアウトレットモールから、人影が消えた。

 十数分前に発令されたモール全域への避難指示がその理由だ。

 現在、モールの中心部に当たる屋外フリースペースでは、どこからか吹き飛ばされてきたのだろうパラソルやテーブルが散乱し、なかには街路樹の枝に挟まっているものまであった。

 それらを吹き飛ばした張本人であるところの、一体の怪人が巻き上がる粉塵の中から姿を現した。

 ガンメタリックカラーの鋼鉄の体。その胸部には青いドラゴンの生首が生えていた。

 シャッターで覆われたようなデザインの顔には、赤く点灯したヘッドセットが付けられている。

 マギア。人工知能搭載ヒト型ロボ、ヒューマギアの変わり果てた姿であり、悪意の感情にとらわれ暴走した怪人である。

 マギアに共通する特徴として、ヒトの表皮を模した外装が剥がれ落ち、むき出しとなった鋼鉄ボディ(この状態をトリロバイトマギアという)に、様々な絶滅動物の力を宿した鎧をまとっているという点がある。これまでにはベローサ、クエネオスクース、アルシノイテリウムといった絶滅動物の力をもったマギアが現れていた。が、しかし。

 

「あんな姿のマギアはこれまでに発見されていたか、亡?」

「いえ。アークが生成したゼツメライズキーの中に、ヒューマギアをあのように変質させるものはありません」

 

 マギアの前に立ちはだかる二人。青みがかった迷彩柄のコンバットスーツを纏い、首元に紺のスカーフを巻いた女性が、パンツスーツ姿に黒いジャケットを羽織った中性的な顔立ちのヒューマギアに問いかけた。

 未確認のマギアの出現。およそ一年ぶりの出来事であった。

 人工知能特務機関A.I.M.Sと、人類滅亡を図るヒューマギアによるテロリスト集団、滅亡迅雷.netとの全面戦争が行われたのが一年前。

 そこでの滅亡迅雷.netの一時的な崩壊に伴って、ヒューマギアをマギア化させるツールであるゼツメライザーの散布が止まったこと。そして、滅亡迅雷.netを生み出した悪意の人工知能アークが、ゼツメライザーを介さずにヒューマギアをハッキングしてマギアを生み出す力を会得したことから、新種マギアは長らく誕生してこなかった。

 人口知能としてのアークが消滅している今、新たなマギアを生み出すことは理論上不可能である。その点で、新種マギアの出現の裏には未知の敵が存在すると考えられる…。

 先ほどの紺のスカーフの女性は、そう思案にふけっていた。

 しかし、彼女の背後で隊列を組んでいる者たちからの声で、ふと我に返った。

 

「隊長、指示を願います」

「…あぁ。奴の戦力は底が見えない。お前たちは私と亡の援護に徹し、また陣形も各々の判断で臨機応変に組み替えろ。身の危険を感じたらすぐに退避することだ。いいな!」

「「「了解!」」」

「作戦を開始する。撃て!」

 

 女性の号令に合わせ、マギアの身体に集中砲火が浴びせられる。薬莢の音に交じって、マギアが蒸気機関のごとき軋んだ雄叫びを上げた。

 

「キシィィィァァッ!!!」

 

 マギアは両腕に大きな爪を生やすと、突進の体勢をつくった。しかし、弾丸の雨の中でもとりわけ強烈な射撃がマギアの頭部をとらえ、突進を防ぐ。

 対ヒューマギアを目的として作られたエイムズショットライザーという銃を撃ち、マギアを攻撃したのは隊長と呼ばれていた女性。

 彼女はショットライザーをベルトのバックルに装着すると、手のひらでプログライズキーとよばれるデバイスを二回、三回と回転させて眼前に持ってくる。

 

《THUNDER!》

 

 プログライズキーのスイッチを入れ、ベルトに装填するとともに、ショットライザーの引き金を絞ってキーに内包された力を開放する。

 

「変身!」

 

《SHOT-RISE! LIGHTNING HORNET! Piercing needle with incredible force.》

 

 A.I.M.S.隊長、刃唯阿。彼女が変身するのは、ハチと電撃のアビリティを宿した華麗なる戦女神、仮面ライダーバルキリー ライトニングホーネット!

 バルキリーは軽い身のこなしでマギアのもとに接近し、紫電を帯びた蹴りを食らわせる。

 電撃を受け怯んだマギアに、突如として白い影が伸びた。

 

「いけっ、亡!」

「ハッ!」

 

 唯阿とともにいたヒューマギア、亡が変身する仮面ライダー亡が、銀色の爪でマギアを二度、三度と斬りつけた。

 鈍色の斬り傷が浮かび上がり、マギアは後退する。

 

「刃隊長、これを!」

「あぁ!」

 

 バルキリーは隊員から投げ渡されたアタッシュケース状のガジェットを抱え、マギアの懐に潜り込む。ガジェットを銃形態のアタッシュショットガンに変形させ、強烈な射撃を食らわせた。

 

「ギシャァァッッ!」

 

 大きく吹き飛ばされたマギアと、射撃の反動を受けたバルキリーの身体が再び離れる。亡がバルキリーを支えるとともに、次の攻撃への準備を整えた。

 しかし、マギアは立ち上がっても攻撃してこなかった。マギアは胴に巻かれたベルト、ゼツメライザーのサイドボタンを押すとともに、身体から青いパイプを排出した。

 

《KAIJU-NOVA!》

 

 妖しげなシステムボイスとともに、パイプがヒトの形状をとり始めた。

 トリロバイトマギア、に似ているが、頭にヘッドセットのパーツがないことからヒューマギアではないことが窺える。トリロバイトトルーパーとでも呼ぶべき戦士たちが、二人のライダーに襲い掛かる。

 

「こいつら、強くはないがっ…!」

「通常のトリロバイトマギアと力は同等…一体のマギアからこれほどの質量をどうやって…?」

 

 そう言ってトリロバイトトルーパーと戦う二人は、マギアがさらなる攻撃を仕掛けようとしていることに気づけなかった。

 マギアは再度ゼツメライザーを稼働させ、胸部のドラゴンの口にエネルギー流を溜め込む。

 

《GHOULGHILAS-NOVA!》

 

 グールギラス。おそらくマギアの姿のモデルとなった生物の名を告げるシステムボイスとともに、グールギラスマギアはドラゴンの口から火球を放った。

 火球がバレーボールのようにバウンドし、ライダーたちに直撃する。

 

「なにっ!」

「ぐっ…!」」

 

 思わぬダメージに体勢を崩したライダーたち。A.I.M.S隊員が一斉にグールギラスマギアに発砲する。

 しかし、グールギラスマギアは仰け反るどころか、再度エネルギーを溜め始めた。

 

「まずい!」

 

 火球が隊員たちを焼き尽くさんとした瞬間、飛行能力で隊列の前に躍り出たバルキリーが攻撃を防いだ。が、もろに攻撃を食らったバルキリーの変身は解除され、唯阿の姿に戻ってしまう。

 亡が援護しようとするも、トリロバイトトルーパーに阻まれて身動きが取れない。しかし、生身の唯阿をめがけてグールギラスマギアが三度火球を放とうとする。

 絶体絶命のように思われた、その時。

 

《ZEROTWO-RISE!》

 

 突如吹きつけたネオングリーンの疾風が、グールギラスマギアを蹴飛ばした。

 現れたのは、煌めく身体に真紅のマフラーを思わせる装甲を携えた次代のヒーロー、仮面ライダーゼロツー!

 

「刃さん、亡、遅れてごめん!」

「気にするな。それより、アイツの攻撃は厄介だ。気をつけろ!」

 

 唯阿の忠告がゼロツーに届くのと同時、グールギラスマギアの第四撃が放たれた。

 ボウッボウッと音を立てながらバウンドする火球が、ゼロツーに直撃する…と思われた刹那、火球は全て消滅してしまっていた。

 

「…弾道を全て予測したか。恐るべきテクノロジーだな」

 

 仮面ライダーゼロツー。それはまさに悪意の人工知能アークと対極をなす存在だった。

 アークと同時期に生まれた人工知能ゼアは、人類の善意をラーニングしたものだった。

 ゼアの生みの親、飛電インテリジェンス初代社長の飛電是之介が、いずれ始まる悪意に蝕まれた人工知能との戦いの切り札として遺していたのが、飛電ゼロワンドライバー。そして、それを受け継ぎ仮面ライダーゼロワンとなったのが、飛電インテリジェンス現社長の飛電或人だった。

 ゼロツーは、アークとの戦いの中で或人が生み出した新たな仮面ライダーである。社長秘書ヒューマギアのイズがシンギュラリティに達したことをきっかけに、ゼロワン以上にゼアと密接に連携できる仮面ライダーとして誕生させたものであり、その力はあらゆる知能の予測を超える。

 今も、ゼロツーはグールギラスマギアの火球の弾道、飛距離、回避パターン、攻撃パターンの全てを予測し、そして全てを実行したのだった。

 さらに、ゼロツーの予測が導いたことはほかにもあった。

 

「ハァッ!」

 

 ゼロツーのサマーソルトキックがグールギラスマギアの胸部の根元にヒットすると、マギアはこれまでにないダメージを負った。

ゼロ ツーは戦いの中で生じうる可能性の全てを瞬間的にシミュレーションできる。そのなかで、敵の弱点がドラゴンの首の接合部にあるという結論を導き出したのだ。

 よろめくグールギラスマギアに、ゼロツーが片手剣の切っ先を向ける。

プログライズホッパーブレードとよばれるそれは、イズとゼアによって作られた、善意のデータの結晶体。斬られた相手は善意のデータを全身に受けることで、マギア状態から解放されるのだ。

 

「待ってろ。すぐに解放してやるからな!ハァッ!」

 

 一刀両断されたマギアが、崩れ落ちながらその姿をメイド服を着た女性のものへと変えた。どうやらマギアの正体は、メイド型ヒューマギアであったらしい。

 倒れこむヒューマギアを、変身を解いた或人が支える。

 或人の腕の中で、メイドヒューマギアは目をぱちくりさせた。

 

「…或人社長?私はいったい何を…」

「君は…マギアになって暴走していたんだ」

「私がマギアに…?そんな…あの、ご主人様たちは大丈夫ですか?」

「当時店にいた客は全員無事です」

 

 と、或人とメイドヒューマギアのもとに歩み寄りながら亡が言った。

 

「彼女の働く店舗の監視カメラをハッキングしましたが、彼女は暴走の直前に店を飛び出しているため、この一件で人間には危害を加えていません」

「そうですか。よかった…」

 

 ほっと胸をなでおろしたメイドヒューマギアに、或人が微笑みかける。

 

「君は凄いヒューマギアだね。悪意を抑え込むなんて、簡単にできることじゃないよ」

「或人社長が命がけで悪意と戦う姿を見ていましたから。私たちだって負けていられません」

 

 彼女もまた、衣装に相応しい可憐な笑顔を見せた。

 隊員たちに撤収を指示していた唯阿が、亡のもとにやってくる。

 

「亡、彼女の暴走の原因はわかるか?」

「いえ。映像を解析する限りは、突如マギア化したようにしか見えません」

「そうか。妙だな…」

「なんでゼツメライザーが付けられていたのか、ってことだよな」

 

 或人が起こしたメイドヒューマギアを木陰で休ませておくと、唯阿と亡の方に向きなおって言った。

 

「あぁ。ゼツメライザーによるマギア化ということは、暴走前に何者かにゼツメライザーを取り付けられる映像が残るはずだ。しかし、亡の見た映像にその様子はなかった」

「それに、今回使われたグールギラスゼツメライズキーの出どころも不可解です。そもそもグールギラスという名の生物は地球史上に存在しないはず…」

「ゼツメライズキーを解析すればわかるかもしれないが、それはできないしな…」

 

 唯阿と亡の視線が自然と或人の方に向いた。或人はしばらくその意図がわからずにいたが、途中で「あっ」と気が付いた。

 

「ごめん!キーを引き抜いてから斬ればよかったか…」

「まぁ、仕方ないだろう。我々もホッパーブレードの特性を忘れていたしな」

 

 強制的にマギア化を解除するプログライズホッパーブレードの力で、グールギラスゼツメライズキーは消滅してしまっていたのだった。

 

「その代わり、彼女の方を調べさせてもらいましょう。飛電或人、あなたもA.I.M.Sまでご同行願います」

「あぁ。構わないよ。君もいいかな、えっと名前は」

 

 或人が言いながら振り返ると。

 

「あ、或人社長…!」 

 

 メイドヒューマギアは胸を抑え、苦悶の表情を浮かべていた。

まるで、病魔に苦しむ人間のように。

 

「わた…し…! 」

 

 刹那、小さな悲鳴を上げると彼女は倒れた。

ガシャンと、人らしからぬ重厚な音を立てたメイドヒューマギア。彼女のヘッドセットに、電力状態を示す青い光は灯っていない。

突然の出来事に三人が呆然とするなか、唯阿がぽつりと漏らした。

 

「尻尾は掴ませないつもりか…」

 

 敵は、ヒューマギアに証拠隠滅のための細工を施せるほどの技術を持っている。この事実が再び仮面ライダーたちに緊張を走らせる。

 

 寒空の下、或人の拳を握り締める音が、やけに響いた。

 


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