レース当日を迎えた俺とブライアンは、レース場のコース脇で最終確認を行っていた。
「ブライアン、もしも俺が想定したことになったら教えた通りに動いてくれ」
「分かった、肝に銘じておこう。デビュー戦では負けはしたが、今度こそ、ぶっちぎってゴールするつもりだからな」
「期待してるぞ!今日は珍しく各社の記者もいるから、もしかしたら有名人になれるかも知れないな!」
「ああ、先にデビューした姉さんより早いタイムで走ってくる!」
激励の言葉を掛け、レース場へ送り出す。自信に満ち溢れた頼もしい背中を見送りながら、レースの詳細な情報を見ていると後ろから声を掛けられた。
「宮代くん、調子はどう?」
「狭山さん、お久しぶりです。ミホノブルボンは……会うのは初めてでしたっけ?」
狭山さんの後ろを着いてきたウマ娘はこの前のレースでブライアンからギリギリ、ハナ差で逃げ切ったミホノブルボンだ。噂に聞いていると、中々の変わり者らしい。
「マスター、こちらの方は?」
「宮代凌太トレーナー、トレセン学園の期待の新人トレーナーよ。担当ウマ娘は……ほら、あそこにいるこの前の選抜レースで2着だった子よ」
「ナリタブライアンさんですね、覚えています。よろしくお願いします、凌太さん」
「おう、よろしく」
「あら、ブルボンが相手のことを下の名前で呼ぶなんて珍しいわね?」
「親しくなりたい人は下の名前を呼び合うのが良いとマヤノトップガンさんが言っていました」
「?とりあえず、俺も名前を呼びにくいからブルボンでいいか?」
「はい、問題ありません」
「仲睦まじいのはいいことだけど、そろそろレースが始まるわよ」
「そうですね」
試合を見るためにレース場へ目を向けた瞬間、ブライアンからの視線を感じたが、すぐに目を逸らされた。全員がゲートインし、一瞬の間の後、ゲートが開きレースが始まると正面の直線を一気に加速するウマ娘がいた。更にそのウマ娘はぐんぐん加速し裏の直線で10バ身以上の大差で先頭を走る。一方、ブライアンは二番手集団の前方でハイペースにならないように速度を抑えて走っている。大方の予想通り、大逃げしたウマ娘は第3コーナー中央で目に見えて失速する。そして馬群の先頭を走っていたブライアンが大逃げウマ娘を躱して一気に先頭へ躍り出る。そして最後の直線で脅威の末脚を見せてそのまま1着でゴールイン。まさに強者の走りだった。更に驚いたのは前回のレースで記録されたミホノブルボンのコースレコードを大きく上回っていたことだ。そんな走りを見せつけるウマ娘に既に担当トレーナーがいることも知らない他のトレーナー達はブライアンに殺到する。まあ、全員のオファーを断るだろうと高見の見物をしていると狭山さんに肩を叩かれる。
「行ってあげなさいよ、貴方の担当ウマ娘でしょ」
「そうですね、そろそろ行ってきます」
人だかりに近づくと何やら口論が起こっていた。どうやらトレセン学園でも上位の一流の高齢のトレーナーがブライアンの勧誘をしつこく行っているらしい。他のトレーナーはナリタブライアンの時々キツめの言葉でお断りの意志が通じたらしく遠目に二人を見ていた。
「ナリタブライアンくん、君は私が育成させてくれ!」
「貴方の実績は確かに凄い、だが私は貴方のスカウトを受ける気はない」
「何故だ?何故君ほどの強いウマ娘がトレーナーをつけようとしない?選抜レースを勝ったのだからトレーナーをつけたら君はデビューできるのだよ?」
「何か貴方は勘違いしているようだが私には既に担当トレーナーがいます」
「嘘を付くのはよしなさい!昔の宮代トレーナーでもないのにデビュー前のウマ娘をスカウトする馬鹿な人間なんてこの学園にはもういない!」
「!…………」
ブライアンが歯軋りをしている。ブライアンは怒らせると厄介なタイプなので止めに入る。
「そこまでにしてください、そこのトレーナーさん」
「なんだ貴様は!私が誰だか分かっているのか!?」
「知らないですよ、俺はそこのウマ娘に用事があるだけなので」
「なんだと!?私が先に声を掛けたのだぞ!?彼女は貴様みたいな若造が育てるには勿体ない逸材だぞ!さっさと諦めろ!」
「お前!いい加減に!」
ブライアンの堪忍袋の緒が切れてしまいそうになるので急いでこの話を終わらせる。
「残念ですが、貴方より先に俺はブライアンに声を掛けて、しっかり専属トレーナー契約もしている。諦めるのは貴方の方ですよ。確かにブライアンは凄い逸材で俺の手に余る存在です。ですが、俺はブライアンと約束したので、彼女を三冠ウマ娘にするって」
「何を言う!お前みたいな若造にそんなことができるはずがない!」
そこまで言ってもまだ食らいついてきそうな勢いだったが、遂に痺れを切らしたブライアンがトドメの一言を言い放った。
「ふざけるな!いい加減にしろ!そこにいるトレーナーは!凌太は!私が前の試合で不調で走って2着だった時からトレーナー契約をしている!私が1着取ったからホイホイ寄って来るお前とは違う!」
「ブライアン、その辺りにしとけ」
「あ、ああ」
こうしてこの状況は一段落ついた。トレーナー室に帰ると桐生院さんや狭山さんにとても心配された。どうやらあのトレーナーはトレセン学園でも中々横暴なやり方でウマ娘をスカウトしているようだ。更に無駄にプライドが高いので過去に同じことをした俺の母親を一方的に逆恨みしているらしい。今後の安定を密かに願っていた。しかし先程の光景を遠目に眺める記者がいた。
ナリタブライアンのトレーナーを特別に呼ぶ時の呼び方がわからん。だいたいブライアンはアイツかトレーナー呼びしかするイメージがわかない。物申したいことがあれば是非、感想お願いします。後、選抜レースの中身は1994年の有馬記念です。大逃げウマ娘のモチーフはダブルジェット、ではなくツインターボ師匠です。