原作が正義の人や、オリキャラ苦手な人などはブラウザバック推奨です。
拙い文ではありますが、よろしくお願いします。
※最後のユウキ、リトの発言を一部変更しました。
「必ず帰ってくるから」
空高く昇った月に照らされた男の顔は、覚悟を決めたように真剣でありながら、自分たちに心配だけはかけまいと、固く微笑む。
強面ながら整ったその顔に直後浮かんだのは、不安と寂寥。
自身が歴戦の猛者であるにも関わらず浮かぶその感情の矛先は、戦いに挑む自分へのものではなく、間違いなくその瞳に映る二人へのものだ。
「待ってるからね」
涙を浮かべ、震える声でそう応えるのは、美しく凛とした一人の女性だった。
「この子のことは任せて」
視線の先には、一人の少年。
女性はその少年を抱え、瞳に浮かぶ雫を落としながらも強く、強く微笑んだ。大きくなったら、あなたよりもカッコ良くなってるかもしれないね、と軽口を叩く女性。その言葉に、男性の方も緊張がほぐれたのか、自然な笑みを浮かべた。
そうだといいなあ。私が育てるんだから間違いないよ。その頃には家事の方も上達してるかな?……頑張ります。ハハハ。うふふ。
「それじゃ、行ってくる。ユウキのこと頼むぞ」
「うん!いってらっしゃい」
どこか安心したようなその後ろ姿が、閉まる扉越しにとうとう見えなくなってしまった。
「母さん、大丈夫?」
去り際に撫でられた頭を、その温もりを確かめるように触りながら、少年は今にも泣き出しそうな女性に声をかける。
大丈夫よ、と。
強く強く少年を抱きしめた。
およそこの星のものとは思えない速度で飛び去る飛行船を、二人で長い間眺め、やがて眠気に抗えなくなった少年は。
直前に見た、嗚咽をもらしはじめた母の悲痛な表情を一生忘れることはなかった。
*****
カーテン越しに、暖かくなった日差しが瞼を照らす。
ん……。
煩わしそうに布団を被り、その光から逃げた。暑いのは苦手なのだ。あと寝起きも。
「起きなさーい!」
活発な声が耳を刺激した。また、うるさいのがやってきた――と。ここで返事をしないとどうなるか彼はよく知っている。というか、体感している。主に布団を引っ剥がされたり、くすぐられたり、などの悪戯だ。非常に子供っぽい。本当に大人なのか、と常日頃疑ってしまうものだ。
「……ふぁ……はよ」
「おはよ!」
シャワーでも浴びたのか、髪を拭きながら元気に挨拶する彼女の姿は、二箇所を隠す黒以外全て肌色で――。
「……服は?」
「髪乾かしたらね!」
不満に思いながらも、何を言っても無駄だから、とすでに諦めている。
さて、と。
眠い目を擦りながら、差し出された暖かい手を握り、自身の手はやはり冷たいんだなと再認識。
「今日も遅くなりそうだから、お願いね」
はいはい、と手を振りながら答える。
家事は基本、自分の役割だ。女で一つで育ててくれた彼女――母は、いつも自分のために仕事を頑張ってくれている。それこそ朝から晩まで。「今の仕事は好きだし、気にしないの」と母は言うし、そのおかげで生活できているという事実もあるので、こればっかりはどうしようもない。学生の身である自身ができるのは精々、家事とバイトくらいなものだ。
ふと、久しぶりに見た夢を思い返す。
もうあまり覚えてないが、父との別れの場面だ。
当時5歳だった彼は、父との別れについて理解が追いついていなかった。しっかりと認識していたのは、別れの直前なのに仲良さそうに話す両親の姿と――父が去った後の母の表情。
あまりにも悲痛すぎた別れの後、母が泣く姿どころか、弱った姿すらも見たことがない。一度も、だ。休みの日に稀に、酒を飲みながら愚痴をこぼす程度。本当にその程度なのだ。
息子としては、心配になる。
いくら今の仕事が好きだとしても、自分の時間が取れていない筈だ。何度か休みが重なった時に、旅行でも行ってきたら、と言ってみたのだが、強制的に連れて行かれた。自分の時間が欲しいだろうと思って、提案したのに、「ユウキも一緒に」の一点張りで一人の時間を作ろうとしない。随分前にそういう人なのだ、と理解はしたが、自分が一人の時間が欲しい性格故に、謎のモヤモヤが残る。
父が去って既に11年。
おそらく母が父を想わなかった日は一日もない。
父からもらった指輪を外に出る時はいつもつけているし、昔撮った写真に毎日、いってきますとただいまを言っているのを知っている。
それ故に、必ず帰ってくると言った父には早く帰ってきて欲しいと思う。生きているのか死んでいるのか、それはわからない。だが、きっと帰ってきてほしい。あまり父のことは覚えていないけれど、母が喜び、幸せになるというのなら、そう願わないなどあり得ない。これまで育ててくれた母には幸せになって欲しいから。
「じゃあ、いってくるね!」
そう言って、仕事に向かう母を見送り、自身も学校に向かう準備を始める。夏が近づく暑さに気怠げになりつつも、白髪の少年、ユウキ――氷上ユウキの日常が今日も始まった。
*****
「おはよう、ユウキ」
学校に向かう途中、聞き慣れた声が耳に届く。
狐色のツンツン髪を揺らしながら、声の主はユウキの肩を叩いた。
「はよ、リト」
いやーまだまだ暖かくていいな、と雑談を始める彼の名前は、結城梨斗。ユウキとは小学校からの付き合いであり、現在――高校までずっと友人関係は続いている。
「……これ以上暑くなるって考えただけで引きこもりたくなる」
「ユウキ、暑がりだもんなー」
ハハハ、と。
家族のことや休み中のことなど、話題に尽きないリトの話に相槌を打ちながら、通学路を歩く。
基本的にリトが話す側で、ユウキが聞く側。自分から話すことは少ないユウキからすれば、とても助かることであり、リトの方もしっかりと話を聞いて、相槌を打ってくれるユウキとの会話をそれなりに楽しんでいた。
「それでさ、俺決めたんだ」
やけに真剣なリトのその顔をユウキは見覚えがあった。
「――俺、春菜ちゃんに告白する!」
………………………………。
「……何回目?」
*****
「はあ〜…西連寺春菜ちゃん…いつ見てもかわいいなぁ〜…」
優しげな眼差し、サラサラな黒髪……と絶賛ストーキング中にリトにため息を吐きながら、ついて行く。
「ストーカーは犯罪だぞ」
「そうだぞォ、リト!いくらあこがれの春菜ちゃん愛だからってさァ〜」
「誰がストーカーじゃコラァー!!」
軽口を叩きながら、やってきたのは友人である猿山ケンイチ。
見ての通り、ストーカーするほど恋愛に対し、奥手なリトと違い、異性への興味が尽きない猿山はその行動故、引かれることもしばしば。しかし、クラスの女子とは普通に話すなど、どこか憎めない性格をした少年だ。
「中学からの片想いもここまでくると、応援より不安の方が増すわ」
「仕方ねェって!リトは雑誌のグラビア見せるだけで気絶するような純情クンだしな!」
好き放題言いやがって、と悪態をつくリトだが、否定できずに語気が弱くなっていく。
まあでも、リトが意気込む理由もユウキはわかる。春菜とリトが同じクラスになるのは、中二の時以来なのだ。しかし、その中二のときですら、何度も告白すると決心しては、そもそも声をかけることもできずに…みたいなことしかなかった。
「でも、告白するんだろ?」
「あ、ああ!今日の放課後――」
「あれ?おはよう、ゆ、結城くん。氷上くんと、猿山くんも」
そんな彼らにいつの間に気づいたのか、目的の人物が声をかけてきた。
「はる……西連寺!?お、おはよう!」
「はよ、西連寺さん」
おーっす、西連寺と挨拶する猿山を尻目に、茹で蛸のように顔を赤くしたリトが、それでも話せることが嬉しいのか、幸せそうな表情を浮かべる。
……その表情が見られてなくてよかったな。
普段ストーカーまがいの行動をしているリトだが、春菜と話せないわけではないのだ。中学生からの付き合いであることにも加え、リトの応援をしているユウキのサポートもあり、どうにか挨拶と少し話す程度ならできるようになっていた。
「三人で何の話してたの?」
「い、いや別に――」
「放課後、リトが西連寺に用があるってよ!じゃあ俺、用事あるから行くわ!じゃあな!」
「ハァ!?」
がんばれよ、リト!と親指を立てた猿山に抗議の声をあげる暇もなく、逃げられるリト。
「あ、おれもせんせいによばれてたんだったー」
いかにもな棒読み具合で、固まったリトをユウキも見捨てる。なんだかんだで、応援しているユウキも二人きりにするために空気を読む。
ユウキ自身恋愛経験などゼロなので、リトに対し、何をどうしたらなどの助言は全くと言っていいほどできないが、二人の時間を作ったり、話すきっかけを与えたりならできるので、中学の頃からその程度のサポートを行なってきた。
「お、おい!ユウキまで!?」
一人にしないでくれェ〜!と言いたげな視線を無視し、足早に去っていく。
後はリト次第だ。
それにこれ以上暑さに耐えられそうもないので、早急に一人になる必要があったのも事実だ。
*****
誰もいない屋上。
これほどまでに今、ユウキにとって都合の良い場所はなかった。
予め用意してきていた、小さめのビニール袋とタオルを取り出し、袋の入り口に手を当てる。直後。
――冷気が手に集まる。
数瞬の後、その手には氷が握られていた。
「ふぅ…生き返る」
袋に氷を入れ、その袋ごとタオルで包み、首に当てる。簡易保冷剤の出来上がりだ。
そう。彼――ユウキは実は純粋な地球人ではない。
11年前に去った父――アレンは地球人ではなく、氷を操る異星人。フロスト星人なのだ。さらに言うならば、フロスト星の王族である。フルネームはアレン・ニヴル・フロスト。
そんな父と地球人である母――氷上怜との間の子が、ユウキだ。つまるところ、地球人とフロスト星人のハーフである。
フロスト星人は、ユウキが聞いた話によると戦闘に特化した特徴を持つ種族らしく、個々の戦闘能力が高い上、氷を自在に操る能力ともう一つ能力を生まれつき持っているらしい。その中でもごく稀に、その追加能力が二つ発現する者もいたと言う。能力の発現時期に個人差はあるものの、誰もがその特性を持つ。そんな中、父であるアレンは氷を操る能力に加え、生まれつきの肉体の頑丈さ、多大な魔力量、傷を負った側から治っていく高度な治癒能力の三つ発現していたらしい。全て、父の残したフロスト星人に関する書物と母によってもたらされた情報である。
そんなフロスト星人だが、地球人からすると体温が低かったり、髪色が白かったりと違いがあり、誤魔化すのに苦労したり、子供の頃にはいじめられたりもした。ちなみにリトとここまで付き合いが長くなったきっかけは、これだったりする。
もちろん、身体能力も地球人とは比べ物にならないため、普段はそれなりの成績になるようにセーブしなければならないが、ここまでリトにすらバレていないため、大丈夫なはずである。
……そうバレていない、話していないのだ。
正直なところ話すのが怖い。
話して気味悪がられて、拒絶されるのが怖いし、これまでの日常が壊れるのも怖い。地球という平和な星であったことが幸いしたのか、能力を使用する場面もないし、身体能力なども己次第でいくらでも調整が効く。もちろん、今回のように人目がつかないところで小規模な使用をしてしまう場合もあるが。これは、ユウキが暑さに強くないので、本人は仕方ないと割り切っている。体調を崩して、母に心配をかけるのは避けたい。それでもしバレてしまったなら、自分が傷つくだけで済む。細心の注意を払って能力を使用しているので、大丈夫なはずだ。
それにリトならそんなことくらいで友達じゃなくなるなんてあるわけがない。
「そんなことはわかってる。……でも」
じゃあ逆に、拒絶されない根拠は?
――っ!
ブンブンと、頭を振り切り替える。
しかしだからと言って、能力の練習をしないのは論外だ。父の書物に書いてあったことだが、フロスト星人はその性質故、一人だけでもかなりの戦力になりうる。父ほどの使い手は、星一つですら侵略できるほどの力を持っていたらしい。まあ、性格上そんなことはしなかったらしいのだが。
それにより、ユウキの所在がバレて仕舞えば、自身のことを狙ってくる輩がいるかもしれないのだ。今のところそういうことが一切ないからと言って、油断はできない。しかしまあ、11年も何もなければ警戒心など薄まってしまうのは仕方ないかもしれないが。何はともあれ、能力を使用できるようにしておくことは必須だった。さらにいえば、小さい頃からお世話になっている道場もあったりする。
そういう事情もあるが、今のところ問題なく能力は使えるし、異星人ともバレていない。そしてこれからも自分から話すことはない、そう思っている。
キーンコーンカーンコーン――。
「……そろそろ戻らないと」
氷を消し、後片付けをすませてから校内に戻る。
長い付き合いである、リトに自分の境遇を話せない、隠し事をするのは辛いがこれまで生活していれば話さなくても問題ないはずだ。そう自分に言い聞かせ、スッキリしない心を誤魔化すように校内への階段を早足で下る。
どうか今後も何も起きませんように。
――話すことはない、と。そう、思っていた。
*****
「…!?リト?何でおま「――っ!?ユウキ!?宇宙人から追われてるんだ!!お前も早く逃げろ!!!」――は?」
夜の暗闇とは正反対なくらい、頭の中が真っ白になった。
ありがとうございました。
不定期更新で頑張ります。
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