浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第九十九話

 

 時間は経ち、夜遅くに。

 一号は既に眠りにつき、美咲のみベランダに出て……外を眺めていた。

 

「……」

 

 自分の欠点を言われたのは、これで二度目だ。

 生徒会から出ていく時の成音も言っていた、自分の悪い癖。

 自分が出来る事は、努力すれば他人も出来るようになると思い込む癖。

 そのせいで、生徒会がほぼ解散状態まで追い込まれたというのに。

 

「……私に出来る事は、他の誰かが簡単に出来る事じゃない。本当に、そうなんですの?」

 

 それでも、ここまで美咲がその心意気で戦えてきたのは事実だ。

 今やり方を曲げたら、多分遥や一号を笑顔に出来ない。

 それに裕太も……帰ってこられない。

 

「二人が共に歩ける道は絶対ある筈ですの……ですから考えるんですわ!」

 

 美咲は自分にそう言い聞かせる。

 けど、迷いがまだ残っているのもまだ事実だった。

 

※※※

 

 ――裕太。裕太!

 

 誰かが、俺を呼んでいる気がする。

 聞き覚えのある女性の声。

 

「……ここは?」

 

 辺りを見回す。

 俺の実家のリビングだ。

 両親が旅行中の事故で亡くなって、今はもう他人の住処となっている筈の。

 俺の姿もスーツではなく、高校時代に着ていた詰襟。

 

「裕太、何ぼーっとしてんのよ。早く食べないと遅刻するよ」

 

 声の方を向く。

 テーブルに置かれているトーストやハムエッグを作ってくれたであろうその人は……。

 

「母さん?」

「どうしたのよ裕太。そんな目丸くして」

 

 俺は思わず立ち上がり、その身体を抱きしめた。

 

「母さん……!」

「な、何なのよ一体……」

「また会えた……会えたよ」

「まったく……」

 

 母さんも少し呆れながらも抱きしめ返す。

 しかし。

 

「ん……違う」

「え?」

「アンタ……誰?」

 

 抱きしめていた母さんが、俺を突き放しながら言う。

 

「裕太はもっと温かかった。なのに……アンタは誰なんだい? 裕太の顔をして、ホントの裕太をどこにやったんだい!」

「違う……。俺は裕太だ! 俺は裕太なんだよ!」

「うるさい! 裕太の顔をして、私に近付かないで!」

 

 そう言われた瞬間……全てが俺の視界から遠ざかる。

 母さんも何もかも消え去り、次に見えたのは。

 

「あれは……」

 

 俺だ。

 まだ蘇我高校に赴任する前で、大学を卒業してすぐの頃の俺。

 教師の心得、的な本を読みながら幸せそうに歩いている。

 

「……!」

 

 その背後にゆっくりと近付くのは、黒いフードを被った男。

 男は周りに人がいないのを確認してから、裕太の前に現れる。

 

「うわあッ!」

 

 黒フードに驚いた俺が仰け反る。

 だがそれが誰なのかを確認よりも早く、黒フードは拳で腹に穴を開けた。

 

「あああッ!」

 

 腹を押さえながら、俺はゆっくりと崩れ落ちる。

 そこで見えた。

 その男が、俺と同じ顔をしているのを。

 

「これが、俺の最期……」

 

 こんな事があったせいで、俺は自分を殺した奴の身体に入れられて、美咲達をこの件に巻き込んだ。

 俺は……人間ではなくなってしまった。

 

「よう」

 

 その様子を見て涙すら流しそうになった俺の前に、俺の姿をした男が現れる。

 

「お前は……」

 

 




ここから割とシリアス展開続くかもです

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