浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第百一話

 

 遥との交渉に失敗した次の日。

 それが起きるまで、残り一時間と少し。

 

「一号さん、一緒に修行行きませんか?」

「ああ、そうだな」

 

 特に嫌そうな様子もなく、粛々と準備をする一号。

 

「一号さん」

「……なんだ?」

「私はまだ諦めてませんの。二人が共に歩ける未来があると」

「……」

 

 一号は何も答えない。

 

「一号さん……」

 

※※※

 

 そのまま外に出て、美咲と一号はまず公園までランニング。

 サンドバッグが吊るされた木の所まで移動し、まずはキック力を鍛える修行から始める。

 

「はあッ! とうッ!」

 

 ライダーになってからこの修行を始めたが、僅か一か月と少しで、サンドバッグが既にボロボロになっていた。

 あちこち穴が空き、そうでない所にも傷がある。

 

「せいやっ!」

 

 最後にカブトを意識した上段回し蹴りを放ってから、美咲は息を吐いて休憩。

 

「一号さんの番ですわよ」

「ああ」

 

 座っていた一号が立ち上がり、サンドバッグの前に立つ。

 

「……はっ!」

 

 美咲と比べると静かな掛け声を上げながら、軽く拳を振るう。

 あの時のような力は発現せず、普通にサンドバッグが揺れる。

 

「……やはりあの力は使えないか」

 

 そう呟いてから、今度は蹴りを放つ。

 

「やっ、とうっ! はあッ!」

 

 力こそ発現しなかったが、最後の一撃が、サンドバッグを多く揺るがした。

 

「……」

「中々よくなってますわ」

「そうか……」

 

 落ち着いた声で、美咲にそう返す。

 ベンチに座って、飲み物を飲んでから……一号は美咲に言う。

 

「美咲。俺はそろそろ、菫を止めに行こうと思う」

「……」

 

 美咲は真剣な眼差しで言葉を聞く。

 

「昨日の遥の態度を見て、俺のした事の重さを……より理解出来た気がする。だからこそ、俺は少しでも早く菫を止めて、昔の俺が好きだった菫に戻したい」

「一号さん……」

「お前にも、もう迷惑は掛けられないしな」

 

 一号が言う。

 

「私も、早く貴方や遥さん……皆に笑顔になって欲しい。それに、裕太さんも。皆、私の大切な仲間ですから」

「……」

「一号さんがもう行きたいと言うのであれば、私は喜んでそれについていきますわ」

 

 美咲は笑顔でそう返す。

 

「……ありがとう」

 

 一号も小さく笑って、そう答えた。

 その時。

 

「美咲!」

 

 一号が美咲を庇いながら、何者かが振るった斬撃を背中から受ける。

 

「……くっ」

 

 一号は痛みに悶えながらも振り返り、その姿を捉えた。

 

「ムラマサ……二号か」

 

 刀を振り払ってから、荒い息を吐く仮面ライダームラマサの姿。

 変身を一度解いてから、フードを取ってその顔を見せる。

 

「くうっ……うううッ!」

 

 美咲は涙を流してうなり続ける彼を見て、目を見開いた。

 

「あ、貴方は……」

「ああ、あれは二号じゃない。福沢裕太だ……」

 

 一号はそう告げる。

 

 ――裕太さん……どうして?

 

「一号、お前は俺が殺す……絶対に……!」

 

 歯を剥き出して、裕太は一号に怒りを向けた。

 

 


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