浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第百十五話

 ……。

 誰かが、自分の名前を呼んだ気がして。

 美咲は何もない空間で、目を覚ました。

 黒一色のその世界で……自分の身体だけがその時見えていた。

 

「……」

 

 美咲は、裕太に脳波を破壊されて死んだ。

 けど……今こうして目覚める事が出来た。

 なら、今自分の身体を動かす事が出来れば……まだ戦う事が出来る筈だ。

 

「美咲」

 

 手を伸ばそうとした美咲を呼び止める……男の声。

 分からないわけがない。

 自分の大切なお供で、けど自分を殺した相手。

 福沢裕太のものだ。

 

「裕太さん、どうしてここに?」

 

 自分の問いかけに対して、裕太は悲しげに言う。

 

「すまない……俺のせいでお前は……」

「裕太さんは悪くありませんの。ですから……」

 

 止めようとした美咲に背を向けて、裕太はどこかへ歩き出す。

 美咲は思わず手を伸ばして叫ぶ。

 

「どこへ行くんですの!?」

「俺はお前と一緒には戦えない。俺がお前といる資格なんてないんだ」

「裕太さん……裕太さん! 裕太さん!!」

 

 黒い光に呑まれて消えた裕太を、美咲はもう一度追いかけようとする。

 しかし。

 

『もう放っておいてやれよ』

「この声は……」

 

 聞き覚えのある声が聞こえた。

 まるでレコーダー越しに聞く、周りに聞こえている自分の声。

 でも、少し太い声。

 

「昔の……私」

 

 振り向くと、あまり思い出したくない自分の姿があった。

 太っていて、自分だって彼氏を作って青春したいと誰よりも思っていたのに、何もせずにやさぐれていた頃の自分。

 ソウジと出会い、変わる前の醜い自分。

 

『あいつは、お前の為を思って……お前といないようにしようとしてる。お前だって分かるだろ?』

「分かりませんわよ! 私は裕太さんとまだいたい。裕太さんとやりたい事が、まだ沢山あるんですのよ!」

『……そんな事言って、お前は人の人生にどんだけ重いもの背負わせてきたんだよ』

「……!」

 

 昔の自分が言う事に、間違いはなかった。

 生徒会の件も、遥と一号が和解出来なかった事もそうだ。

 自分が出来るからと、他人にまで同じレベルを押し付けてしまう癖。

 今だって……恐らく目覚めたら美咲は裕太にそういう事をするのだろう。

 

『お前は……「ソウジ」みたいにはなれないんだよ』

「……」

 

 美咲は光に呑まれる。

 

※※※

 

 気付けば、美咲は見覚えのある場所にいた。

 自分の中学の近くにある空き地。

 

「昔の私ですわ……」

 

 元カレ……ソウジと出会う前の自分。

 中学の制服を着た太った少女……昔の美咲が、スナック菓子を食べながら学校のカッコいい男子を一瞥していた。

 

 


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