浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第百十六話

間違いない。

あの日だ……自分の運命が変わったあの日。

この日の事は今でも覚えている。確か……。

 

「あ、二年のブタ女がこっち見てるぞ!」

「やめろよブタがうつるだろ!」

「馬鹿お前ら声がでけえよ……ハハハ……」

 

 こういう奴らに向かって、昔の自分は。

 

「うるせえんだよ……私だって好きでこんな体型じゃねえんだよ。うつるのが嫌ならあっちいけよ!」

 

 自分で火薬を込めた爆弾を思い切り投げる。

 けど跳ね返っては……。

 

「うわああああッ!」

 

 いつも自爆していた。

 

「ハハハ……バーカ!」

 

 そして諦めず、バットでボコボコにして返り討ちにする。

 それが、昔の美咲の日常だ。

 

「ごめんなさーい!」

「うわああああッ!」

「二度と悪口言いに来るんじゃねえ! 次来たらぶっ殺すぞこの野郎!」

 

 喧嘩の腕だけは、昔から良かった。

 けど……ただひたすらに虚しかった。

 

「……つまんねえな」

 

 別に、好きで喧嘩が強くなったわけじゃない。

 自分を馬鹿にする気に入らない奴らをボコボコにしていたら、いつの間にか強くなっていたのだ。

 本当は、普通の女の子みたいに恋愛がしたい。

 けど……。

 

「何泣いてんだよ」

 

 ソウジは笑みを浮かべながら、自分に近付いてきた。

 

「……」

「お前だよお前。なんか悲しい事でもあったのか?」

「なにヘラヘラしてんだよ」

 

 最初彼を見た時は、イライラして仕方なかった。

 自分に対して笑顔を向けてくる奴は大抵、馬鹿にしてくる奴と決まっていたから。

 

「お前も私を馬鹿にしてんのかコラ」

「……してるかもな」

「んだとコラ!」

 

 バットを構えて、そいつに叩きつけようとした。

 だがソウジは、

 

「へえ、中々やるんだなお前」

 

 そう言いながら、バットを素手で受け止める。

 

「何で避けねえんだ。いてえだろ!」

「お前がどんだけキレてんのか気になった。だから受け止めたんだ」

 

 急に真剣な顔で、そう告げた。

 

「それと勘違いするなよ。俺が笑ったのはお前の体型じゃない。そもそも体型を馬鹿にする奴なんて最低だ」

「なら何で笑ったんだよ」

「お前のその腐った根性を馬鹿にしたんだ」

「んだと……?」

「お前そもそも、その馬鹿にされてる原因を何とかしようと一度でも考えた事あんのかよ」

 

 そう問いかけるソウジに、目を逸らしながら美咲は言う。

 

「あったさ。けど、何しても全然痩せられなかった。私には無理なんだよ。普通の女の子みたいに恋しようとかさ」

「ああ、そうかもな」

「お前、何が言いてえんだよ!」

「無理とか簡単に決めつける奴が、出来るわけがないと言いたいんだよ」

「……!」

「無理っていう言葉を言って良いのは、死ぬ前だけだ。まだ死にそうでもねえのに、それだけ力があるのに、無理なんて言葉を簡単に使うな」

 

 ソウジは真剣な顔で、天に指を差しながらそう告げる。

 

「人間は変われる。何かの為に、人は変わる事が出来るんだ」

「……」

「俺の好きなヒーローの言葉だ。覚えておくと良いさ」

 

 そう告げて、ソウジはどこかへと歩いていこうとした。

 だがあの時の自分が、それを止める。

 

「おい」

「……」

「そこまで言うならよ、私を手伝ってくれよ」

「手伝う?」

「お前の言葉が嘘だったら、私はお前をぶっ飛ばす。だからこれから常にそばにいろ。いつでもその面ぶっ飛ばせるようにな」

「……そうか。なら、こっちから提案しても良いか?」

 

 ソウジが振り向いてから言う。

 

「俺のお供になれ」

「はあ?」

「俺がお前を手伝う代わりに、お前も俺を手伝え」

「どういう事だよ」

「じゃあ決まりだ」

「お、おい待てよ! 私やるって言ってねえぞ! おい!」

 

 


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