浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第百二十話

 

 丁度、今の自分と同じくらいの体型まで痩せてきた頃の話。

 一緒に仕事を手伝い、痩せる為の特訓を続けるうちに、美咲はソウジの事が段々好きになっていった。

 中学三年生の初め辺り、美咲はソウジに告白した。

 

「お前は俺のお供だが、恋人には出来ない」

「何でだよ」

 

 美咲の言葉に、ソウジが一瞬だけこもってから返す。

 

「恋人同士になったら、お互いを意識して加減をするようになるだろう? それではお前の為にならない」

「……」

「話は終わりだ」

 

 ソウジはどこか辛そうな顔でそう告げて、自室へと戻っていく。

 美咲が何故、その時断られたのかを理解したのは……その後すぐの事だった。

 何となく気まずい雰囲気の中、ソウジの工場の手伝いをしている時に、美咲はソウジと彼の父親の会話を聞いた。

 

「俺は近いうちにこの工場を売ろうと思っている」

 

 最初に聞こえたのは、そんな声。

 ソウジの父親のものだ。

 

「何を言ってるんだ父さん。美咲が来てから、何とか沢山作れて前より稼げるようになったんだ。諦めるのは早いぞ」

「けど、彼女やお前以外でまともな従業員と呼べる奴が他にいくついるんだ?」

「……!」

 

 父親の言葉に、ソウジが言葉を失う。

 常に理想の為に、途方のない努力を続けるソウジに現実を押し付けるように父親が告げる。 

 

「お前の子供のような考えで様変わりする程、世の中は甘くない。従業員がいなければ新しいものを作る事も困難だし、作れなければ売る事も出来ず、ここを維持する事もままならない。売るしかないんだ……」

「父さん……」

「もう気は済んだか? 元々お前にそんな期待はしていない」

「待ってくれよ!」

 

 いつね冷静なソウジが、あんなに声を上げて話すのは見た事がない。

 美咲でさえ、最初は本当にソウジの声なのか疑った。

 

「ソウジ……」

 

 美咲は道具を手にしたまま、静かに呟く。

 

「俺が何とかしてみせる。だから待ってくれ!」

「……」

 

 ソウジの父親は黙ったまま、どこかへ行ってしまった。

 そこで理解した。

 ソウジ自身も、本当はそれが無茶な夢である事を自覚していた。

 それでもそんな無茶をどうにかしようと抗い、戦った。

 そこには誰かの犠牲があってはならない。

 そう思ったから、美咲の事を振ったのだ。

 一人で戦い続ける為に。

 けどそれなら、尚更諦めきれない。

 

「……」

 

 ソウジを一人になどさせない。

 ソウジがそんな無茶を叶えようと戦うなら、美咲も一緒に戦いたい。

 そう思って、美咲はソウジを呼び止めた。

 

「ソウジ」

「……どうした?」

 

 


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