浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第百二十四話

 忘れられないし、忘れたくもない。

 そんな思い出が自分の頭を過ぎった後、再び美咲は黒い空間に戻された。

 再び一人になり、誰もいない空間の中で……ソウジと最後に会った時の事をもう一度思い出す。

 

「……」

 

 美咲は、ソウジと約束した。

 頂点に立てる程の女性になって、必ずソウジを迎えに行くと。

 ソウジに頼らずとも、むしろ自分がソウジのように誰かを救える人間になると。

 けど……今の美咲は。

 

「裕太さん……」

 

 自分にとって大切なお供の心を救えないどころか、自分の言葉で誰かに重圧を抱えさせてしまうという欠点がある。

 ソウジに救われて、それからソウジの言葉を信じて、戦ってきたのに。

 自分は彼を超えるどころか、彼と同じことすら出来ない。

 

「ソウジ……すまねえ」

 

 普段の丁寧な口調から、昔の口調でソウジに詫びる。

 涙を流し、下を向いて……地面に拳を叩きつけた。

 

「お前を助けるどころか、私は自分のお供すら笑顔に出来ねえ。私はやっぱり、全然変われてねえ。デブで、人のせいばかりにして、それで泣いてたあんときの私と何も変われてねえんだ!」

 

 結局、美咲が変える事が出来たものは体型のみだ。

 

『よう』

 

 不意にそんな声が聞こえた。

 ここには美咲以外、誰もいない。

 返答など……ある筈が……。

 

「お前……」

「また泣いているのか、美咲」

 

 あの時の……初めて会った時の制服姿のソウジが、自分の前に立っていた。

 

「ソウジ……」

「おい、俺の言った言葉忘れたわけじゃないだろ? そんなくしゃくしゃな顔した奴が頂点に立てないって。だから笑ってみろよ」

 

 ソウジがあの時のように、笑顔で自分にそう告げる。

 美咲は……涙を流したまま言う。

 

「笑えるわけねえよ!」

「……」

「私は、やっぱりお前みたいにはなれなかった。お前より強くなりたかったのに、お前みたいにすらなれねえ。私は自分のお供すら……助けてやれねえ。それに……もう私死んじまったんだ。言ってただろ、死ぬ前に無理って言葉言えってさ。だから今言う。無理だ。私には無理なんだよ、頂点に立つなんて」

 

 あの時のように、弱音を吐く。

 ソウジの返答は、偶然にもあの時と同じだ。

 

「ああ、そうかもな」

「……」

 

 美咲はその言葉を受け入れようとした。

 あの時は反抗したが、今の状況的にはソウジの言葉が的を射ている。

 ソウジからも、美咲は思いあがっていたように見えたのだろう。

 

「俺の言葉を、泣き言を言う為のものにしようとしているお前にはな」

「……!」

 

 ソウジはあの時のように真っ直ぐな目で、美咲にそう告げた。

 


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