浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー 作:門矢心夜
忘れられないし、忘れたくもない。
そんな思い出が自分の頭を過ぎった後、再び美咲は黒い空間に戻された。
再び一人になり、誰もいない空間の中で……ソウジと最後に会った時の事をもう一度思い出す。
「……」
美咲は、ソウジと約束した。
頂点に立てる程の女性になって、必ずソウジを迎えに行くと。
ソウジに頼らずとも、むしろ自分がソウジのように誰かを救える人間になると。
けど……今の美咲は。
「裕太さん……」
自分にとって大切なお供の心を救えないどころか、自分の言葉で誰かに重圧を抱えさせてしまうという欠点がある。
ソウジに救われて、それからソウジの言葉を信じて、戦ってきたのに。
自分は彼を超えるどころか、彼と同じことすら出来ない。
「ソウジ……すまねえ」
普段の丁寧な口調から、昔の口調でソウジに詫びる。
涙を流し、下を向いて……地面に拳を叩きつけた。
「お前を助けるどころか、私は自分のお供すら笑顔に出来ねえ。私はやっぱり、全然変われてねえ。デブで、人のせいばかりにして、それで泣いてたあんときの私と何も変われてねえんだ!」
結局、美咲が変える事が出来たものは体型のみだ。
『よう』
不意にそんな声が聞こえた。
ここには美咲以外、誰もいない。
返答など……ある筈が……。
「お前……」
「また泣いているのか、美咲」
あの時の……初めて会った時の制服姿のソウジが、自分の前に立っていた。
「ソウジ……」
「おい、俺の言った言葉忘れたわけじゃないだろ? そんなくしゃくしゃな顔した奴が頂点に立てないって。だから笑ってみろよ」
ソウジがあの時のように、笑顔で自分にそう告げる。
美咲は……涙を流したまま言う。
「笑えるわけねえよ!」
「……」
「私は、やっぱりお前みたいにはなれなかった。お前より強くなりたかったのに、お前みたいにすらなれねえ。私は自分のお供すら……助けてやれねえ。それに……もう私死んじまったんだ。言ってただろ、死ぬ前に無理って言葉言えってさ。だから今言う。無理だ。私には無理なんだよ、頂点に立つなんて」
あの時のように、弱音を吐く。
ソウジの返答は、偶然にもあの時と同じだ。
「ああ、そうかもな」
「……」
美咲はその言葉を受け入れようとした。
あの時は反抗したが、今の状況的にはソウジの言葉が的を射ている。
ソウジからも、美咲は思いあがっていたように見えたのだろう。
「俺の言葉を、泣き言を言う為のものにしようとしているお前にはな」
「……!」
ソウジはあの時のように真っ直ぐな目で、美咲にそう告げた。