浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー 作:門矢心夜
その様子を、一号は陰から覗いていた。
美咲を追いかける裕太の姿を見て安堵した所に。
「アンタもやっぱり心配だったの?」
成音が声を掛けてきた。
「……ああ」
一号は少しばかり俯いて答える。
美咲と裕太が仲間同士の関係に戻れなかったのだとしたら、きっと自分のせいだと一号は思っていた。
仮にもし、二人が離れ離れになるようなら、どんな手を使っても説得する気で様子を見ていたのだ。
「俺には、その義務があると思ったから……」
「やらなきゃいけない……そう思ったわけね」
一号に向かって、口元に笑みを浮かべて言う成音。
「成音もそうなのか?」
「あたしは違うかな。少なくともやらなきゃいけないとか、そういう事じゃなくて……二人が一緒にいて欲しいって思ったのよ」
「……」
「アンタもそうなんでしょ? 義務とかそうじゃなくて、二人には一緒にいて欲しいって……」
「……分からない」
一号はそう答える。
前まで彼の中には、福沢裕太の脳波があった。
完全に自分の中から脳波が消滅した今でも、一号自身には福沢裕太の記憶の一部が朧気に残っている。
残った記憶の中にはどれも、笑っている美咲の顔があった。
脳波が無くなっても、一号の記憶にもそうやって残る程、裕太にとって美咲は大きな存在となっていたのが分かる。
だから、裕太にもう一度美咲の笑顔を見せてあげる事が、一号のすべき事だと思った。
「けど、不思議だ。俺も、あの光景が好きだ」
自分の中に、もう福沢裕太はいない。
だから本来あり得る筈はないが、一号も美咲の笑顔を見れて嬉しいと感じていた。
「アンタ自身が、そう感じてるんだと思うわよ」
「俺自身が?」
「ええ」
成音も笑みを浮かべて、仲良さげに歩き続ける二人の背中を見る。
彼女に言われて、一号は改めて自分の気持ちを整理した。
そして答えた。
「成音」
「どうしたの?」
「俺に、菫と一緒にいる事以外に叶えたい夢が増えた気がする」
一号はもう一度、美咲の笑顔を思い出す。
「あの光景を守りたい。その為なら、俺は命を賭ける」
それを聞いた成音が言う。
「良い夢ね……けど、命を賭けたら会長に怒られちゃうかもね。アンタの命も、会長にとっては死ぬ気で守りたいものの一つだろうし」
言われて、一号はあの時を思い出す。
自分を庇って、脳波を破壊された美咲の姿を。
そして、自分は死んでも裕太と一号の命を諦めないと言った彼女の姿を。
「訂正しよう。俺は生きる。生きてあの光景を絶対に守る。守るために死なない」
一号は改めて、成音にそう告げた。