浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第百三十話

 その様子を、一号は陰から覗いていた。

 美咲を追いかける裕太の姿を見て安堵した所に。

 

「アンタもやっぱり心配だったの?」

 

 成音が声を掛けてきた。

 

「……ああ」

 

 一号は少しばかり俯いて答える。

 美咲と裕太が仲間同士の関係に戻れなかったのだとしたら、きっと自分のせいだと一号は思っていた。

 仮にもし、二人が離れ離れになるようなら、どんな手を使っても説得する気で様子を見ていたのだ。

 

「俺には、その義務があると思ったから……」

「やらなきゃいけない……そう思ったわけね」

 

 一号に向かって、口元に笑みを浮かべて言う成音。

 

「成音もそうなのか?」

「あたしは違うかな。少なくともやらなきゃいけないとか、そういう事じゃなくて……二人が一緒にいて欲しいって思ったのよ」

「……」

「アンタもそうなんでしょ? 義務とかそうじゃなくて、二人には一緒にいて欲しいって……」

「……分からない」

 

 一号はそう答える。

 前まで彼の中には、福沢裕太の脳波があった。

 完全に自分の中から脳波が消滅した今でも、一号自身には福沢裕太の記憶の一部が朧気に残っている。

 残った記憶の中にはどれも、笑っている美咲の顔があった。

 脳波が無くなっても、一号の記憶にもそうやって残る程、裕太にとって美咲は大きな存在となっていたのが分かる。

 だから、裕太にもう一度美咲の笑顔を見せてあげる事が、一号のすべき事だと思った。

 

「けど、不思議だ。俺も、あの光景が好きだ」

 

 自分の中に、もう福沢裕太はいない。

 だから本来あり得る筈はないが、一号も美咲の笑顔を見れて嬉しいと感じていた。

 

「アンタ自身が、そう感じてるんだと思うわよ」

「俺自身が?」

「ええ」

 

 成音も笑みを浮かべて、仲良さげに歩き続ける二人の背中を見る。

 彼女に言われて、一号は改めて自分の気持ちを整理した。

 そして答えた。

 

「成音」

「どうしたの?」

「俺に、菫と一緒にいる事以外に叶えたい夢が増えた気がする」

 

 一号はもう一度、美咲の笑顔を思い出す。

 

「あの光景を守りたい。その為なら、俺は命を賭ける」

 

 それを聞いた成音が言う。

 

「良い夢ね……けど、命を賭けたら会長に怒られちゃうかもね。アンタの命も、会長にとっては死ぬ気で守りたいものの一つだろうし」

 

 言われて、一号はあの時を思い出す。

 自分を庇って、脳波を破壊された美咲の姿を。

 そして、自分は死んでも裕太と一号の命を諦めないと言った彼女の姿を。

 

「訂正しよう。俺は生きる。生きてあの光景を絶対に守る。守るために死なない」

 

 一号は改めて、成音にそう告げた。


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