浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第四章
第百四十四話


 

 生徒会メンバーの一人、後藤(ごとう)が生徒会室で……白髪でスーツ姿の男性に頭を下げつつ報告した。

 

「蒲生を取り逃しました、すみません……松永(まつなが)先生」

「おいおい、新生徒会がそんなんで良いのかよ。後藤新生徒会長さんよ」

「……」

 

 顔を上げた後藤が、光のない瞳で……白髪男で松永を名乗る二号を見据える。

 菫によって感情を強化される形で、彼女に従っていた一号や二号、蒲生は本来の人格をある程度残していたが、後藤達はほぼ雑と言っていいレベルの洗脳しか施してない故か、本来の人格が完全に死んでいる。

 恐らく洗脳を解くのも簡単だが、別にそれで良い。

 今やっている事は、二号の肉体を完全強化する為の時間稼ぎに過ぎないのだから。

 

「良いか……お前達に倒してもらうのは三人。蒲生に山内成音、そして六角美咲。今の六角美咲は、最高戦力と言っても差し支えない存在だ。蒲生如きで苦戦しているようじゃ、勝つ事は出来ねえぞ」

「……」

 

 強引に洗脳した場合、元々戦闘力が高い者でもかなり弱体化する。

 蒲生ですら倒せないというのは、十分あり得る話だ。

 

「まあ良い。次は期待しているぞ」

「はい」

 

 二号はそう告げてから、生徒会室を退出した。

 まだやるべき事は終わっていない。

 時間稼ぎに使うものは、他にもある。

 

「しかし、松永先生か……いい響きだな」

 

 そう言いながら少し笑う。

 明人の身体にある二号と脳波を融合した際に、実を言うと、もう既に失った筈の過去の記憶をある程度思い出している。

 まず、自分の名前が『松永秀奈(まつなが しゅうな)』という名である事。

 それと、自分が戸間菫に接触して人体実験を受けた理由。

 そして……一番思い出したくない事柄。

 

「……」

 

 今の……福沢裕太を模した身体の手足を見て、少しばかり自分の現状に安心する。

 そう。

 二号……松永秀奈は、元々女性だった。

 別に女性である事自体が嫌だったわけじゃないし、それでいじめを受けていたわけでもない。

 むしろ、自分は身内で誰よりも強い存在だ。

 けど限界は存在した。

 今の身体では、今以上に強くなれない。

 ある時、それが自分の中の恐怖になった。

 勿論自分が女性である事が悪いわけじゃない。

 女性だって、強い者は沢山いる。

 けど、自分が男性だったらもっと強くなれるのに、という気持ちが消える事がなく……結局、秀奈は菫の人体実験を受ける時も男性の身体が欲しいと念を押していた。

 この記憶だけは、本当に思い出したくなかった。

 全て忘れて、これからの一生を強い男として過ごせればどれだけ幸せだった事か。

 

「……」

 

 二号は溜め息を吐きかけたが止め、過去に蓋をして菫の所へと向かう。

 もう少しで夢が叶うのだ。

 過去の記憶に心を痛める暇など、今の二号にはない。

 

 


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