浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

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第百五十三話

 

 戦いから数十分。

 

「よいしょ……こらしょ……」

 

 何とか平井を背負って、優香は蘇我高校の科学部部室へと到着。

 ベッドに寝かせてから、白衣の姿で待つ遥に目を向ける。

 

「遥っち、運んできた系」

「ああご苦労。あとは任せろ」

 

 遥はそのまま道具を準備し始めた。

 優香はすぐには出ずに、その様子を見届ける。

 それに気付いた遥が、優香に声を掛けた。

 

「どうした? 見ても楽しいものでもないぞ」

「いや、遥っちに少し聞きたい事がある系」

「私に聞きたい事?」

 

 遥は少し困惑しながら、

 

「私に男の扱いを問われてもな」

「違う系」

「……違うのか?」

「いや、ウチの事どう思ってる系?」

「昔ながらのギャル、か?」

「そうじゃなくて……ウチが気にしてるのは、美咲っち達や遥っちみたいに何の役にも立ててない事系」

「……」

 

 遥の表情が真剣なものへと変わる。

 

「みんなそれぞれ戦う力持ってるのに、ウチだけこうして見てる事しか出来ない系。ウチはもう仲間が傷付く所は見たくないし、美咲っちみたいに死んじゃう所なんて絶対に見たくない系。でも……ウチが戦ったら、ウチが誰かを傷付けてしまうかも知れない系。ウチは、どうしたら良いのかなって……」

「それこそ……私に聞かれても困る」

 

 遥が静かにそう告げた。

 

「私はお前達といる時間はそこまで長くないし、お前の事も上辺だけしか知らない。それに、私も現状に決して満足はしていない」

「満足してない?」

「ああ。元々私の個人的な復讐だったのに、その為に多くの者を巻き込む結果となってしまった。今でもその者達に謝るどころか、巻き込まれる者は増える一方だ。しかし今の私の力では、直接戦いに行く事は出来ない。こうして後方支援しか出来ない事が、少し悔しい。本当は今すぐにでも、自分の力で菫に罪を償わせたいというのに」

 

 下を向く遥。

 

「けどそれが無かったら美咲っち達も満足に戦えなかったし、生き返る事も無かった系。それに……友達を巻き込んだ事は許せないけど、好きな人の為に戦いたいという気持ちはウチも否定出来ない系」

 

 思わず手を止める遥に、優香が言う。

 

「遥っちは自分が思うような悪い人じゃない系。好きな人を想えて、その為に行動出来て、でもちゃんと間違えたら苦しむ事が出来る……とっても優しい人系。ヴィーダっち見てれば分かる系」

「まったく……お前達は本当にお世辞が上手いな。皆同じような事を私に言う」

「美咲っちも成音っちもハッキリものを言う人系。絶対そんな事ない系」

 

 そこで優香は気付く。

 

「あれ?」

「どうした」

「なんか相談したいのはウチだったのに、なんか遥っちの悩みに答えちゃった系……」

「ああ、そういう話だったな」

 

 遥が半目でそう答える。

 

「うう……なんかウチ人の悩み聞くとついそっち答えちゃう系……」

 

 優香が頭を抱えた。

 しかし。

 

「それだ」

「え?」

「それでいいんじゃないか? お前がこの戦いの役に立てる方法……だと思うんだが」

「これが?」

「ああ。お前は見た所、人間を観察する能力に長けている。それに困っている者を放っておけない優しさがある。戦う力がなくとも、それはお前にしか出来ない事なのではないか?」

 

 遥が珍しく優しい笑みを浮かべて答える。

 

「でも、それをするなら美咲っちの方が説得力あるっていうか……」

「確かにそうだな……だが彼女は一人しかいないし、美咲の意見は強い者から見た視点での言葉が多い。こう言っては難だが、この前までの私と一号、そして福沢裕太と一号のように、彼女一人の努力だけでは中々難しい場合もある」

 

 そうして美咲一人で頑張り過ぎた結果、美咲は一度死んでしまった。

 あんな事は……もう。

 

「お前は確かに、最前線に立って戦う覚悟も無ければ、私のように後方支援も難しい立場だ。何かの為とは言え、人を傷付ける事に対して消極的でもある。けど、それで良い気がする。美咲とは違う切り口で、誰かの心を救う事が出来るんじゃないか?」

「……」

 

 優香は少し黙り込む。

 

「変わりたいと思う心は素晴らしいかも知れない。けど、それは変わる前に持っていた良さを失う事もある。私に言えるのはそれだけだ」

 

 遥は道具の準備に戻りながら、最後にこう告げる。

 

「だが今のままでは、美咲達が身体に負う傷だけはどうにも出来ないし、相手を追いつめる戦力になれないのは確かだ。どっちが自分に相応しいか、少し考えてみると良い」

 

 


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