浅井三姉妹のバカな日常外伝 仮面ライダーボマー   作:門矢心夜

156 / 311
第百五十五話

 そう告げて、黒いボマー……二号がゆっくりと地上に舞い降りる。

 倒れている生徒達を見て、静かに呟く。

 

「やはり適当な洗脳と、失敗作の脳波で乗っ取っただけじゃこんなもんか……」

 

 溜め息を吐いて、ボマーを一瞥。

 

「皆を元に戻しなさいな」

「俺は別にそれでも良いんだが、あいつがうるせえし無理だな」

 

 黒いボマーが、ボマーに向かって右手を向ける。

 

「まあでも、前の身体と比べて随分楽しいな……これは」

 

 するとボマーの身体が急に動かなくなり、そのまま黒いボマーの意思でゆっくりと持ち上げられた。

 

「次はこれか?」

 

 ある程度の高さまで持ち上げてから、指を鳴らす。

 ボマーの身体が発火を開始した。

 

「な、なんですのこれは!」

「会長!」

「し、仕方ありませんわね」

 

 ボマーはやむを得ず端末を操作。

 

『EXPLOSION DRIVE』

 

 白い光に包まれて自爆し、何とか焼死を回避。

 少し離れた位置で復活する。

 

「なんて力ですの……」

「悪いが時間稼ぎにはまだ足りないんでね。少し失礼させてもらうぜ」

 

 黒いボマーが少しだけ俯きながら、両腕を広げて力を解放する。

 周囲の生徒全員が光に包まれて、黒いボマー自身も光に包み込んでから、どこかへ消えていく。

 そこには最初から何もなかったかのように、ボマーと火炎放射器怪人以外の人がいなくなった。

 

「消えましたわ……」

 

※※※

 

 二号は自分達を別の場所に避難させてから、菫に通信を入れる。

 

『どうやらダメだったみたいだね』

「だから言っただろ? 焦ってこんな奴ら使ったところで、時間稼ぎにすらならねえって」

 

 生徒達を一瞥して言う。

 

『そうでもないさ。今から全員改造は無理だけど、後藤くんだけでも何とか……』

「薬の投与量でも増やすつもりか?」

『そんな所だ。ま、少しでも投与の仕方間違えると死ぬし……結構難しいんだけどね。あとは彼女のアークソードドライバーをオリジナルと同等の能力に改良し直す。それで何とかなるだろう』

「それは良いけどよ、お袋が焦ってんのは敵側にバレバレだったぜ」

『……』

 

 菫の口が止まる。

 

「なあお袋、いざとなれば……俺を完全に自由にしてくれて良いんだぜ?」

『……』

 

 ボタンのようなものを手元でいじる音が、スピーカー越しに聞こえた。

 

「脅しか?」

『君を完全に自由にするのは危険過ぎるからね。君の欲は分かるが、君は僕の実験に乗った段階で僕のモルモットである事を忘れない方が良い』

「へいへい……」

 

 二号はそう返事する。

 返事しつつも、今の状況がただただつまらなくて仕方がない。

 

『六角美咲と山内成音は学校を一旦離れたようだ。後藤をその後向かわせるから、君の能力でそこにいる生徒達を回復させてくれないか?』

「簡単に言うねえ」

 

 笑みを浮かべつつそう告げる。

 

『何の為に、しくじった君にその身体を与えたと思っているんだい?』

 

 またも脅しに掛かる。

 二号は仕方ないなと少し笑ってから答えた。

 

「……わーったよ」

『分かれば良いんだ』

 

 そう言って、通信を切る。

 

「あいつもそろそろおしまいか?」

 

 二号……松永秀奈は思う。

 彼女はそろそろ利用価値が無くなる……と。

 松永秀奈としての記憶を取り戻した今、忠誠心は一切残っていない。

 多重能力者かつ男の身体を手に入れている以上、彼女に用はないと言っても差し支えない。

 肉体改造をしてもらえなくなるというデメリットはあるが、それなら自分の戦闘能力でカバーすればよいのだ。

 彼女の命令を聞かずとも、彼女が自分を操る手段さえ破壊してしまえば済む話。

 

「……」

 

 秀奈は静かに笑みを浮かべて、空を見上げた。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。